甲本ヒロト×カネコアヤノ|バンドはきっとやめられない

2006年7月の“出現”以来、休むことなく活動するザ・クロマニヨンズ。彼らの影響を受けたアーティストは数知れず、多くのフォロワーを生み続けている。シンガーソングライターのカネコアヤノもその1人であり、2022年10月には彼女とクロマニヨンズのツーマンライブが行われた。

音楽ナタリーでは、クロマニヨンズのニューアルバム「HEY! WONDER」の発売を記念して、甲本ヒロト(Vo)とカネコの対談をセッティング。じっくり話すのは初めてだという甲本とカネコだが、バンドやライブの楽しさを語り合い、ある結論にたどり着いた。

取材・文 / 今井智子撮影 / 小財美香子

バンドは“やめられない連中”がやってる

カネコアヤノ 私、高校の卒業式の日にクロマニヨンズのライブに行ったんですよ。中学生の頃にクロマニヨンズが結成されてからずっと聴いていて、高校に入ってからも何度かライブに行って。卒業式の日は誰よりも早くおうちに帰って、バッと着替えて横浜BLITZに行きました。

甲本ヒロト へえ! そうだったのか。

カネコ クロマニヨンズがずっと大好きだったので、ツーマンのときは開催が決まってから前日まで「その日が来ちゃうんだろうか……」とソワソワしていたんですけど、あんなに楽しかった日はなかなか記憶にないです。

甲本 僕らもみんな喜んだよ。ライブ中も両手を挙げて喜んでいたし、そのあと食事中にあのライブのことが何度か話題に上がるぐらい楽しかった。

カネコ うれしい……。もう人生のピークかと思うくらい楽しくて。「あ、たどり着いちゃった……やばー!」みたいな。「音楽って最高……!」って心から思いました。

左からカネコアヤノ、甲本ヒロト。

甲本 音楽を始めてどのくらい?

カネコ 曲を作り始めてからだと10年くらいですね。

甲本 まだ10年だよ。これからもっと面白いことがいっぱいあって、ものすごい回数のピークが来るから。楽しいよ、バンド。

カネコ そうですね。「バンドは楽しいな」と本当にあの日は思いました。悩んだり、ワーッとなったりすることもあるんですけど、結局私、やめられないんだろうなって。

甲本 そうです。バンドは“やめられない連中”がやってるの。長く続けようと思ってやるのはカッコよくない。受け身なんですよね、我々は。表現者として、お客さんを楽しませてるように見えるんですけど、ライブの瞬間、バンドは喜びや楽しみを受けている、受け手なんです。

カネコ あんまり自分で納得できないライブになっちゃっても、また違う日にバコーン!っていいライブができたら「全部このためにあったんだ」って思える。何を食べたかとか誰としゃべったかとか、そういう日々の選択すらも全部この瞬間のためにあったのかという気持ちになります。

甲本 うんうん……「かまいたちの夜」ってやったことある?

カネコ ないです(笑)。

甲本 しょうもない話になっちゃうんだけどさ(笑)、細かい選択肢で物語がいろんな方向に進んでいくテレビゲーム(1994年発売のスーパーファミコン用ソフト)で、いくつもエンディングが用意されてるんだ。やり直しが効くから、いろんなエンディングが楽しめる。僕とマーシー(真島昌利 / G)はこれをものすごい回数やっていて(笑)。「さっきはこの子に好きって言ったから、次は嫌いなフリをしてみよう」とか夜中にずっとやってたよ。マーシーはしつこいんだよな。バンドでゲームやったりする?

カネコ レコーディングの合間に「桃鉄」(「桃太郎電鉄」)をやったりしますね。アルバムの曲を録り終えるまでの間ずっとやったり。

甲本 いいね。ボンビー(「桃太郎電鉄」シリーズに登場する貧乏神のキャラクター)もどんどんすごくなってるよね。最近僕らはカードゲームとかボードゲームをやったりもするけど……ってなんだこの話(笑)。小難しいことばっか考えてないんですよ、我々は。

甲本ヒロト

甲本ヒロト

カネコアヤノ

カネコアヤノ

メンバーは会って数秒で決めた

甲本 曲作りは基本的に1人でやるの?

カネコ 詞と曲を作って、テンポ感やキーも自分で決めてから、景色やイメージみたいなものをバンドメンバーに投げて、一緒にこねていく感じです。それぞれ適当に進めてもらいながら「さっきのフレーズよかったから、ここもこういうふうにやってもらえる?」みたいに私から言葉で伝えて。

甲本 いいね、おんなじ感じ。僕らクロマニヨンズは、みんなレコードが好きで、ツアーに行くと、約束しなくても必ずレコード屋さんで全員集合するんだよね。そのくらいみんなレコード屋さんにいる。そうすると共通言語が増えてくるわけですよ。どんどんやりやすくなる。

カネコ なるほど。私たちも音楽的な言語はすごく合ってるなと思いますね。

甲本 一番長くやってるメンバーとはどれくらい?

カネコ 私とギター(林宏敏)は8年くらいですね。そこに12年くらい2人で一緒にやってるリズム隊(ドラマーのHikari Sakashitaとベーシストの飯塚拓野)がバコーン!と合体した形なんです。リズム隊の2人はもともとハードコアパンクバンド(Granule、BOMBORI)のメンバーで、私とギターとは全然違う畑なんだけど、この2人が入ってきたことによって世界が広がった感じがします。

甲本 へえ、面白いねえ。どうやって集めたの?

カネコ ジャズ喫茶をやってる友達に「誰かいい人いない?」って聞いたら、やってきたのが今のドラマーで、そしたらドラマーが「俺、一緒にやりたいベーシストいるから連れてくるわ」って。そういう形でダダダッ!とつながりましたね。

甲本 じゃあ大人が手を入れて組ませたようなバンドじゃないんだね。コンテストで優勝したこのグループとこのグループを合体させて、とか。昔はそういうのあったじゃないですか(笑)。

カネコ そういうのはできないですね(笑)。クロマニヨンズのメンバーはどう出会ったんですか?

甲本 僕とマーシーは長いから、クロマニヨンズを始めるときは「やるんだろうな」って空気がもともとあったんだよね。僕がスタジオでSex Pistolsの「Anarchy In The U.K.」のドラムを叩いていたら、そこにやってきたマーシーがエレキギターを弾き始めて。2人でジャムってたら楽しくなって「今すぐにでもまたバンドやろうよ!」となったんだ。それで「ボーカルとベースを探そう」って。

甲本ヒロト

甲本ヒロト

カネコ アハハ。

甲本 でもそれは誰も許してくれなかったね(笑)。それでボーカルとベースじゃなくて「ベースとドラム誰かいない?」って相談したのが、ずーっと一緒にやってるレコーディングエンジニアの川口(聡)さん(参照:ザ・クロマニヨンズ6カ月連続特集第2弾、バンド結成の立役者であるエンジニア・川口聡がメンバーとの出会いや音作りのこだわり語る)。適任だったんですよ。レコーディングの時間って濃密でしょ? バンドの仲が悪くなってケンカするのもいっぱい見てるし、そんな状態でも抜群のプレイを残せるような、コンスタントにテンション高い人を知ってるんだよ。それで川口さんがコビー(小林勝 / B)とカツジ(桐田勝治 / Dr)の名前を出してくれたから、2人に会ってみた。と言っても、いきなり決めるのは怖いから何人か試してみるつもりだったんだよ、僕とマーシーは。でも会って数秒。「ワンツースリーフォー!」って演奏を始めた瞬間に「決めた!」って。「さすが川口さん!」と思ったよ。僕らにピッタリの人を呼んでくれた。

カネコ 素敵です。ずっと同じエンジニアさんなんですか?

甲本 そうです。もし長く付き合ってるエンジニアがいたら困ったときに相談するといいよ。

カネコ 私も10年前に始めたときからずっと同じエンジニアさん(濱野泰政)にやってもらっていて、お父さんみたいな存在なんです。悩みがあれば連絡するし、エンジニアさんの夢に私が出てきて、「大丈夫? 元気ですか?」ってエンジニアさんが連絡してくれることもあったり。お互い猫を飼ってるから、猫の写真を送り合ったり。

甲本 へえ、どんな猫?

カネコ うちは3匹いて、白猫と、顔が真っ黒のシャム猫みたいなのと、モフモフの雪みたいなのがいます。

甲本 みんな懐いてる?

カネコ そうですね。みんな仲良しです。ヒロトさんはペットは飼っていますか?

甲本 今は昆虫と爬虫類ぐらい。

カネコ 昆虫や爬虫類も懐くとかあるんですか?

甲本 爬虫類は懐いてるように見える。たぶんね、彼らは変温動物だから冬寒いと寄って来て、くっついてくる。温まりたいんでしょうね。手の上とかにお腹をくっつけてジーッとしてるから「おー、かわいいい!」って(笑)。