理屈を超えた「さぼりたい」
伊集院 新しいアルバムに入ってる「さぼりたい」っていう曲。あれが僕の思う「無敵の境地」なんです。毎週ラジオやってると絶好調なときもあるし不安になるときもあるけど、あるとき面白いエピソードが何もないのに生放送が始まっちゃって、そのときに「面白いことがなにもないよー」って話を何十分も面白く話せたことがあって、この感覚を持ち続けたらもう困ることはないぞって。「さぼりたい」もその境地だなって。
甲本 マーシーが「こんな曲できたんだ」って持ってきたとき「さぼりたい ふけたい 今日は」って歌詞だけの歌で、聴いてる途中から「もうほかの言葉は出てこないでほしい」と心の中で思ってた。そしたら最後までそれだけだったから「よし!」となった。
伊集院 普通だったらそろそろ違う歌詞を出さないと飽きるんじゃないかってなるでしょ。でも理屈じゃないんだなあこの曲。そうやって2人が曲を持ち合うときはどんな雰囲気なんですか?
甲本 どうだろうな、淡々としてる。でもお互いに淡々を装ってる可能性もある。
伊集院 マーシーさんが装ってる可能性があるのはわかるんですけど、ヒロトさんが自分も可能性があるって言ってるのおかしいでしょ(笑)。それが自分の素なのかどうかわからないってこと?
甲本 だってもう30何年一緒にいるからね。2本の草が絡まって、どっちの葉っぱかわからなくなるみたいな感じ。長くやってるとだんだんそうなる。だから僕はThe Beatlesにも長くやってもらって、ジョンとポールがそうなるのを見てみたかったんだけどね。どっちが書いた曲かわからなくなるぐらいまで。
理屈の向こう側に流れてるもの
伊集院 そういえばあれも覚えてるわ、ヒロトさんに送ったメール。病院の待合室で待ってたら「ましままさとしさん」って呼び出しが聞こえて「えっ?」と思って見たらヨボヨボのおじいちゃんが立ち上がったの。すぐにメール送ったら「本人かもしれないぜ」って返事をもらった(笑)。
甲本 普段のマーシーはヨボヨボかもよ(笑)。
伊集院 ステージで生命力を全部使い果たしたらあのおじいちゃんになる?
甲本 それいいよね。だってロックンロールパワーを信じられるじゃないですか。ロックンロールやるぜってステージに立った途端あんなカッコいいやつになれるんだったら、それはうれしいことだよね。
伊集院 亡くなる前の(桂)歌丸師匠がそうでした。もちろん車椅子だし、高座に上がるときまでチューブで酸素をいっぱい入れてるの。チューブ抜いて幕が上がって落語やって終わってまたチューブ入れる。だけどその落語が、落語の神様って恐ろしいもんで、なんつったらいいんですかね、肺の空気が足りないからしゃべるのはゆっくりなんだけど、それが健康なときの歌丸師匠よりうまいんです。うちの師匠(三遊亭円楽)も亡くなる前、楽屋で見てるともう無理だよなって感じるんだけど、でも高座に上がると落語をやれちゃう。だからカッコいいですよね。お客さんからエネルギーを得ている感というか。きれい事じゃなく、舞台でエネルギーをもらってる人がいるんだなって、それはちょっと感じます。
甲本 僕の場合は、これちょっと違うかもしれないけど、ステージに上がるときは発信者というよりは受け身なんですよ。たぶん僕が一番楽しいんです。レコード聴いても楽しいしライブ観ても楽しいし自分でステージ立つのも楽しい。ロックンロールがそこにあって、僕は常に受け身で楽しませてもらってる感覚がある。
伊集院 ああ、わかります。ラジオの深夜の生放送もそうです。どんなにイヤなことがあっても、あそこにたどり着けば楽しくなると思って1週間暮らしてるんです。でも同時に楽しくならなかったらどうしようって恐怖もある。笑いが起きないと僕も楽しくないから。
甲本 お客さんがいなきゃその場所自体が成立しないからね。こんなことやらせてくれてありがとうっていうのは僕も思う。
伊集院 (立川)談志師匠なんて普段はあんなに毒舌なのに、あの人いい落語ができたときはお客さんに「素敵な夜をありがとう」と言って帰るんです。それがすごくカッコいい。
甲本 僕どこで観たんだっけな、どこかの小さな公民館。そのときの談志師匠はすごく柔らかかった。東京のピリッピリのお客さんの前でやるときとちょっと違うんですよ雰囲気が。
伊集院 たぶん共鳴してるんだと思うんです。そうしようと思ってなくても。その共鳴の正体が漠然とでもわかりたいけど……これ以上理屈化するとつまらない話になっちゃう気がする。
甲本 でもそんな理屈っぽい伊集院さんに共感する人がいっぱいいるんだよ。僕も根は理屈人間だから「もっとやれ!」っていつも思ってるし。
伊集院 理屈の向こう側に流れてるものが伝わるといいんですけど。
甲本 わざわざ理屈を言いたくなるくらい感動してるってことだからね。
レコードで聴いたらドバーッて涙が出た
伊集院 クロマニヨンズはずっとアナログレコードでいくんですか?
甲本 そうですね。だって音がいいんだもん。
伊集院 デジタルが進化してもアナログを超えることはない?
甲本 いや、超えてきてほしいんだよ。僕も最初は何も気にしてなかったの。そもそもCD自体ブルーハーツがデビューする頃にやっと出始めたもんだからね。デビューアルバムを出すときに「CDも作りますか?」って聞かれて「作んない」と答えた。だってそのとき僕CDプレイヤー持ってなかったし、そんなものが普及すると思ってなかったから。そのあとレコードがちょっと売れたんでご褒美に何かあげますって言われて「じゃあCDプレイヤーが欲しい」と言って「これからCDの時代になるんだったらCD買いに行こう」って、それこそマーシーと2人で店に行って何枚かCD買って帰ってきて聴いた。で、「やっぱ雑音とかないんだね」「きれいだね」って普通に喜んでたんだよ。でもある日、オーティス・レディングをCDで聴いたの。レコードで聴くと毎回泣いちゃうんです。でもCDで聴いたときに自分のほっぺたが濡れてなかった。そんなの初めてだったから「あれ? 僕オーティスもう飽きちゃったのかな」ってそのときは思った。あんなに大好きだったオーティスをそんなに好きじゃなくなったことが寂しくてしばらくしょんぼりしてた。でもある日同じアルバムをもう1回レコードで聴いたらドバーッて涙が出たんだ。音の違いなんかはわかんないんだよ。耳じゃわかんないけど「俺、なんか気付いちゃった!」と思って、それからはアナログばっかり聴いてる。だから技術的なことはどうでもいいんです。あの曲を聴いてドバーッて泣けたらそのときにはデジタルでも何にでも切り替えるつもり。
伊集院 そうか、アナログにこだわってるわけじゃないんだ。
甲本 うん、自分が感動できるかどうかだけ。
伊集院 僕もラジオはもう生放送やめてもいいですよ、録音でいいですよって言われたり、もっと言えばやめたほうがタクシー代も出さなくていいしって話なんだけど、申し訳ないけど深夜に関しては生でやらせてほしいって言ってるんです。非科学的かもしれないけど深夜にやることに何か意味があると思ってて。
甲本 そう、その何かが自分の中にある限りは変えられないよね。逆に伊集院さんのテンションが変わらないならどっちでもいい。
伊集院 収録でも僕が同じようにしゃべれるならね。
甲本 それだけですよ。だって自分の感覚以外にリアルなものなんか世の中にないんだから。
ライブ情報
ザ・クロマニヨンズ ツアーMOUNTAIN BANANA
- 2023年2月2日(木)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2023年2月5日(日)東京都 たましんRISURUホール
- 2023年2月12日(日)石川県 金沢市文化ホール
- 2023年2月19日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2023年2月23日(木・祝)宮崎県 都城市総合文化ホールMJ 大ホール
- 2023年2月25日(土)佐賀県 鳥栖市民文化会館
- 2023年2月26日(日)福岡県 北九州芸術劇場 大ホール
- 2023年3月4日(土)埼玉県 狭山市市民会館 大ホール
- 2023年3月5日(日)千葉県 浦安市文化会館 大ホール
- 2023年3月11日(土)秋田県 あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
- 2023年3月12日(日)宮城県 トークネットホール仙台 大ホール
- 2023年3月18日(土)岡山県 岡山市民会館
- 2023年3月19日(日)鳥取県 米子市公会堂
- 2023年3月21日(火・祝)広島県 東広島芸術文化ホールくらら 大ホール
- 2023年3月24日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2023年3月26日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2023年3月30日(木)東京都 中野サンプラザホール
- 2023年4月1日(土)新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
- 2023年4月8日(土)栃木県 栃木県教育会館
- 2023年4月9日(日)神奈川県 カルッツかわさき
- 2023年4月15日(土)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール
- 2023年4月16日(日)大阪府 大阪城音楽堂
- 2023年4月23日(日)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
- 2023年4月29日(土・祝)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
プロフィール
ザ・クロマニヨンズ
1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に、小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組ロックバンド。2006年7月の出現以来、精力的に活動を続けており、2023年1月に16枚目のオリジナルアルバム「MOUNTAIN BANANA」をリリースした。
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伊集院光(イジュウインヒカル)
1984年、三遊亭楽太郎(現・6代目三遊亭円楽)に弟子入りし、落語家・三遊亭楽大として活動を開始。1987年頃より伊集院光としてタレント活動もスタートさせ、「伊集院光のオールナイトニッポン」(ニッポン放送)や「伊集院光 深夜の馬鹿力」(TBSラジオ)といったラジオ番組で人気を博す。2003年には「伊集院光 日曜日の秘密基地」(TBSラジオ)のパーソナリティとして「第40回 ギャラクシー賞」ラジオ部門のDJパーソナリティ賞を受賞した。現在もさまざまなラジオ番組やテレビ番組に出演中。
※記事初出時より本文を一部変更しました。