1月18日にニューアルバム「MOUNTAIN BANANA」をリリースしたザ・クロマニヨンズ。音楽ナタリーではアルバムのリリースを記念して、甲本ヒロト(Vo)と伊集院光の対談をセッティングした。対談中、何かと理屈で考えてしまうからこそ、理屈抜きのクロマニヨンズに惹かれるという伊集院に対し、実は自分も理屈人間であると明かす甲本。2人は交流を深めたきっかけであるラジオの話を交えつつ、理屈では説明できない感動への憧れを語り合った。
取材・文 / 大山卓也撮影 / 斎藤大嗣
いろんな理屈は全部言い訳
伊集院光 こうやってヒロトさんに会うとやっぱり緊張しますね。ずっと曲を聴いてる側だし、なんかこう、嫌われたくない気持ちといい格好を見せたい気持ちが空回りして。
甲本ヒロト 僕も伊集院さんのラジオいつも聴いてますからね。実は毎回録音もしてて気に入った回は残してたりするんです。「ヨーソロー」は編集してあそこだけ残してある(笑)。
伊集院 これ読んでる人に説明すると、この間僕のやっている深夜のラジオ番組で“稲川渕剛(いながわぶちつよし)”っていう稲川淳二から長渕剛になっていくネタがあったんですよ。「怖いなあ怖いなあ、ヨーソローヨーソロー」っていう、それをヒロトさんが気に入ったらしくて、明け方突然「稲川渕剛」とだけ書いたメールをもらったことがありまして。
甲本 あったね(笑)。
伊集院 そのメールに「ヨーソローヨーソロー」ってだけ返信したときに「よし、ちゃんとやりとりできた」と思った(笑)。というのも、ヒロトさんにアドレスを聞いてから、例の「変に思われたらどうしよう」が出ちゃいまして、うまくメールのやりとりができなくて……僕とにかく理屈っぽいんですよ。人とのコミュニケーションも理屈で固めてやっちゃってる。たぶんヒロトさんは真逆だと思うんですけど。
甲本 そんなことないよ。僕も子供の頃母親から「あんたは屁理屈ばっかりこねてから」ってよう言われたもん。
伊集院 僕は曲の話なんかするときも「なんだかわかんないけどこれ好きなんだよね」じゃなくてなんとか理屈で説明しようとしちゃう。でもクロマニヨンズの新しいアルバムに入ってる「ズボン」という曲を聴いて、これは説明できないな、来るとこまで来たなと思った。タイトルからして「ズボン」だから(笑)。こういう曲は作ろうと思って作れるものじゃないですよね。
甲本 僕も最終的に1曲仕上げるまでには穴埋めしたりすることもあるよ。2番のここ空いてるから埋めなきゃとか。でもそうすると整合性がとれてちゃんとしたものになるんだけど面白くはなくなっていく。そこに無意識を放り込むのはものすごく難しいです。でも「ズボン」って曲は穴埋めしなくても最初からずるずるっと出てきたから「やった!」と思った。
伊集院 なるほどなあ。僕は若い頃から落語に対してずっと「ここ説明不足じゃん」みたいな気持ちがあったんです。でもその説明不足のところを全部説明して辻褄合わせてやってみたら全然面白くなくて、あ、これが理屈の限界なんだってわかったんですよね。だからヒロトさんが長くやってるのに理詰めになっちゃわないのすごいと思う。それってお母さんに「屁理屈ばっかり」と言われて育ったからなんですかね?
甲本 うん、だって屁理屈を周りが喜んでないわけだから、これは武器にならないなってわかるよね(笑)。でも性格だから僕もいまだにいろんな理屈をこねるよ。で、そのうちに気付くんです。全部言い訳じゃねえかって。もっと考えると昔の偉い哲学者の言葉なんかも全部言い訳なんだよね。悟ったようなこと言っててもあれはあきらめてるだけなの。立派な人はがんばるのをやめるための言い訳がものすごく上手で、そうすると尊敬される。なぜかというとみんながその言葉を自分の言い訳に使えるから。僕が昔から歌ってきた歌も「これ名言だ」なんて言われることがあります。でもよく考えてみて? それは言い訳だからね。僕の言い訳をみんな自分が楽に生きるために使ってるだけなんです。
コントロールはあきらめた
伊集院 僕、クロマニヨンズでめちゃめちゃハマった曲が「ガス人間」(2019年リリースのアルバム「PUNCH」収録)なんですけど。
甲本 あれもツルッと出てきた曲だ。
伊集院 あの曲も理屈じゃないですよね。何も考えず聴いてただ楽しくなる曲って僕の中であれが初めてだったかもしれない。でもなんなんですかね、考えすぎるのも違うし、考えないようにするのも違う気がするし。
甲本 また理屈っぽくなってる(笑)。僕はラッキーなことにそんな理屈をすべて吹っ飛ばしてくれる爆弾を持ってて、それがレコードなんです。子供の頃ロックンロールを聴いてドーンと何かが吹き飛んだ。あんな気持ちになりたくて今もレコードを聴き続けてる。自分のスイッチをバチッと押してくれるレコードが何枚もあって、どうしようもないときはそれを聴く。
伊集院 どんなレコードですか?
甲本 人によってみんな違うと思うけど、僕はやっぱり昔のロックンロール。あのね、60年代くらいからロックンロールがちょっとカッコつけ始めるんですよ。俺たちバカじゃないよ、世の中にメッセージとか言えるよみたいな態度を取り始める。クラシックと融合して実験的なこともできちゃうんだよ、こんなに速くギター弾けるよ、声域3オクターブも出せるよとかね。そういう一般的な物差しを入れてくる前のロックンロールが好きなんだよ。
伊集院 それ、もしかしたらお笑いも似てるかも。僕、今のお笑いで一番心から笑えるのはコロッケさんの顔芸なんです。この理屈派の僕が理屈抜きで面白い。コロッケさんは分析の外にいるんですよね。
甲本 わかる。僕はコロッケさん特別好きなわけじゃない。でもコロッケさんを観て笑わなかったことが一度もない(笑)。
伊集院 なんで僕はあれができないんだろうって思うんです。どっかで尊敬されたいのかな。
甲本 うーん、褒められたり感心されたり、みんなに偉いとかすごいとか言われても、僕はそんなのはいらない。僕がやったことに対して人がどう反応してもいい。コントロールすることはあきらめてる。
伊集院 それはいつ頃から?
甲本 ブルーハーツの最初の頃。世間の反応を見てほんとにビックリしたんだ。ロックンロールは大きな誤解の上に乗っかってるんだなって。だから今さら目の前のお客さんをコントロールしようなんて思わない。ただ思いっきり投げるだけ。ライブもレコーディングも空回りしてもいいから思いっきりやる。それで失敗したらそれが実力なの。ところがそう思いながらやってみると、けっこううまくいくんだよね。
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理屈を超えた「さぼりたい」