ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロト×サンボマスター山口隆 | コントロール不能な衝動と妄想で爆走するロックンロール対談

甲本ヒロト、人生唯一の入り待ち体験

山口 今同じ時代でやってるバンドはライブを観られる喜びがありますよね。

甲本 今やってるってだけで最強だよね。

山口 だから今クロマニヨンズを観られる。ヒロトさんの曲紹介も聞ける。僕はそれが幸せなんですよ。

山口隆

甲本 自分だってそうじゃん。山口くんMCうまいんだよな(笑)。

山口 ステージ出てガーッとやるからああいう感じになりますけど、いつも終わったらフッと我に返りましてね。

甲本 赤面する?

山口 早くコーヒー飲んでレトルトカレーかなんか食べたいなってなりますね。自分はステージに出る側としての気質よりもファンとしての気質のほうが強いのかもしれないです。例えばエルヴィス・コステロが2016年に人見記念講堂でやったとき、コステロはどの通路から来るんだろうとか、出待ちするならどこの出口なんだろうとか考えてましたもん(笑)。

甲本 あ、俺もそういうの1回だけある(笑)。岡山県で育ったからさ、岡山にはなかなか外タレ来なかったんだよ。まだおこづかいも少なくてコンサートなんか行った経験はほとんどなくて、でも僕が高校生のときになぜか岡山にVan Halenが来たんだよ! 2ndアルバム(1979年3月発売「伝説の爆撃機」)が出たくらいの頃。The Kinksの「You Really Got Me」をカバーしてたから、そのイメージが強くてさ、そんなにハードロックマニアじゃなかったけど、The Kinksの曲やってるバンドが来る!観に行こう!って感じで行くことにしたの。外タレのコンサートなんて初めてだからワクワクして、しかも当日もヒマだから早く会場に着いてさ、入り待ちとかのつもりはないんだけどぼんやり駐車場に座ってた。そしたらメンバーが車から降りて会場に入っていくのが見えて、そんでたまたま僕らが座ってた目の前が楽屋の窓だったらしくて、ガラッと窓が開いてデイヴ・リー・ロスが出てきてさ。白い手袋をしてみんなに手を振って、次の瞬間その手袋をパッと脱いで僕にくれたんだよ。

山口 えっ、すごい!

甲本 みんな「いいなあ」って僕の周りに寄ってきたよ。そのときまたガラッと窓が開いて今度はエディ・ヴァン・ヘイレンが出てきて、エディはなんかもぐもぐ食べてんの。片手になんか持ってる。よく見たらお寿司(笑)。そういえばさっき小僧寿しの車が着いたのも見てたから「あ、エディが小僧寿し食ってる」と思って、そしたら手に持っていたお寿司を僕に手渡しでくれて、もうどうすればいいかわかんなくて周りのみんなが「見せろ見せろ」って寄ってくるからパクッてひと口で食べたんだよ(笑)。

山口 すげえいい話だ!

甲本 これが僕の人生唯一の入り待ち体験(笑)。

ロックンロールの妄想がくれる幸せ

山口 外タレといえば、1998年にジェームス・ブラウンが赤坂BLITZでライブしたとき観に行ったんですけど、俺はギタリストのロナルド・ラスターに夢中で、ライブ中ずっと手を振ってたら彼が「You!」って言ってピックくれたんですよ。それでなんだか「日本はお前に任せた」って託されたみたいな気分になっちゃって。

甲本 わかるよ。ロックンロールは妄想なんだ。例えば自分でブルースやってみようと思ったら、そこに自分の妄想を乗っけて演奏するわけで、そしたらどんどん大げさになってそれがハードロックになるんだよ。そうやってロックンロールの妄想が転がり続けていって1977年にパンクロックって形ができた。あれはロックンロールの妄想の最たるもの。ロックンロールの理想形だと僕は思った。

山口 そうですよね。妄想なんだけどそのおかげで俺は幸せをもらってます。ある日、悲しい気持ちで喫茶店に入ったんですよ。そしたらThe Rolling Stonesの「Waiting on a Friend」が流れて涙が出た。たぶんちっちゃい音だったと思うんですけど俺にはそれが超爆音で聞こえてて。ロックに救われたって感じたなあ。

甲本 そうなんだよ。僕らは僕らの妄想の中で溺れてちゃんと泳げてないと思う。山口くんも今溺れてるのがよくわかる(笑)。

山口 いつ目が覚めるんだ?って。

甲本 これが正気だからね。楽しくてしょうがない。

左から甲本ヒロト、山口隆。
左から甲本ヒロト、山口隆。

勝手に影響受けて勝手にやってるだけ

山口 ところで今日ヒロトさんが革ジャン着てるの、J. Geils Bandの1stのジャケットみたいですね。

甲本 J. Geils Bandの1stは最高だよね。J・ガイルズのギターもすごいしマジック・ディックのハーモニカもすごいしバンドがみんないい。

山口 当時はかなり人気ですか?

甲本 僕は大好きだったよ。70年代の中頃だからパンクが出てくる直前。あの頃、何か不思議な違和感があった。思いがけずロックを好きになって聴き始めたのが75年ぐらいで、でも自分が何を好きになったのかわからなかった。調べたところ自分はどうも60年代のイギリスの音楽が好きみたいだと。で、そこから自分でいろんな曲を聴いてみるんだけど、ラジオでかかっているヒットチャートが1曲もカッコよくないんだ。1曲もだよ?(笑) 1位の曲ですらカッコよくない。子供心に「おかしいな?」と思いながら、それでもラジオを聴き続けてたら、ある日J. Geils Bandがかかって、「カッコいい!」と思った。あと、ブルース・スプリングスティーン!

山口 うわ!

甲本 スプリングスティーンのそれこそ「明日なき暴走」なんか聴いたときは「これだ!」と思ったよ。その直後にパンクロックが出てきて、スプリングスティーンの仲間がいっぱい出てきたと思った。

山口 やっぱりスプリングスティーンの存在は大きいですか?

甲本 今はもうパンク以降の時代だから当時の感覚っていうのは話しても伝わりにくいんだけど、その頃のスプリングスティーンはロック好きなやつを全部1人で引き受けたみたいに輝いてた。ロンドンパンクの地面にはパブロックがあるでしょ。パブロックをちゃんと聴くとほぼすべてのグループがスプリングスティーンに憧れてるのがわかる。それをちゃんと言葉にしたのがグレアム・パーカー。彼は初期のインタビューで「これからどんなグループになりたいか」って聞かれて「俺はスプリングスティーンのような服を着てスプリングスティーンのような歌い方をしたいだけなんだ」と言ったんだ。それがロンドンパンクにつながってるんだよ。

山口 いいなあ、スプリングスティーン。

甲本 そして、The Clash登場! そういえば、山口くんにもジョー・ストラマーの懸命さみたいなもの、感じる。でも、それだけじゃないんだよ。サンボマスターは山口くんがこういうキャラクターだから(笑)バカ正直な猪突猛進型のグループに見えるかもしれないけど、サウンドプロダクションはすごく緻密だよね。聴いてる人が「自分もこんなのやってみたい」と思うバンドなんだよ。

山口 いやいや、とんでもないです(笑)。

甲本ヒロト

甲本 僕はパンクロックに出会わなかったらバンドやってなかったかもしれない。おいしいラーメン食べたとき「ラーメン屋になりたい」と思うんじゃなくて「もう1杯食べたい」と思う人なんだよ。明日も食べたい、明後日も食べたい、毎日食べたい。子供ってそんなもんでしょ? でもパンクロックが出てきたときに初めて「今この瞬間からやらなきゃ!」と思った。もう時間がもったいないなって。

山口 どこかに「宇宙ロック協会」みたいなのがあって、どこかの星から見てて、そこの会長みたいな人が「コイツだ! 岡山にいるぞ!」って指名した可能性はありますよね(笑)。

甲本 でもやりたいことをやりたいようにやってきただけだからね。我慢も努力もしたことない。だらしなく生きてきたらこうなったんです。

山口 そういうヒロトさんだから大好きなんですよ。憧れてる人がそういう考えだっていうのは今の僕にとってはものすごく幸せなことで。勝手に影響受けて勝手にやってるだけなんですけど。

甲本 今日の対談はものすごく使えない気がするね(笑)。ただこの空気がよかったということだけはわかってほしい!

山口 ロックが好きだって話でした!

甲本 うちの山口がすみませんでした(笑)。

左から甲本ヒロト、山口隆。

ツアー情報

ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL
  • 2022年1月24日(月) 東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2022年1月26日(水)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2022年1月29日(土) 静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
  • 2022年2月5日(土)埼玉県 三郷市文化会館
  • 2022年2月6日(日) 栃木県 栃木県教育会館
  • 2022年2月11日(金・祝)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2022年2月12日(土) 福岡県 福岡市民会館
  • 2022年2月19日(土)愛知県 名古屋市公会堂 大ホール
  • 2022年2月20日(日)愛知県 名古屋市公会堂 大ホール
  • 2022年2月23日(水・祝)長野県 ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)中ホール
  • 2022年2月27日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2022年3月2日(水)東京都 江戸川区総合文化センター
  • 2022年3月5日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2022年3月6日(日)福島県 けんしん郡山文化センター 中ホール
  • 2022年3月12日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2022年3月13日(日)岡山県 岡山市民会館
  • 2022年3月17日(木)神奈川県 ハーモニーホール座間 大ホール
  • 2022年3月19日(土)広島県 広島JMSアステールプラザ 大ホール
  • 2022年3月21日(月・祝)山口県 下関市生涯学習プラザ 海のホール(大ホール)
  • 2022年3月26日(土)新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
  • 2022年3月30日(水)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2022年4月2日(土)石川県 金沢市文化ホール
  • 2022年4月7日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年4月9日(土)香川県 ハイスタッフホール 大ホール
  • 2022年4月12日(火)千葉県 千葉市民会館 大ホール
  • 2022年4月15日(金)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
ザ・クロマニヨンズ
ザ・クロマニヨンズ
1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に、小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組ロックバンド。2006年7月の出現以来、毎年アルバムをリリースし、精力的に活動を続けている。2020年12月に14枚目のアルバム「MUD SHAKES」を発売し、初の配信ライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ」を開催。2021年2月に東京・東京ガーデンシアターで有観客ワンマンライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021」を行い、その映像を収めたライブDVD「ザ・クロマニヨンズ ライブ!MUD SHAKES 2021」を6月に発売した。「SIX KICKS ROCK&ROLL」と題して、2021年8月から2022年1月まで6カ月連続でシングルをリリースし、第6弾シングル発売日にCDアルバム「SIX KICKS ROCK&ROLL」を同時発売する。
サンボマスター
サンボマスター
山口隆(Vo, G)、近藤洋一(B, Cho)、木内泰史(Dr, Cho)によるスリーピースバンド。2000年2月結成され、2003年にメジャーデビューを果たす。メッセージ性の強いストレートな歌詞と、ファンクやソウルからの影響を感じさせるロックサウンドが特徴。ひたむきにロックンロールを愛し、希求するストイックな姿勢が共感を呼び、幅広い世代から支持を集めている。