印象深いクロマニヨンズのツアー
──クロマニヨンズの場合、1つのツアーでライブハウスとホールが混在していて、それぞれやり方が異なると思うのですが。
ライブハウスは距離が近いので、ライブ感が厚くて気持ちいいですね。ただライブハウスは場所によって条件がいろいろで制約も多いので、「最善はこれ」というのを決めてメンバーに伝えます。例えば、転がし(モニター)が入らないので、(甲本)ヒロトにセンターではないところに立ってもらうことがあったり、スペース的にちょっとしたセットも普通に組めないので、2つに分けて斜めに組んだりとか。「MONDO ROCCIA」(2009年発売の4thアルバム)のツアーで使った手のオブジェは、奥行きがある場所じゃないとドラムの後ろには配置できないので、横にしてみたり、客席の横に飾ったりしたこともあります(笑)。全部の演出をノーカットでやり切るのが理想なんですけど、中にはどうにもできない会場もあります。そういうときには「一番いい状況は何か、つまりは何が一番面白いか、カッコいいのか?」というところから答えを導きます。
──セットという観点からいくとホールのほうがやりやすそうですね。
ホールも会場によって、さまざまです。セットを吊るすバトンがそもそもなかったり、あっても全然いい位置になかったり、ドラム台に幕がかかっちゃったりとか。例えば「JUNGLE 9」(2015年発売の9thアルバム)のツアーのときは、ナインくん(ジャケットに描かれているキャラクター)のオブジェを上下、左右に動かしたんですけど、クロマニヨンズがよくライブをする京都のKBSホールは動かすための設備がほとんどないんですよ。そのときはステージにタワーを立てて、そこにナインくんを隠して、使える1本だけのバトンで動かしたりしました。ほかの飾りは奥1本だけのバトンに吊り点を3カ所くらい作って飾ったり。KBSホールは構造的にも、空間条件的にもほかのホールとまったく違うので、いろいろなことが手間ではあります。でもライブの内容はいつもいいんですよね。音もいいし、空間的にもいいし。ほかのバンドも含めてKBSホールで悪かったことは一度もないです。作業としては大変ですけど、毎回やりたいなと思う会場です。
──ウシヤマさんはクロマニヨンズの最初のツアーから舞台監督を担当されていますが、その中でも印象深いツアーはありますか?
もちろんすべてがすべて面白かったし、楽しかったです。なので、言ってしまえば、直近のものが最高によかったなっていうのが本音です。が、振り返って印象的なのは「Oi! Um bobo」(2010年発売の5thアルバム)のツアー「ウンボボ月へ行く」でしょうか。毎回ツアーを始める前に「今回はどうします?」ってメンバーと話すんですが、「こんな看板が後ろにあって」とかいうイメージを話すんです。「CAVE PARTY」(2007年発売の2ndアルバム)のときは「文字が後ろにあって……」というアイデアがまずあって、そこにLEDの目を入れたコウモリをいろんなところに足して飾るみたいなアレンジをしました。ところが「Oi! Um bobo」のツアーでは「逆になんかある?」みたいな話になり、ジャケットイメージを、より全面的にセットに採用することにしたんです。アルバムジャケットの中面に、菅谷(晋一)さんが描いた、月面に「Um bobo」の旗が立っている絵があるんですけど、「これをそのまま再現しましょうか?」と提案しました。アルバムビジュアルの月面に見立てて、足跡が付いたカーペットをステージの床に敷いて、ライブの冒頭に旗を立て、その旗は扇風機で常に揺らめかせて(笑)。あのツアーで初めてアルバムの曲順通りにライブをやったと思うんですけど、「多摩川ビール」で、流れ星に見立てた電球を飛ばしてみたり、月を照明で映し出したり、そういうちょっとした演出がハマって、全体にストーリー性が高くなった印象がありました。舞台演出、セットリスト、いろんなものが整ったツアーだったんじゃないでしょうか。それと前出の「JUNGLE 9」のツアーは、ナインくんが象徴的で印象深いですよね。あのバカバカしさというか(笑)。
──クロマニヨンズはユーモアも魅力の1つですよね。
「GUMBO INFERNO」(2014年発売の8thアルバム)のツアーではオープニングSEに「天国と地獄」という曲が使われたんですけど、「これはもうドリフターズの運動会だな」と思って。ライブハウスでは、オープニングで紅白帽をかぶったクルーが出てきて、後ろの隠し幕をぱっと下ろしてメイン看板が登場する演出をやりました。その後どこかでお客さんに会ったときに「あれよかったです。今回はああいうことやらないのですか?」って聞かれたことがありましたね(笑)。
ライブはナマモノ
──コロナの影響で、今年のツアーは2月20日のライブ1本のみでした。どういう気分で臨まれたんですか?
やれてよかったなというのがまずあります。1本だけでもあの瞬間があってよかった。だからと言って「よっしゃ、この1本だ!」という特別な感じはなく、いつものツアーの気分でしたね。凝ったことをやろうという感じは最初からなくて、今回は旗があるくらいでいいという話でした。本来そういうバンドでもあります。シンプルに、演奏を見せるだけでクロマニヨンズのライブは最高なので。
──アンコール込みで90分という、いつも通りのシンプルでタイトなライブでした。
倍の時間演奏するアーティストもいますからね。クロマニヨンズは曲数あるけど曲が短くて、だいたい1曲3分だから、長くても1時間30分から40分。構成もわかりやすい。シンプルでストレートなところがクロマニヨンズの持ち味ですよね。お客さんは余計なことを考えなくていいし、突っ走るステージに委ねて非日常の悩みのない世界へ連れてってもらえる瞬間だと思います。
──ひさしぶりのライブにもかかわらず、非常にいいライブでしたね。
よかったですね。クロマニヨンズは基本的なスキルの平均値がめちゃめちゃ高いので、いつでもいい。「今日もいいライブだな」というのをずっと続けていけるバンドです。が、それでも「ひさしぶり感」が出ることってあるんですよ。あれだけライブをやってるバンドでもそういうことってあります。どんなにやっていても、起きうることだと思いますけど、ライブって本当にそういうナマモノということですよね。エアポケットに入ったみたいに「アレレ」ってことになったりする。しかし、それも含めて面白いことしかないと思っています。
──確かに先日の「FUJI ROCK FESTIVAL '21」では「ひさしぶり感」がちょっとありましたよね。途中で曲順がわからなくなったり。ただ、そういうちょっとした躓きはあったものの、変わらず惹きつけられるライブで不思議でした。
それはフジロックという環境や、その信念に呼応したバンドのテンションなんかがそうさせたとも考えられるし、特別なことがなくても、いつものようにやるだけっていうバンドにとって不変の姿勢が現れただけなのかもしれません。
クロマニヨンズとほかのバンドの違い
──クロマニヨンズのライブの選曲にウシヤマさんが関わることはあるんですか?
必要に応じてたまに言うことはあります。バンド側も「みんなどう思う?」って振りをしたり、このところのツアーでは「今回はこのアルバムの中から何曲か選ぶのでリクエストしてね」みたいな話になります。
──ウシヤマさんはメンバーが迷ってるときに意見を言うんですね。
通常のツアーでもたまにメンバーが迷っているときがあって、「この曲とこの曲は逆のほうがいいかもしれないですね」と言うことはあります。
──客観的な目線で伝えるわけですね。
お客さん的な客観的な部分もありつつ、バンドとしてだったらこんな感じがいいなあとか思います。自分は仕事をするときに、そこに行ったら「そのバンドになる」という感覚なので。多くの人たちがそう思ってるのでしょうが、後ろの引いたところにいるよりも、どうせなら中に入り込んだほうが面白いですからね。
──今までウシヤマさんが舞台監督をやったアーティストとクロマニヨンズの違いはなんでしょうか?
クロマニヨンズはやっぱり「ザ・クロマニヨンズ」って感じですよね。「ザ」っていうのがふさわしいというか。自分たちの確固たるスタイルが決まっているというか「俺たちはこうだからさ」っていうのが本当に明確だなって思います。答えがすでにそこにあって、全部の物事がそこから始まっている感じですね。シンプルで、本能的、動物的とも言えるかもしれません。いつだって、ロールしています。
- ザ・クロマニヨンズ
- 1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に、小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組ロックバンド。2006年7月の出現以来、毎年アルバムをリリースし、精力的に活動を続けている。2020年12月に14枚目のアルバム「MUD SHAKES」を発売し、初の配信ライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ」を開催。2021年2月に東京・東京ガーデンシアターで有観客ワンマンライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021」を行い、その映像を収めたライブDVD「ザ・クロマニヨンズ ライブ!MUD SHAKES 2021」を6月に発売した。「SIX KICKS ROCK&ROLL」と題して、2021年8月から2022年1月まで6カ月連続でシングルをリリースし、第6弾シングル発売日にCDアルバム「SIX KICKS ROCK&ROLL」を同時発売する。