ミュージックビデオのお手本はThe Clash
──レコーディングは全部自分たちのスタジオでやってるんですよね。
そうです。スタジオにメンバー4人とエンジニアだけ入って。
──ほかのスタッフはいない?
いない。お客さんも来ない。初めから終わりまで休憩もほぼない。その代わり明るいうちにみんな帰る。
──健康的ですね。
昼過ぎの2時頃集まって明るいうちに帰るからね。
──ところで今回ミュージックビデオは1日で6曲分の撮影を行ったそうですが、かなりハードだったんじゃないですか?
うん。でも最近みんなに会う機会が少ないから会えて楽しかった(笑)。
──小学生の感想みたいになってます(笑)。
夏休み終わってお友達に会えたよ、みたいな(笑)。でもホント楽しかったです。
──ヒロトさんはほかのバンドの映像で好きな作品はありますか?
僕にとって一番強烈だったのはThe Clashがデビューして最初に出した3曲の映像。16mmフィルムだから当時フィルムコンサートかなんかで観たんですけど、めちゃくちゃカッコよかったんだよな。
──それはライブ映像?
ライブっていうか、スタジオで無観客で一発撮りなんだ。カメラは1台だけ。録音もその場でマイクで録った感じの音で、いきなりジョー・ストラマーが間違えて2番から歌うの。もう1回撮りゃいいじゃんと思うんだけどそれしかやらない。
──THE BLUE HEARTSが最初にリリースしたVHS(1987年発売「THE BLUE HEARTS」)もそういうスタイルでしたよね。無観客のスタジオ一発撮りで3曲入り。
うん、あれはThe Clashをお手本にした。それしかないんだもん、僕らのやりたい映像。カメラ1台とマイク1本だけ。スタジオで鳴ってる音をマイク1本で録ったんです。あとから誰も差し替えできないように。
──ヒロトさんのミュージックビデオの原点はThe Clashなんですね。
そうですね。あれカッコよかったなあ。
ライブDVDは現場を撮ったドキュメンタリー
──現在はコロナ禍で多くのライブが中止や延期を余儀なくされていますが、クロマニヨンズが2019年から行っていた「PUNCH」ツアーも2020年2月に12公演を残して中止になっています。あのときはどんな気持ちでしたか?
ポカーンとなりました。「バルンガが来たかー」と思った(※バルンガ=特撮番組「ウルトラQ」に登場する怪獣。あらゆるエネルギーを吸収し社会に大混乱をもたらす)。最初は煮詰まって発狂でもするんじゃないかと思ったけど、そうはならなかったですね。やっぱり自分ではどうにもできないことだから。
──その後はアルバム「MUD SHAKES」をリリースし、2020年12月に無観客の配信ライブがありました(参照:ザ・クロマニヨンズ初の配信ライブ終了、2月に有観客ライブ開催決定)。
楽しかった。やっぱライブは楽しいです。
──お客さんがいなくても?
演奏自体がすごく楽しいからね。バンドの楽しみって基本そこですから。仲間が集まって一緒に音を出す。
──そして2021年2月には約1年ぶりの有観客ライブを行いましたね(参照:ザ・クロマニヨンズ、不変のロックンロールが爆裂した約1年ぶり有観客ライブ)。客席は声を出せない状況ですし雰囲気も普段とはだいぶ違ったのでは?
それでいうと客席の反応はどうでもよくて、静かに観てようが暴れてようがどっちでもいい。とにかくお客さんがいてくれることがすごくうれしかったです。
──ライブは生配信もありましたが、ヒロトさんは自分のライブ映像は観るんですか?
あんま観たくない。撮って残すのが好きじゃない。
──バンドによってはライブ後すぐに映像を観ながら反省会をする人たちもいますよね。
僕らも一時期観てたことあるけどあれは反省会じゃなくて笑う会だったよね。誰かが間違ったところが一番盛り上がる。酒飲みながら観るのは楽しいけど反省はしないです。“ライブの恥はかき捨て”って言いますからね(笑)。
──残すのが嫌だというのはどういう心境なんでしょうね。
ていうか何も残したくないじゃないですか、基本。
──レコードは作って残してますよね。
もちろんそれはそう。レコードってのはレコード=記録なんです。我々が記録のためにコントロールしてみんなが家で聴いてカッコよくなるように作ってる。でもライブ映像はアウトオブコントロールでさ、残すためのもんじゃないんだよ。もし家で観るなら家で観る用の映像にしなきゃいけない。ステージのセットから何から全部。そしたらお客さんを入れちゃいけなかったりするんです。
──でも実際クロマニヨンズのライブ映像作品はいくつかリリースされていますし、2月のライブもDVDとしてリリースされました。
あれはどういうことかというとライブの現場を撮影してるの。ライブそのものを撮ってるってみんな思ってるけど、そうじゃなくてライブの現場を撮ったドキュメンタリーなんだよね。
──演奏してるクロマニヨンズもその現場の一部でしかない?
そうです。あの空気をドキュメントしたものとして楽しんでもらえればいい。
生き残ってさえいればいい
──それにしてもこんなにライブがない日々は初めてだと思いますが、今のヒロトさんは毎日どんなふうに過ごしてるんですか?
テレビ観たり軽く酒飲んだりかな。ほっとくと酒量が増えるからそこは気を付けてます(笑)。
──ただこうして終わりが見えないトンネルの中にいると、世の中やはり殺伐としてきますよね。
でも相手はウイルスだからねえ。怒ったって逃げてくんないから。
──ヒロトさんはこの状況についてどう感じてますか?
うーん、ずっと続くのはイヤだよね。この騒動が終わったあとに生き残っていればいいって、なんかもうそれだけですね。生き残ってさえいればこの1年か2年の間になんらかのスキルアップもしてるだろうし、何か考えたりとかさ、やんなくていい努力したりとかさ、そういうの全部いい経験だって思えるんじゃないかな。だからみんな生き残ってほしいです。
──ヒロトさんはTHE BLUE HEARTS時代に「チェルノブイリ」という曲を歌ったり、国連PKO派遣のタイミングで「すてごま」という曲を作ったりしていました。今そんなふうに世の中の動きに反応して曲を作ろうとは思わないですか?
それでいうとあの頃も今もスタンスはまったく一緒ですよ。何も変わってない。
──じゃあ「チェルノブイリ」みたいな直接的なメッセージを持つ曲を今歌う可能性もあります?
直接的だと捉えるかどうかは人それぞれ。もちろん「チェルノブイリ」はマーシーの曲だから、ここで僕が答えることがどうなのかはわからない。ただ「チェルノブイリ」を「福島」に置き換えて歌うというような、そんな単純なことはないと思う。
──「チェルノブイリ」を歌ったことを後悔してますか?
ううん、後悔はしてない。あのときはそれを歌いたかったしそれがカッコいいと思ってた。今も言いたきゃ言う、歌いたきゃ歌う。そんだけの話でなんにも変わってないです。いつだって自分たちがやりたいことをやるだけなんです。
- ザ・クロマニヨンズ
- 1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に、小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組ロックバンド。2006年7月の出現以来、毎年アルバムをリリースし、精力的に活動を続けている。2020年12月に14枚目のアルバム「MUD SHAKES」を発売し、初の配信ライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ」を開催。2021年2月に東京・東京ガーデンシアターで有観客ワンマンライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021」を行い、その映像を収めたライブDVD「ザ・クロマニヨンズ ライブ!MUD SHAKES 2021」を6月に発売した。「SIX KICKS ROCK&ROLL」と題して、2021年8月から2022年1月まで6カ月連続でシングルをリリースし、第6弾シングル発売日にCDアルバム「SIX KICKS ROCK&ROLL」を同時発売する。
2021年9月29日更新