音楽ナタリー Power Push - ザ・クロマニヨンズ

趣味に没頭してるだけ

僕らが描いているのは抽象画

──新しい曲ができるときには“きっかけ”みたいなものがあると思うんですが、クロマニヨンズの場合はどうなんでしょうか?

甲本ヒロト(Vo)

ヒロト それは自分でもよくわからないんですよね。曲ができる瞬間ってどういうことなのか? うんこみたいなもんで、どんなうんこが出るかはわかんない。出たとこ勝負で、たまに気に入ったのが出るっていうだけ。だから最初のアイデアは自分でも理解できない何かなんです。それをきっかけにして膨らませたり削ったりっていう作業が始まって、そのまんま出すこともあって、1曲になっていくんです。

──じゃあ「さあ、曲を書こう」みたいな感じではなく?

ヒロト ないですね。急に降ってくるアイデアにやらされてる感じで、気付くと1曲できてる。だから具体的にどうやってるかっていう説明は難しい。

──マーシーさんはどうですか?

マーシー 何十年もいろんなものを見たり聴いたりしてて、そういうのが全部自分の中にインプットされてるんだと思う。それが、あるとき何かの反応を起こして曲になるっていう感じですかね。だから「あのことについて歌おう」とかそういうことはあんまりない。

──例えば今回のアルバムにはマーシーさん作の「デトマソパンテーラを見た」という曲が入っていますが、これは実際に街を歩いていて?

マーシー そうですね。デ・トマソ・パンテーラを見た。これは現実にあった話です。

ヒロト でもデ・トマソ・パンテーラを見たときに「よし、これを曲にしよう」って思うわけじゃないんだよね。

マーシー そのときは思わないよね。

──食べたものがすぐ出るわけじゃない?

ヒロト だってショートケーキ食っても、そのままピンクと白の何かが出るわけじゃないから。うんこになって出てくるんです。でもマーシーの今の歌詞みたいにわりとそのままスルッと出てくるイメージもあったりするし、それは自分じゃコントロールできないですね。

──じゃあ例えば「ナイアガラ」という曲は?

マーシー ナイアガラ、行ったことあるよ。

ヒロト 行ったね。

真島昌利(G)

マーシー THE BLUE HEARTSをやってる頃にアメリカツアーをやって、そのときにナイアガラの近くを通ったんですよ。それでみんなで見に行ったの。そしたらさ、すっげえ大きな滝があって「やっぱナイアガラの滝ってでけえな」って言って見てたんだ。でもふと見たら隣に看板があって「Niagara Falls→」って書いてある。「あれ、これがナイアガラの滝じゃないんだ?」と思ってその矢印のほうに行ったら驚愕だよ。ものすごかった。「でけえ!」って。

──最初の滝よりもずっと?

ヒロト 10倍20倍の話じゃないからね。びっくりした。

マーシー びっくりしたね。それが25、6年前ですかね。

──その体験が今になって曲になったんですか?

マーシー そうですね。なぜか突然出てきました。

──不思議なものですね。インプットがすぐにアウトプットになるわけではない。

ヒロト うん、例えばマンガ家さんとかは何かを伝えようとして絵を描いてると思うけど、僕らはそうじゃなくて抽象画を描いてる感じだから。ただ絵の具をバーッと塗って「できた!」みたいなもんで、「これ何?」って聞かれてもわかんない。ただ大切なのは感動なんです。その楽曲にまず自分が感動すること。最初にパッと出てきたアイデア、自分を突き動かすきっかけになるアイデアに感動する。うわあカッコいい、すげえ好き。そこが始まりで、それを最終的にみんなが見て感動できるようなものに仕上げていくっていう作業なんです。

バンドのいいところは手癖

──曲を作った人が最初に感じた「これはカッコいいぞ」という気持ちは、ほかのメンバーともスムーズに共有できるものなんですか?

ヒロト そこをなんとかするのがバンドですからね。作者が「よし!」と思って持ってきたものなら、みんなでカッコよくしようっていうのはあるんじゃないかな。

──クロマニヨンズにおいて、その方向性を決めるプロデューサー的な役割の人はいるんでしょうか?

左から甲本ヒロト(Vo)、真島昌利(G)。

ヒロト 基本的には僕とマーシーが曲を作っていて、自分の作った曲に関してはこんなふうにしたいんだ、あんなふうにしたいんだっていう意見を一番たくさん言います。だけどみんなも言いたいことがあったら言うし、あとは手癖ですね。結局はバンドのいいところっていうのは僕は手癖だと思うんです。

──手癖がいいところ?

ヒロト いや、別によくなくてもいいの、その人の手癖であれば、それがバンドらしさだから。その手癖が4人分集まって、そうするとほかのバンドには出せないサウンドができあがる。これを誰か1人のアレンジャーとかの頭で考えてしまうと、そこで答えが出ちゃうんですよ。この曲はこういうのを狙って作りましたってインタビューで全部答えられる曲になっちゃう。僕はバンドのよさっていうのは、曖昧でなんだかよくわからないけどカッコいいのができた、っていうことだと思う。だから手癖を大事にすればいいんじゃないかなと思います。

マーシー うん、バンドでみんながいろんなアイデア出してやっていくうちに、なんとなく方向性が決まっていくんですよ。ギターのフレーズも、ドラムのフィルも、考えたものを全部試してみて、そこから取捨選択して、カッコいいじゃんって思えたらそれでいいんです。

──そのやり方はメンバーをすごく信頼していないと無理ですよね。

ヒロト バンドですからね。信頼できないやつとはやんないです(笑)。

ニューアルバム「BIMBOROLL」2016年11月2日発売 / アリオラジャパン
「BIMBOROLL」
CD / 3146円 / BVCL-747
完全生産限定アナログ盤 / 3146円 / BVJL-23
収録曲
  1. ペテン師ロック
  2. マキシマム
  3. ピート
  4. おれ今日バイク
  5. デトマソパンテーラを見た
  6. ナイアガラ
  7. もれている
  8. 誰がために
  9. モーリー・モーリー
  10. 焼芋
  11. 光線銃
  12. 大体そう
ザ・クロマニヨンズ
ザ・クロマニヨンズ

1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)を中心に2006年夏より始動。甲本と真島に小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人で、2006年9月にデビューシングル「タリホー」を発表する。その後もリリースを重ねながら年間を通してコンスタントにツアーを開催。数々のフェスにも出演し、ロックファンを熱狂させ続けている。2016年11月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「BIMBOROLL」をリリース。その後2017年4月まで、約5カ月間56公演におよぶライブツアーを実施する。