音楽ナタリー PowerPush - THE BOOM
関係者証言で紐解くバンドの軌跡
編集した映像を観ながら泣いた
──そんなふうに密着したツアーから、いよいよファイナルへ。撮影や編集の段階で、どんなことを大事にされていましたか?
やっぱり、一番はメンバーの表情かな。演奏とかアクションももちろん大事なんですけど、どういう表情を撮るかに一番こだわりましたね。特に武道館はカメラの台数も全部で24台入れられたので、普段だとそんな置き方はしないんですけど、今回は「MIYAさんカメラ」「栃木(孝夫)さんカメラ」「YAMAさんカメラ」「(小林)孝至くんカメラ」と、演奏とはまた別の表情を撮るためだけのカメラを配置して。まるでアイドルのコンサートみたいですけど(笑)。あとは、どうしてもフロントマンであるMIYAさんが多くなりがちなんですけど、なるべく4人を均等に入れることを意識してはいましたね。MIYAさんが歌っているときに、たとえ演奏していなくても孝至くんを入れたり、YAMAさんのいい表情を入れたり。
──皆さん、ときどきすごく特徴的ないい顔をされますもんね。映像にはそういうポイントもしっかり盛り込まれていて。
ツアーのドキュメントのほうではそんなにカメラの台数を入れなかったから、ステージの奥にいる栃木さんだけは少し撮りづらくて、素材が少なかったりしたんです。だから、ファイナルのほうでは思う存分栃木さんの映像を入れましたね(笑)。
──撮っているときには気付かなかったけど編集中に気付いたというポイントや、編集中に改めて感じたことはありますか?
えーと……当日はWOWOWの生中継もあったので中継車の中でカメラを切り替えていたんですけど、僕、後半はもうウルウルきちゃって、実はあんまり仕事をしてないんですよ(笑)。僕自身も15年という長い付き合いなので、いろんな思い出がよみがえってきてしまって。だから、最後のほうは技術さんにある程度お任せして、普通にお客さんと同じようにボーッと観ていたんですけど、あとから最後の「愛のかたまり」を編集していて、「ああ、こんないい顔だったのか!」と(笑)。THE BOOMとしての最後に4人だけで歌うという、その……寂しさみたいなものとは違った、なんというか、とてもすがすがしい表情がね。その前のMCも含め、編集した映像をプレビューしながら、僕はずっと泣いていましたね。自分が作ったもので泣くことはそんなにないんですけど。
──ファンと同じ気持ちでファイナルを見届けたわけですね。当日の公演が終わったあとは、どんなお気持ちだったんですか?
とにかく「早く会いたい!」と思って(笑)。生中継の放送はまだ少し残り時間があって、お客さんが帰っていく光景を流していたんですけど、もう完全にお任せしてしまって楽屋に直行しました。それで、メンバーに「ありがとう! お疲れさま!」って言いながら、全員と握手やハグをして。別に何か特別なことをしようと思ったわけじゃないんです。なんだか、会いたかったな。うん。
──映像では、終演後に最後にみんなで声をかけ合いながら乾杯をしてる場面も収録されていましたね。すごくいい余韻だったと思います。
あのときはみんな本当にいい顔をしていたし、みんなが満足して終われたんだなと思いました。それぞれがまた新しい旅に出るわけだし、そうやって旅は続いていくんだろうということも予感させる時間でしたね。いつになるかはわからないけど、あわよくば、その旅に僕もまた連れて行ってほしいなとも思いつつ(笑)。
THE BOOMが残したものはとてつもなく大きい
──すべてに満足して終われる25年というのは、本当にすごいことですよね。
“バンドが終わる”シーンって、いくつか見てきましたけど、あんなに美しい、晴れ晴れとした終わりは見たことがないです。メンバーが解散という決断をして、それを周囲も静かに受け入れて、あれだけの本数のツアーを事故もなく無事に終えられて。すごくいい終わり方だなと。振り返ってみれば、最初の緊迫した雰囲気も、最後の満足感や充実感を味わうためのものだったのかなと思いますね。
──そして、その日々が終わった今、また新たな感慨はありますか?
武道館の最後とか映像の編集中はさすがに涙しましたけど、今は寂しさもそんなにないですね。バンドは解散したけれどTHE BOOMの音楽はこれからずっと残っていくし、自分自身の記憶にも残り続けるわけですから。
──自分の中に、THE BOOMが残したものがあるということなんでしょうか。
そうですね。THE BOOMとの出会いは、僕の仕事や生き方にとって、とてつもなく大きかったです。最後まで自分たちのやりたいことを貫き通しながら、それをみんなに伝えるということに、いつも真摯であり続けた。そんなカッコいいバンドと長い時間を一緒に過ごさせていただいて、本当に幸せでした。感謝しかないですね。
──カーツさんが撮ってきた / 撮ろうとしたTHE BOOMのライブって、どんなものだったんでしょう?
「バンドっていいなあ」と思わせてくれる場所というか……メンバーやスタッフ、ファンも含めて、1つの音楽の中でたくさんの人が出会って大きな1つの家族のようになれた、そういう空間だったんじゃないかなと思います。
──その記録が、このボックスセットに詰まっているわけですね。
この映像は、僕の大事な財産ですね。もちろん最後の記録だからということもありますけど、それ以上に、お付き合いさせてもらった15年を経て、自分がメンバーをどういうふうに見て、どういうふうに撮るようになったのか、その関係性や自分自身の変化を見出すことができるものになった。いわば自分自身の記録でもあるんです。同じように、ツアーのドキュメンタリーに出てくれているイベンターさんやファンの方々、スタッフの皆さん、そしてTHE BOOMを愛したすべての人にとって、それぞれが自らを重ねあわせられる記録になればいいなと思って作りました。皆さんがTHE BOOMとともに生きた時間を幸せだったと思えるようなものになっているといいなと思います。
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Contents Index
- Blu-ray / DVD「THE BOOM FINAL」2015年3月18日発売 / よしもとアール・アンド・シー
- 「THE BOOM FINAL」初回限定盤
- 初回限定盤 [Blu-ray Disc 3枚組] 10000円 / YRXN-80000 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤 [DVD4枚組] 9000円 / YRBN-80143 / Amazon.co.jp
- 「THE BOOM FINAL」通常盤
- 通常盤 [Blu-ray Disc 2枚組] 6000円 / YRXN-80003 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [DVD3枚組] 5500円 / YRBN-80147 / Amazon.co.jp
収録内容
- 島唄
- YOU'RE MY SUNSHINE
- Human Rush
- TOKYO LOVE
- berangkat-ブランカ-
- いつもと違う場所で
- そばにいたい
- 月さえも眠る場所
- モータープール
- 10月
- 光
- 釣りに行こう
- おりこうさん~ないないないの国~都市バス~過食症の君と拒食症の僕~逆立ちすれば答えがわかる~雨の日風の日
- 蒼い夕陽
- TROPICALISM
- 手紙
- I'm in love with you
- この街のどこかに
- 不思議なパワー
- 風になりたい
- 真夏の奇蹟
- 世界でいちばん美しい島
- シンカヌチャー(THE BOOM ver.)
- 星のラブレター
- 明日からはじまる
- 愛のかたまり
- ドキュメンタリー映像
- 渋谷公会堂ライブ(※初回限定盤のみ)
- 写真集「THE BOOM LIVE 2014」
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
THE BOOM(ブーム)
宮沢和史(Vo)、小林孝至(G)、山川浩正(B)、栃木孝夫(Dr)の4名で1986年に結成。原宿ホコ天でのストリートライブ活動を経て、1989年にアルバム「A Peacetime Boom」でメジャーデビュー。1993年に発表した「島唄」は国内のみならず世界各国でカバーされるなど幅広い支持を得た。バンドは結成以来不動のメンバーで活動を続けたが、2014年12月の日本武道館公演を最後に解散。このライブの模様は「THE BOOM FINAL」としてBlu-ray / DVDで2015年3月にリリース。
カーツ鈴木(カーツスズキ)
映像ディレクター。1999年に日本武道館で行われた10周年ライブからTHE BOOMの撮影を担当し、その後2002年の野外ツアーや15周年ライブ、2003年の宮沢和史ヨーロッパツアー、2008年の宮沢和史ブラジルツアーにも密着。メンバーからの信頼も厚く、多くの映像作品を通してバンドの魅力を伝えている。