音楽ナタリー PowerPush - THE BOOM
関係者証言で紐解くバンドの軌跡
言葉にできない“終わり”の寂しさ
──ツアーが進んでいくうち、バンドの雰囲気に変化はありましたか?
緊迫したムードは、初日の神戸だけだったんじゃないかな。次の大阪から中盤の神奈川あたりまでは、逆にみんなすごくリラックスしていて。メンバー同士の仲もいいし、雰囲気もすごくよくなっていったんですよね。「これ、本当に解散するバンドか?」と思ってしまうくらい、ライブもどんどんパワーアップしていくし。
──メンバーも含め、全員が楽しんでいたということですよね。
そうですね。心の中ではそれぞれ、絶対にいろんなことがあったと思うんですよ。寂しさや感傷のようなものもあっただろうし、1人になったり、ホテルに帰ってからいろいろ考えることもあったりしただろうけど、カメラが回っているときや楽屋では誰もそんなそぶりは見せていなくて。何度もツアーに密着させてもらっていますけど、「今までで一番仲がいいんじゃないかな」と思いながら撮ってました。さすがに終盤から最終日が近付くにつれて、少しずつ「ああ、もうすぐツアーも終わりだな」という気分が強くなっていったところはありますけど。
──そういう「もうすぐ終わりだ」というところの感慨に関しては具体的にはお話されましたか?
残すところあと何本かというあたりになって、そのあたりのことも聞こうと思ったんですよ。で、ライブの終演後に「どうでした?」という質問をすると普通に答えてはくれたんですけど、さらにその後に「あと数本ですけど……」と水を向けると、不思議とみんな「ああ、そうだね。カウントダウンだね」みたいな感じで、少し濁して答える。そういうそぶりから、逆に少しの寂しさと言うか、「このメンバーでやれるのもこれが最後だ」という思いを感じました。
──そこは聞く側としても、少し踏み込みにくいところだった感じですか。
うーん、そこはぼくの取材不足ですね(笑)。ただ、わかりやすい言葉というよりはメンバーの表情や、終演後の感極まったような様子に、十分表れていたとは思うんです。すべての会場が「ここでやるのはもう最後だ」という場所で、各地に25年の集大成を置いてくるつもりで演奏していたと思うし、“終わり”は絶対に意識していたはずなので。それがいよいよ近付いてきたのはわかっているけど、言葉にすると本当にそれを痛感してしまいそうな気がして……というのはあったんじゃないかな。
スタッフやイベンターの思い
──ツアーのドキュメントでは、メンバーのそうした心持ちを追っていく一方で、技術スタッフや各地のイベンターなど裏方の皆さんへのインタビューも数多く入っていますね。
最初に密着の話が来たときに、ファンやメンバーはもちろん“みんなが喜んでくれるもの”を作りたいなと思ったんです。25年という歴史の中で、スタッフやイベンターさんもすごく昔から付き合いのある人が多いですから、みんなのTHE BOOMに対する思いをなるべく盛り込みたくて。目についた人にはなるべく声をかけるようにしてました。
──皆さん、THE BOOMに対してすごく思い入れがある様子で。
そうですね。メンバーと同世代の人も多くて、そういう人たちはデビューから一緒に歳を取ってきたこともあり、なんというか、ひさしぶりに会った旧友のようなムードがあるんです。ついて回っているだけの僕なんかのこともちゃんと覚えていてくださっていて。本当に愛されているバンドなんだなと、改めて思いました。
──各地のイベンターから、それぞれに趣向を凝らした出迎えがありましたよね。大阪では今までTHE BOOMがやった公演分のカップケーキ(会場写真の旗が立っていた)、名古屋では記念プレートをそれぞれもらったり、沖縄では一番初め(1990年)にライブをやったときのサインが飾られていたり。
そのサインも、THE BOOMが初めて沖縄でコンサートをやったときに書いたもので、その会場が改装される際に、担当のイベンターさんが譲り受けて大切に持っていたものだったんです。本番当日、最初は楽屋に飾ってくれていたんですが、MIYAさんが「これ、ロビーに飾ってお客さんに観てもらおうよ」と言いだして、急遽ロビーに展示されて。ファンの方々も喜んでいましたね。その沖縄のイベンターさんや、広島のイベンターさんもそうだったと思うんですけど、少し下の世代で「初めて担当したアーティストがTHE BOOMで、THE BOOMからいろんなことを学んできた」という人もたくさんいて。バンドと同世代の方々も含め、各地のイベンターさんからの「ありがとう」という気持ちを感じたツアーでもありました。
泣き笑いの感情が入り交じるツアー後半戦
──そんなふうに進んでいったツアーの中で、特に印象に残っている会場はありますか?
すごく個人的なことなんですけど……神奈川ですかね。「朱鷺」という歌を歌う前のMCで、MIYAさんが突然「カーツ鈴木という、ぼくの大好きな人間がいて……」と話し始めて。ステージ前で映像を撮っていたんですが、「えっ?」と呆気にとられた覚えがあります(笑)。僕は新潟出身で、一緒に佐渡の朱鷺センターに行ってあの曲が生まれる過程をつぶさに見てきたので、本当に感無量でした。あと、ドキュメンタリーに収録しているところだと、香川のライブも印象的で。会場に着いてみたら、開演前に有志の方が呼びかけて、お客さん全員でメンバーへのサプライズを用意していたんです。その様子を撮りながら「いつやるんだろう?」と思っていたら、アンコールのタイミングでバッチリ披露されて。あれはすごかったなあ。どの会場もそれぞれ印象に残っているんですけど、強いて選ぶとしたらその2カ所ですね。
──香川のお客さんの話が出ましたけど、THE BOOMはファンとの絆が本当に強いバンドですよね。
そうですね。今回はツアーの会場に来たお客さんたちにもインタビューをさせてもらったんですが、皆さん本当にTHE BOOMを愛していますよね。ライブが終わって余韻に浸っていたいはずのときに直撃した邪魔なカメラマンにも丁寧に答えてくれて(笑)。THE BOOMのファンは、本当にあったかくていいファンばかりですよ。
──それは、バンドが常にファンと真摯に向かい合ってきた証拠でもあると思うんです。
そうですね。今回のツアー中のMCでも、それを強く感じました。MIYAさんは本来ちょっとギャグを入れ、笑いも交えて盛り上げるのがすごく上手い人なんですけど、今回のツアーはすごくストレートに、いつもより長く丁寧にファンへの感謝を述べていたのが印象的でしたね。これまでのツアー以上に「ありがとう」という言葉を数多く言っていたんじゃないかな。ファンのみんなも、「ありがとう!」とそれに応えていて。
──ツアーが進むに連れてバンドのムードは少しずつ変わっていったと先ほどおっしゃっていましたが、客席の様子は会場によって違ったりしましたか?
会場によってというよりは、後半戦になればなるほど、メンバーよりお客さんのほうが「もうすぐ終わりだ」ということを意識していたような気はしますね。最初の神戸や大阪のほうが、解散発表から時間が経っていたこともあって、ある程度お客さんもフラットに楽しんでいたかもしれない。だけど、特に……名古屋あたりからかな? ライブ自体の楽しさと、大好きなバンドが終わっていく寂しさがないまぜになったような雰囲気が強くなっていって。「もっと聴いていたい!」「まだ終わらないでほしい!」という。基本的には皆さん笑顔で、それが一番印象に残ってはいるんですけど、ラストの2~3本は泣き笑いと言うか、客席にいろいろな感情が入り交じっているのを見て、ちょっと今までに経験したことのないような気持ちになりましたね。
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Contents Index
- Blu-ray / DVD「THE BOOM FINAL」2015年3月18日発売 / よしもとアール・アンド・シー
- 「THE BOOM FINAL」初回限定盤
- 初回限定盤 [Blu-ray Disc 3枚組] 10000円 / YRXN-80000 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤 [DVD4枚組] 9000円 / YRBN-80143 / Amazon.co.jp
- 「THE BOOM FINAL」通常盤
- 通常盤 [Blu-ray Disc 2枚組] 6000円 / YRXN-80003 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [DVD3枚組] 5500円 / YRBN-80147 / Amazon.co.jp
収録内容
- 島唄
- YOU'RE MY SUNSHINE
- Human Rush
- TOKYO LOVE
- berangkat-ブランカ-
- いつもと違う場所で
- そばにいたい
- 月さえも眠る場所
- モータープール
- 10月
- 光
- 釣りに行こう
- おりこうさん~ないないないの国~都市バス~過食症の君と拒食症の僕~逆立ちすれば答えがわかる~雨の日風の日
- 蒼い夕陽
- TROPICALISM
- 手紙
- I'm in love with you
- この街のどこかに
- 不思議なパワー
- 風になりたい
- 真夏の奇蹟
- 世界でいちばん美しい島
- シンカヌチャー(THE BOOM ver.)
- 星のラブレター
- 明日からはじまる
- 愛のかたまり
- ドキュメンタリー映像
- 渋谷公会堂ライブ(※初回限定盤のみ)
- 写真集「THE BOOM LIVE 2014」
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
THE BOOM(ブーム)
宮沢和史(Vo)、小林孝至(G)、山川浩正(B)、栃木孝夫(Dr)の4名で1986年に結成。原宿ホコ天でのストリートライブ活動を経て、1989年にアルバム「A Peacetime Boom」でメジャーデビュー。1993年に発表した「島唄」は国内のみならず世界各国でカバーされるなど幅広い支持を得た。バンドは結成以来不動のメンバーで活動を続けたが、2014年12月の日本武道館公演を最後に解散。このライブの模様は「THE BOOM FINAL」としてBlu-ray / DVDで2015年3月にリリース。
カーツ鈴木(カーツスズキ)
映像ディレクター。1999年に日本武道館で行われた10周年ライブからTHE BOOMの撮影を担当し、その後2002年の野外ツアーや15周年ライブ、2003年の宮沢和史ヨーロッパツアー、2008年の宮沢和史ブラジルツアーにも密着。メンバーからの信頼も厚く、多くの映像作品を通してバンドの魅力を伝えている。