音楽ナタリー PowerPush - THE BOOM
関係者証言で紐解くバンドの軌跡
THE BOOMのデビュー10周年を記念した日本武道館でのライブ「いつものボクたちが、いる。」からバンドに密着し、数々のライブツアーをともに回りながら、バンドの姿を映像に残してきたディレクター・カーツ鈴木。今回のボックスセットに納められたラストツアーのドキュメンタリー映像には、普段ではなかなか見せることのないメンバーの心情が垣間みられる場面もあり、彼がいかにメンバーに信頼され、またいかにTHE BOOMを深く愛していたかが伝わってくる。そんな“誰よりも近い場所”からバンドを観てきた彼に、現在の感慨を聞いた。
1000分弱の映像編集
──怒涛の映像編集、お疲れさまでした。
いやあ、ほんとに怒涛でしたね(笑)。ボックスセットにファンクラブ限定のプレミアムボックス用、イベント用の素材も含めると1000分弱くらいは作ったんじゃないかなあ。
──当然、収録されなかった映像を考えるとそれ以上に。
そうですね。ライブは尺こそほぼフルですけど、映像素材として使用したのは全体の一部。ツアー中のバックステージや楽屋などのオフショットを考えると、9割がたは未使用のままかもしれないです。
──そんなにですか!?
ツアー中は、一度の行程で5~6時間は必ずビデオを回してましたからね。2カメ、3カメを持ち込んだところもあるし、ファイナルの武道館は24台のカメラで撮ったので。
──お疲れさまでした……。解散を聞いたときはどんなお気持ちでしたか?
最初はただただ驚いて。僕たちがどうこういうことではないんですけど、THE BOOMはメンバーの命が続く限りずっと続くものだという気持ちがどこかにありましたからね。
撮影序盤は遠慮がちにスタート
──そこからリハーサルが始まり、密着を始めていったわけですよね。現場に入る心持ちとしてはどんなものだったんでしょうか。
ツアー密着のオファーを受けたときは、正直「どういうふうに密着したものか」と思っていたんです。これが最後のツアーだし、どういうテンションや距離感で入ればいいか……と考えつつリハーサルの初日に参加したんですが、バンドのムードもいつもより緊迫していて。MIYA(宮沢和史)さんは休養が明けてすぐだったし、YAMA(山川浩正)さんも1型糖尿病を患って、しかもツアー直前には良性発作性頭位めまい症で倒れてしまって……という中でのスタートでしたから、スタッフを含め、最初はみんなの中で「このツアー、どうなるんだろう?」という気持ちがどこかにあったんだと思います。なので、僕も最初はあまりガツガツ撮りには行けないというか、少し遠慮がちに入ったところはありました。そこから現地に入ってゲネプロが始まったりするとみんなのテンションも上がってきて、少しずつバンドのムードもいつも通りになっていきましたけど、それでも初日の神戸もお客さんの前に立って1本やりきるまではメンバーも不安だったのか、楽屋にはまだ緊張感がありましたね。
──その神戸の初日直前、体調を心配するスタッフやメンバーに「ここでステージに立たなければ、一生悔いが残る」と涙ながらに訴える山川さんの姿や、そんな山川さんを心配しつつも「ライブもひさしぶりだし、自分はやり切ることができるのだろうか」と不安を吐露する宮沢さんの姿が映像に残っていますね。
そうですね。MIYAさんも休養以来、ステージに立つのはひさびさで、フルライブは約1年ぶりくらいだったと思うんですけど。
──ああいう、なかなか人には見せない場面が収められているのも、長年密着してきたカーツさんならではだなと思うんですが。
そこは、本当にありがたいですね。たぶん、出会ってすぐに野外ツアー(2001年の「青空の下、星空のもとで」)に同行したことが大きいと思います。ロックバンドがまず行かないような町にも積極的に出向いていろんな町を回ったんですけど、「こんなところでライブやれるの!?」というタフな経験の連続で。あれを一緒に回ってなければ、今もこんなに仲良くなってはいない気がしますね。
──カーツさんのインタビュー映像は、対象者との精神的な距離が近い気がしますね。あまり“収録”してる感じがしないというか。
僕の取材は、そんなに堅苦しいインタビューっぽい聞き方をしないで、カメラを持って「調子どうですかー?」みたいな会話ベースでやっていくことが多いんですが、MIYAさんはじめメンバーの皆さんがいろいろと語ってくださるおかげですね。トイレ以外は、ほとんどどこにでもついて行ってたんじゃないかな(笑)。ときには「ちょっとうっとうしいな」と思われたこともあったかもしれないけど(笑)、皆さんそれを受け入れてくれて。ラストツアーということもあり、さっき言ったように最初こそ入り方に戸惑いましたけど、そういう“THE BOOMの空気”みたいなものはやっぱり変わらずあったので、そこを撮っていった感じです。
──THE BOOMのチーム感というか、「みんなで作るツアーなんだ」という雰囲気はすごく出てましたね。メンバー全員で山川さんをケアしながら、励ましたりリラックスさせつつ進んでいく様子も随所に写っていて。
そうですね。特に一郎さん(上野一郎。宮沢、小林、山川の同郷の同級生。真心ブラザーズなどでサポートベーシストを務める。今回山川のサポート役としてツアーに参加した)の存在はすごく大きくて。YAMAさんの体調によって、出番はないかもしれないということを承知の上でフレーズを完全に覚えて、いつ何が起きてもいいようにスタンバイしてくれていました。横浜のライブ後、YAMAさんと食事をしながらそのあたりの話を聞いたんですけど、やっぱりその安心感が、YAMAさんにとってよかったんでしょうね。一郎さん以外も本当にいいメンバーだったし、スタッフも含めて最後まですごくいいチームだったなあと思います。
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Contents Index
- Blu-ray / DVD「THE BOOM FINAL」2015年3月18日発売 / よしもとアール・アンド・シー
- 「THE BOOM FINAL」初回限定盤
- 初回限定盤 [Blu-ray Disc 3枚組] 10000円 / YRXN-80000 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤 [DVD4枚組] 9000円 / YRBN-80143 / Amazon.co.jp
- 「THE BOOM FINAL」通常盤
- 通常盤 [Blu-ray Disc 2枚組] 6000円 / YRXN-80003 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [DVD3枚組] 5500円 / YRBN-80147 / Amazon.co.jp
収録内容
- 島唄
- YOU'RE MY SUNSHINE
- Human Rush
- TOKYO LOVE
- berangkat-ブランカ-
- いつもと違う場所で
- そばにいたい
- 月さえも眠る場所
- モータープール
- 10月
- 光
- 釣りに行こう
- おりこうさん~ないないないの国~都市バス~過食症の君と拒食症の僕~逆立ちすれば答えがわかる~雨の日風の日
- 蒼い夕陽
- TROPICALISM
- 手紙
- I'm in love with you
- この街のどこかに
- 不思議なパワー
- 風になりたい
- 真夏の奇蹟
- 世界でいちばん美しい島
- シンカヌチャー(THE BOOM ver.)
- 星のラブレター
- 明日からはじまる
- 愛のかたまり
- ドキュメンタリー映像
- 渋谷公会堂ライブ(※初回限定盤のみ)
- 写真集「THE BOOM LIVE 2014」
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
THE BOOM(ブーム)
宮沢和史(Vo)、小林孝至(G)、山川浩正(B)、栃木孝夫(Dr)の4名で1986年に結成。原宿ホコ天でのストリートライブ活動を経て、1989年にアルバム「A Peacetime Boom」でメジャーデビュー。1993年に発表した「島唄」は国内のみならず世界各国でカバーされるなど幅広い支持を得た。バンドは結成以来不動のメンバーで活動を続けたが、2014年12月の日本武道館公演を最後に解散。このライブの模様は「THE BOOM FINAL」としてBlu-ray / DVDで2015年3月にリリース。
カーツ鈴木(カーツスズキ)
映像ディレクター。1999年に日本武道館で行われた10周年ライブからTHE BOOMの撮影を担当し、その後2002年の野外ツアーや15周年ライブ、2003年の宮沢和史ヨーロッパツアー、2008年の宮沢和史ブラジルツアーにも密着。メンバーからの信頼も厚く、多くの映像作品を通してバンドの魅力を伝えている。