ナタリー PowerPush - The BK Sound
豪華アーティスト多数参加! 湘南乃風セレクター初のソロアルバム
湘南乃風のバックセレクターとしてその活動を支えるThe BK Soundが、ソロ名義で初となるアルバム「One」をリリース。徹頭徹尾アッパーなジャパニーズダンスホールレゲエをイメージして聴いたなら、きっと期待を裏切られることだろう。本作にはダンスホールをベースにオーセンティックな生バンドサウンドや、ヒップホップフレイバー漂うジャジービーツ、ハウス風の四つ打ちデジタルチューンなどさまざまなジャンルのエッセンスが散りばめられているのだ。果たしてThe BK Soundとはいったいどんなアーティストなのか? その音楽世界に迫る。
取材・文/小宮川りょう
「One」は自分の音楽活動を集約した名刺代わりの1枚
──まず湘南乃風のセレクターとして活動されてきたBKさんが、ソロアルバムをリリースするに至ったいきさつを教えてください。
もともとは高校生の頃からずっとヒップホップのDJをやっていたんですが、あるイベントに出演したとき、共演したINFINITY16のプレイを見て衝撃を受けたんです。レコードの回し手がマイクを握って、1曲1曲、曲の意味を伝えながら、お客さんを煽って現場をひとつにしていくというそのスタイルにヤラれて、そこから自分でもレゲエをかけるようになりました。湘南乃風のメンバーはみんな自分の先輩で、マネージャーをやりつつ勉強させてもらっていたんですが、一方でBKとして何か形に残したいなという思いもずっとあったんです。昔から30歳までに何か成し遂げたいと考えていたし、ちょうど今年30歳になること、昨年マネージャーを卒業したことなど、いろいろとタイミングも合ったので今回ソロでアルバムを出すことができました。
──グループでの活動とソロとでは、どういう部分が違いました?
湘南乃風では主にライブ時のセレクターやミックス(ミックスCD「湘南爆音BREAKS!」 などを手掛ける)を担当していますけど、あくまでサポートメンバーなんで。ソロだとすべて自分の判断で進められて、自分のやりたいことをダイレクトに形にできるという点が違いますし、手応えを感じています。レコードの回し手として高校生の頃から10数年活動してきたわけですが、今回のアルバム「One」はこれまでの自分の音楽活動を集約して、自分のルーツや、この先も自分がやりたいと思っていたビジョンをひとつにまとめたもの。そういう意味で「One」というタイトルを付けました。
──なるほど。アルバムを聴く前はアッパーなダンスホール一辺倒の作品なんじゃないかと勝手にイメージしていたんですけど、ダンスホールレゲエをベースに、ゆったりとした生音のルーツレゲエやヒップホップなどさまざまなジャンルのサウンドを取り入れていて、いい意味で期待を裏切られました。特にASSASSINとMINMIをフィーチャーした四つ打ちハウス風のデジタルチューン「I wanna party」には意表を突かれました。
ダンスホールレゲエは基本三つ打ちのイメージがありますが、今ジャマイカではエレクトロダンスホールが流行っていて、スティーヴン・マクレガーなど人気プロデューサーが打ち込みの要素を取り入れたカッコいいダンスホールチューンを量産しているんです。ここ数年、自分もレゲエ以外のオールジャンルのイベントで回す機会があったんですけど、そこで得た音楽的な経験をレゲエに落とし込めたらいいなと思ってエレクトロダンスホールチューンを作りました。
──ポップスやロックのリスナーも聴けるレゲエですよね。
ジャンルにとらわれたくないし、自分というフィルターを通して、さまざまな音楽を感じてほしいと思ってるんですよね。アルバム1枚を通して聴いてほしくて曲順にも気を使ったから、それもあって聴きやすくなってるのかなと思います。1枚を通して「これがThe BK Soundです」という名刺代わりの作品ですね。
──制作する上でどんな部分にこだわりました?
爆音で聴いて気持ちいいかどうかですね。実は自分がクラブで回すイベントでプリプロ段階の完成前の音源を実際にかけていたんですよ。そのときのお客さんの反応を見つつ「やっぱこっちにしよう」って感じで、ドラムパターンを差し替えたりとか、ギリギリまで試行錯誤してました。やはりダンスミュージックを作りたいという気持ちが根底にありますから。
カバー曲は過去の偉大なアーティストへのリスペクト
──アルバムにはしっとりとしたボーカル曲もありますよね。生音のバンドサウンドで聴かせるTHE TIMERSの「デイ・ドリーム・ビリーバー」、坂本九の「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」のレゲエカバーはアルバムのハイライトにもなっていますが。
レゲエのファンデーションと呼ばれるロックステディやスカの名曲はほとんどカバーなんです。昔の名曲を自分たち流にアレンジして、ダンスホールで踊っちゃうっていうのはすごくカッコいいと思っていて、そういうのを自分でも表現したいなと。2曲とも日本の名曲で、歌い手は亡くなってしまっているけど、そのメッセージや遺志は後世に歌い継がれるべきだと思うんです。「DAYDREAM BELIEVER」を歌ってくれたMONGOL800のキヨサクは同い年でもともと飲み友達なんですけど、沖縄育ちってこともあってか、歌声がすごくハマって。レコーディングは一緒にジャマイカに行って、ボブ・マーリーのタフゴングというスタジオでやりました。現地に着いたときのキヨサクの感想が「治安の悪い沖縄みたいだな」っていう(笑)。ジャマイカは同じ島国だし、人が温かくてゆるい感じが似ていたみたいです。キヨサクはロックスターだけど、自分は日本のロックの名曲を日本のロックスターがレゲエでカバーするということに意味があると思っていて、その際にちゃんとレゲエのやりかたでカバーしないとっていう気持ちがあったので、ジャマイカに行ってバンドの演奏に乗せて歌ってもらいました。
──キヨサクさん自身はロック畑の人だけど、レゲエの歌い手かと思うくらいハマってましたね。
もともと楽しいことを貪欲にやりたがるタイプなので、一緒にいて勉強になったし、楽しかったですね。PVやブックレットで使っている写真も自分たちで撮ってきました。オトナの修学旅行って感じでめちゃくちゃ楽しかったです(笑)。たまたまレコーディングをした日がボブの誕生日でテレビでドキュメントが放送されてたり、ラジオからは1日中ボブの曲が流れてたり、国中がボブ・マーリー一色だったんですね。このカバー自体、過去の偉大なアーティストへのリスペクトという意味があったんで、運命のようなものを感じました。
──今作ではキヨサクさん以外にも多くのフィーチャリングアーティストを迎えていますね。国内勢はHAN-KUN、MINMIなど湘南乃風ファミリーを筆頭に、細美武士、Metis、サイプレス上野、EELMAN。ジャマイカ勢ではASSASSIN、T.O.K.、TERRY LINENなど多彩なメンツに驚きました。
ジャマイカ人のアーティストは全員自分が好きな人たちで、T.O.K.は以前一緒にDUBプレートをレコーディングしたつながりもあります。日本人アーティストに関しては先輩だったり、友人だったり、気心が知れていて自分とリンクしたアーティストにお願いしました。曲を作る前にゲストの人選をして、その人に対する自分のイメージをトラックに落とし込んでいく感じですね。最初から決め打ちで「この曲お願いします」と投げてみたんですけど、自分とリンクしてる人たちなんで、ばっちりイメージどおりのものを返してもらいました。
CD収録曲
- INTRO feat. SONPUB
- OH OH OH feat. T.O.K.
- BAD NUMBER feat. 湘南乃風
- アラビアン★ダンス feat. HAN-KUN
- I wanna party feat. MINMI & ASSASSIN
- DAYDREAM BELIEVER feat. キヨサク (MONGOL800, The NO PROBLEM's)
- BLESSING feat. 細美武士
- Only your love feat. TURBULENCE
- LIFE feat. 導楽 & LIFE-G
- Mush up machine feat. GOKIGEN SOUND
- 1/1トラベラー feat. サイプレス上野
- ガイア feat. Metis
- ANGEL feat. EELMAN
- SUKIYAKI feat. TERRY LINEN
The BK Sound(ざ・びーけーさうんど)
1980年千葉県出身。湘南乃風のバックセレクターとしても活躍するサウンドプロデューサー。DJとして国内外の多数のイベントに参加。2010年9月、初のソロアルバム「One」をフォーライフミュージックエンタテイメントからリリース。