the band apart「Ninja of Four」特集|レコ発ツアーに発売が間に合わなかったニューアルバムの完成記念インタビュー (3/3)

あざす!

──「bruises」はノスタルジックな雰囲気の曲です。歌詞がひらがな表記になっているから、子供目線のようにも感じられました。

木暮 ジャケットを作ってるときに川崎から歌詞が送られてきて、ひらがなだったんですよ。「これ、ひらがなでいいの?」って確認したら、歌入れ用にひらがなにしただけで、こだわりゼロでした(笑)。

荒井 でも雰囲気があっていいよね。

木暮 川崎の好きな感じでね。2000年代のエモっぽくもあり、フィッシュマンズみたいな曲を作ろうとしてこうなったと言ってました。そこがすごく面白かったですね、フィッシュマンズ感あんまりないから(笑)。あと荒井の声で歌うことを前提に言葉を選んだとも言ってました。

荒井 言葉の数が少なめだから1文字の威力がデカいですよね。歌詞を覚えきれてなくて、ライブのときに歌詞を見るんですけど、自分で作ったやつはめちゃくちゃ文字量が多くて、ちょっと文字小さくなっちゃうんだけど、川崎の歌詞はすっきりしてるから、これくらいの量で書けるといいですね。1フレーズごとの意味が大切になってくるし。

──「bruises」は痣(あざ)の複数形ですね。

木暮 元ネタがあるんですけど、言っていいのかな(笑)。ムーディな曲だし深読みを誘うタイトルだけど、元ネタはくだらないという……。彼の中で曲の歌詞に実在する主人公がいるらしくて。そいつに起きた出来事を彼なりに歌詞にしてるんですけど、そいつは口癖があって、「ありがとうございます」を「あざす」って言う。それで「あざ=bruise」を複数形にして、「あざす」という。

荒井 凝ってますよね。僕が付けるタイトルだと「オーバー・ザ・トップ」みたいに丸パクりしてますからね(笑)。

木暮 ツアー初日の新代田FEVERで仮タイトルを言ったとき、「オーバー・ザ・トップ」は笑いが起きてたもんね(笑)。

荒井 笑いが起きる曲タイトルが多めで。

the band apart

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「夕闇通り探検隊」とは関係ないですから

──次の曲「夕闇通り探検隊」は、「オーバー・ザ・トップ」と同様、タイトルコールで笑いが起きていました。

荒井 ゲームにあるんですよ、プレイステーションのゲーム。

──1999年に発売されたゲームのタイトルのまんまですよね。プレミアが付くほどの人気ホラーゲームです。

荒井 有名なんですよね。それを僕、もともとは知らなかったんですよ。歌詞を書いているときに栄一に言われて、精査しているときに「夕闇通り」っていう言葉が出たんですよ。で、夕闇通りを調べたら、その「夕闇通り探検隊」が出てきたんですよ(笑)。その話をしてたら、「それ、いいじゃん。入れちゃえ」と(笑)。ゲームとはまったく関係ない内容なんですけど、話の流れとしてはきれいだから。実在する名前のゲーム名を入れていいか、ちょっと躊躇したんですけど、いざ歌を録る段階で頭にずっと残ってた言葉だったのでタイトルに。誰に言っても、「あの夕闇通り探検隊でしょ!」なんて言われるから、これでカッコつけたタイトルにして、陰で「夕闇通り探検隊」って言われるくらいならもうそれにしたいなって(笑)。

──最初はあくまでも仮タイトルでしたもんね。

荒井 仮のつもりだったんですけど、仮ながらツアーで「夕闇通り探検隊」ってタイトルを言っちゃってるし、コアファンにそう呼ばれるくらいなら、そのままタイトルにしてやろうという、誰も得しない意地を張っただけなんですけどね(笑)。ゲームが先にあったとは言え、「夕闇通り」っていう言葉は図らずも自分の中から出たし。ただ、改めて言っておきますけど、曲は全然ゲームとは関係がないです(笑)。

木暮 字面だけ聞くとノスタルジックな感じがして、すごくいいじゃんって思いました。ヒップホップでいうサンプリング的なところをゲームタイトルからしたという。20年以上のゲームだから、ノスタルジックという意味では、つながってもくるから不思議ですね。

──この曲もライブで反応がよかったですよね。

木暮 曲自体がわかりやすくて、キャッチーな感じが俺の中ではあるんです。お客さんを見ても、体を動かしてる人が多い感じ。今っぽいテンポ感でもあるからかな。

荒井 そういう曲を作ろうと思わなかったし、あんまり最近の音楽のことは詳しくないけどね。トップ50をチェックするタイプの人間ではない。

寄り添わずとも時代にマッチするバンアパの音楽

──荒井さんはトレンドをあまり意識していないそうですが、木暮さんは?

木暮 自分の場合はなんとなく今はこういう感じだなっていう雰囲気はつかんでるくらい。

──なるほど。バンアパはもともとパンクバンドですが、風化しない音楽を生み出している感じがします。移り変わりの多い音楽シーンの中でロックよりも流行っているR&Bやネオソウル系の音楽が好きな層にも刺さる曲がしっかりあるし。

荒井 今作では珍しくコーラスを入れていて、「夕闇通り探検隊」ではギターフレーズとして考えてたけど、3声コーラスにしたところがあって。家で作業してて、今日はもう終わりにしようと思いつつ、酒をひと口飲んで、「あっ!」と思い付いたフレーズがそれだったんです(笑)。すごく気に入って、使えるなと思ったけど、ギターより人の声にしたほうがわかりやすくていいなと。ギターで弾くと手癖だからめちゃくちゃ弾きやすいけど、コーラスとすると珍しい感じになりました。

木暮 うちのバンドのフォーマットはギターが軸にあるから、ギターを使うのが前提条件ではある。でもその形で20年やってきたから変化してるんですよね。特に川崎は自分の音色に対して年々柔軟になってきてるから、ギターだけどギターじゃないような音色を取り入れてるんです。

荒井 ギターソロほど逆に自由でもないけど、結果的にギターソロっぽい役割を果たしているみたいなね。

木暮 例えばアメリカだったらギターの音が鳴ったら飛ばしちゃう10代がいるなんて話題になってたけど、そもそもフォーマットがギター、ギター、ベース、ドラムの4楽器だからそこを回避しすぎてもなあって。例えばドラムの音をものすごく打ち込みっぽく作りすぎちゃうと、「なんでバンドやってるの?」ってことになっちゃうから、生ドラムっぽさがあったほうがいい。このアルバムで俺の作った曲で言えば、極端に川崎のギターを面白い音色にしてある。でも川崎が作る曲は「ギターバンドならこういう曲でしょう」っていう、いい曲だから。

荒井 ギターソロは排除してないし、むしろ入ってるくらいのほうがいいしね(笑)。

木暮 弾いてくれって思うもん(笑)。

どうであれ「また会おう」

──アルバムを締めくくる曲「レクエイム」は、「夕景の窓」といった歌詞からも、前の曲「夕闇通り探検隊」とつながりがありますね。どちらもエンディング曲っぽい感じがしました。

木暮 そうですね。歌詞の並びは考えて。すごいベタに並べれば「夕闇通り探検隊」で終わったほうがアルバムの終わりっぽいと思うんです。そこでもう1曲あるのが、俺の曲の並べ方のクセなのかわからないけど、「K.AND HIS BIKE」(2003年発表の1stアルバム)の10曲目「K.and his bike」のあと、最後に入っている「in my room」とかもそうだし。

──二段構えでエンディングに向かう感じはバンアパのアルバムらしさの1つですね。

木暮 映画だとエンドロールのあとにもちょっとだけシーンがあるみたいな。ああいうイメージですね。

──やっぱりノスタルジー感は強いですよね。夕方にやってるテレビの再放送までに家に帰る感じとかが昭和というか平成というか。

荒井 昭和から平成初期まで青春時代を過ごした人のノスタルジーが。

木暮 再放送もそうだし、ポテトチップ食いながらゲームをやってると、コントローラーが油まみれになるとか(笑)。そういうノスタルジーな描写が入っていますね。

──昔住んでいた実家の景色が浮かびましたよ。

木暮 そういうのが伝わる人に伝わってくれるとうれしいですね。最近だと歳を重ねてきて、死んじゃう友達とかも出てきて、昔より死ぬことに対する実感が伴ってきてるから、先に逝っちゃった人たちはもういないけど、いなくなった今、その人とどう向き合えばいいかなって思うんですよ。死んだあとのことはわからないですけど、いずれまた会うと思ってたほうが、夢がありますよね。死んだらまた会える。そういう意味での「また会おう」が、この「レクイエム」には込められています。

──この特集はアルバムリリース後、アルバムのリリースツアーも終わったあとに公開されます。今後の予定は?

木暮 無事にアルバムが出せるので、本当のレコ発ツアーを年内にやりたいなって考えてます。

荒井 7月で終わるツアーほど長くできないんですけど、収録曲を全部やるツアーが組めたらなと。ライブのリハが終わったあとにそういう話になって。そしたら年末なら使えるかもという会場もあったので活用していきたいです。あと10月9日に大阪・服部緑地野外音楽堂で毎年やってる「SMOOTH LIKE GREENSPIA」をやるので、ぜひ来ていただきたいですね。今年で6回目なんですけど、コロナ禍でも飛ばさずにできてるので、今回もよかったら遊びに来てほしいです。

荒井岳史(Vo, G)、木暮栄一(Dr)。

荒井岳史(Vo, G)、木暮栄一(Dr)。

プロフィール

the band apart(バンドアパート)

1998年に荒井岳史(Vo, G)、川崎亘一(G)、木暮栄一(Dr)の3人で結成。後に原昌和(B)が加入して以降は、ソウルやボサノバなどの洗練されたコード感を交えたロックサウンドへ変化を遂げ、2001年10月のデビューEP「FOOL PROOF」がいきなりの好セールスを記録した。2003年に自主レーベル・asian gothic設立。翌2004年に移籍第1弾シングル「RECOGINIZE ep」をリリースし、以降もコンスタントに作品を発表。他に類を見ない独自性の高いサウンドは、多くのバンドに大きな影響を与えている。2018年9月に結成20周年を記念したベストアルバム「20 years」とトリビュートアルバム「tribute to the band apart」を発表。2022年7月に通算9枚目のアルバム「Ninja of Four」をリリースした。