ナタリー PowerPush - the band apart
荒井岳史&木暮栄一インタビュー、聞き手は盟友・渡邊忍
the band apartが1月21日に7枚目のフルアルバム「謎のオープンワールド」をリリースした。チップチューンを取り入れたトラックや、メンバーそれぞれのセンスが散りばめられた聴き応えのある1枚に仕上がっている。
今回ナタリーではthe band apartと親交の深いASPARAGUSの渡邊忍(Vo, G)にインタビュアーとして登場してもらい、居酒屋での取材をセッティング。打ち上げのようなリラックスした雰囲気の中、鋭い楽曲分析を展開する渡邊を相手に荒井岳史と木暮栄一は何を語るのか。「謎のオープンワールド」のサブテキストとして3人のトークを楽しんでほしい。
取材 / 渡邊忍(ASPARAGUS) 構成・文 / 田中和宏 撮影 / 佐藤類
タイトルの元ネタは「帝国アトランチスの謎」
渡邊忍 まずは乾杯から始めますか。
荒井岳史(Vo, G)・木暮栄一(Dr) はははは(笑)。
一同 カンパーイ!
渡邊 「謎のオープンワールド」聴かせてもらいました。途中にゲーム音楽っぽいチップチューンのトラックが入ってるね。
木暮 曲のバリエーションがいっぱいあるのはいつものことなんですけど、みんなで書いているので歌詞の視点がそれぞれ違うから、普通に曲を並べるだけだと統一感がねえなと思って。あと配信が多い時代にCDってフォーマットでアルバムを出す意味がもうちょっとあったほうがいいなとも思っていて、ゲームみたいな世界観を設定したらしっくりきたんです。それでチップチューンのトラックを間に入れてます。
渡邊 なるほどね。音源から“4人のハイブリッド感”みたいなものをすごい感じたのよね。誰かが主になって楽曲を作るけど、それをみんなで揉み合ってるなって。
荒井 その通りですね。「なるべくみんなであわせながら作っていこう」っていうのがありました。
渡邊 ちなみにアルバムのタイトルって誰が付けたの?
荒井 もともとは栄一の案で「ゲームっぽい世界観のタイトルにしよう」っていうのがあったんです。それで川崎(亘一 / G)がふと「よみがえる帝国アトランチスの謎」ってゲームソフトのタイトルを言い出したんで、それをもとにみんなで考えた結果「謎のオープンワールド」になりました。
渡邊 聞いておいてなんだけど、いつもタイトルにすごい力を入れてるって感じではないよね。
木暮 特に入れてないですね。
渡邊 なのに前の「街の14景」(2013年4月発売の6thアルバム)とかも、ファンが「どういう意味なんだろう?」って勘繰る感じにはなってたよね。だけど実際にタイトルを付けてる本人たちはそこまで深くは考えてないと。そのバランスを取るのがいつもうまいなって思う。アルバムジャケットは今回もグレ(木暮)がやったみたいだけど、いつものニュアンスと違う印象があるね。
木暮 前やったことをまたやるってなるといやでも飽きるから。だからちょっと違うことを取り入れようみたいな。
渡邊 毎回アートワークをやってるんだし、いつか“木暮栄一展”を開こうみたいな狙いはないんですか?
木暮 ああ、この間掃除したついでに原画を全部捨てちゃったんですよね……。
渡邊 え、なんで捨てちゃうの?
木暮 そこまで意識が回らなかった。
荒井 シングルとかも入れたら10作品以上でアートワークやってるよね。
渡邊 それだけやってるのに原画を捨てちゃうっていう。そういう欲深くないところがいいのかもしれないね。
木暮 チャーベ(松田“CHABE”岳二)さんのギャラリーとかで原画展をやればお小遣い稼ぎができたかも(笑)。
言葉の意味を噛み締めすぎないようにしてる
渡邊 「街の14景」と今作を比べると歌の聞こえ方が全然違ったんだよね。前はもうちょっとギターの伴奏が歌と混ざってる感じだったけど、今回はかなり歌が前に出たミックスになってるね。
荒井 比べてみると確かに。速水(直樹 / レコーディングエンジニア)さんは俺たちがこうしてくれって言えばそういうミックスにしてくれるんですけど、今回は信頼してるエンジニアに任せたほうがいいだろうってことであの人なりの解釈でミックスしてもらいました。
渡邊 餅は餅屋と。速水さんはエンジニア兼パーカッショニストでもあるし、バンアパの現場だと5人目のメンバーみたいな感じだね。
荒井 さらにスタジオの管理から掃除までなんでもしてくれます(笑)。
渡邊 あ、そうなんだ(笑)。ミックスの感じもあるけど、何よりもいいところにいい詞が入ってる。歌詞の置き方1つとってもどんどん洗練されてきてるっていうか。英語詞の歌だと言葉の意味よりもメロディに耳がいくことが多いと思うんだけど。でも実は日本語も一緒でさ、曲の中で適材適所に歌詞がないと言葉の意味が右から左に流れちゃうんだよね。
木暮 前のアルバムのときってまだちょっと日本語歌詞で歌うのが恥ずかしかったんで、説得力のない歌になってたかもしれない。俺らの世代的に洋楽基準というか洋楽に近いものがカッコいいみたいな風潮があったけど、歳とってきたからか、そういうのが年々なくなってきたんですよね。逆に日本の古い音楽とか聴くといいなあって思うようになってきたら、日本語の歌詞が恥ずかしいとは自然に思わなくなりました。
渡邊 あとね、歌詞が押し付けがましくないなって思った。世の中の音楽には「みんなでがんばろうぜ」とかそういう訴えかける感じの歌詞ってけっこう多いじゃない。バンアパの歌詞には小説のような雰囲気もあるし、荒井さんって歌い方が素直でしょ。だから言葉の1つひとつがスーっと入ってくる。
荒井 いい意味であんまり気持ちを込めないようにはしてるんですよ。俺が噛み締めすぎると“言霊系”っつうか、なんかエモくなり過ぎちゃうようで。エモく歌ってカッコいい人っていると思うんですけど、自分がそれをやるとたぶんカッコよくないから。だから歌ってるときってあんまり内容は考えてないですね。
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- the band apart ニューアルバム「謎のオープンワールド」2015年1月21日発売 / 2900円 / asian gothic / asg-029 / Amazon.co.jp
- 「謎のオープンワールド」
収録曲
- (opening)
- 笑うDJ
- ピルグリム
- 廃棄CITY
- (save point A)
- 禁断の宮殿
- 殺し屋がいっぱい
- 遊覧船
- 月と暁
- (save point B)
- 裸足のラストデイ
- 消える前に
- 最終列車
- (ending)
the band apart(バンドアパート)
1998年に荒井岳史(Vo, G)、川崎亘一(G)、木暮栄一(Dr)の3人で結成。後に原昌和(B)が加入して以降は、ソウルやボサノヴァなどの洗練されたコード感を交えたロックサウンドへ変化を遂げ、2001年10月のデビューEP「FOOL PROOF」がいきなりの好セールスを記録した。2003年に自主レーベル“asian gothic”を設立。翌2004年に移籍第1弾シングル「RECOGINIZE ep」をリリースし、以降もコンスタントに作品を発表。他に類を見ない独自性の高いサウンドは、多くのバンドに大きな影響を与えている。2011年には東京・日本武道館でASPARAGUSとのツーマンライブ「SMOOTH LIKE BUTTER」を実施。2014年には坂本真綾の楽曲「Be mine!」で作曲を担当した。2015年1月に7枚目のオリジナルアルバム「謎のオープンワールド」をリリース。3月より全国ツアーを開催し、計30公演を行う。
ASPARAGUS(アスパラガス)
2002年2月結成のスリーピースバンド。2002年10月、ディズニー楽曲のトリビュートアルバム「DIVE INTO DISNEY」に「いつまでもずっと」(くまのプーさん)のカバーで参加し、好評を博す。同年11月には1stアルバム「Tiger Style」を発表。2004年には2枚のアルバム「KAPPA I」「KAPPA II」を、それぞれ別のレーベルから同時発売し、話題を集める。2006年末のメンバーチェンジを経て、現在は渡邊忍(Vo, G)、一瀬正和(Dr)、原直央(B)の3人で活躍中。2012年2月に約4年ぶりのフルアルバム「PARAGRAPH」をリリースした。なお渡邊は木村カエラのバックバンドに参加しているほか、彼女への楽曲提供&プロデュースでも知られている。