多種多様なギターの音色、新たに加えられたシンセフレーズの数々、大胆なリズムチェンジ、そして心情の機微を描くボーカル。THE BACK HORNがリアレンジアルバム「REARRANGE THE BACK HORN」をリリースした。今作はバンドが今年結成25周年を迎えたことを記念して制作されたもので、アルバムにはメンバーの手によって装いも新たに生まれ変わった初期楽曲12曲に、新曲「Days」を加えた計13曲が収録されている。
音楽ナタリーではTHE BACK HORNの山田将司(Vo)&菅波栄純(G)と、マンガ「ダイヤのA」の作者である寺嶋裕二との対談をセッティング。寺嶋は「ダイヤのA」の主人公および主要登場人物にメンバーの名前を付けるほど大のTHE BACK HORN好きとして知られており、初対談は大盛り上がり。約1万5000字のテキストからその様子を感じ取ってほしい。
取材・文 / 丸澤嘉明撮影 / 大槻志穂
寺嶋裕二の考えるTHE BACK HORNのキャッチコピーは
──実は、THE BACK HORN結成15周年の「B-SIDE THE BACK HORN」リリース時の音楽ナタリーの特集でも寺嶋先生からコメントを寄せていただいてまして(参照:THE BACK HORN「B-SIDE THE BACK HORN」特集)。
山田将司 その節はありがとうございました。
菅波栄純 お世話になってます、ずっと。
寺嶋裕二 僕、いまだに思ってることが1つあって。このときも好きな楽曲として「共鳴」を挙げましたけど、なんでこの曲がオリジナルアルバムに入ってないんだろうって。
菅波 「共鳴」は……いやー鋭い質問ですね。
寺嶋 ツアーのタイトルに「KYO-MEI」を掲げるくらいバンドにとって重要な言葉なのに。「一つの光」(2012年3月リリースの20thシングル「シリウス」のカップリング曲)もそうですけど、アルバムに入っていてもおかしくないような埋もれてる名曲がたくさんあって。僕はそこにバンドとしてのこだわりを感じているんですよ。
菅波 うれしいですね。かなり痛いところを突かれました。俺らもまったく同じことをよくリハスタで話していて。
山田 あれはアルバムに入れておくべきだったんじゃないかって。
菅波 そうそう、後悔してるところがあって。「共鳴」もすごく悩んだんですよ。
山田 バンドとして「KYO-MEI」という言葉を掲げて活動していこうって話した直後に、栄純が「共鳴」を書いてきたんだよね。
菅波 実はリリースするギリギリまで「THE BACK HORN」(2007年5月リリースの6thアルバム)に「共鳴」を収録する予定だったんですよ。入れたり抜いたりしながら「どうする?」って悩んだ結果、最後の最後で抜いたんですよね。あのアルバムはいろんなTHE BACK HORNを見せたいと思って作ったアルバムで、「共鳴」と同じ“勢いのあるロック枠”的な感じで「虹の彼方へ」とかもあったから。
寺嶋 入ってたんですか!? マジですか……。でもなぜ外すのかと(笑)。その決定をするのはメンバー全員?
菅波 メンバー全員ですね。
寺嶋 そこがTHE BACK HORNらしいというか。バンドを俯瞰して見ていて、「THE BACK HORNならどうする?」ということを常に考えて活動していると思うんですよね。初期からずっとセルフプロデュースでやってきているから、一歩引いてTHE BACK HORNというものを見ているんだろうなって。そんなことないですか?
山田 あると思います。そのへんは自然とそうなってるかもしれないですね。自分たちがどこに行くべきかをいつも明確にわかってるわけではないですけど、自ずとTHE BACK HORNっぽい道を選択して進んでいる感じはありますね。
菅波 “THE BACK HORNは生き物”っていう感覚が自分たちの中にあって、その生き物がどうしたいかを第一に考えている気はしますね。
寺嶋 あのー……今、結成25周年のアニバーサリー企画として、THE BACK HORNのキャッチコピーを一般募集する企画をやってますよね?(参照:あなたの考えるTHE BACK HORNのキャッチコピーは? 結成25周年記念特設サイトオープン)それで、実は僕、事前に編集の方に打診されて考えてきたんですよ。
菅波 マジですか? こういうの考えるのってホント時間かかりますよね(笑)。
寺嶋 話の流れで出てきたから本当にたまたまなんですけど、考えてきたのが「THE BACK HORNという生命体」っていうコピーなんです。
山田 おおー!
菅波 めっちゃいい! ありがとうございます!
バンドはピッチャーしかいないチーム
寺嶋 メンバー4人が出会った頃って、全員めちゃくちゃ尖りまくってた時期ですよね。なんでそれでうまくいったのかずっと不思議で。こだわりのある人たちだと思うので、どうやって折り合いをつけたのか。過去にトラブルはなかったですか? 解散しそうになったりとか。
山田 細かいケンカは普通のバンドなりにありましたね。殴り合いをしたこともありましたし。
菅波 ぶつかり合いはあったよね。
寺嶋 それはどういうときにあるんですか? 曲を作ってるときとか?
山田 いや、だいたいツアー中の打ち上げですね(笑)。特にすごく疲れてるとき。
菅波 ツアー中だからずっと気が張ってるし、特に後半は疲れも溜まってきて気持ちがピークに達するんだよね。
山田 それでメンバーの誰かの気持ちがあふれて声を荒げたときに、「今のちょっとおかしくないか?」って。
寺嶋 へえ。
菅波 バンドはエゴイストの集まりですから。間奏の展開を1つとってもケンカになる火種はいくらでもあるんですよ。「俺はギターソロを弾いたほうがカッコいいと思う!」「いや、そこは必要ない!」とか。「ダイヤのA」でもピッチャーはエゴイストとして描かれていますけど、バンドって本当にピッチャーしかいないチームみたいなもので。
寺嶋 やっぱりそうなんだ。
山田 むしろ「みんなエースであるべき」という気持ちもあるよね。
菅波 それはすごくある。自分の我を通して音楽性を表現したいけど、それと同時にほかのメンバーに対して「お前もエースだろ」って言いたいというか。
寺嶋 お互いにライバル心もある?
菅波 THE BACK HORNの場合、自然とみんなが曲を書くようになっていったので、「あいつ、いい曲書いてくるな」ってちょっと焦ることはありますね。
寺嶋 バンドってお互いに腕試しをしている印象があったんですけど、やっぱりそうなんですね。今はどうやってお互いにコミュニケーションを取ってるんですか?
山田 ライブとかで顔を合わせたときに日常会話をしたり。
菅波 日常会話は家族みたいな感じになっちゃってるよね。「あれだよね」で話が通じるというか。俺と将司はメンバーの中でも特にふざけたことをしゃべってマツ(松田晋二)にツッコまれていて。ライブ前は特にそうなんですけど、俺らはあれでアゲ合ってるんだよね?
山田 気持ちを解放しているんだよね。
寺嶋 冗談を言い合って?
菅波 そう、ふざけながら盛り上げていくタイプなんですけど、マツに「うるせえ」って言われて(笑)。
寺嶋 ステージに立つ前にテンションを上げるための必要な儀式みたいな。
山田 逆に気持ちがたかぶりすぎているときに、ふざけることで緩めることもできるんですよね。
寺嶋 ということはライブで力みすぎるとよくない?
菅波 力んでいいことは1つもないですね。
寺嶋 マンガ家ってずっと机に向かっているので、気持ちが内に内に行ってしまうんですよ。でもライブはお客さんがいる。反応が直に見えるので心が満たされると思うんですけど、実際のところどうですか?
山田 それが、THE BACK HORNもそれこそ最初の頃は内に向かってライブをやっていて。
菅波 メンバーみんなそうだったね。
山田 自分たちのパフォーマンスを見せつけることしか考えてなくて、「ついてくるかこないかは来てくれている人の自由」っていうスタンスだったんですよね。今思うと、より強力なエネルギーを音に込めたいから気持ちを内にこもらせていたのかもしれない。お客さんの喜ぶ顔とか声援を素直に受け止められるようになってから徐々に自分たちも心が開けるようになってきて、やっとお客さんの顔をちゃんと見れるようになりましたね。
寺嶋 ライブをやっていると手応えを感じるときもたくさんあると思うんですけど、全然うまくいかなかったと思うことも多いですか? 自分たちのパフォーマンスの出来が悪くてモヤモヤするみたいな。
山田 自分たちの出せる力が100だとすると、100が4人分集まったからといっていいわけではなくて。バンドの力は80で、あとの足りない20はお客さんの力を借りて作っていくってことができるんですよね、ライブって。
菅波 その隙間がないと、「よかったけどいまいち」ってライブなんだよね。
山田 そうそう。「一生懸命やってるのはわかるけどグッと来なかった」とか言われたりして。
寺嶋 へえ、面白い。
俺もあんなふうになりたかった
寺嶋 THE BACK HORNは10代でインディーズデビューしてすぐメジャーに行きましたけど、周りからアドバイスはもらっていたんですか?
菅波 アドバイスを聞いても無視してたよね(笑)。
山田 うん。
寺嶋 すごい、憧れるな(笑)。僕はデビューが遅くて、新人の頃の荒々しさをそのまま出すようなタイプじゃなかったので。「お前、この絵だと載らないぞ」って言われて一生懸命勉強して。
──下積み時代が長かったんですね。
寺嶋 長かったです。「ダイヤのA」で週刊連載をやったのは30歳を超えてからなんですよ。勢いだけでいける年齢ではなかったので、したたかにいろいろやりました。
──「ダイヤのA」で主人公の沢村栄純をはじめ、THE BACK HORNメンバーの名前を付けた経緯を教えていただけますか?
寺嶋 沢村栄治という偉大な投手がいて、“栄治”を“栄純”にしたらなんかリズム感がよかったので(笑)。最初はホントそんなノリで付けました。
──物語は沢村栄純が強豪校である青道高校に入学し、甲子園を目指す姿が描かれます。第2部の「ダイヤのA actⅡ」で奥村光舟、結城将司、赤松晋二という1学年下のキャラクターも登場してきますが、最初からその構想だったんでしょうか?
寺嶋 連載が始まった当初は、あまり考えないようにしていました。それで、「ザ・バックホーンの世界」(※THE BACK HORNが結成10周年を迎えた2008年に発売された書籍)にコメントを寄稿したんですけど、そこに「この先、将司、晋二、光舟といった名前のキャラが勝手に出てくるかもしれませんが、その時はお許し下さい」って書いたんですよ。自分の中で「これでいつでも使えるな」と思って(笑)。
──伏線を張っていたんですね(笑)。
寺嶋 はい。ちょっとした裏話なんですけど、最初は結城将司、奥村光舟、赤松晋二の3人とも青道高校に入学させるつもりだったんです。でもそうすると青道が強くなりすぎるので、赤松晋二だけ別の高校にしました。
菅波 確かに強すぎる(笑)。
──キャラクターを作る際、実際のTHE BACK HORNメンバーとの関連性は考えましたか?
寺嶋 僕はキャラクターを作るとき、性格と同時にキャラとキャラの関係性を重視するタイプなんですね。バンド内での立ち位置、関係性などはキャラを作るときにイメージしやすくなるので、いろんな人たちを勝手に解釈してよく引用していて。THE BACK HORNはそれぞれ個性、立ち位置が違うので、そういう意味でキャラにしやすかったです。マツさんからはリーダーでコミュ力が高そうな部分を、(岡峰)光舟さんからはマイペースで自分の世界を持ってそうな部分を、将司さんからは初期のふてぶてしい佇まいを、栄純さんに関しては突き抜けた純粋さを自分なりに膨らませて、もちろんそのままではないですが、キャラクターに反映させました。
──確かに、そう言われてみると共通する部分がある気がします。
寺嶋 ただこれが難しいというか面白いところで、マンガのストーリー的にキャラクターが自然と動き始めるので、最初にイメージしていた通りにはならないんですよね。
山田 へえ、面白い。
──菅波さんは自分の名前がマンガの主人公に付けられていることを知ったとき、どう思いました?
菅波 びっくりしました。珍しい名前だから絶対にそうだろって話でバンド内でも盛り上がって、すごくうれしかったですね。沢村栄純って、俺にとって理想のキャラクターなんですよ。馬鹿で明るくてムードメーカーで、実力もあってみんなを引っ張っていける。若いときは自分もそういうのを目指して、みんなに優しくしてた時期もあったんですけど……。
寺嶋 不純な動機(笑)。
菅波 大人になってやっぱり無理だとわかって(笑)。逆にすごくダークサイドな方向に自分が進んでいった頃に沢村栄純が出てきて、ある意味パラレルワールドじゃないですけど、「俺もあんなふうになりたかったな」っていう眼差しで彼の活躍を見ていましたね。
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なんて気持ちにさせるんだ、このバンドは