今年結成20周年を迎えるTHE BACK HORN。彼らが節目を飾るアイテムとして、インディーズ時代以来となるミニアルバム「情景泥棒」をリリースした。
全7曲入りの本作は、メンバーそれぞれの個性が凝縮された1作。音楽ナタリーでは個々の楽曲の魅力に迫るべくメンバーに全曲解説をしてもらった。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 佐藤早苗(ライトサム)
- THE BACK HORN「情景泥棒」
- 2018年3月7日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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初回限定盤 [CD+DVD]
3456円 / VIZL-1338 -
通常盤 [CD]
2160円 / VICL-64966
- CD収録曲
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- Running Away
- 儚き獣たち
- 閃光
- がんじがらめ
- 情景泥棒
- 情景泥棒~時空オデッセイ~
- 光の螺旋
- 初回限定盤DVD収録内容
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「KYO-MEIワンマンライブ~第三回夕焼け目撃者~」Live at 日比谷野外大音楽堂
- シリウス
- 声
- ひょうひょうと
- 晩秋
- コワレモノ
- アカイヤミ
- 枝
- 覚醒
- 孤独を繋いで
- シンフォニア
- 何処へ行く
- グローリア
ライブ感にスポットを当てた「情景泥棒」
──いろんな意味でTHE BACK HORNらしい作品ですね。バランスが取れていて、バラエティに富んでいて、すごく凝縮感がある。今回はどうしてフルアルバムではなく、ミニアルバムという形態を取ったんですか?
松田晋二(Dr) ミニアルバムだからこそギュッと凝縮された作品にしたくて。主にTHE BACK HORNのライブ感のようなものにスポットを当てて作りましたね。もちろんフルアルバムを作ることもできたけど、結成20周年というタイミングでファンと一緒に盛り上がることを考えると、今回はミニアルバムってサイズがしっくりきたんです。フルアルバムだからこそ生まれる大きなうねりと言うよりは、ある種濃い、エネルギッシュなライブ感あふれる楽曲を集めることを目指して作りました。フルアルバムは「ライブ感だけで12曲いきましょう」とかそういうふうには作れないので。
山田将司(Vo) ミニアルバムだと、1曲1曲の幹がしっかり太い曲が選べるのもあったしね。
菅波栄純(G) ああ、そうかもね。
松田 あとはほかの楽曲との相互性と言うか。例えば「『Running Away』はTHE BACK HORNの顔になりそうな曲だな」と思ったら、「ほかはこういう曲を入れよう」ってなる。
──全体的にアレンジもとがってるし、楽曲自体も勢いのある曲が多くて。それがことごとくTHE BACK HORNらしい。非常に聴き応えのある作品でした。
菅波 おお……きた! うれしいね!
──「情景泥棒」というタイトルは面白いですね。同名の楽曲も収められています。
菅波 この言葉自体、マツ(松田)がけっこう前に思い付いて、タイトル案として持ってきたんです。「運命開花」(2015年11月リリースのアルバム)のときにタイトル案として出してくれたこともあって。そのときは採用されなかったんですけど、「情景泥棒」自体はすごくインパクトのある言葉だし。それで今回のミニアルバム用の曲を作っているときに、「情景泥棒」の原型になる曲のデモをマツに送ったら「情景泥棒」ってタイトルを付けた歌詞を書いてきた。この言葉をもとに歌詞を書くとこういう世界観になるのかと。思いがけずSFチックで面白くて。マツの妄想が暴走してる感じが、なんかひさしぶりだなと思ったんです。
──ジャケットの絵みたいに。
菅波 まさにまさに、この絵の感じ! この感じってひさしぶりでワクワクするなあ、みたいな。THE BACK HORNは「リヴスコール」(2012年6月リリースのアルバム)からは「力強く生きていく」ことを基本の軸として曲を作ってた。それはそれでTHE BACK HORNの路線の1つとして継承しているものではあるんですけど、その流れとは違うところから「情景泥棒」という曲が出てきた気がして。最終的にはこれをタイトルにして、ジャケもマツに描いてもらおうと。「情景泥棒」だけでなく、全曲のイマジネーションがこの絵につながっている気がします。
松田 THE BACK HORNの音楽には「切なさ」が必要だなと思ったんですよ。どす黒いドロドロした感じだけじゃない、切ない感じ。
──「情景泥棒」って言葉はどうして出てきたんですか?
松田 「情景泥棒」って言葉が頭に浮かんだときって、 “THE BACK HORN感”みたいなものをものすごく考えてた時期だったんですよ。人間のことを歌っているバンド……自分から見える世界だったり、自分の中にずっとあるけど、誰にでも通じるような世界をTHE BACK HORN流に書いてる。それを考えているときに、楽曲の世界観とか映像を含めて「情景」っていう言葉がハマったんですよね。その「情景」が空想なんだけどリアルにつながっている。
──ええ。
松田 いろいろ考えるうちに「情景泥棒」って言葉がフッと浮かんできた。あるメッセージとしても捉えられるし、言葉の響きとしても面白い。あと「情景」という客観的な言葉が、「俺たちは今を生きていくんだ」っていう主観的な思いの裏返しみたいなのが面白いと思ったのが最初です。
──字面だけだと「なんだろう」って思わせるものがありますよね。
松田 ありますね。あと「情景」って言葉は、どの曲にも当てはまるんです。
「Running Away」解説
──1曲目の「Running Away」は菅波さんが作詞作曲を手がけています。
菅波 イントロでコーラスが入ってくるところがあるじゃないですか。最初はあそこから思い付いて、今まで自分が使ったことのない音が入ると面白いなと思ったんです。マリンバを入れてみたらクールだけどちょっと民族音楽っぽくも聞こえて、そこに四つ打ちのリズムが入り、ダンサブルなベースが入ってきて……みたいな感じで。そこからサビに発展していきました。
山田 マリンバの音ってなんか生命感があるよね。命の温度感があるって言うかさ。
菅波 それそれそれ!(笑) 民族感って言ったけどさ、生命感のほうが近いね。
──歌詞もそんな感じでオープニングにふさわしいですね。
菅波 「Running Away」って言葉が「逃げ出す」って意味なんですけど、「暴走していく」みたいな意味もあって。そういう意味ではエネルギーがほとばしってる印象に近いなと思って、気に入ってタイトルにしました。
──「逃げ出す」っていうのは別にネガティブな意味じゃなくて。
菅波 そう。4曲目の「がんじがらめ」ともつながるかもしれないけど、自分で自分を縛り付けている場所から離れるのは、立派な戦い方だったりするわけじゃないですか。勇気も必要だし。なのでポジティブな意味で「Running Away」って言葉を使いました。むしろ縛り付けられているところからエネルギーが解放されていくようなイメージ。
──曲の後半がちょっと実験的なアレンジになりますね。
菅波 曲自体はエネルギッシュなイメージなんですけど、ひび割れからエネルギーが噴出しているイメージもあって。十分に漲って元気に走ってると言うよりは、壊れそうになりながらもなお走っているというイメージを表現しました。
松田 これは、最後のアレンジの詰めをみんなでやってるときに出たアイデアなんですよね。「ガガガガ……」って感じの。
──ボロボロになっても走れ、と。
菅波 うん。逃げることも戦いだと。
────岡峰さんは演奏していてどうでしたか?
岡峰光舟(B) 同期やストリングスが入ってるんですけど、それが入ることでイロモノにならないといいなと思ってプレイしましたね。この曲だから入っている音だと思えるのがいいなと。やる必要があるからやっていると言えるように。
──山田さんはどういう気持ちでこれを歌いましたか?
山田 そうですね……「何があっても生きていこうぜ」「逃げてでもいいから生きよう」という気持ちで歌いました。近年のTHE BACK HORNの曲で歌ってるど真ん中の気持ちだと思うから、ちゃんと感情を込めて歌えました。サビの爆発力に向けてAメロもBメロもあって、サビが力強いだけじゃなくて、俺の理想の歌の姿勢でもあるんですけど……自分が引っ張っていくんじゃなくて、ちゃんとみんなを引き連れて一緒にいく感じ。それは常に意識してるところです。
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「儚き獣たち」解説
ライブ情報
- THE BACK HORN 20th Anniversary「KYO-MEIワンマンライブ 東京編・大阪編」~情景泥棒~
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- 2018年3月20日(火)東京都 Zepp Tokyo
- 2018年3月24日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- THE BACK HORN 20th Anniversary「KYO-MEI対バンツアー」~情景泥棒~
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- 2018年4月1日(日)愛知県 Zepp Nagoya
出演者THE BACK HORN / UNISON SQUARE GARDEN - 2018年4月6日(金)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
出演者THE BACK HORN / 9mm Parabellum Bullet - 2018年4月8日(日)北海道 Zepp Sapporo
出演者THE BACK HORN / 9mm Parabellum Bullet - 2018年4月15日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
出演者THE BACK HORN / アルカラ - 2018年4月20日(金)新潟県 NIIGATA LOTS
出演者THE BACK HORN / クリープハイプ - 2018年5月13日(日)福岡県 DRUM LOGOS
出演者THE BACK HORN / and more
- 2018年4月1日(日)愛知県 Zepp Nagoya
- THE BACK HORN(バックホーン)
- 1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2014年には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 -THE BACK HORN Film-」が公開された。2017年2月にかねてより親交のあった宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」をシングルとして、10月に2枚目のベスト盤となる「BEST THE BACK HORN II」を発表した。結成20周年を迎える2018年3月に新作ミニアルバム「情景泥棒」をリリース。