音楽ナタリー Power Push - THE BACK HORN

ソングライター菅波栄純の告白

THE BACK HORNがニューシングル「悪人 / その先へ」をリリースした。

本作は全収録曲の作詞作曲を、ギタリストの菅波栄純が担当。「悪人」はダークかつヘビーな曲調と歌詞が特徴のナンバー、「その先へ」は豪快なギターリフが炸裂するロックチューン、そしてカップリング曲の「路地裏のメビウスリング」は“ダメ男”のラブソングと、それぞれ違う個性を放っている。

今回ナタリーでは菅波のソロインタビューを実施。各曲の制作エピソードを掘り下げながら、ソングライターとしての彼に迫った。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 佐藤類

ライブ中に浮かんだ「あの悪人はきっと僕だ」

──まず「悪人」なんですが、恐ろしく濃厚な楽曲で、歌詞もダークでヘビーな楽曲です。これはどういう工程で作られたんでしょうか。

これは詞先だったんです。今まで自分の曲で詞先ってあまりなくて。ただ普段からけっこう歌詞のネタを集めてるんですよ。何かを思い付いたらメモる癖があって。この曲の場合、出だしの「あの悪人はきっと僕だ」というフレーズがthe HIATUSのライブを観ているときに突然浮かんできたんです。the HIATUSの曲とは全然関係ないんですけど。

──the HIATUSを見て「あの悪人はきっと僕だ」と(笑)。

実際のメンバーは悪人じゃなくて、すげえいい奴なんだけど(笑)。オレ、人のライブを観ているときほど歌詞を思い付くことが多いんです。歌詞とかメロディとか曲の構成とかを思い付く。そのとき、一旦外に出て携帯にメモるべきか、覚えておいてあとでメモるか、いろいろ考えてるうちにライブが終わっちゃうんですけど(笑)。なんか“ゾーン”に入っちゃうんですよね、観ているうちに。

──the HIATUSの歌詞に触発されたとか、そういうことではなく?

全然そういうことじゃなくて。the HIATUSのサウンドが気持ちよくて、そのままゾーンに入って、そのフレーズが出てきた。フレーズが1個出てくると止まらなくなるんですよ、調子いいときは。ダーッとそれに続くフレーズが出てくる。止められないから放っておいたら、ワンコーラス分まで出てきて。これはもうメモらなきゃいけねえと思って、それで申し訳ないけどライブを外れて。詞を書くときはそういうところで思い付くことが多いですね。

──机の前に座って「さてこれから詞を書こう」というようなことは?

10何年やってきて、机の前でできた歌詞ってほぼないですね。学生のときも机の前に座っても眠くなって全然勉強できなかったし(笑)。うろうろしてたり、何かをボーッと見ているときに頭が働くタイプというか。

──何かが目の前にあって、それに対して自分が反応することで浮かんでくる。

菅波栄純

そうですね。リアクションしてるときに、自分の頭の状態がアクティブになる。歌詞は自分の思ってることや感じてることを書くんだけど、どうやって書いていいか悩む人は多いと思うんですよ。たぶん直接それをつかみにいこうとするからわからなくなると思うんです。幽体離脱みたく少し離れて上から自分を見ると「ああ、こいつはこういうことを表現したいんだな」ってわかってくる。だから、「あの悪人はきっと僕だ」って言葉はもともと自分の腹の中にあった言葉かもしれない。

──歌詞って自分に向き合わないとできないじゃないですか。

できないです。絶対できない。

──そこで自分の内面にのめり込むというより、自分をある種、客観的に見るような俯瞰の視点がないと、自分とは向き合えないということかもしれませんね。

まさにそういうことだと思います。なので音楽とちょっと離れて、美術館とか写真展とか行くと、ものすごく出てくる。でもああいうところって携帯禁止だったりするじゃないですか。なので受付に戻って書くものを借りてメモしたり。

──なるほど。つまり「こういうことを言いたいから、こういう歌詞にする」じゃなく、「あの悪人はきっと僕だ」というフレーズが先に出てきて、そこから広げていった。

そうです。最初のフレーズがあって、これを物語として紡いでいったらどうなるかというので、歌詞を書き足していった感じですね。

──じゃあ歌詞が完成してから楽曲を当てはめていった感じですか。

そうですね。中盤に「闇を 照らした 恋の旋律(メロディー)よ 眩しい 賛歌(うた)を 止めて」というフレーズがあるんですけど、悪人である自分が何かことを起こそうとしたときに、ふと……自分の将来に希望の光が差すようなことが起きて葛藤する、という描写なんですね。ここまでの歌詞ができたときに、1回メロディを当てはめて音を付けてみました。

将司ゴメン!と思いましたけどね(笑)

──構成とかすごく複雑な曲ですよね。展開も多いし。それは歌詞の都合ということですか?

まさにそうですね。途中までは繰り返しで2コーラスくるんですけど、それ以降、展開がどんどん変わっていく。

──「お集まり頂いた全人格総数70の皆様方ご意見いただきたい」以降の一節ですね。すごく言葉数が多くて、曲調も目まぐるしくなる。

そう。そういう歌詞のブロックができるごとに展開を作って、また次の歌詞ができたらメロディ書き足して展開考えて……ってやったら、どんどんこうなっていった。

──「お集まり頂いた~」から「有罪 有罪 有罪 有罪」までの急展開はすごいと思いました。歌うほうも大変でしょうね。

(ボーカルの山田)将司ゴメン!と思いましたけどね(笑)。そこまでの流れから、この(歌の)主人公をどう生かしていくか。こいつの人生をどう導いていくかと思ったときに……何かやらかしちゃった人もできれば最後はハッピーエンドで終わってほしい、救われてほしいという願望が自分の中にあると気付いたんですね。そういう物語が好きなんだなと。で、自分自身やらかしちゃったなと思うことがあるんです。過去の恋愛とかいろいろあるんですよ(笑)。

──反省点が。

菅波栄純

反省点がすごくあって。けっこう傷付けてしまった人とかいるので、最後は救われてほしいというのは自分に対する願望でもある。「オレ、前向きに生きてもいいっすよね、まだ人生続くし、どうすか? ダメすか?」みたいな、その葛藤を表現してみようと思ったんですよ。それがこの「お集まり頂いた~」の箇所なんです。有罪なのか無罪なのか、オレの願望としては無罪にしてあげたいけど、まあ有罪だろうなって(笑)、有罪が下るべきだろうなと。

──その葛藤を言葉と音で表そうとするとこうなる。

こうなる(笑)。けっこうこの箇所を聴き返すたびにヘコむんですよね。自分が有罪って言われてるようで、すごく責められてる気分になる(笑)。オレと同じ気持ちの人はいないかもしれないけど、自分と似たところがある人は絶対いるし、自分がやらかしちゃったなって自覚がある人はけっこういると思う。そういう人に「有罪!」って曲を送り届けていいものかって葛藤もありましたね。自分はそういう曲が多いんですけど。だから……「有罪 有罪 有罪 有罪」以降どう書いていこうかなっていうのは悩みましたね。有罪が下って、そのまま終わっても、それはエンディングの1つだとは思いましたけど。で、そのあとの「わかってる」というフレーズ。自分の罪悪感とのせめぎ合いの中で、自分の“脳内議会”が有罪を下したときに、どう思ったら人間的かなと思ったら、図星を指されてちょっとイラッとして「わかってる」と言ったら人間っぽいと思って、このフレーズが出てきた。

ニューシングル「悪人 / その先へ」 / 2015年9月2日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
ニューシングル「悪人 / その先へ」初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD] / 2160円 / VIZL-858
通常盤 [CD] / 1296円 / VICL-37090
CD収録曲
  1. 悪人
  2. その先へ
  3. 路地裏のメビウスリング
初回限定盤DVD収録内容

『イキルサイノウ』完全再現ライブ from マニアックヘブンVol.8 (2014.12.25)

  1. 惑星メランコリー
  2. 光の結晶
  3. 孤独な戦場
  4. 幸福な亡骸
  5. 花びら
  6. プラトニックファズ
  7. 生命線
  8. 羽根~夜空を越えて~
  9. 赤眼の路上
  10. ジョーカー
  11. 未来
THE BACK HORN「『KYO-MEI対バンツアー』~命を叫ぶ夜~」
2015年10月2日(金)宮城県 Rensa
<出演者> THE BACK HORN / THE BAWDIES
2015年10月4日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
<出演者> THE BACK HORN / アルカラ
2015年10月10日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
<出演者> THE BACK HORN / キュウソネコカミ
2015年10月11日(日)福岡県 DRUM LOGOS
<出演者> THE BACK HORN / ACIDMAN
2015年10月23日(金)大阪府 なんばHatch
<出演者> THE BACK HORN / ムック
2015年10月24日(土)愛知県 DIAMOND HALL
<出演者> THE BACK HORN / UNISON SQUARE GARDEN
2015年10月30日(金)東京都 Zepp Tokyo
<出演者> THE BACK HORN / ストレイテナー
THE BACK HORN(バックホーン)

THE BACK HORN

1998年に結成された4人組バンド。2001年にシングル「サニー」をメジャーリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開。2012年3月に20枚目となるシングル「シリウス」を、同年6月に9作目のオリジナルアルバム「リヴスコール」を発表。9月より2度目の日本武道館単独公演を含む全国ツアー「THE BACK HORN『KYO-MEIツアー』~リヴスコール~」を開催し、成功を収める。2013年9月にB面集「B-SIDE THE BACK HORN」、2014年4月に通算10枚目のアルバム「暁のファンファーレ」をリリース。11月には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 –THE BACK HORN Film-」が全国ロードショー。2015年9月にニューシングル「悪人 / その先へ」を発表した。