ナタリー PowerPush - THE BACK HORN

震災を経て生まれた新バンドアンセム

しっかり足跡を残さなきゃ

──メジャーに移籍して11年。その中でも今回の震災は、バンドにとって大きな転換点になるかもしれないですね。自分たちの今の音楽シーンでの位置はどう感じてますか?

菅波 自分たちではわかんないですね。

──もっと上に行きたいとかは?

松田 上に行く気持ちは常にありますけど、納得したものを出していくのが最優先ですね。

──上を目指したい気持ちと、今までのお客さんとより濃密にやりたいという気持ちとどっちが強いですか?

松田 どっちもですね。しかも、上を目指そうとして違うこと考えたり、実験したりするとリスナーに絶対バレるんですよね。

──無理してるって?

インタビュー写真

松田 そこは、やっぱりリスナーもわかってると思うんです。あと、本当に納得したもので、結果的に50万枚売れましたとかだったら、自分たちでも自信が持てると思うんですけど。売れるためだけの曲で結果をつかんでも、手応えがないと思うし。だからといって、このまま守りに入ってやっていくのも違うし。それがさっき言った、常にどこかで出会う人がいる、今だけじゃないというのが重要なのかなと。自分たちが過去を振り返ったときに、しっかり足跡を残してるなって思える曲を毎回出していかないと。

──自分のやってきたことに責任を持てるかどうか。いつ誰に聴かれても恥ずかしくない音楽を作ると。

松田 そこは重要ですね。

THE BACK HORNの使命は“今”を物語で残すこと

──自分たちなりに進化したのはどういうところだと思いますか?

菅波 前に比べてちょっと考え方がすっきりしたかも。自分のためにやってるのか、人のためにやってるのかってこともそうだし、上を目指すのか、聞いてくれている人たちに向けてやるのかってこともそうだし。今まではそういうのはごちゃごちゃのままやってたんですよね。でも今は「物語を残していく」っていう使命を持ってる。あと、自分が音楽を生み出すことでキチンと売上を残すっていう部分と、もうひとつは自分が聴きたい音を鳴らすっていう人生をかけた遊びとしての側面を、場面ごとに分けて考えるようになったし。それをごっちゃにするとわけがわからなくなるから。今この瞬間は遊ぼうってときと、今は仕事としてシビアに考えようってときと、ちょっとした切り替えができるようになったかも。

──物語を残す、とは?

インタビュー写真

菅波 昔って語り部って言われる人がいたじゃないですか。神話を一字一句覚えて人の前で再現するような。そういう人が世界中にいて、いろんな地域を渡り歩いて、その中で訪れた地域の物語を頭の中にぶち込みながら、また新しい物語を伝えていくって人がいたって聞いて、それっていいなと。今の時代における情報の保存の仕方が悪いって言ってるんじゃないんですけど、語り部の人たちがめちゃめちゃ想像力を刺激したりとか、昔と地続きの物語を変換して伝えるってのにものすごくシンパシーを感じた。自分たちの音楽っていうのは、今のことを物語の形にして残してるんじゃないかなって思ったんです。

──素晴らしいですね。そういうことを考え出したのはいつ頃ですか。

菅波 2カ月くらい前。

──最近だな!(笑) 今日の取材のために昔のインタビューを読み返したら、菅波さんは曲ができたらバンドに持っていく前に、そこらへんの街角に立って弾き語りをして、反応を見るって言ってたんですよ。さすがに今はやってないだろうけど、今話してたこととつながる気がする。街角から生み出されるものを、心と口と手をもって伝えていくというか。

菅波 そうですね。そういう使命感を持つようになりました。

自分たちで感じる11年間の変化

──山田さんはこの11年の中で最近変わったと思うことは?

山田 やっぱりほかの3人のオーラに負けないようにって思いますけど(笑)。いろいろあってうじうじ悩んでる時期もあったし。叫ぶのって自分を傷つける行為でもあるから、やりたくないときもあるけど、それを奮い立たせるためのエンジンのかけ方を覚えましたね。

岡峰 俺はその時々で変わるんですよね、モードが。最近は考える時期ですね。アルバム作りもバイオリズムが関わってくるんですけど。「アサイラム」の時期は感覚的にやったことをOKにする時期で。曲のことを深く考えずにできたフレーズでも、カッコよければOKっていう。でも震災のあとは、一個ずつ考えてプレイすることが増えた。考えるってことも今までそんなになくて。プレイに関して知識を得ることはあったけど、それで満足してる部分がいっぱいあったんで。

松田 いろんな人に会うとわかることがあるじゃないですか。今までは人の影響で無意識に流されて変わってくのがイヤで、自分でここは変わらないようにしようっていう心のダムを作ってた。最近は意識的に変わりたいっていうのもありつつ、流れに任せるようになる場面もあって。昔よりはダムを解放するようになったというか。振り返ったときに、なぜあのときああしたのかわかんないのがイヤで。俺はここでこうしたからこうなってるって、これからもこうやっていくんだって、はっきり言えるようでないとダメだと思うんですよ。そういう覚悟ができましたね。

インタビュー風景

ニューシングル「シリウス」2012年3月7日発売 1200円(税込)SPEEDSTAR RECORDS

  • 「シリウス」THE BACK HORN
  • 初回限定盤 [CD] VICL-36691 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 [CD] VICL-36692 / Amazon.co.jpへ
初回限定盤収録曲
  1. シリウス
  2. 一つの光
  3. クリオネ
  4. 舞い上がれ
通常盤収録曲
  1. シリウス
  2. 一つの光
  3. クリオネ
THE BACK HORN(ばっくほーん)

1998年に結成されたロックバンド。山田将司(Vo)、菅波栄純(G)、岡峰光舟(B)、松田晋二(Dr)の4人から成る。1999年夏には音源リリース前にもかかわらず「FUJI ROCK FESTIVAL '99」に初出演。同年9月に初のミニアルバム「何処へ行く」を発表する。強烈なライブパフォーマンスに加え、ハードなロックサウンドに文学的な日本語詩を乗せた音楽性で高い評価を獲得する。2001年にシングル「サニー」でメジャー移籍。以降コンスタントなリリースおよびライブ活動を展開している。また映画「CASSHERN」の挿入曲「レクイエム」提供をはじめ、映画とのコラボレーションも積極的に行い、映画関係者からも高い支持を受けている。