「ボカコレ」は文化祭みたいなイメージ
40mP うじたさんは今、ボカロの曲ってどこで知るんですか?
うじた そうですね……やっぱりTikTokが多いですかね。
40mP “歌ってみた”系ですか?
うじた それもありますし、「BGMで使われている曲がいいな」と思って調べてみたら新人ボカロPさんの曲だったりとか。
40mP あー、なるほど。というのも、今って「ここに行けばボカロのすべてが集約されている」みたいな場がないじゃないですか。自分が始めた10数年前は、ニコ動がそういう場所だったんですけど。
うじた 確かに確かに! 私もボカロ=ニコ動のイメージで育ってきた人間ではあるので、よくわかります。今はもっと分散してますよね。
40mP そうなんですよ。YouTube、TikTok、ゲーム……いろんなところにボカロの入り口がある中で、今日のテーマでもある「ボカコレ」はある種の“集約の場”として用意されている感じがして、すごくいいなと思っていて。
うじた あー! 確かにそうですね。そこにさえ行けば、とりあえず聴くべきものが全部あるよっていう。
40mP クリエイター側としても、どこに投稿したらいいのかわかりづらくなっている中で「とりあえずここに向けて曲を準備すればいい」みたいな、1つの指標としてわかりやすくていいなと思います。
うじた 投稿できる期日が限られてるから、みんなでわーっとがんばる感じになれるのもいいですよね。「あの人がここに向けてがんばってるから、自分も!」みたいな。
40mP 本当にそうですよね。お祭り、文化祭みたいなイメージです。僕らがボカロを始めた頃はそういうのがなかったので、ちょっとうらやましくもありますね。やる理由を与えてもらえるという意味で、これからボカロに挑戦する作り手にとってはすごくいい機会になると思います。
うじた なかなか最初の一歩を踏み出せない方も、こういうのがあると「ちょっとやってみよう」という気持ちになりやすいですもんね。
40mP とはいえランキングとかもあるんで、人気の優劣をつけられてしまう怖さもあると思いますけど、それはあくまで1つの結果でしかないので。そこに囚われるよりも、まずは挑戦するということが……ちょっと今、根性論みたいな話をしてしまってますけど(笑)。
うじた うふふふ。でも大事ですよね。
40mP はい。いい機会なのでぜひ気軽に参加してみてもらいたいですね。それと、僕がヘッドプロデューサーを務める「ボカコレ×歌コレ『#バズスタ オーディション』」というものも連動で開催されるので、それも含めて、ボカロで曲を作っている方はちょっとでも興味があったら応募していただきたいなと。
うじた それはどういうオーディションなんですか?
40mP ユニットを作ってデビューを目指していくことになると思うんですけど、実は具体的に「こういうものにしよう」というのを決めているわけじゃなくて。どんな人が応募してくださるかにもよりますし、あまりこちらから「こうじゃないといけない」みたいなハードルは設けないようにしたいんです。
うじた 確かに、間口は広くしておいたほうが可能性が広がりますよね!
40mP そうそう。このプロジェクトは長い目で根気よくやっていきたいと思っているので、即戦力というよりは長くやっていく覚悟のある人と一緒にやりたいかな、ということを漠然と考えています。もちろん、音楽的にいいものを一緒に作れるということが前提にはなってくるんですけど。
うじた なるほど! 単発の企画じゃなくて、継続的に育てていく感じになるんですね。
40mP そうですね。これまでに僕がやらせてもらってきた楽曲提供の仕事は基本的に単発のものが多かったので、時系列で追えるような継続的なプロジェクトをあまりやったことがないんですよ。そういうのをやってみたい気持ちが今ちょっとあって。
うじた プロジェクト自体にストーリー性が生まれると面白いですよね。TikTokとかでも「え、今それなの?」っていうのが急にバズったりしますし、いつ何が伸びるかはわからないから、いいと思ったものを信じて根気よく貫く姿勢は大事だなと私も思います。
40mP 特に今の時代、けっこう短期的な成果ばかりを求められがちじゃないですか。それによって、やれることの幅がけっこう狭まっているような気もするんですよ。
うじた 本当にそう思います。そうじゃないやり方をすることで、また新しい表現方法が見つかるかもしれないですもんね。
40mP そうですね。まあ「ボカコレ」にせよこのオーディションにせよ、クリエイターにとって作ったものをアウトプットする窓口というのは多ければ多いほどいいと個人的には思っているので、その候補の1つとして考慮に入れてもらえたらうれしいかなって感じですね。とりあえず一度、募集要項に目を通してみてください(笑)。
うじた うふふふ。
ある種の自己満、されど自己満
うじた そういう試みがいろいろ広がっていって、引き続きボカロ文化が盛り上がり続けていってほしいなと思います。なくなることはないだろうけど、なくならないでほしい(笑)。
40mP 何年も前から「なくなるだろう」と言われ続けながら、実際はどんどん進化していってますからね。
うじた 本当ですよね。みんなでシーンを育てていっている感じがして、すごいなと思います。
40mP さっきの話とも被りますけど、ボカロが生まれた当初と比べて本当に聴いてくれる人の幅が広がりましたよね。僕、小学生の子供がいるんですけど、その友達も含めてみんな当たり前のようにボカロ曲を知ってるし、口ずさんでるんですよ。給食の時間にも流れるらしいですし(笑)。
うじた あははは。確かにカルチャー的な部分での変化はすごく感じますね。もうオタクだけのものではないっていうか。
40mP 「どこで知ったの?」と聞いたら、「好きなVtuberが歌ってた」とか「ゲームで知った」とか言うんですよ。いろんなところにボカロ曲があふれてるんだなっていうのを実感します。
うじた 音楽も含めていろんなものが多様化している世の中で、ボカロもその選択肢の1つとして確立されたってことですよね。そこでボカロを選んでくれる子が多くてすごくうれしいです。
40mP 今の子たちに選ばれる理由って、世代の近いうじたさんから見てどういうところだと思いますか?
うじた そうですねえ……歌い手にいい意味でバックグラウンドがないから、聴く側が自分を投影しやすいっていうのはあると思います。“人間のアーティストさん”だと、よくも悪くも“その人の歌”になるじゃないですか。例えば恋愛の歌だったら「この人、過去にこういう恋愛してきたのかな?」みたいな(笑)。ボカロの場合はそういうことを一切考えなくていいから、自分の気持ちをそのまま投影しやすいのかなと思ったりはします。
40mP なるほど、確かにおっしゃる通りですね。それは作り手にとってもまったく同じで、“人間のボーカリスト”に楽曲提供するときはある程度その人の人間性や音楽性に寄り添ったものを作る必要があるんです。「この人はたぶんこういうことは言わないだろう」みたいなことを考えながら歌詞を書いたりするんですけど、ボカロの場合はその工程がいらないんですよね。100%自分から出てくるものだけを投影できるのはボカロ特有のいいところかもしれない。
うじた 自己完結できる制作というのはやっぱり魅力ですよね。もちろんチームや組織で作るもののよさもあると思いますけど、誰にも邪魔されずに1人で何かを作り上げることでしか生まれない価値って絶対にあると思いますし。ある種の自己満ではあると思うんですけど、されど自己満と言いますか(笑)。
40mP そうですね(笑)。作り手が主体となって、ちゃんと一人称で作った作品を発表していける場としてボカロシーンが残っていくのが理想だなと思います。例えば今、AIシンガーがすごく注目されているじゃないですか。
うじた AIシンガー! 確かに!
40mP あれは本当に画期的で、ちょっと打ち込むだけで本当に人間が歌っているかのようなリアルな歌声を生成してくれるんですよ。あれはあれで、歌い手が周りにいなくて音声合成ソフトを使い始めた身としてはすごくありがたい存在なんですけど、とはいえ今のボカロシーンをAIシンガーが席巻しているかというと案外そうでもなくて。初期のV3のミクの声とかもちゃんとシーンにあふれていて、意外にしっかり共存しているんですよね。それが個人的にはすごくいいことだなと思っていて。それはやっぱり利便性だけじゃなくて、さっき言った作り手のマインドみたいなものがシーンの中でちゃんと重んじられている証拠だと思います。
うじた なるほど……! 「技術は進歩してるけど、あえて初期のミクちゃんに歌わせたいんだ!」みたいなPさんのこだわりがちゃんと受け入れられる世界ってことですね。
40mP そうそう。そんな中で、最近の僕はリアルのシンガーさんへの楽曲提供仕事ばかりになってきていて、なかなかボカロ曲を発表できていないんですね。ただ、楽曲提供する際のデモ音源の仮歌はボカロで作ってるんですよ。しかも、けっこう作り込んでる(笑)。当然、世には出ないものなんですけど。
うじた ええー、すごい! いわゆる“調教”ってやつですよね。それを仮歌でやってらっしゃるんですか?
40mP はい。そのままボカロ曲として発表できるくらいのクオリティまで追い込んでます。作り手のマインド維持にはそういう方法もあるよな、と思ってやってますね。
うじた その仮歌、めっちゃ聴いてみたい(笑)。表に出ないの、もったいないですよ!
40mP ははは。確かに、仮歌だけを集めたアルバムを出してもいいかも。セルフカバーみたいなノリで。
うじた ぜひぜひ! だって、それ作るの絶対大変じゃないですか。
40mP 確かにそうなんですよね……。ただ僕の場合、それが仮歌に限らずで。ほかの楽器の音とかも、あとで生演奏に差し替えられるのにめっちゃ凝った打ち込みをしたりもするんです(笑)。端から見たら無駄に見えるかもしれないんですけど、それが楽しくて音楽やってるところもあるんで。
うじた めっちゃわかります! そういうこだわり大事!
40mP そこをヘタに効率化してしまうと、創作性という意味では確実に失われるものがある気がするんですよ。仕事としてその工程が必要なのか不要なのかという次元を超越したところで、これからも自分の中でこだわっていく部分なのかなと思っています。
対談動画
「ボカコレ2024冬」特集
- 「ボカコレ2024冬」特集|クリエイターDECO*27、リスナー土生瑞穂が語るボカロならではの魅力
プロフィール
40mP(ヨンジュウメートルピー)
岡山県生まれのアーティスト。2008年より初音ミクを中心としたボーカロイド楽曲の制作、動画投稿サイトでの発表を開始。2013年夏にはNHK「みんなのうた」のオンエア曲に「少年と魔法のロボット」が選ばれ、ボカロ曲の採用が番組史上初ということもあって大きな話題になる。「SNOW MIKU 2015」のテーマソング「Snow Fairy Story」や、のちに実写映画化された「トリノコシティ」、伊藤園の野菜ジュースの販促活動に使用された「だんだん早くなる」、うじたまいとのコラボ曲「ツノ」などを発表。2019年、YouTubeチャンネルの動画総再生数が1億回を突破した。現在はボーカロイド楽曲の制作のほか、歌手、アニメ、ゲーム、映画などへの楽曲提供、専門学校での特別講師、小説やエッセイの執筆・監修など幅広く活躍している。2021年には、音楽×ストーリープロジェクト「何時何分地球が何回まわったら」をスタートさせた。
うじたまい
東京生まれ、東京育ちのマルチクリエイター。中学生からバンド活動を始め、声優アーティストを目指して専門学校へ入学。現在はTikTok、YouTubeを軸にさまざまな楽曲を発表している。2020年リリースの「独りうた ~September調子はどうだい~」はSNSを中心に大流行し、自身の代表作に。2021年には40mPとのコラボ曲「ツノ」をリリース。独自の世界観で動画クリエイターとして活躍し、アイドルやWeb CMの楽曲も数多く手がけている。