ボーカロイド文化の祭典「The VOCALOID Collection ~2024 Winter~」が本日2月22日にスタートした。
2020年に初開催され、今回は4日間にわたって行われる「The VOCALOID Collection」、通称「ボカコレ」。クリエイター、ユーザーという垣根を越えて参加できるネット最大級の“ボカロ楽曲投稿祭”として、ボカロに関わるすべての人々に親しまれてきた。
イベントでは、「TOP100」「ネタ曲投稿祭」「ルーキー」「REMIX」という4つのカテゴリで順位を競うランキング企画が展開されている。投稿曲のうちランキング1位に選出された楽曲は、スマホゲームプロジェクト「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」内に実装され、「ニコニコ超会議2024」のテーマソングに採用される特典も。さらに、40mPがヘッドプロデューサーを務める「ボカコレ×歌コレ『#バズスタ オーディション』」や、ボカロPやボカロ好きアーティストによるプレイリスト企画など、ボカロカルチャーを多角的に楽しめるさまざまなコンテンツが用意されている。
音楽ナタリーでは「ボカコレ」の開催を記念して、ボカロに関わりのあるアーティストのインタビュー2本を公開。DECO*27と元櫻坂46の土生瑞穂の対談記事に続いて、第2回ではボカロ曲をきっかけに音楽活動を始め、今やボカロだけでなくさまざまな楽曲を世に送り出している40mP、TikTokでボカロ曲のカバーを投稿しているマルチクリエイターうじたまいのインタビューを掲載する。クリエイターとして多方面で活躍する2人が思う、ボカロならではの魅力とは? さらにアーティストとして互いに惹かれるポイントや、ボカロシーンの未来についても語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 入江達也
最初に感動したのが初音ミクの曲だった
うじたまい 私が40さんの曲を聴き始めたのは中学生のときなんですけど、その頃ってボカロがブームみたいな感じで、黒うさPさんの「千本桜」とかがめっちゃ流行っていたんですよ。
40mP というと、2012年くらいですかね。
うじた そうですね。2011年か12年か、そのあたり。周りにオタクの友達がいっぱいいて、その子たちからニコニコ動画というものを教えてもらったんです。それで40さんとかハチさんとか、いろんなボカロPさんの曲を聴くようになって「なんだこの曲たちは!」と衝撃を受けました。
40mP 衝撃を受けましたか。
うじた はい! 生身の人間には歌えないような旋律が多かったので、それが衝撃的で。それまで聴いていたJ-POPにはない、新しさと面白さを感じましたね。40さんはそんなふうに広く流行りだす前からボカロ曲を作ってらっしゃったと思うんですけど、ボカロとはどうやって出会ったんですか?
40mP 僕がボカロに出会ったのは本当に初期の頃で、2008年の春頃でした。ちょうど大学生から社会人になるタイミングだったのではっきり覚えているんです。それまでもパソコンでの音楽制作はやっていたんですが、新たな挑戦として「歌モノを作ってみたい」と思って興味を持ったのが最初ですね。ずっと歌がない曲ばかり作っていたので。
うじた そうだったんですね!
40mP それで、最初は雑誌についていた初音ミクの体験版を使って曲を作ってみたんですよ。それを試しにニコ動にアップしてみたらたくさんの人に聴いてもらえたので、改めて楽器屋さんで製品版を買って本格的にボカロを使うようになっていった感じですね。店頭では初音ミクにするか鏡音リン・レンにするかで迷ったんですけど、結局ミクを買って。
うじた おおー。そこでミクちゃんを選んだ決め手はなんだったんですか?
40mP やっぱり、最初に聴いて感動したのがミクの曲だったというのが大きかったと思います。店員さんには「リン・レンは音色が2種類使えるのでお得ですよ」とめっちゃ薦められたんですけど(笑)。
うじた あははは、確かに(笑)。
40mP 実際に使ってみてすごく思ったのは……生の歌を録音するのって、機材や環境を整えるハードルがけっこう高いじゃないですか。今でこそだいぶハードルは下がりましたけど。
うじた そうなんですよね。最低でもマイクとオーディオインターフェイスが必要になりますし、マンション住まいとかだと歌える場所も限られますし。
40mP そうそう。しかも自分で歌わない場合は、歌ってくれる人も確保しないといけない。その点、ボカロだったらソフトだけで完結しますから。最初にボカロを使ったときは、「自分の作った曲に歌が乗っている」という事実にまず感動しましたね。そんな経験、それまでなかったので。
うじた なるほど! 私の場合はまず「自分が歌う」ということが前提になるので、それはすごく新鮮なお話ですね。
40mP うじたさんは、いつ頃から作曲を始められたんですか?
うじた TikTokに動画を出し始めてからですね。
40mP あ、そうなんですね。もっと前からやられていたのかと思っていました。
うじた 全然なんですよ。バンドをやってはいたんですけど、そのときはメンバーの作った曲を歌うだけで、自分にはできないと思っていたので。今思えば「曲を作る」ということを重く考えすぎていたのかもしれないです。
40mP 確かに作曲って、そう思われがちなものではありますよね。
うじた やってみたら案外できちゃうもんだなと。私が最初に投稿した自作曲は「しまうまになりたいな」っていう、本当にしょうもないアカペラのやつだったんですけど(笑)。それくらいラフな感じでもいいんだっていうのは、やってみてから気付いたことですね。
めちゃくちゃ気持ちよかったです
うじた 私は初めて40さんの曲を聴いたとき、「人間が歌っても絶対いい曲なんだけど、それをボカロが歌っている」というところに衝撃を受けたんですよ。
40mP ああ、なるほど。
うじた ボカロってあんまり歌詞が言葉として入ってこないイメージがあったんですけど、40さんの曲はミクちゃんが歌っていても言葉がストレートに入ってくるというか。そこにびっくりしたし、素敵だなと思いました。
40mP ありがとうございます。それは僕がもともと「歌ってくれる人がいないからボカロに歌ってもらおう」ということで使い始めているからかもしれないですね。もちろんボカロでしかできない歌表現を追求した時期とかもあるんですけど、基本的にはやっぱり人が歌って楽しい、口ずさんで気持ちいいメロや歌詞が好きなんだと思います。
うじた それはもう、めちゃくちゃ気持ちよかったです。
40mP あははは。
うじた ずっとカラオケとかで歌ってきた身としては(笑)。それこそ3年ほど前にコラボさせていただいた「ツノ」もそうですし……最初は本当にダメ元でコラボをお願いしたので、当時はまさかお返事をいただけるとは思っておらず、「こんなことがあるんですね」って感じでした(笑)。
40mP そのときもたぶんお話ししましたけど、ご連絡をいただく前からうじたさんのことは存じ上げていたんですよ。TikTokというものの存在を知って最初に認識したクリエイターがうじたさんで、「曲もめっちゃいいし、声もいいな」と思って、ずっと覚えてたんです。ご連絡いただいたときは「まさかあの人から?」と驚きました。
うじた わあー! うれしいです!
40mP なんというか、うじたさんの歌声には物語を感じるんですよね。たとえ物語を描いた曲ではなかったとしても、歌声自体に絵本を読み聞かせているような魅力があるというか。僕は子供の頃から絵本がめちゃめちゃ好きなので、そのフィーリングがすごく合いそうだなと思った記憶があります。
うじた 私も絵本はめっちゃ好きです! 40さんの曲だと特に「少年と魔法のロボット」がすごく好きで、ああいう世界観の曲を一緒に作ってみたいなという思いからコラボのお願いをさせていただいたんですよ。ちゃんとストーリーの主人公がいて、自分自身の気持ちを投影しつつもその子のお話として進んでいくようなものにしたくて。
40mP なので「ツノ」はあまりメロやアレンジで奇をてらうことはせず、純朴さを意識して作ったと思います。シンガーソングライターが作った感じになるように、というか。アコギを入れたのもその表れで、弾き語りっぽいイメージにしたかったんですよね。たぶん、うじたさんがいいと思ってくれている自分の要素はそういうところにあるんじゃないかなと思ったので。
うじた うれしいー! 最初に上がってきたデモを聴いたときは、まだメロディだけの状態だったのに歌が聞こえてくるかのように感じられて、本当に感動しました。あのときの私はけっこういろいろあった時期で(笑)、それもあってめっちゃ号泣してしまったのをよく覚えてますね。
40mP あとは「ツノ」の歌詞で言うと、僕は「ランランドゥ」がめっちゃ好きで(笑)。
うじた あー!(笑) 確かに、40さん制作のときからおっしゃってましたよね。
40mP 自分からは絶対に出てこない言葉だなと思って。僕はどうしても意味を持たせるような歌詞しか思いつかないから。
うじた 私はオノマトペが好きなので、けっこうそういうのを入れがちなんです(笑)。自分の曲を作るときはメロと歌詞を一緒に考えちゃうので、すでにあるメロディに歌詞を当てはめるということをあまりしたことがなかったんですけど……「ランランドゥ」は、実際に口ずさみながら「歌って気持ちいいのはどれだろう?」と探っていって決めたフレーズだったと思います。
40mP つまり“歌詞を書く”というよりは、口をついて出てきたものってことですよね。
うじた そうです。自然に出てきたもの。
40mP それが歌う人ならではの感覚なんだろうなあと思って、とても勉強になりました。
うじた こちらこそです! ボーカル録りのときに自分では思いつかないようなアドバイスをいただいたりもして、表現方法が広がった実感があったんですよ。知らず知らずのうちに自分で勝手に限界を決めてしまっていたんだなあと思い知らされました。基本いつも1人で全部作っているので、自分だけで100%できていると思っていたんですけど、それが200%になる感動と言いますか(笑)。それをすごく教えていただきましたね。
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「ボカコレ」は文化祭みたいなイメージ