The VOCALOID Collection ~2024 Winter~ DECO*27×土生瑞穂|クリエイター、リスナー目線で語るボカロならではの魅力

ボカロ文化の祭典「The VOCALOID Collection ~2024 Winter~」が2月22日から25日までの4日間にわたって開催される。

2020年に初開催され、今回で7回目を迎える「The VOCALOID Collection」、通称「ボカコレ」。クリエイター、ユーザーという垣根を越えて参加できるネット最大級の“ボカロ楽曲投稿祭”として、ボーカロイドに関わるすべての人々に愛されてきた。

イベント期間中には「TOP100」「ネタ曲投稿祭」「ルーキー」「REMIX」という4つのカテゴリで順位を競うランキング企画が実施される。投稿曲のうちランキング1位に選出された楽曲は、スマホゲームプロジェクト「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」内に実装され、「ニコニコ超会議2024」のテーマソングに採用されるカテゴリも。さらに、40mPがヘッドプロデューサーを務める「ボカコレ×歌コレ『#バズスタ オーディション』」や、ボカロPやボカロ好きアーティストによるプレイリスト企画など、ボカロカルチャーを多角的に楽しめる多彩なコンテンツが用意される。

音楽ナタリーでは「ボカコレ」開催に向けて、ボカロに関わりのあるアーティストのインタビュー2本を掲載する。第1回ではボカロPとして第一線で活躍するDECO*27と、カラオケで歌うほどのボカロ好きだという元櫻坂46の土生瑞穂が、ボカロならではの魅力やボカロカルチャーの理想像、今回の「ボカコレ」についてトーク。土生はDECO*27楽曲の好きなポイントを本人にたっぷり伝えた。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 入江達也

ボカロにしかない世界観がある

土生瑞穂 私がボカロを聴くようになったきっかけがDECO*27さんの「二息歩行」だったので。

DECO*27 うわ、ホントですか?

土生 本当です(笑)。なので今日こうしてお会いできて、夢のようです。もともとYouTubeとかでボカロ曲に触れる機会が多かったんですけど、DECOさんの曲は人気なので“おすすめ”によく出てくるんですよね。そこで「二息歩行」に出会って、DECOさんの曲やボカロ全般にどんどんハマっていった感じでした。

DECO*27 うれしい。どういうところを気に入っていただけたんでしょう?

土生 DECOさん特有のクセになるメロディとか、歌詞の言い回し……早口なのに思わず口ずさんじゃうような感じが、“沼り”の原因だったんだと思います。

DECO*27 沼ってしまったんですね(笑)。

土生 沼ってしまいましたねー。

左からDECO*27、土生瑞穂。

左からDECO*27、土生瑞穂。

DECO*27 最初にボカロの声を聴いたときはどんな印象でした? やっぱり人の声とはちょっと違うじゃないですか。

土生 初めて聴いたときは驚きました。人では表せない音域とか、息継ぎのない感じとか、ボカロにしかない世界観をすごく感じたんです。それで興味を惹かれて、もっといろんな楽曲を聴きたいなと思いました。逆に、DECOさんが初めてボカロを聴いたときはどんなふうに感じられたんですか?

DECO*27 僕が最初に聴いたボカロは初音ミクだったんですけど、なんの違和感もなく「いい声だな」と思ったんですよね。すんなり入れた感じでした。この声を自由に操れるということにすごく大きな魅力を感じて、自分も作る側になりたいと思ったんですよ。

土生 すごい! 素敵な出会いですね。

DECO*27 実際に作り始めてからよく感じるのは、ボーカロイドが歌うことによって……例えば歌詞の内容が刺激的だった場合に、生身の人間が歌うよりも生々しさを薄めてくれるんですよ。言葉の響きだけに特化できるというか、歌と楽器の中間にあるようなイメージで、ちょっと不思議な感覚が当初はありましたね。あと、曲を作る人間としてすごく助かるのは、キーを気にしなくていいっていう。

土生 なるほど! 確かに。

DECO*27 人間が歌う場合は「この方にはこの部分がちょっと高すぎるから、全体のキーを下げますか」ということがあるんですけど。あとは土生さんもおっしゃったように息継ぎを考慮しなくていいので、自由にメロディを詰め込むことができる。そういうふうに物理的な制約のほぼないところで歌メロを作れる喜び、面白さがボカロにはあるなと感じてますね。

DECO*27

DECO*27

土生瑞穂

土生瑞穂

耳だけじゃなく目でも楽しめる

DECO*27 あとボカロ特有の要素として、キャラクター性とかもありますからね。“音楽クリエイターだけのものではない”というのは面白いところだと思います。イラストを描く方や動画を作る方もボカロ文化には欠かせない存在ですし、耳だけじゃなく目でも楽しめるっていう。なんなら「曲が好きだからコスプレしちゃうぞ」という楽しみ方もあると思いますし……やってました?

土生 コスプレですか? 実はやってました(笑)。

DECO*27 お!

土生 名前が瑞穂なので、水色が好きだったんですよ。で、初音ミクちゃんの髪が水色に近い緑色だから、「あの髪色いいな」と思ってマネしたいと思ったんですけど、それは難しいなと思って、ウィッグを買いまして(参照:「土生 瑞穂 公式ブログ」)。

DECO*27 え、最初は染めようとしたってことですか?

土生 染めるのはさすがにハードルが高いなと思って(笑)。それでウィッグを使ってコスプレしてみたら、「自分じゃない誰かになるのってすごく面白いな」と気付いたんです。それ以来、けっこうコスプレをするようになりました。

DECO*27 曲を聴くだけじゃなく、いろんな楽しみ方をされていたんですね。

土生 そうですね。あとは昔、軽音部でギターをちょっとだけやっていたので、弾くほうにもチャレンジしてみたりとか。

DECO*27 マジですか!

土生 「弾いてみた」動画も好きでよく観ていたので、そこでよくカバーされていた「千本桜」とか「敗北の少年」を自分でも弾いてみたいなと思ったんです。難しすぎて断念しましたけど(笑)。

DECO*27 「敗北の少年」はかなり難しいと思います(笑)。kemuくんですよね。それだったら、初期の頃のDECO*27はどの曲も易しいので弾きやすいと思いますよ。ギターもベースもドラムもたいして難しいことはやってないので、初めて弾くボカロ曲にDECO*27はいかがでしょうか。

土生 わあ、ありがとうございます。挑戦してみたいと思います!

左からDECO*27、土生瑞穂。

左からDECO*27、土生瑞穂。

DECO*27 個人的には、土生さんにはぜひベースをやっていただきたい。絶対似合いますよ。

土生 ホントですか? 実は今、ちょっとベースにも挑戦したいなと思ってて。

DECO*27 ぜひぜひ。絶対カッコいいですよ。

土生 (恐る恐る)セッションしていただけるなら……。

DECO*27 お! 僕、何やりますか? ギター? ドラム?

土生 ギターで(笑)。それがもし実現するとしたら、もう本当に夢みたいなお話ですね。

DECO兄さんです

DECO*27 さっきも言いましたけど、ボーカロイドのカルチャーは音楽とビジュアルが密接に結びついているものなので、その点ではアイドルのカルチャーと共通する部分も多いと思うんですよね。

土生 確かに。私がグループで活動していたときに楽曲を届けるうえで一番気を付けていたのは、まずその曲のテーマに合わせたビジュアルを作り上げること、形を整えることでした。

DECO*27 それによって、音だけでは伝わらないものまで伝えられる面白さがありますよね。

土生 そうですね。あと、私がグループで活動していたときは常に“誰かに寄り添う”ということを大切にして歌ってきたんですね。DECO*27さんの作られる楽曲を聴いていると近いものを感じます。常に今の時代と向き合っていて、新しい発見が毎回ある。いつも勉強になるなあと思っています。

左からDECO*27、土生瑞穂。

左からDECO*27、土生瑞穂。

DECO*27 その意識は確かにありますね。例えば学生の子がボーカロイドを聴いたときに「自分もちょっと音楽を作ってみたい」「イラストを描いてみたい」というふうに、モチベーションを持ってもらえるような曲が作れたらいいなと思っているので。自分が本来やりたいことをやるのはもちろんですけど、それと同時に今の若い子が好きそうなイメージにも合わせに行く。そのバランスを取りながら作っているところはあります。

土生 すごいです。常に先陣を切ってらっしゃるのはさすがだなあと思います。

DECO*27 以前、こういうことがあったんです。小学校の職業インタビューみたいな授業に呼ばれたことがあって。警察官の方とか保育士さんとか、いろんな職業の人を学校に呼んで生徒さんが話を聞くみたいな。そこに僕も呼ばれて話をしたんですけど、そのとき呼んでくれた子と数年後に別のところで再会したら「あのときのことがきっかけになって、今、自分でも音楽やってます」と言ってくれて。

土生 えー! それはうれしいですね。

DECO*27 そういう経験がいくつかあるので、やっぱり自分のことだけではなく聴いてくれる人のことも考えなきゃなって思いますね。

DECO*27

DECO*27

土生瑞穂

土生瑞穂

土生 私も学生時代にボカロにハマって、「音楽が好き」というところからこの世界に入ってきているので、すごく大きな範囲で言えばDECOさんの影響を受けた1人ではあると思います。だから私からすると、“DECO*27さん”というより“DECO兄さん”です(笑)。

DECO*27 DECO兄さん(笑)。

土生 同じように思っている妹たちや弟たちがいっぱいいると思いますよ。ちなみに、なんて呼ばれるのがお好きですか? “DECOさん”なのか“ニーナさん”なのか、「これで呼ばれたい」っていうのあります?

DECO*27 すごい質問(笑)。まあ“DECOさん”が一番多いですけどね。

土生 “兄さん”は……。

DECO*27 “兄さん”は呼ばれたことないなあ(笑)。妹がいるんですけど、妹も兄さんとは呼ばないんで。いや、なんでも好きなように呼んでもらって大丈夫ですよ。

土生 じゃあ“DECOさん”で。

DECO*27 “兄さん”どこ行ったの!(笑)


2024年2月22日更新