ボカロが流行しなければ支持されなかった曲
kz アニソンやゲーソンを手がけるようになって、アニメ業界と関わることが多くなってきたんですけど、自分自身はアニメ界隈の人間かと言われるとなんか違う気がしていて。もちろん仲はいいけど、アニメ業界にいるとけっこう疎外感みたいなものを感じることがあるんですよね。
じん わかります。
kz それってただ空気感の話だけじゃなくて、作っている音楽もやっぱり違うんだと思う。これまで何度か「キャラソンを作ってみませんか?」というお話があって、デモを出してみたんですけど、全部落ちてるんだよね。
じん kzさんでもコンペで落ちることあるんですか?
kz めっちゃ落ちる。たぶん、アニメのキャラソンに求められている音楽のフォーマットと、僕らがやっている音楽のフォーマットが単純にマッチしていないんだと思う。ボカロから派生した曲たちがアニメに向いていると思われがちだけど、音楽だけを純粋に切り取ったら実はアニソンの大きな流れからは逸脱した存在が、僕らボカロ畑から出てきた作家が作るアニソンなんじゃないかなと。
じん 確かにそうかもしれないですね。自分の音楽がアニメに合っているだなんて、昔は思ったこともなかったですから。
kz それでもタイアップがあるのは、インターネットのミュージックシーンがちゃんと成立して、一定数以上の認知があったからだと思う。
じん 既存の流行の音楽に食い込めるくらいのムーブメントがネットにあったからだと僕も思っています。僕はそれをネット側の人間として見ていて、すごい瞬間に立ち会ったなと思っています。さっきも言った通り、ライブハウスはライブハウスで閉鎖的というか、新しくてよくわからないけどすごいものを「好き」と言えない空気感があった。でもネットの音楽はいろんな隆盛があって、言ってみればJ-POPの品位みたいなやつを全部取っ払って音楽を発表できる、評価してもらえる場所が確立されたんですよね。だから僕はボカロシーンってロックなシーンだなといつも思っています。
kz わかるなあ。
じん 10年ぐらい前のロックシーンはロックに見えなくなる瞬間があって。それは僕が感じただけかもしれないし、否定すればいいようなものじゃないかもしれないけど、少なくとも自分には合わないと感じてしまった。
kz クローズドな空気感になっているとダサく見える瞬間ってあるんだよね。もちろんクローズドであることの利点もあるし、すべてがオープンである必要はないけど、内側にいる人間たちがクローズドであることに優位性を感じ始めたらもう終わりだと思う。ボカロシーンもそういう時期に一瞬なった気もするけど、新しい世代が入り続けてくれたからか、ちゃんと隔たりなくみんなが楽しめる空間になったと思っています。
10年以上続けて見えてきたもの
──インタビュアーが口を挟む必要がないくらい、濃いお話をありがとうございます(笑)。1つお伺いしたいんですが、それこそ動画投稿の参入障壁が下がって、プロからアマチュアまで誰もが参加できるようになることで、今度は動画共有サイト上で新人が評価されにくい場になってしまう、みたいなことはないんでしょうか?
じん いい曲を書き続けていれば大丈夫だと思います。それと認められない時期って無駄じゃないんですよ。音楽は届かなければ届かないほど磨かれるものだから。どこまでやっても届かないと思って辞めてしまう人もいると思うけど、最後まで残り続けている人たちはやっぱり自分の音楽を磨き続けてきた人たちなんです。何か大きな流行があったとしても、新しい尖ったものを持った人が必ず出てくる。どういう場であろうとそういう循環が終わることはないと思うから、自分の音楽を磨き続けて欲しいですね。
kz それとアングラだからよかったというのを否定はしないけど、それってさっき僕が言ったクローズドであることの優位性みたいなことにつながっちゃう気がしてあまり健康的じゃないかなと思うんです。動画というカルチャーである以上、例えば絵が動くかとか、音楽以外の側面でコントロールされてしまう悔しさはどうしても出てきてしまうかもしれませんが、じんくんが言った通りいい曲を書き続けていれば必ず評価されると思います。
──ニコニコ動画やYouTubeのような動画共有サイトはこれからどうなると思いますか?
kz ひょっとしたら5年後はYouTubeよりニコニコのほうが流行っているかもしれませんし、どうなっているかは本当に予想できないと思います。ボーカロイドも「今年で終わりだ」なんて何度も言われてきたのに、10年以上経っても勢いがあるし。むしろ最近はちょっと前より盛り上がってますよね。
じん 今、盛り上がってますよね。
kz 場所の空気感とか属性で生まれるものが決まるみたいなことにならないで欲しいですね。結局面白かったら人は増えるし、面白くなければ人が去っていくだけだから。10年残ったのはみんな面白いことや、すごいことをやり続けた人たちで、10年前に「この人は残るだろうな」と思った人たちが、やっぱり残っている印象が強いな。
じん それはこの10年で証明されたと思います。めちゃくちゃいいメロディを書く人は今でもいいメロディを書き続けている。
kz だから僕はこれから先も安心しています(笑)。界隈の未来に危機感とかはあまりなくて、きっと面白いものが見れるんだろうなと思っているから。
じん 世の中のほとんどの人は音楽がなくても社会で生きていると思うんです。でも僕がそうだったように、音楽じゃないと世間と関われない人は少なからず存在して、そういう人たちが覚悟を決めて努力すれば報われる場所があることが救いだと思っていて。
kz 「ここはメジャーな場になっちゃったから俺の曲は受け入れられない」みたいにふてくされないほうがいいよね。人のせいにしたら報われるものも報われなくなってしまうから。それと今改めて思うのは、音楽はもちろん大事だけど、人と話すことも大事だということ。じんくんがタイアップ先の思いに寄り添えるようになったのも、人との接点があったからだし、今回の対談でもいろんな気付きがあったし。
じん 自分も含めてコミュ障な人は多いと思うけど、コミュニケーションの先に見えるものは間違いなくあると思います。
kz 10年以上やってきて一番大事だと思ったのが「人間と話そう」ということかもしれない(笑)。音楽と関係ないと思う人もいるかもしれないけど、誰かと話すことで新しい価値観を得ることがものすごく大事で。その価値観のおかげで、80点だった曲が100点まで磨き上げることができる瞬間もある。僕らはボカロでスタートしたけど、仲間ができて、シーンが移り変わって、いろんな人が増えて、いろんな人と関わった結果である今が面白いから、人との関わりが音楽もシーンも面白くするのは間違いないと思う。だから今日の結論は「がんばって話そう」(笑)。
じん いや、でもまったくその通りだと思います。僕もコミュ障が直ったわけではないので、これから先もがんばって話します!