「The VOCALOID Collection」特集 DECO*27×かいりきベア|10年経っても僕らがボカロを使い続ける理由

DECO*27のミクは「ザ・歌姫」

──先ほどミクの調声の話がありましたが、クリエイター同士だとより如実にボカロの個性を感じるわけですよね。

かいりきベア

かいりきベア 不思議なことに、同じソフトを使ってもみんな違うんですよ。僕は今年1月に「ベノマ」というリミックスアルバムをリリースしたんですが、そのときに「できればボカロの調声もやり直してほしい」と各クリエイターさんにお願いしていたんです。それはやっぱりクリエイターによって歌声が変わると、曲全体の肌感というか、質感が変わるんですよね。だからこそ、DECO*27さんからリミックスのお話をいただいたときは、打ち直してかいりきベアのミクにしなきゃなと(笑)。

DECO*27 まさにそうなってました。

──今お話に出てきた「かいりきベアのミク」を言語化することはできますか?

かいりきベア 自分ではわからないんですよ(笑)。特殊なことをしているつもりはなく、ボカロの調声をしていますから……。

DECO*27 かいりきさんのミクは、かいりきさんならではのギターサウンドに寄り添った存在なんですよね。ミクの特徴というより、かいりきサウンドのギターがジャキジャキ鳴ったサウンドに入れるならこのミク、みたいな調声だと感じています。人によってミックスのバランスもけっこう違うし、そこまで含めてミクに個性が表れるのかなあ。

かいりきベア DECO*27さんのミクのイメージを言葉にするなら「ザ・歌姫」だと思います。ストレートなロックサウンドに乗って力強く感情を歌い上げるイメージがすごくあります。ボカロPはたくさんいるけど、王道感のあるロックサウンドでDECO*27さんのミクを超えられる人は誰もいないな、と感じさせるくらいのクオリティだと思います。

DECO*27 いやあ、うれしいですね。ミクの声を聴いただけで、ある程度は誰のボカロかちょっとわかることもありますよね。

かいりきベア わかります。でもさっきも言ったように、自分の個性が本当にわからないんですよ。だから僕の味がちゃんと出てるかいつも不安に思いながら曲を発表しています。

DECO*27 大丈夫です。かいりきさんもメチャクチャ個性ありますよ。

音楽に仕込む違和感

DECO*27 「ダーリンダンス」を聴いて感じたんですけど、かいりきさんはギターをギターとして扱っていないですよね。これはもちろんいい意味で。

かいりきベア 確かにそうですね。「この音、ギターでやってるの?」みたいな音はけっこう多いです。

DECO*27 僕は「パワーコード、ジャーン!」「オクターブ奏法、イェイ!」と思ってギターを弾くタイプなので、僕からするとかいりきさんのギターの扱い方はかなり特殊なんですよ。

かいりきベア ギターが大好きなので、なんでもギターで出したくなっちゃうんですよね。音楽理論を一度外して考えて、ノイズ的なパーカッシブなギターの音をビートに乗せて入れているんです。厳密に音を追うとめっちゃ不協和音だったりするんですが、ビートに乗せて打楽器的な感覚で鳴らすと、ツルっと聴けたりする。しかもその不協和音が毒気というか、どこか引っかかる要素になる気がして。

DECO*27 それがあるからかいりきさんの曲は癖になるんですよね。僕は音楽において違和感がメチャクチャ大事だと思っていて。「おや?」と思ってもらわないと、もう1回聴いてもらえないんですよ。

かいりきベア ちょっとメモを取ってもいいですか?

DECO*27 (笑)。かいりきさんはメモを取らなくてもすでに体現できてますよ。

──DECO*27さんはどのように違和感を曲に入れるんですか?

DECO*27 僕はタイトルや歌詞に違和感を持たせるようにしています。例えば「乙女解剖」というタイトル。日常生活でまず出てこない言葉じゃないですか。

かいりきベア 確かに。初見で「乙女解剖」という文字の羅列を見たら、何が起きてるんだろう?って思いますね。

DECO*27 出すところは違えど、お互いに違和感を大事にしているクリエイターだと思っています。

かいりきベア 次の曲は歌詞にも違和感を入れていきます(笑)。

売れるも死ぬも自分次第

──お二人はボカロと出会ったこと、ボカロを選んだことによって、アーティストとして表現がどう変わったと思いますか?

DECO*27 曲を作る自由度がメチャクチャ広がったと思います。僕は中学時代からギターを弾きながら歌っていたんですが、すべて自分でやると癖が出るし、音域の制限もある。それに、人間が歌う場合はブレスをしないといけないし。自分が好きで曲作りをしているのに、気が付いたらいろんな要因で表現の幅が狭まっていた。ボカロに出会って、その狭まりがすべて取っ払われたんです。人間が歌わなくていいだけで書けるものが変わったし、幸運なことにボカロを使って曲を作る人がたくさんいてくれたから、僕の曲を聴いてもらえる機会も増えたんですよね。

かいりきベア 僕はバンドをやっていたのが大きいですね。バンドってだいたい4人か5人くらいいるわけで、曲を作ったり演奏したりするときに意見がぶつかるんですよ。育ってきた環境も違うし、バンドの方向性とかもそれぞれで思い描いているものが違ったりして、必ずしも自分の意見が通るわけではない。しかも意見が通ったところで「それが売れるか?」と聞かれると自信が持てない。そういう苦難を抱えながら音楽をやっていた身からすると、ボカロで曲を作るということは、誰にも邪魔されないし、すべてが自己責任で音楽と向き合えるんですよね。それが僕の性に合ってた。売れるも死ぬも自分次第のほうが気が楽なんですよ。

左からDECO*27、かいりきベア。

──ボカロPによってはキャリアを重ねていくうちにボカロの曲を発表しなくなってしまうアーティストもいらっしゃいますよね。2人はなぜ、ボカロで曲を作り続けるのでしょうか?

DECO*27 僕は完全に「好きだから」ですね。最初はソフトウェアとして触れていたミクのことがだんだん好きになっていったし、ミクに関わる人も好きになっていった。ボカロP、イラストや動画を作るクリエイター、カバーをする人たち、それぞれにファンがいてこの界隈が賑わっていると思うんです。ボカロを取り巻くこの場所が好きなので、曲を作り続けているんだと思います。ただ最近はミクのことが好きすぎるのもマズいと思って、ミクのことが好きだからこそ、ちゃんとミクを道具として見る視点も必要だと感じています。

かいりきベア それはどういうことですか?

DECO*27 ミクに愛着が湧くと、「この歌詞はミクに合わないかな」とか思い始めちゃうんですよ。それって、僕がボカロに出会う前に感じていた表現の幅を狭めていたことと同じだなということにある日気が付いた。「ミクっぽい」とか「ミクっぽくない」とか考えず、あのとき感じた制限のない自由に感じていたときの気持ちに戻して制作してみたら、やっぱりそのほうが楽しかったんですよね。

かいりきベア めちゃくちゃいい話ですね。

──かいりきさんはなぜボカロ曲を書き続けるんでしょうか?

かいりきベア このカルチャーが好き、というのはDECO*27さんと一緒ですね。ライバルがいるからこそ高め合えるとも思うし。YouTubeでボカロ曲を再生すると、同じぐらいの再生数のボカロ曲がサジェストされやすいんですよ。で、10万再生前後でけっこういろんな新しいPさんがいい曲を作っている。そういう出会いがあると自分のモチベーションにもつながるんですよ。

──お二人はどうやって若い世代のボカロPを見つけていますか?

DECO*27 ボカロPがTwitterでフォローしている人を深掘りしています。1人いいボカロPを見つけてそのフォローリストを見に行くと、界隈で仲がいい人が固まっていたりするんですよ。

かいりきベア 僕もよくフォローをたどってますね。ボカロPに限らず、歌い手さんとかもそうですね。そうやっていろんな世代、いろんなまとまりをよくリサーチしています(笑)。


2020年12月9日更新