感謝のリミックス
──今作にはデビュー曲である「starmine」と「Clione」をお互いがリミックスした音源が収録されています。それぞれのデビュー曲をどうリミックスしましたか?
kors k 「starmine」という曲は僕が持っていない「元気でハッピー、ブチ上げ」という要素がすごく魅力的な曲なんです。自分にない要素を持った曲に、僕なりのアンニュイ感を足しながら、今僕ができる限りのブチ上げ感を盛り込んだ形になりました。フロア仕様というか、今のクラブでかけても映えるようにも意識しました。
Ryu☆ リミックスの醍醐味って、作曲者になかったアイデアが盛り込まれることだと思うんです。リミックスを聴いて一番楽しめるのは原曲を書いた人だと思っているので、kors kの「starmine」は聴いていてめちゃくちゃ面白かったです。ちょっと変わった音が盛り込まれていて。
kors k 「starmine」に限らず意識していることなんですけど、普通に曲が進行している中で、異次元から違う音がポンと入ってくるようなアレンジが好きなんですよ。
Ryu☆ kors kが20年熟成させてきた技術力が炸裂しているんですよね。すごく勉強にもなりました。
kors k 実は以前からプロトタイプ的なものは作っていて、DJとしてステージに立つときに「starmine」をかけていたんですよ。そこでフロアの反応を見つつ調整を重ねていて、今回収録されたのはバージョン3という位置付けのものですね。すごく納得のいく形になったし、よりフロアライクでお客さんが踊ってくれそうな仕上がりになりました。
──ではRyu☆さんがリミックスを手がけた「Clione」についても話を聞かせてください。
Ryu☆ 僕がリミックスした「Clione」のテーマは「感謝」ですね。20年一緒に歩いてきたkors kへの感謝のリミックスです。
kors k 感謝か(笑)。
Ryu☆ 自分が聴いたら泣いてしまうようなエモい音にしたくて。最後のマスタリングを終えて通しで聴いたときに思わず泣いてしまったので、自分で自分に課したハードルはクリアしました(笑)。
kors k Ryu☆さんがリミックスした「Clione」を聴いて、20年の重みを感じましたね。
Ryu☆ リミックスをする際にオリジナルのデータをもらったんですけど、そのデータを開いたときにもう感動しちゃったんですよ。「よくぞ16歳でここまでやったなあ」って。自分ではとうていできないような音の組み合わせ方をしていたんですよね。
kors k 欠損していたデータのところはRyu☆さんが耳コピしてくれたんですよね。ありがとうございます。
Ryu☆ それくらいなんてことなかったよ。曲をいじり始めると聴いていただけでは気付かなかった発見があったんだよね。曲の中に深く潜るイメージというか、海の中に潜ってみたらいろんな新種を発見した感覚。だから「Clione」の魅力に20年越しで気付いたところがあった。
kors k 自分の20年だけじゃなくて、相手の20年を感じられたし、自分にとっての相手の20年を考えることもあって。「Ryu☆さん、ここをこういうふうに思って作ったのかな」とか。僕とRyu☆さんにしか見えないものもたくさんあると思って、本当に音を通した対話みたいなアルバムになった気がしますね。
ここなつとタッグ同士のコラボ
──アルバムには「Here We Are」という、ここなつとのコラボ曲が入っています。この曲は「beatmania」の最新機種「beatmania IIDX 28 BISTROVER」のロケテストにも収録され、ゲームユーザーの間でも話題になっていました。
kors k ここなつの2人と僕ら2人のイメージがけっこう重なっていると思ったんですよね。ここなつの2人は、すごくポジティブな元気いっぱいな子と、少し影のあるおとなしい子という対称的な2人組で、性格こそ違いますがThe 4thと被る部分があって。最初はここなつプロジェクトの一環として「宇宙旅行」みたいなコンセプトで曲を作ろうとしたんですけど、それがしっくりこなくて。コンセプトを見直して僕らの伝えたいことに合わせてみたら、曲作りがうまくいきました。
Ryu☆ 僕ら2人は親友でありながらライバルでもあるんです。いい塩梅で、いい凸凹具合があるというか(笑)。そういう共通項を照らし合わせながら、我々のステージにここなつの2人がゲストで来てくれた感覚なんですよね。だから名義が「ここなつfeat. The 4th」ではなく「The 4th feat. ここなつ」なんです。
kors k 早くもロケテストでいろんな人に遊んでもらって、喜んでもらえたみたいでうれしいですね。やっぱり僕らは「beatmania」のユーザーに刺さると手応えを感じますから。
Ryu☆ もう1つの新曲「Force of Quartz」も音ゲーを意識した曲ですね。
kors k 速くて、元気で、音数が多くて、声ネタが入っている。音ゲーの特徴を全部盛りにした曲が「Force of Quartz」です。
Ryu☆ 「Force of Quartz」のテーマは「20年の時間」。この20年で音ゲー界隈ではいろんなギミックが発明されてきたので、それを全部盛りしたら楽しんでもらえるかなと思って。
kors k 「Quartz」を調べてみたら「石英」という意味だったんだけど、これはどういう意味で付けたの?
Ryu☆ クォーツ時計の「Quartz」だね。「時」を表す言葉をタイトルにしたくて。
kors k なるほど。
──このタイトルはRyu☆さんが付けたようですが、曲によってどちらかがイニシアチブを取っているということでしょうか?
kors k 普通のコラボだとそうなんですが、The 4thの場合はどちらが主導かハッキリ言えないものも多いですね。僕だったらこうする、Ryu☆さんだったらこうするだろう、みたいなものはお互いにわかり合っているので、文字通り「The 4thとして作った」というほうがしっくりくるというか。
Ryu☆ 「NZM」とかは本当に一緒に作った曲なんですよ。北米ツアーで2週間くらいkors kと行動を共にする機会があって、ホテルの部屋も一緒だったから、そのときにね。
kors k ツアー中にMacBookで曲を作り始めたんですよ。とあるサンプリング音源が欲しくなったとき、Ryu☆さんが遠隔で自宅のPCを操作して音源を送ってくれたんです。僕はそういう知識が全然なかったから、「すごい時代になったな」と驚きました。
Ryu☆ 普段コラボで曲を作るとき、直接会って曲作りすることはほぼないんですよ。各自が自宅スタジオで作業して、それをデータで送ってそれが返ってきて、みたいなことがほとんどなんですけど、ツアー中は一緒に生活してましたから(笑)。本当に直接会話しながら曲を作るのはすごく新鮮で、思い出深い曲になりました。
──「NZM」はアメリカで作られた曲ながら、日本の新幹線がテーマですね。
kors k はい。僕ら2人はのぞみに乗って日本国内もいろんなところに行きましたから。新しく追加したメロディには“のぞみ要素”も入れているんですよ。僕、この作業を家でやっているとき、サブモニターでずっと新幹線の車窓の映像を流していました(笑)。
Ryu☆ わかるわかる。自分もけっこう動画や画像でイメージを膨らませながら作るタイプだから。
kors k もう1つ理由があって、僕は曲を作るときにアナライザーを気にして見ちゃう癖があるんですよ。アナライザーって周波数がどれくらい出てるか目視できる便利な機能ではあるんだけど、それを見ながら目で作っちゃうのがよくないなと思って。結局音楽は耳で判断するものだから、アナライザーに気を取られないように、別のイメージをサブモニターに流すようにしていて。
Ryu☆ なるほど。
kors k 新幹線の車窓から見える景色を流し続けることで、周波数がどうとか細かいことは気にせず、シンプルにスピード感を感じるかどうかに意識を持っていけたと思います。
Ryu☆ 昔はネット検索とかもこんなに便利じゃなかったから、それこそ20年前は絵はがきをたくさん買ってたんだよ。
kors k イメージの資料が絵はがきだったんだ。
Ryu☆ うん。サブカル系の雑貨屋とかにある絵はがきは曲作りのためにガンガン買ってスクラップにしてた。今だったらググって満足しちゃうからなあ。
kors k そういう意味でもこの20年でいろいろ変わりましたね。
2人の“父”であるdj TAKA
──アルバムに収録されている「V」「FLOWER」「quasar」はもともとオリジナルアーティストがお二人ではない曲です。なぜこの3曲が選ばれたのでしょうか?
Ryu☆ TAKAさんの曲は絶対に選ばなきゃいけないと思って。僕らの父親というか、自分たちを一般人からクリエイターに引き上げてくれた人ですから。TAKAさんには20年経ってもまだ返しきれないほど恩があると思っています。
kors k TAKAさんの曲を選ぶとなったら、やっぱり「V」は外せなかったよね。僕らがデビューしたのが「4th style」で、「V」が収録されたのがその次の「5th style」なんですけど、「5th」のロケテストのときに、プレイヤー全員が「V」をプレイしていたのが印象的で。
Ryu☆ 当時はクリエイターの日記がネット上に公開されていて、「4th style」の日記でTAKAさんが「すごい曲ができました」と書いていたんですよ。その曲が「V」だったんです。
kors k TAKAさんの狙い通り、ダントツの1番人気になりました。
Ryu☆ 僕らも20年曲を書いてきましたけど、狙って1位を獲るのって本当に難しいんですよ。ほかのクリエイターたちだって当然1位を狙って曲を作ってくるから、結果が残せるかどうかには運も必要だと思うし。そんな中でも「V」はTAKAさんの力量が遺憾なく発揮されている1曲で、僕らがリミックスするとしたら「V」しかなかった。あとYOSHITAKAさんの「FLOWER」も絶対外せない1曲でした。
kors k 「FLOWER」はメロディラインが素晴らしいのに加えてちょっとグリッチがかかったドラムとか。どこか哀愁を感じさせるサウンドがすごく心地いいんですよね。僕は自分でDJをやる際に、よくRyu☆さんがリミックスした「FLOWER」を使わせてもらっていて。
Ryu☆ うれしいですね。
kors k 今回は2人でリミックスできることになったので、今風なテイストにブラッシュアップしてみました。ハードコアなんだけどテンポがハーフになる、みたいな。「FLOWER」という曲はいろんな方がリミックスを手がけているんですが、その中に絶対ないであろう、僕らにしかできないスタイルのサウンドになった手応えがあります。
Ryu☆ めちゃくちゃ出来がいいと思う。kors kが作ったブレイクの部分が秀逸で「こうきたか!」と膝を打ちました。
kors k さっき話した「異次元から放り込むアレンジ」の1つですね。ぜひ注目してください。
──もう1曲「quasar」はdj TAKAさんとTaQさんのコラボ曲ですね。
Ryu☆ 海外のEDMにあるようなコライト曲を1つ作りたくて。だったらコラボ名義の楽曲を僕らのコラボでリミックスするのがいいんじゃないかと思って、TAKAさんとTaQさんのコラボ名義であるOutPhaseの曲から選ぶことにしたんです。中でも「quasar」は、ポーター・ロビンソンが「Ultra Music Festival」でかけた曲なんですよ。
kors k 「quasar」はジャンルで言うとトランスで、当時のトランス感が1周回って今新鮮になりつつあるんですよね。最近、またトランスが流行り始めている兆候もあるし。ただ僕らはハードコアで音ゲーを攻めてきた人間なので、The 4thバージョンは僕ららしくハードコアテイストになっています。
Ryu☆ この曲もリミックスするにあたってすごく勉強になった1曲ですね。ゲームで遊んでいただけでは気付かない細かい仕掛けとか、プレイしていて気持ちのいい要素をようやく理解した感覚があって。改めて先輩たちの曲作りの緻密さを学ぶ機会になりました。
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5000曲すべてをリミックスしたい