The 4th Ryu☆×kors k|ライバルであり親友、2人の20年が形に

Ryu☆とkors kのコラボ名義・The 4thの1stアルバム「Force of The 4th」が10月7日にリリースされた。

2000年稼働の音楽アーケードゲーム「beatmania IIDX 4th style」でデビューを果たしたRyu☆とkors k。2人のコラボ名義は当時のゲームタイトル「4th style」に由来しており、今作には同ゲームに収録されたRyu☆のデビュー曲「starmine」のkors kリミックス、kors kのデビュー曲「Clione」のRyu☆リミックス、また「I'm so Happy」「smooooch・∀・」というお互いの代表曲をマッシュアップしたナンバーなどが多数収録される。音楽ナタリーではデビュー20年を迎えた2人にインタビュー。20年前のデビュー当時のお互いの印象などを回想しながら、互いの音楽観の違い、気心の知れた仲だからこそ通じ合うThe 4thとしてのコラボの醍醐味などを語り合ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 後藤壮太郎

「starmine」のRyu☆と「Clione」のkors k

──本題に入る前に、2人が同時にデビューを果たした20年前の「beatmania IIDX 4th style」の話を伺えればと思います。「3rd style」稼働時のコンポーザーオーディションで合格を果たしたのがRyu☆さんとkors kさんだけですから、お互いのことを意識しなかったはずはないですよね。

Ryu☆ もちろんすごく意識していました。ホームページにお互いのプロフィールが載っていたんですよ。当時僕が20歳だったんですけど、kors kの年齢のところに「16歳」と書いてあって。「あの大人びた曲を16歳のクリエイターが作ったのか」とビックリしたんです。

kors k あはは(笑)。

Ryu☆

Ryu☆ 当時は今と違って、機材があるかないかで出音に大きく差がついた時代なんですよ。それを加味して、あのクオリティの曲を16歳で生み出せることに驚いたし、同期としてプレッシャーを感じました。

kors k もちろん僕もRyu☆さんのことはすごく意識していて。オーディションに受かって、「Clione」の編集をしにKONAMIを訪問したとき、オーディションで僕らを選んでくれたdj TAKAさんに「受かったもう1人の曲はどんな感じですか?」と探りを入れてみたんですよ。そうしたら「まあ、ハッピー系かな」と言うだけで濁されちゃって。そのときからすごく気になっていたから「4th style」稼働時にすぐチェックしたんです。そうしたらRyu☆さんの曲はTAKAさんが言っていた通りハッピーハードコアの曲で、ゲーム的に“すごく押さえた”曲だった。テンポが速くて、プレイしているとテンションが上がるというか。「beatmania」のプレイヤーって、やっぱり難しい曲にトライするのが好きなんですよ。「starmine」はアップテンポで難しい曲だったのに対して、「Clione」はちょっとビギナー向けの曲という位置付けで。

Ryu☆ そうだね。難易度が1つ違ったんだよね。

kors k そこがすごくうらやましかった。僕は音楽のルーツ的にもちょっと叙情的というか、ちょっとキレイめな曲を好んで聴いてきたので、ハッピーで速い曲調のものを当時は作ったことがなかったし。自分にできないことをちゃんと形にしている人が同期だったので、僕は僕でプレッシャーを感じていました。あと、ゲームのムービーで流れるトランちゃんが踊ってる映像もうらやましかったなあ。

Ryu☆ 「starmine」は4th styleで最後に収録された曲で、キャッチーなムービーを作ってもらえたけど、「Clione」のムービーはストーリー性があって、すごく作り込まれている印象だったなあ。

kors k 「Clione」のムービーってロマンチックなんだよね。ムービー中に「Why」って文字が浮かび上がってくるし。「わ、こんな表現になるんだ」って驚きました。

──2人が最初に出会ったのはいつなんですか?

kors k デビューから4年後くらいかな。僕が専門学校に通っていたとき。TaQさんが音クラ(音楽ゲームの曲を流すクラブイベント)カルチャーの黎明期にイベントを開いていて。そのとき「ちょっと遊びに来る?」と誘われて行った先にRyu☆さんもいたんです。最初、僕はもう1人いた違うクリエイターの方をRyu☆さんだと思い込んでいて、その方に挨拶してたらRyu☆さんが後ろから歯を磨きながら出てきて(笑)。

Ryu☆ よく覚えてるね。渋谷のブラスというクラブでイベントをやったときかな。

kors k Ryu☆さんがDJとしてステージに立って盛り上げているのを観て、衝撃でした。お客さんの盛り上げ方がすごくうまくて。当時僕はあまり表に出た活動をしていなかったから、自分もちゃんとDJとして盛り上げるようにならなきゃな、と思ったのをよく覚えています。

Ryu☆ ありがたいですね。僕のDJスタイルは完全にYOJI BIOMEHANIKAさんの影響を受けていて。選曲とつなぎはしっかりしつつ、クラウドをブチ上げまくるコンダクター役のようなカッコいいアクションは、当時目の前で見て衝撃でした。

kors k 僕もその後DJとしてステージに立つ機会が増えていくんですけど、僕のDJスタイルはRyu☆さんの影響をすごく受けていると思います。Ryu☆さんがステージでがんばる姿をお手本にしながらステップアップしてきましたから。

左からRyu☆、kors k。

20年音ゲー作家でいた理由

──お二人は音ゲーのサウンドクリエイターとして曲を作り続けてきた点で共通しているものがありますが、それぞれの20年の歩みはけっこう違うものですよね。Ryu☆さんはEXIT TUNESの会社役員としての立場もありましたし。

Ryu☆ 僕がEXIT TUNESという会社に所属して曲作りをしてきたのに対して、kors kはフリーランスとして曲作りをし続けていたんですよね。イベントで共演したり、EXIT TUNESからkors kのCDをリリースしたり、2人の活動が交わる瞬間は何度もありましたが、確かに20年の歩み方はけっこう違う。

kors k そもそも「starmine」と「Clione」が対称的な曲で、デビューのときからお互いが持っていない要素を持ち合わせていたんですよね。お互いずっと交流があったけど、僕が苦手なところをRyu☆さんに助けてもらったこともあるし、Ryu☆さんが僕を頼ってくれたこともあって。お互い支え合うような機会も多かったよね。

Ryu☆ 会社員になって、僕はエンジニア業をやるようになったり裏方的な仕事が多かったんですよ。トランスDJと組んで大量に曲を作ったりもしていましたけど、そこまでRyu☆という名前を前面に出した活動はしていなくて。kors kはキャラソンを作ったりしてメジャー感のある仕事を請け負っていたから、めっちゃうらやましいと思っていたなあ。

kors k 今思うといいように使われていた気がするけどね(笑)。これはフリーランスあるあるなんですけど、一度でも断ってしまうと今後ずっと仕事がもらえないような気がしてしまって、どんな依頼でもなんとか受けていた時期があって。

Ryu☆ 僕は僕で曲作りをしていなかったわけではなくて、1カ月に会社のみんなで80曲近く作っていた時期もあったくらい。それはそれで若いときにしかできないいい経験をしたと思っています。

──この20年、それぞれいろんな仕事を請け負いながらも「beatmania」への楽曲提供を辞めることはありませんでした。2人が音ゲーへの楽曲提供をし続けた理由は?

kors k

kors k 単純に音ゲーが好きだからかな。もともと「beatmania」のプレイヤーでもあったから、開発チームの人たちへのリスペクトもあるんです。憧れていたあの人たちが自分に何かお願いをしてくれることに対して喜びがあったし。

Ryu☆ 僕も好きだからですね。20年前から変わらず、大好きなゲームなので。一般公募の募集要項を見たのは締切の1日前だったから、本当に駆け込みで応募したんですけど(笑)。

kors k 1日で曲を作ったんでしょ?

Ryu☆ うん。大学のパソコン室で公募を知って、帰りに天神の楽器屋に行ってシンセサイザーを買って帰った(笑)。次の日の消印有効だったから、翌日は郵便局が閉まる17時まで大学の音響室にこもってデカい音を出しながら調整してました。何者でもない自分を拾ってもらってうれしかったから、その恩返しみたいな気持ちもあるんです。まさか20年も曲を提供できるとは思っていませんでしたが。

kors k それと、当時は「beatmania」に収録されている音楽はクラブミュージックとはちょっと違う見られ方をしていたのが悔しくて。それをなんとかしてひっくり返したかった。新作の「beatmania」が出るときって、僕にとってはショーケースに参加する感覚なんですよ。「今の自分はこうだよ」というのをみんなに聴いてもらう機会として捉えている。今となっては「beatmania」のファンって国内外問わずたくさんいて、そこで1人のアーティストとして曲で勝負し続けられているのはすごく光栄なことだといつも思っています。

Ryu☆ 僕もkors kもユーザーの視点を持っているからこそ、常にユーザーを楽しませることを考えながら曲を作ってきたんですよね。そこが武器になって、ここまで続けられてきたのもあると思います。自分たちがプレイしたい曲を作れば、そのまま皆さんにも刺さるわけですから。

次のページ »
感謝のリミックス