TETORA上野羽有音インタビュー|12カ月の記憶や思いを詰め込んだアルバム「13ヶ月」 (2/2)

ライブではイメージを超えられる

──「11月」についてはいかがでしょう。冬の大イベントといえばクリスマスですが、「12月」ではクリスマスのことにまったく触れていない一方で、「11月」で「来月24日」という形で出てきます。

「12月」をクリスマスの曲にする必要性は別にないかなと思いました。12月より11月のほうが、来月に控えているクリスマスのことを考えている気がするんですよね。

上野羽有音(Vo, G)

──「11月」は片思いの歌ですよね。「来月24日の予定も知らないのに あなたでしあわせを知りたいと思うんです」というフレーズが切ないです。

相手のクリスマスの予定も知らないくせに「この人と一緒にいたい」と思ってしまうときってあるのかなと。この曲では「苦しいけどこの人と一緒にいたい」という気持ちを描いてます。

──そういう恋愛は、周りの人から止められることが多いですよね。「11月」の主人公も「あなた以外と過ごす幸せを選ぶよりも あなたと過せる不幸せをわたしは選ぶのでしょう」と“不幸せ”に向かっていることを自覚しているようですし。

相手は、周りの人から「そんな人はやめたほうがいいよ」と言われるような人なんでしょうね。だけど、恋愛しているときは周りから制止の言葉が聞きたいわけじゃない。苦しい恋愛から逃げる方法じゃなくて、好きな人と向き合う方法を相談してるのに「はよ別れな」と言われても「そうじゃないのに」と感じてしまう。好きな人の行動によって感じた悲しい気持ちじゃなくて、好きな人に対する素直な思いを歌いたいと考えながら歌詞を書きました。

──今作には上野さんの人生観、ライブハウスでの経験がダイレクトに反映されている曲が多いように感じます。例えば「5月」の1番には「イメージしよう イメージ以外からは始まらない」というフレーズがありますが、2番では同じフレーズのあとに「そして それすら壊したりもしたい イメージに勝てるもの それは...リアルだけなんだ」という歌詞が続いています。

こうなりたいというイメージがあれば課題が自然に出てくるし、理想があるからこそゼロをイチにすることができる。何事もそういうものだから、イメージすることは大事だと思っています。だけど現実だけは、そのイメージを壊したり超えたりすることができる。私にとって、一番イメージを超えられるのはライブなのかなと思います。

上野羽有音(Vo, G)
上野羽有音(Vo, G)

先輩の背中を見て気付いた優しさ

──優しさが歌詞で表現されている「4月」は、バンドマンの先輩の背中を見て思ったことを書いた曲でしょうか?

そうですね。G-FREAK FACTORY、10-FEET、ROTTENGRAFFTY、四星球とか、周りの先輩がすごく優しくて。先輩がこんなに優しくなかったら、私自身「優しいことはカッコいいことやったんや」と気付かれへんかったと思います。やったことを気付かれへんくても相手を思って行動するのが優しさであって、「ありがとうと言ってもらいたいから」とか「嫌われへんように」という見返りを求めた行動は、ホンマの優しさではない気がして。どんなときでも人に優しくできる自分でいたいですね。

──そうなれたらいいけど、難しいですよね。

難しいですね。自分自身が常に優しくなれてるかどうかは自信ないけど、こういう曲を歌っていれば、少なくとも人の優しさに気付ける自分ではいられる気がします。

上野羽有音(Vo, G)

──「12月」はどのような気持ちで歌詞を書き始めましたか?

ライブハウスで「正解なんてねえよ」というような言葉を聞くことがめちゃくちゃ多くて。「正解がない」と言うこと自体を正解にしてるよな、という思考になってしまったんです。

──常套句を使っている時点で思考が停止しているというか。

はい。あと、「楽しかったらなんでもいいっしょ。だからライブ楽しんでこうね」と先輩に言ってもらったのにうまく頷けなかったときがあって。そのときに感じた気持ちも込めてます。

──誰かの言葉に対して違和感を持つことは普段から多いですか?

多いですね。例えば「5月」は、「『自分らしさを大事に』とよく言うけど、自分らしさって何?」「らしさを自分自身でどれにしようか決めた瞬間、自分じゃなくならない?」と思いながら書いた曲だし、いつもめんどくさいことばっか考えてる(笑)。そういうモヤモヤを曲にしてるんですけど、年齢を重ねるにつれて、違和感を感じても見逃してしまうことが増えてきて。会話の雰囲気を汲み取って自分を納得させようとしたり、その場を平和に収めるためになんも言わんかったり。昔の自分が尖ってただけなんかなと思うことも増えたけど、あの頃の感性を捨てたら、自分が終わるというか、いい曲が書けなくなる気がして、すごく葛藤しています。

上野羽有音(Vo, G)

──過去の自分が大事にしていたものって、「これは本質だから変えるべきではない」という部分と「ここは意固地にならなくてもいいのでは?」という部分に分けられると思うんです。その見極めは難しいですよね。

見極めも難しいし、曲げたくない部分を相手にうまく伝えるのも難しいなと思います。私は口が“障害物”みたいになって言いたいことをうまく言えないタイプやから、勘違いされることもあって。ライブが終わってから「さっき『〇〇は』って言ったけど、『〇〇が』のほうが意味合ってたな」と気付いて落ち込むこともありますし。

──どうしたら、そういう葛藤とうまく付き合っていけるんでしょうね?

どうしたらいいんでしょうね? ただ自分の心の中に生まれた違和感は大事にするようにしたほうがいいと思う。いつか意見が変わっていったとしてもちゃんとそれが自分の軸になりそうな気がするし、私の場合はこうして曲にできることもあるし。感じた違和感を口に出すと、嫌がられたり面倒臭がられたりするけど、曲にしたらみんな聴いてくれますから(笑)。音楽やっててよかったなと思います。

上野羽有音(Vo, G)
上野羽有音(Vo, G)

フライングで知った武道館公演

──8月12日にはTETORA初の日本武道館ワンマンが開催されます。武道館公演が決まったとき、どう思いましたか?

去年の秋くらいにTETORAチームのグループLINEでスタッフさんから「武道館決まりました」という連絡をもらったんですけど、実はそれよりも前に知ってしまって。フェスでレーベルの先輩と一緒やったときに、先輩から「武道館やるらしいじゃん、すごいね!」と言ってもらったんです。私たちはまだ何も知らなかったから「えっ、そうなんですか?」と言ったら、先輩は知ってるもんやと思っていたみたいで、「.......えっ!」という感じになって。なので、スタッフさんからLINEをもらったときは特に驚かず、みんな「了解です!」だけでした(笑)。

──日もだいぶ迫ってきましたが、緊張はしていますか? 心境や意気込みを聞かせてください。

まだ緊張してないですけど、「緊張しそう」と口に出したら本当にしちゃうので言わないようにしてます(笑)。武道館でやりたいとずっと思っていたからめっちゃうれしいし、インディーズのバンドが武道館に立つことはあまり多くないと思うので、ありがたいです。先輩も後輩も友達も「予定空けてるから!」と言ってくれるし、メンバー3人の家族も関西から来てくれるみたいやしうれしい。たくさんの人に協力してもらったり、苦労をかけたりしているので、特別なライブになるとは思うんですけど、武道館やからというのを抜きにしてもヤバいライブ、ヤバい日にしたいです。

上野羽有音(Vo, G)

ライブ情報

TETORA 武道館でワンマン

2024年8月12日(月・振休)東京都 日本武道館

プロフィール

TETORA(テトラ)

2017年に結成された大阪発のバンド。上野羽有音(Vo, G)、いのり(B)、ミユキ(Dr)からなる。2019年6月に1stアルバム「教室の一角より」、2020年2月に1stシングル「あれから」をリリース。2024年6月にフルアルバム「13ヶ月」を発表した。同年8月12日に初の日本武道館ワンマンを行う。