回り道した過程も曲に落とし込みたかった(R-指定)
小池 Rさんと対談できることになって改めて「クリープ・ショー」(2018年4月リリースの1stフルアルバム)を聴かせてもらったんですけど、Rさんの韻の踏み方や言葉遊び、歌謡曲をルーツに感じる歌が印象的でした。あと曲によって歌い方を変えてるじゃないですか。そういうところも大好きです。俺も曲によってけっこう歌い方を変えるので。で、トラックがめちゃくちゃカッコいいんですよね。例えば「ぬえの鳴く夜は」はハードロックやってますみたいな感じで、「Stray Dogs」のトラックもすげえカッコいい。終盤になると1980年代のポップスと言うかクラブっぽい感じのトラックが続いて、聴いていて飽きないんです。でもちゃんと一貫して「これがCreepy Nutsだ」っていうのが伝わる。こういうアルバムって本当にいいなと思います。
R-指定 うれしいです。
小池 俺も今回のアルバムで「歌い方とかテイストが違ってもtetoがやってますよ」みたいなところはすごく意識したんですよ。
R-指定 それはすごく感じますね。アルバムがアルバムである意味がちゃんとある作品と言うか。全部アルバムを構成するために存在してる曲たちだなって。今は音楽の聴き方が変わったこともあって、アルバムと言えど曲単位で聴かせるものが多いと言うか……。
小池 そうそう。1曲よければそれでいいみたいなことですよね。例えば「Stray Dogs」って、曲単位で聴かせるのであれば入ってなくてもいい、むしろもっとキャッチーな曲を入れたほうがいいくらいだと思う。でもやっぱりアルバム全体で聴かせるためにはこの曲が必要だったっていうことですよね? そういうのがすごくいいなと思いました。あと俺、最初に「トレンチコートマフィア」を聴いたときはピンと来なかったんです、正直な話。でも最後に「スポットライト」が入っていることによって「トレンチコートマフィア」が入っている意味を理解して。
R-指定 マインドの変化を読み取ってくれたんですね。最初に話しましたけど、僕が「奴隷の唄」「市の商人たち」「洗脳教育」の流れが好きだって言うのは、この3曲でいわば1曲みたいな感じで聴けて、曲の中に流れている感情がちゃんとアルバムの曲の並びとして動かされるようになってるからなんですよ。「トレンチコートマフィア」は5年前くらいの曲で、今とはまったく違う心境を歌ってるんです。今は「トレンチコートマフィア」みたいなことを言っても仕方がないと思うし、むしろそこを乗り越えたところに自分の心境があって。でもそういう考えを経てきた自分を「トレンチコートマフィア」から「スポットライト」までの流れで表現したかったんですよね。
小池 ですよね。「クリープ・ショー」を通して聴いたら、うちらのアルバムで通ずるところがあると思ったんですよ。伝えたいことは「毎日毎日イライラしてるけど、うじうじしててもしょうがないし、ホントは楽しく生きたいだけ」っていうことですよね?
R-指定 そうです。むしろうじうじしてる人たちに対してイライラしてるぐらいのニュアンスと言うか。この感覚って表現するのがすごく難しいんですよ。ジャパニーズヒップホップではKOHHを発端に「周りは気にしないでやりたいことをやるだけ」っていう表現を若いラッパーがよくするんです。周りの雑音が多い世の中になってしまったから、雑音に踊らされずにホンマに大事なこと、自分の好きなことを貫いて前に進むっていう、そういうポジティブなメッセージをストレートに投げるという。不良の世界を体験してきた人だったら一言目でそれを言えると思うんですけど、僕はなかなかそこにたどり着くことができなかった。僕もそういう人らと考えていることは同じなんですけど、その感覚をだいぶ回り道をしてようやくわかるようになったから、その回り道した過程も曲に落とし込みたかった。まさしく「奴隷の唄」の歌詞の「『余命がもう何日も無い。』と申されても良いように生きていたい」と言いながらも「気ままに生きていたいようです」って他人事のように締めくくるこの感じですよ。
小池 俺もすごく回り道をしてここにたどり着いたんですよね。例えば3年前の俺が「『余命がもう何日も無い。』と申されても良いように生きていたい」なんて歌ってもただ切り貼りした言葉にしか聞こえないと思うんです。今の時代はGoogleで検索すればたくさんいい言葉が出てくるし、それを切り貼りするのはめちゃくちゃ簡単だけど、聴いた人の心にその言葉を響かせられるかどうかってなると別問題で。化けの皮を剥いだ核の部分でちゃんと思ってることを歌わないと、自分の言葉に踊らされちゃうと思うし。だから昔から意味のないこと、理解していないことは言わないようにはしてきたんですよ。
R-指定 表現って脱ぐことなんやなとは思うんですけど、そんだけ剥いでもここまで入り組んだ表現が出てくるってホンマにすごいですね。削ぎ落としても削ぎ落としてもこんだけ粋な言い回しみたいなのが出てくるって根がそうなんやなって。だって「ドレミファソラシドと均されても」っていう歌詞で、音階として“鳴らされてる”っていうのと“均されてる”がかかっているなんて、ちょっと興奮しますよね。
小池 シンプルにうれしいです(笑)。そこまでわかってくれる人は少ないし、少なくてさみしかったりするんですけど、でもそれはしょうがないって言うか。それでもがんばるんですよ、我々は。
R-指定 めっちゃ入り組んだ言い回しとかしても、同業者のコアな人ぐらいしか気付いてくれないですよね。お客さんはほぼ気付いてくれてないところがありますけど、お客さんにわかりやすい表現だけにしてしまうと自分が死んでしまいますから。
ナイフを持ってない俺を好きになってもらっても意味がない(小池)
小池 俺、「ドラえもん」のマンガが大好きなんです。マンガにはアニメにはないブラックジョークが散りばめられているんですけど、そういうのがきっと俺らにとっては大切なところだなと思うんです。隠した鋭いナイフをちらつかせて「いつでも刺せるけど?」みたいな姿勢と言うか。そういうのをCreepy Nutsの音楽にすごく感じました。
R-指定 僕は「世にも奇妙な物語」とか、海外ドラマの「トワイライト・ゾーン」とか「ブラック・ミラー」みたいな風刺的なものが好きなんですよ。最近だと「ブラック・ミラー」の「ランク社会」っていう話がすごく面白かったですね。人間の評価基準がSNSの星の数で、それをお互い付け合ったり、ちょっとイヤなことをされたら減らしたり……で、その星が少なくなると飛行機も乗られへんみたいな話なんですけど。すごく気持ち悪い話だと思う半面、今だってそれとかなり近いものがある。このドラマを観て僕もその気持ち悪い空気を作り出してる一員になってしまっていることをちゃんと認識しないといけないと思って。それを自分にも相手にも気付かせるためのナイフを持っておかないとダメですよね。
小池 それだいぶヤバい話ですね。気になります。そういうブラックジョークって、ポップでわかりやすいものの中にあるからこそ引き立ちますよね。ブラックユーモアを表現するにはポップさを兼ね備えることが大事。Rさんの話には共感しかないです。
R-指定 そうですね。現代ってポップとブラックユーモアが同居できなくなりつつあると思うんです。僕はそんなに勉強しているわけじゃないので間違っていたら申し訳ないんですけど、それこそ音楽やアートでもいろんな規制があるじゃないですか。昔よりもどんどん厳しくなってきれいに均されて、ポップとブラックユーモアが完全に分離しちゃうんじゃないかなって。例えば頭ごなしに「こういうものを見ちゃいけない」「こういうものは教育に悪い」って言って、親がテレビ番組や音楽、映画……そういうエンタメを禁止してしまったら、子供はなんでそれがダメなのかわからなくなるんじゃないか、それを自分で判断する脳がなくなってしまうんじゃないかって不安に思うんです。僕らはテレビでだいぶキツめのブラックユーモアを味わえたし、普通にエロい番組も観られたから幸せでしたよね。今の規制だらけの時代に幼少期を過ごした人は大人になったらどうなってしまうんやろうって思います。
小池 体によくないものってうまいっすよね。あれ? そういうことですよね?(笑)
R-指定 だいたい合ってます(笑)。
小池 よかった。抑制されるからこそ気になってしまうみたいなことってあるじゃないですか。だったら僕らがポップとそういうものの橋渡しみたいな存在になれたらって思いますよね。
R-指定 そうっすね。どうしようもないぐらい世間がそういうものと分離してホンマにきれいになってしまったときに、聴き心地のいい僕らの音楽からドープな世界に興味を持つきっかけになったらいいなって。汚いもんが目に触れんようにやっていくと、自分も野蛮な生き物であるってことを忘れるじゃないですか。
小池 そうそう。皮を剥いだらみんな全然立派な人間じゃないし、いい人でもない。だから俺からこういう曲が生まれてくるし、Rさんからも人の心に突き刺さる言葉が出てくると思うんですよ。だからやっぱりそういうところって大切だと思うんですよね。
R-指定 ロックとかヒップホップとかそういうものを一旦置いといて、僕らの音楽はどちらもカウンターカルチャーじゃないですか。僕にとってヒップホップは「清く正しくいなきゃいけない」と均された自分に「みんなそんなにロクなもんじゃないからいいやん」って言ってくれた音楽なんで。
小池 だからそういう音楽を続けなきゃいけないんですよね。「奴隷の唄」「市の商人たち」「洗脳教育」みたいな曲で歌ってることって歌わないほうがきっと金になったりモテたりするんですよ。まあモテたいですけど。
R-指定 うん。モテたい。
小池 モテたいけど、ナイフを持ってない俺を好きになってもらっても意味がない。俺は裸で向かっていくからお前らも裸でかかってこいよって思っています。
- teto「手」
- 2018年9月26日発売 / UK.PROJECT
-
[CD]
2808円 / UKCD-1173
- 収録曲
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- hadaka no osama
- 高層ビルと人工衛星
- トリーバーチの靴
- 奴隷の唄
- 市の商人たち
- 洗脳教育
- 種まく人
- 散々愛燦燦
- マーブルケイブの中へ
- Pain Pain Pain
- 拝啓
- 溶けた銃口
- 夢見心地で
- 忘れた
- 手
- teto ツアー2018「結んで開いて」
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- 2018年9月30日(日) 千葉県 千葉LOOK※ワンマンライブ、開催延期
- 2018年10月3日(水) 埼玉県 Livehouse KYARA出演者 teto / tricot
- 2018年10月4日(木) 神奈川県 横浜BAYSIS出演者 teto / POLYSICS
- 2018年10月10日(水) 岡山県 IMAGE出演者 teto / MONO NO AWARE
- 2018年10月11日(木) 福岡県 LIVE SPOT WOW!出演者 teto / MONO NO AWARE
- 2018年10月13日(土) 熊本県 Django出演者 teto / 四星球
- 2018年10月14日(日) 長崎県 Studio Do!出演者 teto / 四星球
- 2018年10月16日(火) 京都府 磔磔出演者 teto / ザ50回転ズ
- 2018年10月20日(土) 福島県 Out Line出演者 teto / paionia
- 2018年10月21日(日) 岩手県 盛岡Club Change出演者 teto / paionia
- 2018年10月25日(木) 長野県 ALECX出演者 teto / 八十八ヶ所巡礼
- 2018年10月27日(土) 新潟県 CLUB RIVERST出演者 teto / Helsinki Lambda Club
- 2018年10月28日(日) 石川県 vanvanV4出演者 teto / Helsinki Lambda Club
- 2018年11月8日(木) 群馬県 GUNMA SUNBURST※ワンマンライブ
- 2018年11月10日(土) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO※ワンマンライブ
- 2018年11月11日(日) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO※ワンマンライブ
- 2018年11月15日(木) 宮城県 enn 2nd※ワンマンライブ
- 2018年11月17日(土) 北海道 BESSIE HALL※ワンマンライブ
- 2018年11月29日(木) 香川県 高松TOONICE※ワンマンライブ
- 2018年12月1日(土) 福岡県 DRUM SON※ワンマンライブ
- 2018年12月2日(日) 広島県 HIROSHIMA 4.14※ワンマンライブ
- 2018年12月7日(金) 東京都 LIQUIDROOM※ワンマンライブ
- 2018年12月27日(木) 千葉県 千葉LOOK※ワンマンライブ
※記事初出時、福岡公演の会場をLIVE HOUSE CBと記載しておりましたが、DRUM SONの誤りです。訂正してお詫びいたします。
- Creepy Nutsワンマンツアー
「クリープ・ショー 2018」(※追加公演) -
- 2018年10月12日(金) 石川県 金沢EIGHT HALL
- 2018年10月13日(土) 新潟県 NEXS Niigata
- 2018年10月17日(水) 宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2018年10月19日(金) 北海道 札幌PENNY LANE24
- 2018年10月24日(水) 東京都 Zepp Tokyo
- 2018年10月26日(金) 大阪府 ユニバース
- 2018年10月27日(土) 香川県 高松MONSTER
- 2018年11月7日(水) 広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2018年11月9日(金) 福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年11月13日(火) 愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2018年11月16日(金) 沖縄県 Output
- teto(テト)
- 2016年1月に小池貞利(Vo, G)を中心に山崎陸(G)、佐藤健一郎(B)らが結成したロックバンド。小池がつむぐ焦燥感や葛藤を詩的に昇華した歌詞とキャッチーなメロディ、熱量の高いライブパフォーマンスで話題を集め、2016年10月にリリースした自主制作盤「Pain Pain Pain」は再プレスを繰り返すも完売し、現在は廃盤となっている。同年12月に福田裕介(Dr)が正式加入し、現体制に。2017年6月にHelsinki Lambda Clubとのスプリットシングル「split」、8月に1stミニアルバム「dystopia」をリリースした。「dystopia」のレコ発ツアーのチケットは全日程完売。同年末の「COUNTDOWN JAPAN 17/18」を皮切りに大型のイベントにも出演するようになり、2018年は「VIVA LA ROCK 2018」「YON FES 2018」「RUSH BALL 2018」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018」など多数のロックフェスにも出場した。同年3月に1stシングル「忘れた」、9月に1stフルアルバム「手」をリリース。9月末より全22本のライブからなる全国ツアー「結んで開いて」を開催中。
- Creepy Nuts(クリーピーナッツ)
- MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」大阪大会で5連覇、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇を成し遂げた経歴を持つ大阪出身のラッパー・R-指定と、「DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS」国内2位でTOC(Hilcrhyme)のバックDJなどでも活躍する新潟出身のDJ 松永によるユニット。観客が投げたお題でR-指定がフリースタイルを披露する“聖徳太子フリースタイル”などを織り交ぜた、オーディエンスを巻き込む形のライブパフォーマンスで人気を集めている。2016年1月に1stミニアルバム「たりないふたり」を、2017年2月に2ndミニアルバム「助演男優賞」を発表。2017年11月8日にはソニー・ミュージックエンタテインメントよりメジャーデビューシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」をリリースした。大の深夜ラジオ好きでも知られ、2018年4月からは自身の冠番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」が毎週火曜日に放送中。同月、初のフルアルバム「クリープ・ショー」が発売された。
2018年10月10日更新