たか坊(Vo)、拓まん(G)、アルフィ(DJ)の3人からなるバンド・TENSONGが、ELLEGARDENの高橋宏貴(Dr)とトリコンドルの久米優佑(G)からなる2人組インストバンド・PAMとコラボレーション。「TENSONG & PAM」名義による楽曲「THE INSIDER」を配信リリースした。
2020年にTikTokへのカバー曲投稿で話題を集め、そこから本格的に音楽活動を始めたTENSONG。コロナ禍の中、手探りでバンドとしてのアイデンティティを模索し続けてきた彼らは、全国47都道府県を回る対バンツアーを経て今年1月に1stアルバム「普通なんていらないよ」を発表し、全国11会場を回る初のワンマンツアーで大きな手応えをつかんだ。そんな彼らが次の一手として放つのは、プロデューサーWEST GROUNDを介して出会った百戦錬磨のインストバンドPAMとのコラボナンバーだ。PAMとの邂逅がTENSONGにどんな刺激を与えたのか? またPAMの2人は新世代のアーティストTENSONGに何を手渡し、何を受け取ったのか? 5人に集まってもらい、じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 臼杵成晃
初対面で泣かされたたか坊
──TENSONGとPAMはいつ頃、どのようなきっかけで出会ったんでしょう?
たか坊(Vo / TENSONG) 去年の初めくらいだったと思うんですけど、プロデューサーのWEST GROUNDさんが間を取り持ってくれて、僕と高橋さんと3人で一緒に飲んだことがあって。そのときに、僕が高橋さんにいろいろご教示いただきまして、泣かされた記憶があります(笑)。
一同 (笑)。
高橋宏貴(Dr / PAM) あのときはWEST GROUNDさんがいろいろ煽ってきた結果、そういう流れになっただけで(笑)。俺はWEST GROUNDさんからTENSONGのことを聞いたんですけど、ボーカルとギターとDJという変則的なグループ構成は自分の常識からするとよくわからない変化球で「ドラムがいないバンド?」と戸惑ったんですけど、「ぜひ高橋くんの今までの人生を話してあげてほしい」と言われたんです。で、飲みの席だったので、ちょっとイキっちゃったんでしょうね(笑)。
たか坊 去年の47都道府県ツアー(※2023年2月にスタートした「TENSONG 全国47都道府県対バンツアー『~JUST FOR FUN 2023~』」)が始まる前にお会いさせていただいて。それまでTENSONGはツアーはもちろん、ライブもまともにしたことなかったので、喝を入れてもらったんです。
久米優佑(G / PAM) 俺は今回のお話をもらってから初めてTENSONGのことを知ったんですけど、さっき高橋さんが言ったようにドラムがいなくてDJがいるという編成が興味深くて。俺たちはドラムとギターだけでやるっていう前提で組んだバンドなので、そこでTENSONGみたいな編成のバンドとコラボしたり、それこそ歌が入ったりということでどんな化学反応が起きるのかなと楽しみでした。と同時に、「こいつら、ウゼえ!」と思われたらどうしようっていう恐怖もありました(笑)。
高橋 (笑)。
久米 初めて3人に会ったのが「THE INSIDER」のレコーディング現場で。それまでは曲とTikTokでしか触れていなかったので、人となりが全然わからなかったし、いきなりスタジオで「ハーゲンダッツ買ってきて!」とかパシリに使われたらどうしようかなと不安でした(笑)。
たか坊 いやいやいや!(笑)
久米 バズってるし、あるかもしれないじゃないですか。「おにぎり食べたいな。あそこにコンビニあったよね?」とか言われたり。まあ、俺なら買ってきますけどね(笑)。
高橋 俺も買ってきちゃうかもしれない(笑)。
アルフィ(DJ / TENSONG) 僕は今年4月に初めてPAMさんのライブを観たんですけど、そのときの衝撃がとにかくすごかった。動画では観ていたものの、やっぱり生だとギターとドラムだけで生み出すグルーヴ感が圧倒的で。
拓まん(G / TENSONG) 実は僕、たか坊が高橋さんと飲みに行くって話を聞いたときは、ELLEGARDENのことを存じ上げてなくて。で、あとから「俺を泣かせに来た、すごい方がいる」と聞きました。
たか坊 それは言ってないです!(笑)
拓まん まあ、泣かされたと聞いて(笑)。それがどなたなのかと調べてELLEGARDENを聴いてみたら、僕の好きな楽曲ばかりだったんですね。そのあとELLEGARDENとは、7月末に仙台のフェス(※7月27日開催のMONKEY MAJIK主催「enigma music fes 2024」)で奇跡的に同じステージに立てましたし、いろいろ縁を感じています。久米さんは“ザ・ギタリスト”っていう性格で、高橋さんはとにかく熱い人。コラボ楽曲の制作が終わったあとにPAMのレコーディングも見学させてもらったんですけど、久米さんはすごく心配症で、そういうところがギタリストっぽいなと親近感を覚えたりもしました。とはいえ、現状はお二人に対して恐れ多いなという感情が強くて。
高橋 そのわりにはPAMのレコーディングを見学しに来たとき、俺がスタジオの隅に置いておいた高級時計の上に差し入れのチキンを乗せていたよな(笑)。あれは面白かったよ。
久米 最高だね(笑)。
たか坊 「ハートはチキンだけど、俺らは上にいるよ」ってことを、彼は伝えたかったんでしょうね(笑)。
拓まん いやいやいや(笑)。
久米 そのあとのLINEの返しも最高だったよね。「すみません、次はもっといいものを乗せます」っていう(笑)。
拓まん ……っていう間柄です(笑)。
「THE INSIDER」にたどり着くまでに必要なプロセス
──プロデューサーのWEST GROUNDさんがキーマンとなって、2組が徐々につながっていきコラボすることになったわけですね。制作に取りかかる段階ではどんな楽曲をイメージしていましたか?
高橋 そのへんは久米がWEST GROUNDさんとやりとりして進めてくれたんですけど、最初に久米が「こういうの、どうですか?」って持ってきた曲が全然面白くなくて。
久米 そうでしたね。
高橋 メロディがない、ただバッキングだけ弾いているトラックで、何も想像が広がらなかった。それで「俺が単純に喜びそうな、PAMでやるような曲を作ってみればいいじゃん!」って話したんですよ。そこからはいいスイッチが入って、WEST GROUNDさんとも刺激し合えたんじゃないかな。
久米 そもそも誰かと一緒に曲を作り上げることをあまりしたことがなかったので、俺の中でもけっこうチャレンジなところがあって。最初はちょっと置きにいっちゃったんですよね。それで高橋さんからのアドバイスを受けて、開き直ったじゃないですけど、今までの自分の色をちょっと強めに出してやってみようと。
高橋 でも、それは「THE INSIDER」にたどり着くまでに必要なプロセスだと思うよ。いきなりホームランなんて打てないからね。
たか坊 僕はまず最初にいただいたデモを聴いて、コードがどんどん切り替わっていくアレンジに対して「どうなってんの? こんなの聴いたことないよ!」って驚きましたし、同時に「これ、歌えるかな……」と不安にもなりました。
拓まん そもそもTENSONGの楽曲には速弾きをするようなロックナンバーはなかったので、デモを受け取ったときは正直「これ弾けるんかな?」と思いました。ただ、これを乗り越えれば自分も成長できると思ったので……久米さんが作ってくださった試練ですよね。とんでもない山ができたなと思いながら、この曲と向き合いました。
アルフィ 僕は「今まであまり聴いたことがないフレーズがたくさん詰まっているな」と最初に感じました。そもそも僕はロックをちゃんと聴いてこなかった人間なのですごく勉強になりましたし、こういうエモい楽曲を歌ったり演奏したりする際にどう振る舞うべきなのか、考えるきっかけにもなりました。
お互いに刺激を受け合ったレコーディング
──ただエモーショナルなだけではなく、随所にポストロック的なテイストが入っていて、バックトラックだけでも全然成立しちゃうようなすごい曲なんですけど、そこにこのメロディと歌が乗るからより違った響き方というか、力強さが増しますよね。
久米 本当に掛け算になったという感覚は、5人とも感じていたと思います。
高橋 そこは作曲の段階から関わってくれたWEST GROUNDさんのおかげだと思います。ただ、WEST GROUNDさんは体育会系でクラシック上がりだから、「ここまでやる?」ってくらいかなり細かいところにまでこだわるので、本当に疲れましたね(笑)。
たか坊 その場でアレンジを3回くらい変えてましたよね。
高橋 今回はプリプロがなかったんですね。俺たちPAMもプリプロをやらないで本チャンのレコーディングに突入することに慣れてはいたんですけど、今回は歌の入った緻密なアレンジが求められる。そういう意味では「どうなっちゃうんだろう?」という不安もあって、これだけレコーディング経験があってもちょっとだけキツかったですね。
久米 普段自分が曲を作っているときには入れないようなフレーズをWEST GROUNDさんが提案してくるので、そういう点ではすごく勉強になりましたし、自分の成長にもつながったんじゃないかと思います。
高橋 この曲のレコーディングのあとに、さっき拓まんが見学に来たと言っていたPAMの新作レコーディングがあったんですけど、「THE INSIDER」を経て久米のプレイが完全に生まれ変わっていて。本当にいい刺激になったんじゃないかな。それが感じられただけで幸せでしたね。
久米 たか坊のメロディも秀逸で、俺だったら入れないところにメロディを入れてくれたり、「こういうやり方もあるんだな、じゃあこうだったらここは音がぶつかるな」とか勉強になることがたくさんありました。最初、WEST GROUNDさんからは「メロディはなんでも対応できるから大丈夫だよ」と言っていて。
たか坊 言ってましたね。最初は久米さんが作ったデモを聴いて、WEST GROUNDさんと「ここはもっと詰めたほうがいいですね」と話しながら固めていったんです。
久米 どういう感じで歌が入るかを一切気にしないで作っちゃったから大変だったと思う(笑)。できあがってきたメロディを聴いたときは素直に「これにメロディを付けたんだ! すげえな」と思いましたから。
たか坊 よくあるインストだとサビがなかったり、決められたフレーズをずっと弾き続けたりすることが多いと思うんですけど、久米さんからいただいたデモはAメロ、Bメロ、サビっていう構成があったので、それだけでもメロディはかなり作りやすかったですよ。
──今回のレコーディングでは、ギターはすべて久米さんが弾いているそうですね。
拓まん そうです。久米さんがギターのレコーディングをしているところをずっと見学していたんですけど、見ていて感じたのは、やっぱりバッキングが一番難しいんだなってことで。バッキングを録っているときは本当に大変そうでしたし、そういう確認ができたという点でも勉強になりました。それに、TENSONGは基本的に宅録が多いので、スタジオレコーディングで目にすることの1つひとつが新鮮でした。
アルフィ そもそもレコーディング現場に行くこと自体がほとんどないので、高橋さんや久米さんの1音1音に対するこだわりもしっかり伝わってきて。自分も打ち込みをする際「もっと1音にこだわって詰めていかないとダメだ」と考えるきっかけにもなりました。
次のページ »
これまでのTENSONGとは異なる応援歌