ナタリー PowerPush - 転校生

彼女はいかにして「転校生」となったか

熊本県出身埼玉県在住、水本夏絵によるソロプロジェクト・転校生。はかなげな存在感と心に残る歌声が徐々に注目を集める中、ついに1stアルバム「転校生」をリリースした。

まだまだ謎の多い彼女の素顔に迫るべく、ナタリーではパーソナルインタビューを敢行。ひとりの少女が「転校生」になるまでの道のりを追った。

取材 / 臼杵成晃・橋本尚平 文 / 臼杵成晃 インタビュー撮影 / 中西求

「なつえちゃん、出なさい!」

──生まれは熊本なんですよね。熊本市内?

インタビュー写真

はい。熊本市内です。市街地のすぐ近くですね。

──今覚えている一番古い記憶や風景はどんなものですか?

最初に住んでたところには近くに山があって。そのふもとの結構ボロいアパートみたいなのに住んでたんです。金峰山っていう山の近くで。

──市街地の外れで、登ると夜景が見渡せるところですよね。

はい。市街地の近くだけど人があんまりいないところで、30分ぐらい歩かないとコンビニにも行けないような場所。人がいなくて、お墓がいっぱいあって。小学校から帰るルートは3つしかないんです。お墓がある道が2つと、普通の道だけど虫がいっぱいいるところ。私はすごく怖がりなんで、いつもその3択のうちどれで帰ろう……みたいな。

──どのルートを選んでも地獄(笑)。ちなみに兄弟は?

2つ離れた兄が1人います。

──活発な子だったか、引っ込み思案な子だったかでいうと、どちら?

完全に引っ込み思案です。保育園でも友達ができなくて、用具入れみたいなのにいつも入ってたような記憶があります。先生から「なつえちゃん、出なさい!」みたいな感じで怒られてました。

──あははは(笑)。箱の中でコミュニケーションを遮断して。

みんなと遊びたい気持ちはあったんですけど、うまく遊べなかったですね。みんな一緒に遊んでるの見て「いいな」って思ってたんですけど、うまく入れなかった。

──近所に幼なじみのような存在はいましたか?

同じアパートに住んでる、ひとつ年上の女の子と遊んでました。その子がすごくゲーム好きで。私が今でもゲームが好きなのは、その子の影響が大きいです。スーファミで「ぷよぷよ」とかやってたんですけど、彼女はものすごく強くて、毎回負けて泣いて帰るみたいな感じでしたね。

なんで仲良くするために好きでもないものを好きって言ってるんだろう

──幼稚園まではまだしも、小学校に入ると、人見知りの人にとって集団生活のハードルは格段に上がりますよね。

みんなと仲良くしたいって気持ちは強かったんですけど、うまくしゃべれなかったり、輪に入るのは苦手で。でもがんばってました。すごく。

──努力によって、うまく打ち解けられましたか?

……結構ずっとがんばってたんですけど、中学に上がる頃には「これはダメだ」と思って(笑)。

──6年間はがんばってみたんですね(笑)。具体的にはどんな努力を?

みんなが好きなものを好きになろうって。みんなと一緒じゃないとダメみたいな空気があったので、みんなが好きなものを「私もそれが好きー」って言って輪に入ろうとしてたんですけど……やっぱり本当に好きなわけじゃないから、うまく入れないっていうか。

──その頃流行っていたものというと、ポケモンとか?

とか、アイドル系ですかね。男性のアイドルの雑誌を見て「カッコいいー」とか、全然心にもないことを言ったり。

──中学の段階でいよいよ諦めたというのは、何か「これはもう付いていけない」っていう大きなきっかけがあったんですか?

なんか、だんだん自分がつらくなってきたんですよ。なんでこの人たちと仲良くするために好きでもないものを好きって言ってるんだろう……っていう。だんだんそれが苦痛になってきて、こんなつらいのは嫌だなと思って。あと、友達とケンカしてハブられたりして、それで「あ、もういいや」と思ったのが一番のきっかけかもしれないですね。

──その話、差し支えない程度に教えてもらえますか?

インタビュー写真

中学2年生のときかな、グループごとにテーマを決める発表会があって、仲の良かった子たちと何人かで組んだんです。私はそういうの真面目にやっちゃうタイプなんですけど、みんなは全然乗り気じゃなくて。それで不機嫌な態度をしてたら目に付いたみたいで。「そっちがやんないからじゃん」みたいな言い合いをしたら、いろんな人が集まってきて……。しかもその相手の子が、権力がある子というか、とりまきがいるタイプだったんです。それで、その子が嫌いな子はみんなでハブにするみたいな流れになって。でも負けたくなかったんですよ。私は別に悪くないし。だから「もういいや」って。その先には修学旅行が控えてたから「うわあー」と思いながら(笑)。

──あー……。じゃあ修学旅行は地獄だったでしょう。

もう、完全にひとりでしたね。同じ部屋の人同士で寝る前にキャッキャ話してる輪にも入れず、さっさと寝て。各地を回るのも、みんなの後ろを付いていくだけ(笑)。でも「つらい」って思うと負けた気がするから、学校も休まずに、嫌な顔もせずに強気でいました。

aikoは今まで聴いてきた人と何かが違う

──アイドルにははまれなかったということですが、そのほかの音楽はどうでしたか? 今につながるルーツはどの辺りになるのでしょうか。

うーん、歌うのは子供の頃から好きだったんですけど、音楽よりもとにかく異様にゲームが好きでしたね。幼なじみと、あとお兄ちゃんの影響もあると思うんですけど。お兄ちゃんがゲームしてるのをずーっと観てたり。

──ゲームのハード機も各種揃ってるような?

いや、家にはセガサターンしかなかったんですけど、お兄ちゃんがいろんなお友達からプレステだとかNINTENDO64だとかを借りてきて。私に遊ばせてはくれないんですけど、横でじっと観てましたね。

──音楽とは縁遠い生活だったんですね。

そのときどきで流行ってたJ-POPは普通に聴いてたんですけど、本当に大好きってものはなくて。でもあるときaikoのCDを中古で見つけて「この人、名前は知ってるけど聴いたことないな」と思って聴いてみたら、ほかの人とは何か違う感じがしたんですね。何が違うかはわかんなかったんですけど「この人は今まで聴いてきた人と何かが違う」って。

──ちなみにどの作品だったんですか?

「夏服」っていうアルバムです。どの曲がというのはないんですけど、全体の雰囲気っていうか。「こういう音楽ってあるんだ」みたいな衝撃を受けたのは覚えてますね。はい。

1stアルバム「転校生」/ 2012年5月2日発売 / 2300円(税込) / Easel / EASL-0011

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CD収録曲
  1. 空中のダンス
  2. 人間関係地獄絵図
  3. 東京シティ
  4. エンド・ロール
  5. ほうかご
  6. 家賃を払って
  7. ドコカラカ
  8. パラレルワールド
  9. きみにまほうをかけました
転校生(てんこうせい)

熊本県出身、埼玉県在住の水本夏絵によるソロプロジェクト。高校生時代からいくつかのバンドでボーカルとして活動していたが、2009年にはソロとしての活動をスタートさせた。Myspace上の楽曲を耳にしたレーベルスタッフから誘いを受け、関東に拠点を移す。2012年5月2日に1stアルバム「転校生」をリリース。