音楽ナタリー Power Push - TeddyLoid×中田ヤスタカ(CAPSULE)

共鳴し合う2人のゲームチェンジャー

アルペジオを作るときは空中に数式を書いてる

──中田さんはこのアルバムを聴いてどう感じました?

中田 「よくこんなにいろんな人たちが集まったアルバムを」って思いますよね。皆さんそれぞれ活動してる場も、付いているお客さんも違うだろうから、いろんな人に聴くきっかけがあるアルバムだなと思いました。

TeddyLoid DJとかプロデューサーのリードアルバムって、シンガーをフィーチャリングして曲を作ることが多いんですけど、ただそれだけのものにはしたくなかったんです。各アーティストと僕にしかできない曲をコラボレートしたかった。だから☆Takuさん(☆Taku Takahashi)にボーカリストとして参加してもらったり。

──意外なコラボでした。

TeddyLoid たまたま聴くことができた☆Takuさんの仮歌のデモがすごくよかったから、「ぜひシンガーとして参加してください」ってマジでお願いしたら歌ってくれたんです。

中田 でも☆TakuさんはDJしながらしょっちゅうマイク持ってますからね。クラブに行くのが好きな人はそんなに違和感ないかもしれない(笑)。

TeddyLoid ははは(笑)。あとtofubeatsくんも、トラック面には一切タッチしないでラッパーとして参加してもらって。tofuくんとバトルしてくださった近田春夫さんも、20数年ぶりにラップを解禁してくださいました。

──KOHHさんをフィーチャーした曲も、ヒップホップかと思ったらデスコアみたいな曲調で驚きました。

TeddyLoid KOHHさんとの曲はベースミュージック寄りのトラックを作ってたんですけど、2人で話して「これならもうラップ入れる必要ないね」ってことになって。それで彼が「Teddyさん、なんとかこの2つを合わせてくれないか」って言って、今の彼の気分だっていうアトランタトラップと、アメリカのSuicide Silenceっていうメタルバンドの音源を聴かせてくれたんです。そこからはあっという間に2人で仕上げました。

──フィーチャーされた側として、中田さんは何か得るものはありましたか?

中田 こういうコラボって、聴いてくれる人は「この2人が一緒に曲を作ると、この人の曲調にこの音が混ざるのかー」みたいに思うのが面白いわけじゃないですか。今回はそれを自分のこととして「俺が人と一緒にやるとこういうふうになるんだなあ」っていうのがわかったんで、いい経験になりましたしね。

TeddyLoid 聴いてくれた人が「ここはヤスタカさんの音で、こっちはTeddyの音だ」みたいなことを書いてくれてるのを見てうれしかったです。そういう聴き方をしてほしかったんで。

中田 Teddyから「オーディオのパラデータが欲しい」ってLINEが来てたんですけど、俺ずーっと既読無視してたんですよ。

TeddyLoid あははは(笑)。

中田 「デモを聴けばわかんじゃん、耳コピすればいいじゃん」みたいな(笑)。

左からTeddyLoid、中田ヤスタカ。

TeddyLoid いや、ヤスタカさんのコード使いってホントに哲学的で、超洗練されてるんですよ。メロもバッチリハマってるし。だから「このシンセの音とアルペジオだけはそのまま使いたいんでオーディオデータでください!」って。全然送ってくれないから耳コピしたんですけど、「よし、完成だ」と思ったところで届きました(笑)。

中田 あはは(笑)。

TeddyLoid せっかくだから1回目のアルペジオはヤスタカさんのを使って、2回目以降は僕のアルペジオにしました。

中田 でも確かに、あのアルペジオは録り直すの大変だったかもしれないですね。

TeddyLoid あれって、BPMをゆっくりにして手弾きで録ってますよね?

中田 いや、16分音符のアルペジオを作るときはステップでやってる。

TeddyLoid あー、なるほど。僕は手弾きしたのをストレッチしてるんですよ。

中田 アルペジオを作るときは「空中に数式を書く」みたいな厨二病っぽいモードに入ってるんですよ。リードとかコードを録ってるときは、なんていうか“物理攻撃”みたいな気持ちなんだけど、アルペジオを作ってるときはMPを消費してます(笑)。

TeddyLoid マジックポイント(笑)。

中田 ステップで1音ずつ音を入れてると「ピアノロールで見てカッコいい置き方」みたいなことを考えだすんですよ。そうすると、ピアノを習ってた人が弾きやすいようなフレーズにならない。

TeddyLoid なるほど。あえてコンピューターっぽさを出すためにステップにしてるんですね。

中田 人間離れしたことができるのがコンピューターミュージックの面白さだと思うんだけど、弾いちゃうとやっぱりどうしても鍵盤っぽさが出てくるからね。フレーズには「鍵盤くささ」っていうのがあるのと同じように「ステップくささ」っていうのがあるんですよ。

12時間煮込んだシチューか、3分間で作れるうまい料理か

TeddyLoid 「Game Changers」は、平歌は僕が普通の声で歌ってるんですけど、ビルドアップのところとか、フィルイン、ブレイクの部分はボコーダー使ったんです。実は自分の曲でボコーダーを使うのはこれが初めてなんですよ。今回はどうしてもボコーダーを入れたい理由があって。僕、CAPSULEの曲の中でも「Robot Disco」が大好きなんです。

中田 ははは(笑)。懐かしい。

TeddyLoid 僕はあの曲が世界最強のボコーダーソングだと思うんですけど、それに対抗したくて。ヤスタカさんと一緒にやるならボコーダーを使おうって思ってたんです。

──そういえば「Game Changers」はTeddyさんが歌ってるんですよね。中田さんはボーカリストとしてのTeddyさんをどう評価してます?

中田 あくまでこの曲に関しての話ですけど、僕がデモに入れた仮歌に雰囲気が近いんですよ。だからこの曲だけ聴いて「これがTeddyの歌い方」っていうのはわかんないと思う。

TeddyLoid あー。

中田 僕は歌を入れるときに、声を音の1つと見なしてるところがあって。「ここは息っぽくしたほうが合う」「ここはダミ声にしたらよさげ」って、シンセの音色を作る感覚で声を出すんですよね。この曲で仮歌をそのまま踏襲してるのは、たぶんTeddyもボーカリストというよりシンセサイザー奏者的な感覚で音を選んだんだろうなって思いました。

TeddyLoid まさに今ヤスタカさんがおっしゃった通りで、僕も自分の声をシンセと同じ1つの素材と捉えてるんです。仮歌を踏襲したのは、あくまで共作でありながらも「ヤスタカさんにプロデュースしてもらいたい」っていう気持ちがあったからでもあります。

中田 普段ほかの人をプロデュースするときは、歌をレコーディングしてもらったあとで「今のオケそのままじゃダメだな。全然違う感じに変えよう」って、録れた歌に対してよりよくハマるように合わせていくんですよ。でも今回は仮歌と雰囲気が同じだったから、それをしなくてもばっちりハマってる感じがした。

TeddyLoid だからもう「デモの時点で『Game Changers』は完成してた」って言えると思うんですよね(笑)。

中田 まあ、方向性はね(笑)。

TeddyLoid いやいや、それで十分です。だからホント、明確になんの迷いもなく自分のサウンドを入れることができました。

──そろそろ締めようかと思うんですが、この機会にTeddyさんから中田さんに聞いてみたいことなどはありますか?

TeddyLoid たくさんありすぎて朝までかかっちゃいますよ(笑)。

中田 ははは(笑)。

TeddyLoid ヤスタカさんが「Game Changers」を聴いて、もしサウンド面で「ここは新しいな」って感じたことがあったら、ぜひ教えてください。僕はヤスタカさんの音楽を聴くたびに「これは新しい!」って、昔からすごく衝撃を受けてきましたけど、逆にヤスタカさんが僕のアレンジに新しさを感じてくれてる部分があるのか知りたいです。

中田 普通のミュージシャンって、どんなポリシーを持って作ってるのか音源からわかりすぎるっていうか。みんな「ここからここまでの範囲でできる音楽しか作らない」っていうのを決めちゃってて、損してると思うんですよね。でもTeddyからは「こうじゃないといけない」みたいなのは感じなかった。世代的なこともあるのかもしれないけど。

TeddyLoid うれしいです。

中田 ミュージシャンって、本当はみんな「自分の限界を超えたい」って思ってるはずなんですけど、ポリシーとかがそれを邪魔してるっていう人も多いと思うんですよ。今までこのやり方でずっとやってきたからこの機材は使いたくないとか、こういう音は入れたくないとか。そんなことは考えないほうがいいと僕は思ってるんです。「出音がカッコよければなんでもいいじゃん」みたいな。12時間煮込んだシチューのうまさを知ったからと言って、3分間で作れる料理を作らなくなるのと一緒じゃないですか。僕も、必要なら時間をかけて苦労する方法を取りますけど、ほかに選択肢があるならベストチョイスだけを選びたい。Teddyはそういうやり方でこのアルバムを作ったんだろうなと思うし、それはいいことだと思いますね。

TeddyLoid ありがとうございます。「カッコいいことができるなら手段は選ばない」って思いながらやってきたので、それが伝わっててホントにうれしいです。

2ndアルバム「SILENT PLANET」 / 2015年12月2日発売 / EVIL LINE RECORDS
初回限定盤 [CD2枚組] / 3564円 / KICS-93324
通常盤 [CD] / 3024円 / KICS-3324
CD収録曲
  1. Game Changers with 中田ヤスタカ (CAPSULE)
  2. Searching For You feat. 柴咲コウ
  3. All You Ever Need feat. ☆Taku Takahashi (m-flo)
  4. Secret feat. 池田智子 from Shiggy Jr.
  5. Last Teddy Boy feat. HISASHI from GLAY
  6. Break'em all feat. KOHH
  7. We Are All Aliens with WRECKING CREW ORCHESTRA
  8. Lion Rebels feat. JUN 4 SHOT from FIRE BALL & N∀OKI,NOBUYA & KAZUOMI from ROTTENGRAFFTY
  9. VIBRASKOOL feat. 近田春夫 (Professor Drugstore a.k.a. President BPM) & tofubeats
  10. Above The Cloud with 小室哲哉
  11. はじらい Like A Girl feat. 志磨遼平 from the dresscodes
  12. Grenade feat. 佐々木彩夏 from ももいろクローバーZ
初回限定盤付属CD収録曲
  1. Game Changers with 中田ヤスタカ (CAPSULE) (Extended Mix)
  2. Above The Cloud with 小室哲哉 (Extended Mix)
  3. All You Ever Need feat. ☆Taku Takahashi (m-flo) (Extended Mix)
  4. Secret feat. 池田智子 from Shiggy Jr. (Dub Mix)
  5. Grenade feat. 佐々木彩夏 from ももいろクローバーZ (Ambient Mix)
  6. Searching For You feat.柴咲コウ (Ambient Mix)
TeddyLoid(テディロイド)
TeddyLoid

1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行した。2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)とともにテレビアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成し、アルバムを発表した。2013年にはももいろクローバーZの楽曲「Neo STARGATE」でアレンジを担当したほか、同年4月の「ももいろクローバーZ 春の一大事 2013 西武ドーム大会」ではDJとしてもライブに参加。さらにMEGやマドモアゼル・ユリア、TEMPURA KIDZ、Yun*chi、the GazettE、SuGなどさまざまなジャンルのアーティストの楽曲プロデュースやアレンジ、リミックスを手がけている。2013年8月からは自身のオフィシャルサイトで、「BLACK MOON RISING」と銘打たれた連作を発表。2014年7月にキングレコードの新レーベル「EVIL LINE RECORDS」とアーティスト契約し、翌8月にワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」、9月に初のオリジナルアルバム「BLACK MOON RISING」をリリースした。2015年9月にはももいろクローバーZの楽曲をリミックスしたアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を発表。同年12月に中田ヤスタカ(CAPSULE)、池田智子(Shiggy Jr.)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)ら豪華ゲストを迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」をリリースした。

中田ヤスタカ(ナカタヤスタカ)
中田ヤスタカ

2001年に自身のユニットであるCAPSULEにてCDデビュー。以降、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ曲や「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラック、テレビ・ラジオ番組のテーマ曲制作など多方面にてに活躍している。昨今はカイリー・ミノーグやマデオンへのリミックストラック提供をはじめ、映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲に携わるなどグローバルに活動を展開。また自身主催によるレギュラーパーティを定期的に開催しているほか、大型フェスやファッションショーなどにも出演している。