「マジでこの人何者なんだろう？」

──トーフさんにとっては、音楽を始めてわりとすぐの出来事ですよね。

tofubeats　僕の場合は作った音楽を聴かせ合うような仲間が周りに1人もいなかったから、ネットに上げるのがファーストコンタクトというか。すでにネット上に音楽を発表するコミュニティがあるのを見ていて「ここに混じろう」と思って音楽を始めたんです。そもそも現場が目標じゃない。今で言うとニコニコ動画の「歌ってみた」を最初に始めたようなもんだと思いますよ。まあ、それも今ほど市場は大きくなくて、10人ぐらいのところに混じろうとしていた感じなんですけど（笑）。

──その様子を、Teddyさんはネットを介して見ていたと。

TeddyLoid　はい。でも本格的に「こいつはヤバいぞ」と衝撃を受けたのは、サ上とロ吉のリミックス（サイプレス上野とロベルト吉野「Bay Dream ～from 課外授業～（tofubeats REMIX）」）ですね。

tofubeats　ああ、2007～08年ぐらいですかね。

TeddyLoid　その頃に僕、フレンチエレクトロに移行してTeddyLoidというプロジェクトを始めてるんですけど……こんなカッコいいヒップホップのトラックで、しかも同世代で、ヤバい奴はやっぱいるんだなと。

tofubeats　リミックスコンテストでお互いときどき名前を目にするみたいな関係でしたね。2007～08年頃、ネットに公開されているアカペラ音源を勝手にリミックスするような企画がいくつかあったけど、そんなに数があるわけじゃないから、ほかの人のをチェックしているとちょくちょく目にする名前で。

──トーフさんの場合はそのサ上とロ吉のリミックスなどで「新星現る」みたいな盛り上がりがありましたけど、それはどちらかと言うとインディーズ的で。Teddyさんの場合は早々にMIYAVIさんの海外ツアーに同行したり、いきなり大きな展開だったので、いったい何者なのだろうかと。

tofubeats　そうそう、あれはなんだったんですか？

TeddyLoid　ドラマーの鈴來正樹さんと以前一緒に仕事をしたことがあって、その鈴來さんがMIYAVIさんと仲がよかったんです。それで当時MIYAVIさんがDJとリミキサーを探していたときに、鈴來さんが「Teddyくんっていう若い子がいるけど聴いてみる？」って僕の音源をMIYAVIさんに渡してくれたらしく、それがきっかけで「ちょっとスタジオ行こうや」と声をかけてもらって。下北沢のスタジオでMIYAVIさんと2人で、MIYAVIさんがいきなりBOSS Loop Stationを使ってギターを弾き始めて「これにちょっと音を乗せてみて」って。

tofubeats　怖っ（笑）。いきなり1対1なんや。そっから17～8歳でいきなりワールドツアーに同行でしょ？ すごいっすよね。キャリアが長いから、その年齢でもはや中堅の域じゃないですか（笑）。僕はそのぐらいでようやく初舞台なんで。ネットで断片的に入ってくる情報だけで「マジでこの人何者なんだろう？」って思ってましたもん。

ももクロにまつわる2人の関係

──その後いろんなところでTeddyLoidという名前を聞くようになりましたが、2013年のももいろクローバーZのサウンドプロデュースとライブ出演（参照：ミヒマル＆こうせつも登場！ももクロ「春の一大事」1日目）で、それまでとはまた違う形で名前が大きく広がりましたよね。

TeddyLoid　ももクロさんの「Neo STARGATE」（2ndアルバム「5TH DIMENTION」収録）をサウンドプロデュースさせてもらったのは僕にとっても大きな転機でしたね。「ダブステップとオペラのミックス」という意外なオーダーでしたが、さっそくアレンジしたデモが一発で採用してもらえて。

──ももクロがスタジアム級のアーティストに急成長している中で、「Neo STARGATE」のスケール感とサウンドはまさに「スタジアム映えする曲を用意したんだな」と感じました。Teddyさんが参加したライブも西武ドームでしたし。

TeddyLoid　あのライブではももクロのクラシックス……「走れ！」や「Chai Maxx」などを4分程度のマッシュアップリミックス、それも日替わりで2パターン披露したんですけど、そのときに一部のモノノフ（ももクロファンの総称）さんから「この間のリミックス、カッコよかったからぜひ欲しいです！」とか「リリースしないんですか？」って声をいただいて。その声が今回のアルバムのきっかけになってるんですよ。今年の初め、僕が2015年版の「Neo STARGATE」を勝手に作って発表させてもらったんです。そしたらこれもモノノフさんに喜んでもらえて、「ほかのリミックスも聴きたい」という声がレーベルにも届いたからか、初の公式リミックスアルバムを作ろうという話になったんです。

──なるほど。そして2人のタイムラインを少し前にさかのぼると、ももクロの公式リミックスを最初に手がけた人が……。

tofubeats　いやいや（笑）。でもあれが公式初リミックスになるんですかね。

──ももクロの2ndシングル「未来へススメ！」（2009年11月発売）の通常盤カップリングに収録された「ももいろパンチ（tofubeats Remix）」 ですね。トーフさんはそもそもそれ以前から、ももクロの存在を認識してたんですよね。

tofubeats　当時Perfumeを追っかけてた友達が、Perfumeがめちゃくちゃ売れてなかなか会えなくなってきた中で「最近はみんな週末に代々木公園に行ってるらしいよ」と（笑）。「ももいろパンチ」（2009年8月に発売されたももクロの1stシングル）はすげえいい曲だし、これはのちのち売れるかもしれないとか言って。単純に1人の地方在住アイドルヲタの立場で注目してました。

TeddyLoid　もちろん僕もトーフくんの仕事として当時チェックしてたし、ももクロリミックスのオリジネイターは彼なんです。だから今回、公式リミックスアルバムを作ると決まったときにまず「絶対にトーフくんを呼びたい」と思って。

tofubeats　でもね、僕は普通にアイドルヲタなんで、当時「アイドルのシングルにリミックスが入るのって、ぶっちゃけどうなの？」って客観的な気持ちがあったんですよ。ヲタの皆さんに喜んでもらいつつ、リミックスというフォーマットを定着させるってすごく難しいことだと思うんです。

モノノフさんと一緒に作りたかった

──ではここからアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」について詳しく聞かせてください。まずはTeddyさんが一方的に作った2015年版「Neo STARGATE」が発火点としてあって、そのあとアルバムの選曲を決定するのにファン投票という形式が取られましたよね（参照：ももクロリミックスアルバムをTeddyLoidが制作、収録曲はファン投票）。あの投票結果が少し意外で。

tofubeats　ああ、それ僕も思いました。

──初期からのスタンダードナンバーが選ばれず、意外と最近の曲が多くて。リミックスだとむしろ過去の人気曲を刷新したようなものが望まれると思っていたんですけど。

TeddyLoid　そもそも選曲を投票制にしたのは、モノノフさんと一緒に作りたいという気持ちがあったんですね。ネット世代だからこそ、TwitterとかSoundCloudとかでつながりながら意見をフィードバックさせたいなと。結果には僕もびっくりでした。たぶんね、モノノフさんが「TeddyLoidだったらこの曲をリミックスすると面白いんじゃないか」「この曲ならもっとヤバい四つ打ちになるんじゃない？」みたいな、音楽的な選び方をしてくださったんじゃないかと思うんですよ。ある意味プロデューサー目線で。

tofubeats　なるほど！

TeddyLoid　「この曲をTeddyLoidならもっとよくしてくれる」みたいなメッセージが感じられて、僕としても創作意欲が湧いたところがありますね。