音楽ナタリー Power Push - TeddyLoid×tofubeats対談
平成生まれのトラックメーカー、交わる時間軸
音楽プロデューサー、DJとして多方面で活躍するTeddyLoidが、ももいろクローバーZの楽曲をリミックスしたアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を9月16日にリリースした。本作にはももクロファンによる投票をもとにセレクトされた14曲が収録されており、このうち「天手力男」ではtofubeatsとの共同ミリックスが実現。それぞれの個性を発揮しながら1つのトラックを作り上げた。
今回が初のコラボレーションとなったものの、実は10代の頃すでにコンタクトを取っていたという2人。音楽ナタリーでは2人の対談をセッティングし、それぞれの音楽遍歴をたどりながら歴史背景や共通点を探るとともに、奇しくも同時発売となる両者の新作について語り合ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類
平成生まれの少年2人
──TeddyLoidさんが平成元年、tofubeatsさんが平成2年生まれで1つ違いなんですよね。年齢も近い「平成生まれのトラックメーカー」という共通項はあれど、なんとなく別世界の住人という印象があって。でも実は10代の頃すでにコンタクトがあったと聞きました。
TeddyLoid そうなんです、実は。
──そのあたりのことを今日は詳しく聞かせてください。Teddyさんには前回のインタビュー(参照:TeddyLoid「UNDER THE BLACK MOON」特集)でもお話いただきましたが、2歳でヤマハのエレクトーン教室に通い始めたのが最初の音楽体験と。いわゆる音楽エリート的な家庭だったんですか?
TeddyLoid いえ。両親はロカビリーファッションのブティックを経営していて、家では常にロックンロールやロカビリーがかかっているような環境で。音楽はやらせたかったらしくて、まずはピアノかエレクトーンだろうみたいな。2歳からずっと続けてはいたものの、譜面をもらってそれを弾くだけみたいな形式的なものがイヤで、全然好きではなかったんです。そんなときに……僕は小学校2、3年の頃からネットを見ていて、そこでヒップホップに出会って大きな衝撃を受けたんですよ。ビートが効いた音楽なんて聴いたことがなかったし、なんかジュクジュク言ってるし(笑)。それがスクラッチと呼ばれるものだと知るのにも時間がかかりました。
tofubeats 子供の感覚ですね(笑)。
──小学生でヒップホップというと少しマセた感じもしますけど、興味の持ち方自体はすごく子供らしいですね。同じ頃、1コ下のトーフ少年はどんなふうに過ごしていましたか?
tofubeats うちは父がエレクトーンのインストラクターをやってたらしいんですよ。らしいというのは、僕が小学生になる頃にはもう父は辞めていたんです。弾いてる父の姿は見たことがなくて、家にエレクトーンはあったけど「これ何なん?」みたいな。ピアノを習ったこともあるけど半年で挫折して、あとはずっと勉強してました。
──勉強(笑)。
tofubeats 中学受験の塾に入っていて。あと卓球もやってましたね。バスに乗って行く遠いところの卓球チームに入って真面目に練習してました。
──ピアノが半年あっただけで、音楽の要素はほとんどないですね。
tofubeats はい。その頃僕はまだ“無”です。小学生の間はただ普通にテレビで流れているKICK THE CAN CREWとかを聴いてワーみたいな。小5の頃にm-floの「come again」。
TeddyLoid そうそう。あと僕はSOUL'd OUTですね。Daft Punkとかも同じ頃にテレビで流れてたんですよ。そのあたりがのちのち大きく影響してくるんですけど。
「お前、いつになったらロカビリー始めるんだよ」
──Teddyさんは小学3年生の頃にはABLETON LiveでDTMを始めてるんですよね。
TeddyLoid はい。そのあとヒューマンビートボックスとバトルDJも始めたんですよ。ネットで仲間を見つけて。自宅にたくさんあるロックンロールのレコードからサンプリングして、ビートを抜いて再構築してビートメイキングをやってました。
tofubeats 僕はその頃日能研でめちゃめちゃ勉強してました。
──同じタイムラインで2人を並べると面白いですね(笑)。
TeddyLoid でもブレイクビーツとか作ってても、親父は「お前、いつになったらロカビリー始めるんだよ」って。
tofubeats アハハハハハハハ(笑)。いい話だなーそれ。すげーいい話。
──でもそれだけ音楽が好きな両親なら「そんなことやってないで勉強しろ」みたいな感じではなかった?
TeddyLoid そうですね。「なんでロカビリーやらないんだ」とはずっと言われてたし、今でも言われます(笑)。僕は「現代のロックンロールをやってるんだ」って答えてますけどね。
ヒップホップとインターネット
──トーフさんが音楽を始めたのは?
tofubeats 中1のときなので、2003年ですかね。ちょうどADSLが普及して……。
TeddyLoid テレホーダイがなくなり。
tofubeats ADSLになってようやくMP3が送れるようになったんですよね。
──エリート受験生がなぜ中学に入って音楽を?
tofubeats 真面目に勉強して無事中学に合格したあと、インターネットを真面目にやるようになり、「2ちゃんねる」とかを真面目に見るようになり(笑)。そこでヒップホップを教わったわけです。ただ僕はそこからすぐ楽器を始めるんじゃなくて、リスナーとして真面目に聴き始めただけで。「blast」を読みながらヒップホップをいっぱい聴いて、1年ぐらい経った頃に機材の記事を読んで「できるんちゃうんか? これ」って。でも僕の場合すぐに機材が買ってもらえるわけではなく、またそこで勉強です。「英検準2級に受かったら買ってやる」と。それでまた健気に勉強して……無事準2級に受かってやっと機材を手に入れたのが中2のときです。
──お2人とも時期は違えど、衝動にかられて機材を手にするきっかけとなったのはヒップホップなんですね。
TeddyLoid そこは共通点ですね。ヒップホップとインターネット。ネットが発達したことで遠くにいる誰かともすぐコミュニケーション取れるし、欲しいものがあったらすぐに買えるし……コンピュータのディスプレイに手を突っ込めばすべてにコネクトできるような(笑)、そんな感覚がありましたね。
──その後、音楽配信とSNSを同居させたMyspaceの登場により、お2人の歴史がクロスするわけですね。
TeddyLoid はい。それ以前からとある掲示板で、トーフくんが別名義で曲をアップしていたのを知っていて「すごい奴がいる」って認識してたんです。そのあとMyspace経由で僕からメッセージを送ったのが最初のやりとりで。
──今となってはネット上で自主制作音源を聴く場はたくさんありますけど、Myspaceの登場は画期的でしたよね。
TeddyLoid Myspaceのよかった点は、自分のページをデザインできたんですよ。それがすごくクリエイティブで。みんなオリジナルのデザインにして「俺のMyspaceこんなにカッコいいんだぜ」みたいな競い合いもあった。
tofubeats トップに出るフレンドを選べたりとかね(笑)。
TeddyLoid あの感じはすごくよかったし、当時Myspaceを通じて知り合った海外のトラックメーカーとは今でも交流があります。
tofubeats あの頃ネットで音楽やってた人たちは気合が入ってたから、わりとみんな続いてますよね。
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- TeddyLoid リミックスアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」 / 2015年9月16日発売 / [CD2枚組] 3240円 / EVIL LINE RECORDS / KICS-3287~8
- TeddyLoid リミックスアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」
DISC 1
- Link Link
- DNA狂詩曲
- CONTRADICTION
- 全力少女
- 天手力男(TeddyLoid & tofubeats Remix)
- 黒い週末
- 仮想ディストピア
- Chai Maxx ZERO
- GOUNN
- BIONIC CHERRY
- 夢の浮世に咲いてみな
- 青春賦
- 『Z』の誓い
- Neo STARGATE
DISC 2
- Re:MOMOCLO NONSTOP MIX
- MOMOCLO DJ REMIX Vol.1
- MOMOCLO DJ REMIX Vol.2
- tofubeats ニューアルバム「POSITIVE」 / 2015年9月16日発売 / unBORDE
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3888円 / WPZL-31099
- 通常盤 [CD] / 3240円 / WPCL-12238
CD収録曲
- DANCE&DANCE
- POSITIVE feat. Dream Ami
- T.D.M. feat. okadada
- Too Many Girls feat. KREVA
- STAKEHOLDER
- Throw your laptop on the fire feat. 小室哲哉
- I know you
- Without U feat. Skylar Spence
- すてきなメゾン feat. 玉城ティナ
- くりかえしのMUSIC feat. 岸田繁(くるり)
- 閑話休題
- 別の人間 feat. 中納良恵(EGO-WRAPPIN')
- I Believe In You
初回限定盤DVD収録内容
- 水星 feat. オノマトペ大臣
- No.1 feat. G.RINA
- Don't stop the music feat. 森高千里
- おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん)
- ディスコの神様 feat. 藤井隆
- Her Favorite & 衣替え
- Come On Honey!feat. 新井ひとみ(東京女子流)
- poolside feat. PES(RIP SLYME)
- 20140803
- 衣替え feat. BONNIE PINK
- STAKEHOLDER
- 朝が来るまで終わることのないダンスを
TeddyLoid(テディロイド)
1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行した。2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)とともにテレビアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成し、アルバムを発表した。またSOUL'd OUTのツアーではスクラッチDJとしてのテクニックも披露している。2013年にはももいろクローバーZの楽曲「Neo STARGATE」でアレンジを担当したほか、同年4月の「ももいろクローバーZ 春の一大事 2013 西武ドーム大会」ではDJとしてもライブに参加。さらにMEGやマドモアゼル・ユリア、TEMPURA KIDZ、Yun*chi、the GazettE、SuGなどさまざまなジャンルのアーティストの楽曲プロデュースやアレンジ、リミックスを手がけている。2013年8月からは自身のオフィシャルサイトで、「BLACK MOON RISING」と銘打った連作を発表。2014年7月にキングレコードの新レーベル「EVIL LINE RECORDS」とのアーティスト契約を発表し、同年9月に初のオリジナルアルバム「BLACK MOON RISING」を発表した。2015年9月、ももいろクローバーZ初の公式リミックス作品となるアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」をリリース。
- TeddyLoid | BLACK MOON RISING
- TeddyLoid(@TeddyLoidSpace) | Twitter
- TeddyLoid | Facebook
- TeddyLoidの記事まとめ
tofubeats(トーフビーツ)
1990年11月26日生まれ。神戸在住のトラックメーカー / DJ。中学時代からWeb上で自作の音源を発表し、高校時代には自作のCD-R作品をリリースする。2010年3月発表の「Big Shout It Out」、2012年6月発表の「水星 feat. オノマトペ大臣」がそれぞれiTunes Storeチャートを中心に話題を集める。2013年4月に初のオリジナルCDアルバム「lost decade」をリリース。同年11月には森高千里やの子(神聖かまってちゃん)をボーカリストに起用したミニアルバム「Don't Stop The Music」でワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEからメジャーデビューを果たし、2014年10月に1stフルアルバム「First Album」を発表した。2015年9月に2ndフルアルバム「POSITIVE」をリリース。