約11年ぶりのニューアルバム「Mellow Waves」が国内外で絶賛され、新作を引っさげて全国10カ所を回ったツアーも大盛況だったCorneliusが面白い音源を作った。スピーカーやプレイヤーのコンディションを確認するための「Audio Check」だ。
これは12inch、45回転のアナログレコードに、オーディオ装置セッティング確認用のさまざまなデモンストレーション音源を収めた作品だが、そこはCornelius。単なる確認用の無味乾燥なものではなく観賞用としても面白い、ポップソングとして最高に楽しめるものになっている。非売品だがTechnicsのダイレクトドライブターンテーブルシステムSL-1200GRを買って応募すると入手することができた。オーディオマニアにも音楽ファンにも見逃せないアイテムだ。Corneliusが長年望んでいたもののなかなか実現できなかったと言う、透明PETを使用した特殊ジャケットも注目である。
ツアー中のCorneliusこと小山田圭吾を、新木場STUDIO COASTでのツアー東京公演に登場した移動式の試聴ルーム・Technics Sound Trailerに招き、Technicsのハイエンドオーディオシステムでアナログレコードを試聴してもらったあと、インタビューを行った。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 淺本竜二
スピーカーがヤバい動きしてましたよ(笑)
──スタジオで作ったデジタル音源を、実際にアナログ盤として聴いてみて、何か違いは感じましたか?
やっぱりね……空間の広がりとか、そういうのはデジタルのほうがよりわかるんだよね。でもこれはアナログプレイヤーのテスト用のものだから。チェックできないと意味がないから、それはちゃんとわかるようにしました。
──音の聞こえ方とかバランスとか、そういうのは違いました?
今聴いたのはかなり感度を上げていたから、スクラッチノイズとか拾ってたね。でも家で聴くときはこんなデカい音で聴くことはないし(笑)、そういうところは全然気にならない。やっぱり今回これだけ大きな音で聴くと恐怖心を感じるよね(笑)。ヤバい! 止めて! っていう。低音とか高音とか生々しすぎて、ホント怖いですよね。
──最後の正弦波がだんだん大きくなっていくところとか大音量で聴くと相当に怖い。ヤワなスピーカーでこれ聴くと飛んじゃうんじゃないかと。
うんうん。スピーカーがヤバい動きしてましたよね(笑)。
──コーンが前後に激しく動いてましたね。
あと位相感はすごいですね。ホワイトノイズの位相チェック。この環境で聴くと。前後感とか、えーっという感じになりますよね。
ちょっと昭和っぽい感じが面白いかなって
──そもそも「Audio Check Track」の制作は最初にどのように依頼されたんですか。
普通に「オーディオチェック用のレコードを作りたい」と頼まれました。それ以上の注文は特になくて。チェックできればいいじゃないか、と。
──こういうチェック項目を最低限入れてくださいと。
いや、好きに作ってくれって(笑)。
──聴いた感じの音楽性は「FANTASMA」(1997年発売のアルバム)に入っていそうな、カラフルでポップな曲調です。
うん、「FANTASMA」に「MIC CHECK」って曲があって。なんとなくそういうイメージで、という話はあったかな? あれはバイノーラル録音のダミーヘッドにつけるマイクロフォンのチェックのための曲だったけど、今回はアナログプレイヤーのセッティングのためのチェックレコードってことだね。
──制作工程はどんなものだったんでしょう。
もともと東洋化成さんが昔作ってたオーディオチェック用のレコードがあって。そのレコードで流れてるセリフをそのまんま使ってるんですよ。
──あの女性のナレーションはサンプリングなんですね。
うん、ちょっと昭和っぽい感じがいいなと思って。1960年代ぐらいに作られたものなのかな。そのオーディオチェック用レコードはずーっと今も使われてるらしいんです。そういうの面白いじゃないですか。で、それを再利用するところから制作は始まりました。
──ナレーションだけ昔のものを使って、残りは新たに作った。
そうそう、全部作った。アナログB面はMETAFIVEで一緒にやってるLEO今井くんにナレーションしてもらいました。
レコード聴くって、最高にぜいたくな時間ですよね
──普段アナログレコードはよく聴くんですか。
最近またちょっと聴き始めました。ここ3年ぐらいかな。
──近年海外ではアナログレコードと配信だけで、CDを出さないという例も増えてます。アナログに対する関心も強まってますね。
そうだね。あと息子が今レコ屋で働いてるからさ。けっこうレコ屋に行く機会も増えたんだよね。息子はすごくレコードを聴くからさ。しまってあったターンテーブルをまた持ってきて。
──息子さんの勧めでレコードを買ったり。
うん、全然買う。
──昔のアナログ盤を引っ張り出して聴いたり。
うん。あと、昔持ってたけどどっか行っちゃったやつをまた買い直したり。最近再発も盛んじゃないですか。昔は音が悪かったものも、すごくいい音の盤になって再発されてるしね。80年代や90年代のものまでリイシューされてるから。ちょっと高いんだけどね。
──中古盤も高くなっていますし、新品はもっと高いですね。
4000円ぐらいするでしょ。
──でもアナログはジャケットにもお金がかかってますからね。今なら同じ音源でも、いろいろ聴く手段があるでしょう。CD、ハイレゾデータ、ストリーミングからYouTubeまで。これで聴くことで新たな発見ができるとか、アナログ盤ならではの楽しみはありますか。
なんか……聴いていて気分がいいよね。余裕がないとなかなかアナログって聴けないでしょ。時間的にも。
──確かに。アナログ盤って持ち歩いて聴くようなものではないし、時間に追われてるような余裕のない状態で聴くには向いてないかも。
そうだね。休みの日の家でお茶飲みながらレコード聴くって、最高にぜいたくな時間ですよね。
──そう言えば新作の「Mellow Waves」からカットされたシングルって、みんなCDじゃなくアナログ盤でしたよね。
うん……アナログが好きだから(笑)。7inchが作りたかったんだよね。
──まず自分が欲しい、と。
そうそう。あとはジャケットですよね。版画のサイズ感が映えるから。自分でCDシングルってなかなか買わないし、持っててもあんまりうれしくないし(笑)。アートピースとして全然アナログの方がいいですよね。
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やっぱり海外はアナログが求められてるんだと
- Cornelius「Audio Check」
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※ダイレクトドライブターンテーブル「SL-1200GR」を予約購入した人にプレゼントされたオーディオチェック用のアナログ盤。
- 収録曲
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A1. Audio Check -Japanese
B1. Audio Check -English
B2. Like a Rolling Stone
- Cornelius(コーネリアス)
- 小山田圭吾によるソロユニット。1991年のフリッパーズ・ギター解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンドThe Cornelius Groupを率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。2016年1月には、高橋幸宏、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井と共に結成したバンド・METAFIVEが初のアルバム「META」をリリース。2017年6月には、Corneliusとしての10年半ぶりのオリジナルアルバム「Mellow Waves」を発表した。