“原音に忠実”、Technicsに感じるアティチュード
──Technicsの物作りの姿勢に触れて、クリエイターとして何か感じることはありますか?
岸田 そりゃあ、背筋を正される思いですよ(笑)。原音に忠実というお話がありましたけど、例えばラーメンを作るときにね、魔法の粉をいっぱい入れたらやっぱりうまいわけですよ。でも、どんどん魔法の粉を入れて、少しケミカルな味になってきて、舌が痺れるから豚の油も足しとこ……となると、そもそもそれがなんやったのかわからんくなる。もちろんそれはそれでおいしいし、僕も好きなんですけど、やっぱり最初にラーメンを作り始めたときのアイデアとか、やり方の基本が大事やと思うんですよね。僕らはちょっとこじれてるミュージシャンなので偉そうなことは言えないですけど、例えばボールが来たらセンター方向を意識してバッティングしなさい、みたいな。Technicsはそれをやっている。
佐藤 (笑)。
岸田 ちゃんとセンター方向にボールを転がせるように、このタイミングでバットを振るみたいな。いや、音楽の話しろって感じですよね(笑)。
佐藤 ラーメンから音楽に行って、次は野球の話が始まったから面白かった(笑)。
岸田 音楽でカッコええこと言おうと思ったらラーメンの話になってた(笑)。やっぱり気持ちええところを目指すというか、ここにこういう音がドーンと入ったら盛り上がるとか、音楽を作るうえでの仕組みがいくつかあるんですよ。今の人たちはそれを凝縮してコンビニエントなものにするのが上手だと思うんです。ベートーヴェンが70分以上かけて1つのモチーフを使って伝えていたものを、90秒のアニメソングに同じ情報量を詰め込むことが求められるわけですから、すごく緻密に作り上げないといけないし、ただ情報を詰め込むだけだと聴いていて気持ちよくならない。そんな“詰まりの時代”に「ありのままの音を届ける」というコンセプトで作られているイヤホンを試したら、音楽を好きになる人が増えるんちゃうかな。なんでもってわけじゃないけど「めっちゃいいけど届きにくい」と思ってた曲が、「AZ80」で聴くとしっかりポテンシャルを発揮する感じがしました。
佐藤 このメーカーと言えばあの製品、ってあるじゃないですか。それで言うとTechnicsは自分の中でDJのイメージがすごく強かったんですよ。各メーカーさんはそれぞれのこだわりのもと、いろんな製品を作られていて、だからこそユーザーは「自分はこのヘッドホンがいい」と好みが分かれるんやと思う。自分やったらとあるメーカーのヘッドホンが好きで使っていましたし。でも、「AZ80」を使ってみて新しい出会いというか、その感覚にこの年齢でなれたのがうれしかった。だからたくさんの人に試してもらいたいですね。高価なヘッドホンアンプを用意しなくても手軽にいい音を楽しめるし、広がりがあるメディアやと思います。
小走りしても安心なフィット感
──装着感はいかがでした?
岸田 長時間着けてみましたけど疲れませんでしたね。
──耳の中のくぼみをコンチャと呼ぶらしいんですけど、「AZ80」ではその装着面にフィットする“コンチャフィット形状”を採用しているんです。
岸田 コンチャ?
──耳を圧迫する力を利用する従来のイヤホンとは異なり、安定感があるので長時間着用しても疲れにくい設計になっているそうです。
佐藤 へえ。僕は小走りしたときに落とす不安もあるから、ワイヤレスイヤホンでも耳の内側にフィットするものを選んでたんですよ。でも「AZ80」で小走り5、6回しましたけど全然気にならなかったです。
岸田 佐藤さん、よく小走りしてますもんね。私もこれを着けながら用事を片付けたりしてたけど、ずれ落ちたりしなかったし、着けてる感覚もあんまりなかったですね。
──デザイン面はいかがでしょう。今回初めてゴールドのTechnicsロゴを採用していたり、ケースにはアルミの素材が用いられているんです。
岸田 シルバーは東武から乗り入れてくる半蔵門線の銀色の電車に似てますね。カッコええわ。
佐藤 それはちょっとわからんわ(笑)。(ケースを手に取りながら)でも、ここらへんのカーブは九州を走ってる特急みたい。
岸田 わかるわかる(笑)。
──イヤホンのタッチセンター部分にはヘアライン加工が施されていて、光の反射でアナログレコードの盤面のように見えるデザインもポイントです。
岸田 ホンマや。めっちゃカッコええやん。やっぱロゴもええな。
佐藤 サイズ感もいいですよね。ポケットに入れても邪魔にならないくらいの大きさで。
──お二人はノイズキャンセリング / アンビエントモードは使わないとのことでしたが、マルチポイント機能は試されましたか?
岸田 操作方法や何が便利なのかを理解できたら使うと思うんですけど、私自身がデジタル機器に対してのスペックがかなり低い人間なんですよ。ボタンはギュッと押さないと気が済まないおじさんなので(笑)。どう便利な機能なんですか?
──例えば複数の端末を使いながらリスニングする際に、音楽が再生されたほうに自動的に切り替わるんです。単純にいちいち接続し直す手間がかからない。「AZ80」では、業界初となる3台同時接続が可能となりました。
岸田 あー、なるほど。それは便利ですわ。
くるりが選ぶ、「AZ80」で聴きたい20曲
──先ほども話に挙がりましたが、今回はくるりのお二人に「AZ80」で聴くことを前提にした全20曲のプレイリストをそれぞれ作成していただきました。まずは選曲理由から教えてください。
岸田 普段わりと19世紀とかめちゃくちゃ昔の音楽を聴くことが多いんですけど、このイヤホンでたまたま最初に聴いたのが最近の曲だったので、ここ2、3年にリリースされた楽曲で構成してみました。自分の基準としてはさっきも言いましたけど、ハーモニー楽器やボーカル自体の倍音、リバーブ感が“あってほしいところにある”曲を選んで置いていって。いろんなジャンルの音楽をチェックしてみたけど、プレイリストで選んでいる曲は「AZ80」で聴くとすごく気持ちいいと思います。
──岸田さんが特に気持ちいいと感じた楽曲はどのあたりですか?
岸田 1曲目のマディソン・カニンガムは最近好きになったシンガーソングライターなんですけど、このイヤホンで聴いたらめちゃくちゃよかった。シンプルなんだけど録音が凝ってるし、声も倍音の多い感じでいいと思います。あとピアノの低い音って録音すると濁っちゃうんですよ。低い音で和音を弾いたら濁って聞こえることが多いんですけど、ダヴィ・フォンセカの「João no Pati」はすごく上手に録音されていて。低い音のピアノでハーモニーとリズムが出てる感じで、これももしかしたら「AZ80」で聴かへんかったら“ただ面白い音楽”で終わってたかもしれない。
──佐藤さんはいかがですか?
佐藤 僕は「しっかりしたローを聴いたらどうなんやろ?」と思って最初にディグス・デュークの「Is It Love?」をチョイスしたんですけど、結果何を聴いてもええやんと思っちゃったので、この20年ぐらいで好きになったアーティストや楽曲を思い出しながらセレクトしました。5曲目に選んだMammal Handsはドラム、ピアノ、サックスという構成のジャズユニットで、「Quiet Fire」はさらっと聴いたときは「落ち着いたいい音楽やな」って思ったのに、「AZ80」で聴いたら静かな曲やけど徐々に燃え上がっていく演奏や、すごく熱いものが音に入っているのが伝わってきました。
──この並びに美空ひばりさんの「愛燦燦」が入っているのも面白いです。
佐藤 違和感ありますよね(笑)。以前とあるリスニングルームに連れて行ってもらったときに、美空ひばりさんの楽曲をいくつか聴いて、そのボーカルのすごさに驚いたんですよ。それからイヤホンやスピーカーを選ぶ際のポイントとして、美空ひばりさんの歌を「ええな」と思えるものというのがあって。あとはMarc Bolan & T. Rex「Cosmic Dancer」はアコースティックギターだけの弾き語りなんですけど、まあ音が悪いんですよ。ギャーってかき鳴らしてるし、ちゃんと録音した感じでもないけど大好きで、これは「愛燦燦」と同じくリスニング用として入れてます。
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岸田繁×佐藤征史の意見が一致「あいつわかってるやん」