Technicsの新作ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ80」が6月15日に発売された。音楽ナタリーでは「EAH-AZ80」の発売を記念した特集を連載形式で展開している。第2回にはOKAMOTO'Sのメンバーで、ベーシストとしてさまざまなアーティストのサポートも務めるハマ・オカモトが登場。普段からTechnicsのターンテーブルを愛用しているハマだが、同ブランドのワイヤレスイヤホンについてはノーマークだったという。今回はそんな彼に「EAH-AZ80」を試してもらいつつ、普段の音楽環境や、ワイヤレスイヤホンに求める条件、バンドの現在のモードについて話を聞いた。
取材・文 / 三宅正一構成協力 / 笹谷淳介撮影 / 曽我美芽
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Technics「EAH-AZ80」
TechnicsがHi-Fiオーディオ機器の開発で長年培われた音響技術の粋を注いだ完全ワイヤレスイヤホン。10mmドライバー×アルミニウム振動板が搭載されており、低域から高域まで再現性の高いクリアな音を楽しむことができる。ノイズキャンセリングの性能は業界最高クラス。長時間の使用でも疲れにくい“コンチャフィット形状”を採用しているほか、業界初の3台マルチポイント接続にも対応している。
Technicsはどんなワイヤレスイヤホンを作るのか?
──ハマさんは普段、どのような環境でワイヤレスイヤホンを使っていますか?
現代において音楽を聴く行為って圧倒的にイヤホンまたはヘッドホンを使うことが多いですよね。もちろん家にあるスピーカーで音楽をじっくりと楽しむこともありますけど、音楽を聴くこととイヤホンを使うことはイコールになっている気がするんです。僕も外出中はイヤホンを着けっぱなしですし、何か作業をするとき以外はほぼ着けてると言っても過言ではない。1年に換算したら、相当な時間イヤホンをしているんだろうと思います。
──OKAMOTO'Sのメンバーからデモが送られてきた際、イヤホンでチェックすることもある?
しますね。話が少し派生しちゃいますけど、レコーディングやマスタリング、特にミックスのときはイヤホンで音をチェックすることもあるんです。基本的にはスピーカーで確認するんですけど、先ほども話したように「どれだけの人がこんな整った環境で音楽を楽しんでいるのか?」と考えるとイヤホンのほうが確実に多いので、個人的にはイヤホンでどう聞こえるかのほうが現実的。自分の担当楽器的にも重要なポイントだと思うので、仕事面でも大事なチェックはイヤホンでやることが多いですね。
──なるほど。ちなみにハマさんはTechnicsというブランドにはどういったイメージを持っていますか?
やっぱり、ターンテーブルのイメージが強いですよね。僕も最初に購入したターンテーブルはTechnicsのもので、それをいまだに使っています。だから今回お話をいただいたときは「ワイヤレスイヤホンなんだ」と思いました。堅実なイメージがあるTechnicsがどんなイヤホンを出すのか興味がありましたね。言い方はアレですけど、これだけいろんなメーカーからワイヤレスイヤホンが発表されているわけだから、その中でTechnicsは新しいものを作りたいのか、何か自社ブランドが持つ歴史に基づいたタイプのものを作るのか……そこが素直に気になりましたね。
音がフラットに聞こえるかどうか
──イヤホンは有線タイプからワイヤレスタイプまで幅広く販売されていますけど、ハマさんは普段からワイヤレスがメインですか?
そうですね。でも最初はワイヤレスってだけで不安がありました。だってワイヤレスイヤホンが流行り出した頃はなんか怖くなかったですか? 一応、音楽を生業にしている身としては、音質のことを含め、ワイヤレスにすることで何か犠牲にしているものがあるだろうと思っていたんです。でも、だんだん技術が進歩して、今はそうじゃないんだということがわかってきた。僕もこれまでいろんな種類のイヤホンを試してきたけど、今はワイヤレスがメインですね。
──ハマさんがワイヤレスイヤホンを買うときの基準はありますか?
ここ10年くらい、世界的にサウンドの流行は“低音推し”だったじゃないですか。それはイヤホンに限らず、オーディオ周りもそういう傾向があって。聞こえづらいものとして低音が扱われていたからこそ、低音域をもともとの設計上でブーストさせたり、持ち上げているものがすごく多かった。僕はそういうのが苦手で、なるべく味付けがなく、もともと録った音源に忠実であれと思っていた派なので、音がフラットに聞こえるかどうかは重要ですね。
──なるほど。
あとはペアリングの速さや、操作のわかりやすさ、ノイズキャンセリングの性能。特にノイズキャンセリングに関して言うと、今はどこのメーカーも標準機能として付けるようになりましたよね。大なり小なり好みもあるし、最初はどうなんだろう?と思ってましたけど、これだけ技術が進むと、ノイズキャンセリングの質みたいなものもわかってくる。最初はすべて一緒だと思っていたけど、外音を消すというか、どこからどこまでの範囲を大事にしているのかなど製品によって異なることがわかってきたので、そのあたりも1つ重要なポイントだと思います。
予想をいい意味で裏切った、クリアかつフラットな音質
──ハマさんには今回、Technicsの新作ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ80」を事前に試していただきましたが、音質はいかがでしたか?
めちゃくちゃよかったし、驚きました。今回お声がけいただいてこんなことを言うのはどうかなと思うんですけど、正直「新作のワイヤレスイヤホンといってもほかのメーカーと圧倒的な違いが果たしてあるのだろうか?」と最初は思っていたんです。細かく言えばあるんだろうけど、圧倒的な違いを出すには、例えば音声ガイダンス機能が多いとかそういうところに振り切るのか、はたまためちゃくちゃイコライジングできるとかかなと思っていたら、その逆を行っていました。すごく音がクリアでフラットだった。
──好みの音質だったんですね。先ほどおっしゃっていたノイズキャンセリング機能はいかがですか?
ノイズキャンセリングもすごかったですね。これまで使ってきたどのイヤホンよりも一段階グレードが上というか、まだ進化する余地があったんだなと。でも、問題視されている「周りの音が聞こえづらくて危ない」ということはなくて、聞こえないといけない音はちゃんと聞こえる。ノイズキャンセリングをオンにしたときの、世界観というのか、すごく心地いいです。最近気に入って使っていたイヤホンがいくつかあったんですけど、それらを超えてきてくれました。僕がいいと思うようなポイントを、開発者の方たちも念頭に置いて作られたのかな。
──「AZ80」のノイズキャンセリング機能は「業界最高クラスのノイキャン」を謳っています。
そう言えるってすごいことですよね。あとはフィット感ですね。筐体が小さいわけでもないし、見た目が少しぷっくりしてるので、装着したときにどうなんだろうと思っていたけど、好みのフィット感でした。
──コンチャフィット形状を採用しているんですって。
コンチャフィット形状?
──耳を圧迫する力に頼らない形状のため、安定性が増し、長時間装着しても耳に負担がかかりにくいとのことです。Technicsはこの形状を開発するために、筐体の形状試作を300個以上作って、社内テストを繰り返して完成させたそうですよ。
なるほど。この記事を読んでいる人の中には、「本当はワイヤレスイヤホンが欲しいんだけど耳の形が変ではまるものがない」という人がいると思うから、そういう人は「AZ80」を一度試してみてほしいですね。
当たり前だと思わないほうがいい
──筐体やケース、デザイン面についてはいかがですか?
リッチなデザインですよね。安心感があるというか、すごくいいなと思いました。音質面での“味付けしていないクリアな音”という特徴に、きちんとリンクするようなデザインになってる。あとケースもコンパクトですよね。最低限の大きさというか、持ち運びにも便利なサイズ感だと思います。
──「AZ80」には、通話中に自分の声だけをクリアに届けることができる機能「JustMyVoice」も搭載されています。
すごい。相手に声がクリアに伝わるなら、それに越したことはないですもんね。それって本来はスマートフォン側が力を入れるべきポイントだと思うんですが、「AZ80」がやってくれるというのはとてもありがたいですね。
──僕も事前に試させていただいて、いろんなジャンルの音楽やPodcast番組を聴いてみたんですけど、耳が疲れないことに驚いたんですよ。ハマさんがおっしゃってるようにあらゆるジャンルの音楽、話し声がフラットな状態で耳に入ってくるのが印象的でした。
びっくりしますよね。これが本来あって然るべきイヤホンの姿なのかなという感じがします。いつもの制作では「AZ80」に近い性能のヘッドホンで作業を進めるんですよ。味付けをせず平坦に。日頃そういうふうに録音をしているからこそ僕は音の聞こえ方にシビアなので、それがワイヤレスイヤホンの世界でできるというのはすごくありがたいですし、うれしい。どうしてもワイヤレスイヤホンで、なおかつノイズキャンセリング機能が付いたモデルだと、ローがもっこりしちゃうものが多い。「AZ80」だとそれを感じないのは、きっと開発時の執念の結果なんだろうなと思います。
──まさに「AZ80」はEQブロックをシンプルにして音の劣化を最小限にするダイレクトモードを新搭載しているのが特徴なんですが、これは「ありのままの音を届ける」という信条を持つTechnicsの哲学でもあると思うんです。この信条はハマさんもミュージシャンとしてシンパシーを感じる部分なのではないかなと。
そうですね。やっぱり作り手としては「こういうふうに聴いてほしい」という気持ちがあるから、「ありのままの音を届ける」という姿勢には共感しますよね。ぜいたくを言えば誰でも「AZ80」のようなイヤホンで聴いてもらいたい。音の劣化を抑える技術が完成したとき開発者の方々はどれだけ喜んだんでしょうね? そういう苦労を考えると、「AZ80」で音楽を聴けることをみんな当たり前だと思わないほうがいいと思うんだよな。だって「AZ80」も、前のモデルから「もっといけるだろ!」とがんばって、その結果クオリティの高いイヤホンが完成したわけじゃないですか。開発に携わった人たちが「AZ80」に懸けた思いと労力は相当なものだったと思います。
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