音楽には階層がある
今はアナログブームだと言われていますが、アナログ盤に合う音楽や、そうした音楽の作り方といったプロセスを伝えないまま「アナログで音楽を聴きましょう」みたいな、ちょっと説明不足な部分はあるよね。
髙城 逆に言えば音楽には階層があって、スピード感で聴くべき音楽もあるわけで。そういう音楽はストリーミングで聴くのが最適だと思うんです。
そうなんだよ。この前SUMMITの主宰者の増田さんと打ち合わせしていたときに、「楽曲制作時にはストリーミングで、この曲をもう1回聴きたくなるかどうかを考えている」と言っていて。すごく興味深かった。再生ボタンをもう一度押してもらうっていう点ではCD、レコードとなんら変わらないけど、ストリーミングの軽快さをもっと熟知することというか。リリースする送り手サイドは聴く側のメインのフォーマットに合わせて、柔軟に作り方、聴かせ方を考えていかないといけないし。当たり前のことなんだけど。で、カクバリズムの場合はアナログを最初にリリースしているケースが多いので、そこでどう聞こえるかってのもストリーミングと同じくらい重要にはなっているんですよね。そもそもカクバリズムというレーベル自体、7inchアナログを出したくてスタートしているし。
髙城 映像の世界で言えば映画館なのか、テレビなのか、Netflixなのかみたいな、そういうことをある程度考えるのは大事なんでしょうね。音楽家は今、自分が作る音楽がどのメディアに適しているのかを考えなきゃいけない時代なのかもしれない。
家にある形見のMK3
そう言えば、前回の連載で澤部(渡 / スカート)くんがMK7が新品で出ていることが意外に重要だと言っていて。中古でもターンテーブルは買えるけど、現行品があるというのは安心感がある。
髙城 確かに。
髙城くんの家のプレイヤーって、家具みたいな重厚なやつじゃない?
髙城 僕のはMK3だった。
3だったの?
髙城 今まで型とか知らなかったんですけど、マコイチくんのインタビューを読んで、こういうことを聞かれるんだと思って(笑)。で、調べてみたらMK3って書いてあった。僕の家にあるMK3は親が使っていたものをそのまま使っているから、もう何十年も使ってるんですよ。
形見みたいなものだね。
髙城 実際形見だし。本当に家具みたいで、しかも耐久性がある。そういう意味でも、Technicsはいいブランドだと思います。
そうですよ。9万円で買って、数年しかもたなかったら寂しいですよね。
髙城 現代のポストフォーディズム的な風潮ってあるじゃないですか。どんどんモノを買い換えなきゃいけなくて、製品がアップグレードされたら、かつての機種は使えないとか。常に買い換えを促されるというのは疲れますよ、消費者は。
これぞレーベル冥利!
髙城 角張さんは今日どういうレコードを持ってきたんですか?
僕はリヴィングストン・テイラーを。テイラー4兄弟の3男ですね。リヴィングストン・テイラーは安くていいんです。アナログが800円とか1200円で売ってるんで。ある程度ジェームス・テイラーとか聴いて、ちょっと違うのを聴いてみたいなというときにすごく聴きやすくて。
髙城 エバーグリーンでね。
あとは髙城くんも大好きなBen Folds Fiveの2ndアルバム「Whatever and Ever Amen」。
髙城 最高です。つい最近も聴いた。「Brick」とかね。
(古川)麦ちゃんがceroの野音ライブのリハーサルでやってたよね。
髙城 いきなりピアノで弾き出して(笑)。
最高だったね。ちなみにこれは1997年のアルバムです。20代の頃に安いターンテーブルで聴いてたんだけど、ひさしぶりに聴きたくて。
髙城 これも中古レコード店で簡単に見つけられるよね。
いやいやいや、これが今、けっこう高いの。
髙城 そうなんだ。
たぶん3000円くらいするんじゃない? あとはマルコス・ヴァーリのちょっと元気が出そうなジャケのやつ(「Vontade De Rever Voce」)も持ってきました。これは再発盤だから安いけど、オリジナル盤はすごく高い。あとは藤井洋平さんの「Banana Games」、フィッシュマンズの「宇宙 日本 世田谷」。それと、Walter Wanderley Trioもよくて、イージーリスニングっぽい……。
髙城 ラウンジっぽい。
これは珍屋という国分寺にある中古レコード店でCDを買ってずっと聴いてたんだけど、アナログで買い直したので聴いてみたい。せっかくだから髙城くんのソロ7inch(「ミッドナイト・ランデヴー / PLEOCENE」)も聴いてみようか。
いいねえ。音質的にカッコいいねえ。この曲のデモが上がってきたとき、個人的にめちゃくちゃ盛り上がって。コロナ禍の前ですが、当時僕はレーベルというか音楽仕事全般にちょっとした閉塞感を感じていたんです。なんというかスランプみたいな感じというか……で、帰宅中にカーステレオでこの曲のデモを聴いて「これだ!」って。めちゃ最高で、何度もリピートして「これぞレーベル冥利だよなー! レーベル最高!」ってなって、大復活しました。
髙城 そうだったんだ(笑)。
録音した直後の感じをありありと思い出す音像
この7inchに関する思い出は何かありますか。
髙城 この曲、尺の問題で45回転で7inchに全部入りきらなかったんです。アルバムに収録したオリジナル版はギターソロを弾ききって終わるんですけど、7inch版ではギターソロが始まったところでフェードアウト。賛否両論あるんですけど、それがアナログっぽいところかなと。刹那を喜ぶというか。
腹八分目ね。でもこれは2020年のド名曲ですよ。俺の2020年を救ってくれた曲ですから。あるんですよ、40代にはモヤッとしてしまう瞬間が(笑)。
髙城 ははは(笑)。
というわけで髙城くんと僕が持ってきたアナログをMK7で聴いてみましたけど、どれも聴感的になんのストレスもなく安心して聴けました。
髙城 やっぱり安心感がありますね、Technicsのターンテーブルって。
ハイが出やすいとかは針の関係もありますけど、何よりも音質的にしっかりとした土台がある。このターンテーブルでレコードを聴いていたらまずは問題ないという。
髙城 それに尽きますね。
髙城くんがさっき話したような音の立体性も、より感じられたんじゃないかな?
髙城 そうですね。
石橋さんの作品も徐々に世界が広がっていくような感じでよかったですね。でも、僕には髙城くんのソロが一番よく聞こえました。
髙城 僕もそうです(笑)。レコーディングスタジオで「録れました。聴いてみましょう」っていう、あのときの現場の雰囲気を思い出しました。バスドラの感じとか。それはもしかしたら機材のおかげなのかもしれない。録音した直後の感じをありありと思い出しました。
確かにそうだね。カーステレオで聴いてるのとはワケが違う。
髙城 すごく再現性が高かった。
それは作り手しかわからないことですよね。
髙城 そうですよね。録音した楽曲を初めて聴いたときに近い体験だった気がする。
2020年の髙城晶平を振り返る
さてceroと髙城くんの2020年を思い返すと、3月13日にceroの有料ライブ配信を行って。あれはもう半年前ですよ。
髙城 遠い昔ですね。
非常事態宣言の2日前に髙城くんの1stソロアルバムがリリースされて。でも、CDショップが翌々日くらいから閉まるという。そういえば、ceroの1stアルバムも2011年1月リリースで、3.11の少し前でした。
髙城 何かとありますね。
今年はいろんな意味で忘れられない年になりそうですけど。そして話を戻すと、4月22日には7inchシングル「ミッドナイト・ランデヴー / PLEOCENE」をリリースして、7月にはceroで野音ライブ「cero presents "Outdoors"」を開催して。こうやって振り返ると、けっこういろいろやってますね。
髙城 やってますね。
そして今後は1stソロアルバムのアナログ盤をリリース予定ということで。
髙城 はい。
皆さんにぜひそのアナログ盤をMK7とセットで買っていただきたいというのが僕からの最後のお願いでございます(笑)。連載3回にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました。またどこかでお会いできたらー!