音楽ナタリー Power Push - ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB) × 伊藤雄和(OLEDICKFOGGY)
弾丸を手にした無敵な2人
1兆曲ある中からできた1曲
──コラボ曲「弾丸さえあれば」はどうやって作っていったんですか?
BOSS 俺は音を聴きながらリリックを書くから、伊藤に「まず音を作って送ってほしい」って言ったんだよ。そしたら伊藤が「俺は1兆曲持ってる」って言ってきて。それが面白くてね。伊藤の発言の中でも1、2を争うパンチラインだよ。それで「1兆曲持ってるなら余裕だろ。今月中に作って送ってね」って8月22日に言うっていう(笑)。でも伊藤がいないところでOLEDICKFOGGYのマネージャーに「伊藤、大丈夫ですか?」って聞いたら「1兆曲はないけど、あいつは大丈夫です」って言うんだよね。届いた曲を聴いたら、それが俺的にはビシッとはまって。さすがだと思ったね。「じゃあ今度は俺の番」ってことで、その曲を聴きながらリリックを書いていったんだよ。
──伊藤さんは普段とはまったく違う曲の作り方ですよね?
伊藤 違いましたね。まずBOSSくんに「BPM100くらいで」って言われて「BPM 100」って検索しましたから(笑)。普段はBPMを気にしたことがなかったので。で、BPMを計るマシンを持ってる人がいたからやってみたんですけどリフが乗らなくて、結局BPMは無視しました(笑)。
──OLEDICKFOGGYで曲を作るときはBPMを気にしないのですか?
伊藤 したことないですね。
BOSS ラップだと速すぎても遅すぎてもダメなんだよ。ラップに合う速さってあるから。俺が伊藤に注文したのはそこだけだと思う。でも伊藤は大変だったんじゃないかな。
伊藤 時間がなかったのでずっとスタジオに入っていましたね。
BOSS OLEDICKFOGGYのツアーの日程を見たらけっこうライブが入っていたんだけど、伊藤が自分で「1兆曲ある」って言ってたから、俺も「じゃあできるだろ?」くらいのテンションで。
──時間がない中作ったとは思えないほど完成度が高いですよね。曲の展開も面白いし。
BOSS そうそうそう。俺もびっくりした。
「弾丸さえあればなんとかなる」とか言ってるようなヤツはダメ
──リリックのコンセプトはあったのですか?
BOSS 伊藤と飲んでるときに、今回の話が決まった時点で「俺らがやれば絶対面白いことになる」って話していて。「あとは弾丸さえありゃなんとかなる」って延々しゃべってたわけよ。それで、その「弾丸さえあれば」って言葉がいいと思ってメモっておいたんだよね。そのあと伊藤から届いた曲を聴かせてもらってリリックを書き始めたんだけど、最初は「あと1発、弾丸さえあれば世の中をひっくり返せるのに」って歌詞にするつもりだったわけ。「ここまで条件もそろってるし、あとは弾丸さえあれば俺たちの勝ちは決まったようなものだ。俺たちを馬鹿にしてるヤツらのすべてをひっくり返せる」っていう。でもリリックを書いていくうちにだんだん発想が捻くれていって、「『弾丸さえあればなんとかなる』とか言ってるようなヤツはダメなんだよ」ってとこまでいけたんだよね。
伊藤 うん。
BOSS そのテンションの変化は、伊藤のこの曲だったからだと思う。ループが決まったエモーショナルなトラックだったら「俺は田舎暮らしで今はバイトだけど、あと1発、弾丸さえあれば……」っていう普通の曲になったんじゃないかな。でもこの曲の荒々しさが「せっかくだから言っちゃおうかな」って気持ちにさせたし、曲が俺に決断をさせたんだよね。自分でも「俺、こんなこと書くんだ」って思ったから。それが、この曲が面白くなった要因だと思う。これって、実はヒップホップの発想だけではイケなくって、パンクのエナジーがあったからこういうリリックになったんじゃないかな。
──伊藤さんはBOSSさんのリリックを受けて歌詞を書かれたのですか?
伊藤 そうです。今日の朝まで書いていました。(※取材はレコーディング2日目の夜に実施)
BOSS 曲の塊があったうえで「ちょっと好きにやらせて」ってブースに入って俺がリリックを全部はめちゃったから、そこに伊藤がリリックを入れるのは大変だったと思う。
伊藤 曲を作るときの歌割りの指示表みたいなのがあるんですけど、僕はそれに「Aメロ、Bメロ、BOSS」みたいに書いてパートを分けてたんですよ。でもBOSSくんのラップがAメロにもBメロにも入っていて……「俺はどこの歌詞を書けばいいの?」って(笑)。結局曲を延ばしたんです。
BOSS 俺、AとかBって言われても何のことかわからなくて。
伊藤 曲全部にラップが入ってましたもんね。
BOSS 正攻法じゃないし、時間もなかったから「まず俺が入れるわ」って書いたんだけど、それを伊藤が発展させてくれたからうまくやれたんだと思う。
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THA BLUE HERB × OLEDICKFOGGY
2016年12月16日(金)京都府 KYOTO MUSE
出演者
THA BLUE HERB / OLEDICKFOGGY
- OLEDICKFOGGY × ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)コラボ作品「弾丸さえあれば」2017年1月25日発売 [CD]1000円 Diwphalanx Records / PX316
THA BLUE HERB(ブルーハーブ)
ILL-BOSSTINO(Rap)とO.N.O(Track Maker)が1997年に札幌で結成。ライブではDJ DYE(LIVE DJ)がバックDJを務める。THA BLUE HERBの最大の特徴は強いメッセージを持ったリリック。デビュー当時は東京のヒップホップシーンと地方に目を向けないメディアへの怒りを全面に打ち出して大きな話題となった。そして、1998年に1stアルバム「STILLING, STILL DREAMING」、2002年に2ndアルバム「SELL OUR SOUL」をリリース。独自の世界観を確立したリリックとソリッドでミニマルなビートが人気を集め、アンダーグラウンドなヒップホップシーンで支持を集めた。2007年に3rdアルバム「LIFE STORY」を発表後、約3年半で日本全国179カ所におよぶライブを敢行。2011年2月にそのツアーのライブドキュメンタリーDVD「PHASE3.9」を、2012年5月に4thアルバム「TOTAL」を発売した。2015年にILL-BOSSTINOがtha BOSS名義で1stソロアルバム「IN THE NAME OF HIPHOP」を発売し、全国ツアーを開催する。その東京・LIQUIDROOM公演の模様を映像化したライブDVD「ラッパーの一分」が2016年8月にリリースされた。
OLEDICKFOGGY(オールディックフォギー)
伊藤雄和(Vo, Mandolin)、スージー(G, Cho)、TAKE(B)、四條未来(Banjo)、yossuxi(Key, Accordion)、大川順堂(Dr, Cho)からなるラスティック・ロックバンド。エモーショナルでポリティカルな日本語詞と1960年代後半~70年代前半の日本のフォーク、ニューミュージック的な温かいメロディー、そして時にはハードコア・パンクな側面を見せる独特なサウンドが特徴。2003年に結成されて以来、さまざまなジャンルのバンドと競演を重ね、年間平均100本のライブで知名度を上げてきた。2012年「京都大作戦2012 ~短冊に こめた願いを 叶いな祭~」に出演後、活躍の場を広げ、2014年には映画「クローズEXPLODE」の挿入歌として代表曲「月になんて」が使用された。2016年3月に5th新作アルバム「グッド・バイ」をリリース。全国縦断63会場ツアーを敢行し、ツアーファイナルの東京・渋谷TSUTAYA O-EASTワンマンを大成功に終わらせる。2016年8月には川口潤監督によるドキュメンタリー映画「オールディックフォギー / 歯車にまどわされて」が劇場公開された。