ナタリー PowerPush - 多和田えみ × 村上てつや(ゴスペラーズ)

2人が目指す“ソウル”とは? 魂のコラボ「Lovely Day」の秘密を探る

3分半超えたらOK

──村上さんは、何度もレコーディングを経験している“先輩”としてどのようなアドバイスをしましたか?

村上 本当にいいシンガーだから、アドバイスすることってのは特になくて。ただ、やっぱりメロディだけじゃなくって、言葉を大事にしなきゃダメだと。それ自体は誰しも思ってることなんですけど、メロディの上下だけじゃなくて「てにをは」とかね、これが名詞だとかこれが動詞だとか「そういうことはちゃんと考えて歌わないと伝わるものも伝わらないよ」という話をして。必要以上にがんばり過ぎてる接続詞とか要らないわけですよね。

多和田 無理に言葉でメロディを埋めるみたいな……。

村上 そうそう、ソウルをベースに持って歌おうとすると、ときに日本語としてオーバーフィーリングになってしまいがちなんですよ。だけど、伝える道具としては半分は言葉なわけで。半分は音楽だけど、半分は言葉だから、そこはすごく大事にしなきゃって話はしました。でもまぁ曲が3分くらい過ぎた辺りからは自由にやってもいいから、みたいな(笑)。この曲の終わりのほうはまさに、ね。「忘れる」って単語を「わす」「れる」で切るなんておかしいんですけど、それもソウル。3分半超えたらOKなんです。

多和田 そこまでは一生懸命「言葉を大事に、大事に」って思ってたのに、もう忘れたのかよっていう(笑)。気持ちがワァーッってなっちゃって。

村上 それはすごくソウルっぽいんだけどね。あとはプロデューサーって立場からすると、彼女の声の響きがよく聴こえる音っていうのがやっぱりあるから。さっきの言葉の意味とはまた別に、よく聴こえる音がレコードに残るようにするためのチョイスは大事に行いましたね。そこは意味だけじゃなくて、音自体が訴えかけてるものを大事に。

──今回のシングルはカップリングも含めて、テンポを少し落とした、歌をじっくりと聴かせるタイプの曲を選ばれているように感じたのですが、このあたりの判断は村上さんが?

村上 これもね、えみちゃんなんですよ。

多和田 そうですね。「Rainbow」っていう曲はもともと作ってあった曲で、これを出すなら春か夏だなっていうイメージがあったので、出すんだったら今かなと。歌の内容としても「誰かと、もしくは何かとリンクしている」っていうメッセージを込めた曲だから、「Lovely Day」とピッタリなんじゃないかなと思ったんです。

ソウルブラザー&シスターにとって大事なつながり

──そして「Let's Stay Together」は先ほどお聞きした「武田と哲也」のステージでも歌った曲ですね。

村上 そうですね。最初、えみちゃんはアル・グリーンのオリジナルに近い雰囲気を考えていたそうなんだけど、こっちから「女性シンガーが歌うんだったらこういうのあるよ」っていくつか出した中に、ロバータ・フラックのスローなバージョンがあって。それはこっちのアレンジがいいっていう意味じゃなくて「ひとつの曲がこういうふうに生まれ変わったりするんだよ」ってことをシンガーとして体験してほしかったんです。そのときはライブでカバーするために選んだだけだったから、全然作品にするなんて考えてなかったんですけど。こんな盛り上がらない曲やらなくていいだろって思ったんですけどね(笑)。

インタビュー写真

多和田 いやいや(笑)。今年一発目にやったワンマンツアーのド頭1曲目が「Let's Stay Together」なんですよ。

村上 びっくりしたよ。1拍目の「ターン♪」が聴こえてきたとき「やばい、あれだ」と思って。「まずいよ、これから始めんのは」って(笑)。

多和田 そうですかー?

村上 まあ、彼女は「武田と哲也」のステージに出て一緒に歌ったっていうことを、ものすごく大切にしてくれてるんだと思うんですよね。俺としては「SOUL POWER」で歌うつもりだったカバー曲も用意してたんですよ。でも彼女は、レコーディングでも俺とTAKEを入れた3人で歌いたいって言ってくれて。そういうことを大事にしてるってことが、表面的なソウルミュージックどうこうよりもすごくソウルフルだなと思った。ジャンルとしてどうのこうのみたいなことではなく、ソウルシスター、ソウルブラザーのつながりっていうのは、そういうことを大事にするんじゃないかな。どうしても今回これでいきたいって彼女が言ってくれたことで、その意味の大きさを逆にこっちが噛み締めたっていうかね。でも、1stアルバムのリリースツアーで、アルバムの曲を聴きに来てるお客さんに向かって、いきなりこれを歌い出すっていうさ(笑)。

多和田 えへへ(笑)。

村上 「Lovely Day」が出た後ならまだわかるんだけどさ。みんなに聴かせたかったの?

多和田 そうなんですよ。やっぱりソウルミュージックを聴いてほしかったし。1曲目にやったのはなぜかというと、単純に好きだからというのもあるんですけど、「Let's Stay Together」っていうタイトルのとおり、これからこの時間を共に過ごす皆さんへのウェルカムソングっていう気持ちが強かったんです。

村上 まあメッセージはそうなんだけどね。Good timesもBad timesも一緒にいようねっていう。

ニューシングル「Lovely Day」 / 2010年3月24日発売 / 1200円(税込) / techesko / QVCB-9

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CD収録曲
  1. Lovely Day
  2. Rainbow
  3. Let's Stay Together
多和田えみ(たわたえみ)

アーティスト写真

1984年生まれ、沖縄出身の女性シンガー。高校卒業後、カナダへの語学留学中に出会ったストリート・ジャズ・バンドで歌ったことをきっかけに、本格的に音楽を志す。帰国後に作詞作曲を開始し、2006年2月から沖縄県内のホテルやライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開。翌2007年にMSN/EMI ARTIST主催のオーディション決勝大会で、NYLON賞を受賞する。同年5月に沖縄限定シングル「ネガイノソラ」がリリースされ、好セールスを記録。その後もアントニオ・カルロス・ジョビンのトリビュートアルバム「ジョビニアーナ~愛と微笑みと花~」や、沖縄出身アーティストによるコンピ盤「琉球LOVERS ROCK」などに参加し、注目を集める。そして2008年4月、ミニアルバム「∞infinity∞」で待望のメジャーデビュー。ブルースやソウル、ジャズ、ファンクなどブラックミュージックから強く影響を受けたサウンドと、ときに激しく、ときに優しく聴き手に訴えかけるソウルフルな歌声が高く評価されている。