ナタリー PowerPush - 七尾旅人 vs やけのはら
話題の2人が互いに質問! 相互インタビューで2枚の名盤を解析
この夜は始まったばかり
旅人 インタビュー前にまず言わせてください。音源は3日前にもらったんですけど、この3日間にワンマンが2本あったから、まだ5回ぐらいしか聴けてないです。だから俺はまだ「すごい傑作だな!」ぐらいの感想しか持ってないんですよ。ただ、これぐらい完成を待ってたアルバムってないんで。だからいわゆる“インタビュー”にはならないですね。褒め言葉しか出てこない。ただ「良かったよ」としか言えない。
やけのはら いやいや、ありがとうございます。
旅人 とりあえず教えてもらいたいことはアルバムタイトルかな。「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」ってタイトルを聞いて以来ずっと引っかかってて。「この夜はまだ若い」ってすごく良いタイトルだと思ったんだけど、これはどういう意味なの?
やけのはら 具体的に何って答えるのは難しいんだけど、「若者」と「夏」と「夜」みたいなのがアルバムのテーマで、自分の中でひとつの象徴的でキャッチーな言葉がこれっていうか。
旅人 うんうん。
やけのはら 「NIGHT」って言葉は「SUMMER」に置き換えても良いと思う。だから「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」と「Summer Never Ends」は似たような意味。「SUMMER」ってのが「YOUNG」の比喩になってたり全部つながってるんだけど、その中でも一番しっくりきたのがこのタイトル。
旅人 カッコイイよね。すごく深い意味も感じさせるじゃん。「この夜はまだ若い」っていうのは、パーティのことを指してるとも取れるし、1人の人間の人生についても言えるし、もっと日本とか世界とか、でかいとこに対しても言えることな気がして。
やけのはら そうだね。夜にしろ夏にしろ、本当に季節の夏のことを言ってるというよりも、人生っていうと言葉が重いけど、そういうのの比喩として使ってるところはある。
旅人 まず芸名が「やけのはら」で、アルバムタイトルが「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」って、俺的にはめちゃくちゃカッコイイ。
やけのはら なんで芸名!? 別にタイトルの話だけだったらわかるけど(笑)。
旅人 もし俺が12歳だったとして「ほら、あのヒップホップのお兄ちゃん、やけのはらっていうんだよ」って言われたらちょっと笑ったかもしれないけど(笑)、でも今同世代で活躍してるB-BOYが「焼け野原」って名前だと思うと、それはめちゃくちゃジャストな芸名だと感じる。その1stアルバムが「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」って、すごいステイトメントだなってポジティブに思ったの。「この夜は始まったばかりだからまだまだ楽しみ尽くすこともできる。ただこの過酷な暗がりはまだ始まったばかりだから、俺達は全力で考えて前進し続けなくてはならない」みたいなダブルミーニングというか。個人的な妄想ですが。
やけのはら ありがとうございます(笑)。でも実際そんな感じかも。
旅人 決して遠い解釈じゃないよね?
やけのはら うん。旅人くんのアルバムも、表現方法のベクトルは違うけど、どんな状況でもがんばって楽しんでいこうよ、みたいなのはちょっと似たところあるよね。「なんだかいい予感がするよ」みたいな歌詞とか、似たようなノリだと思う。
旅人 そうだね。俺はやけくんがラップで何を書いてくるのかいつも楽しみにしてるんだよね。同世代の詞を書く人でいちばん気になるかも。「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」はこの時代を乗り越えながら夢を見ていこうっていう強い意志みたいなのが全曲の歌詞にみなぎってて、統一感もあって素晴らしいなと思ったんですけど、歌詞は普段からよく書き溜めたりしてるんですか?
やけのはら 旅人くんみたいなシンガーソングライターの人と比べるとたぶん全然違うだろうし、他のラッパーの人と比べても違うだろうな。気になった言葉をメモったりとかはするけどね。このアルバムだと曲によって極端に違うんですよ。5年くらいかけて練って作った曲もあれば、「Rollin' Rollin'」みたいに10分くらいで書いた曲もあるし。でも日常的に曲や歌詞をたくさん作り溜めてるとかはそんなにないかも。
とにかく聴いたことのないような何かがしたくて
旅人 ライブも楽しみだな。
やけのはら 今まではどうやってライブをやればいいのかわかんなかったけど、最近はキーボードのDorian君が手伝ってくれるようになったから、一応ライブできるようになったんです。ライブができるようになると、同じ曲ばっかりやってても飽きるからラップ曲を作るのに前向きな気持ちになってきましたね。
旅人 そっかそっか。ラップのライブ増やしてるもんね。
やけのはら うん、増やしてるっていうか誘ってもらってる。
旅人 ラップのライブ良いよー。俺、「KAIKOO POPWAVE FESTIVAL」で観たとき本当に感動したな。本人はめちゃくちゃしんどそうだったけど(笑)。
やけのはら ステージが台でしたからね。学芸会みたいな(笑)。
旅人 やっぱりラップのライブがこれだけ増えると、これからどんどんラップ曲が生み出されていくことに期待しちゃうんだよね。
やけのはら ライブができるようになって、アウトプットの落とし所が今までより整理されたから、気持ち的にはやりたいと思ってます。
旅人 でも、「自分がラッパーっていう意識はない」ってよく言うじゃん。ラッパーって呼ぶと「違う! DJだ!」って言うじゃん(笑)。
やけのはら だってさ、ヒップホップのイベントとかも別に出てないし。年間100日近く人前でDJやってるけど、ライブは今までほとんどやってこなかったからさ。マイクで食ってるって感じじゃないからね。
旅人 そうか、日々の作業量から考えて職業欄をDJにしていたのかー。でも俺、最終的にはラッパーなんじゃないかって思うんだよね。年取ったときにどっちやってるかっていったら、絶対ラップなんじゃねえかって気がする(笑)。
やけのはら いやぁ、それはわかんないよ……。
旅人 始めた時期はどっちが先?
やけのはら ラップもDJもほとんど同じくらいだったと思います。でもDJは人前でちゃんとやるようになったのが20歳過ぎだったけど、ラップみたいのはバンドで高校生のころからやってた。どっちも遊び程度でしたね。
旅人 バンドって、最初はボーカルだったんでしょ?
やけのはら ボーカルと言ってもラップみたいなやつですね。
旅人 ああ、なんか最初はミクスチャーロックバンドやってたって誰か言ってた。
やけのはら いや、ミクスチャーバンドってのは誤情報。っていうか、実際にライブを観てない人が言ったんだと思います。ミクスチャーというより、いろんな要素が混ざったバンドで僕がラップ担当してたんですよ。ミクスチャーってジャンルのひとつじゃん? そういうのが嫌なの。とにかく聴いたことのないような何かがしたくて、でも落とし所が見つかんなくて、何なんだこの人たちは!? みたいなバンドをやってた。
旅人 聴きたいね、それ。どんなのだったのか。
やけのはら さすがにもう音源ないよ(笑)。
旅人 やけくんのすごいところって、最初から才能が完成してんのね。今アルファベッツ(やけのはらが所属していたヒップホップユニット)を聴いても、ラップもトラックもすごいクオリティ高い。
やけのはら そうかな? 高くないよ。
旅人 俺の初期作品なんて、全然別人ってぐらい違うもん。
やけのはら どういう意味で? やろうとしてることが?
旅人 いや、違うの。もう声から曲から全部。前にDorian君が「アルファべッツ聴いたことない」って言うから家で聴かせたのよ。そしたら「やけさん…変わんないっすねーーー!!!」って(笑)。進化してないって意味じゃないよ。最初から足腰がビシッとなってて、なんで20代前半でこんななの? って。
やけのはら 旅人くんの初期作だって、根底に一貫してるもんはあるでしょ。
旅人 かなぁ? 「ミュージックマガジン」の「目隠しプレイ」っていうコーナーで、ギタリストの内橋和久さんに俺の初期作品を聴かせたらしいんだけど、誰が歌ってるのか全くわかんなかったんだって(笑)。「僕はこんな人知りませんね! 誰ですか!?」って「いや、これはあなたと仲良しの七尾旅人ですよ」「……えぇーーーっ!? これ旅人!?」。それぐらい昔と今は違うよ(笑)。
CD収録曲
- MIDNIGHT TUBE
- I Wanna Be A Rock Star
- one voice(もしもわたしが声を出せたら)
- 検索少年
- シャッター商店街のマイルスデイビス
- BAD BAD SWING!
- なんだかいい予感がするよ
- あたりは真っ暗闇
- beyond the seasons
- どんどん季節は流れて
- Rollin' Rollin'
- 1979、東京
- おめでとう
- 私の赤ちゃん
CD収録曲
- Summer Never Ends
- ロックとロール
- SUPA RECYCLE
- 自己嫌悪
- ECHO FROM PARTY
- NIGHT&NIGHT&YOU
- DING DONG DANG
- DAY DREAMING
- ECHO FROM RECORD
- Rollin' Rollin' (アーバンソウル)
- I REMEMBER SUMMER DAYS
- BYE BYE BYE
- ECHO FROM SUMMER
- GOOD MORNING BABY
七尾旅人(ななおたびと)
1979年生まれのシンガーソングライター。1998年のデビュー以来、ファンタジックでメッセージ性の強い歌詞とオリジナリティあふれるメロディで幅広い音楽ファンを魅了している。2007年9月11日には3枚組のミュージカルアルバム「911FANTASIA」をリリース。ライブ活動も精力的に行っており、ライフワークと銘打った弾き語り独演会「歌の事故」や、全共演者との即興対決を行う「百人組手」といった自主企画を不定期に開催。各地のフェスやイベント、Ustream中継などで伝説的なステージを生み出し続ける。2010年からはダウンロード販売システムDIY STARSを提案し、自らの新曲を直販。2010年7月「billion voices」をリリースした。
やけのはら
DJ、ラッパー、トラックメイカーなど多岐にわたる活動で、アンダーグラウンドシーンを席巻。DJとしては年間100本以上の多種多様なパーティでフロアを沸かせ、多数のミックスCDを発表している。またラッパーとしては、アルファベッツのメンバーとして2003年にアルバム「なれのはてな」を発表したのをはじめ、STRUGGLE FOR PRIDEやBUSHMINDなどの作品に参加し、曽我部恵一主宰レーベルROSE RECORDSのコンピレーションにも個人名義のラップ曲を提供。マンガ「ピューと吹く!ジャガー」ドラマCDの音楽制作、テレビ番組の楽曲制作、イルリメ、環ROY、Aira Mitsukiなどのリミックス、多数のダンスミュージックコンピへの曲提供など、トラックメイカーとしての活動も活発に行なっている。ハードコアパンクとディスコを合体させたバンドyounGSoundsではサンプラー&ボーカル担当。2009年には七尾旅人×やけのはら名義でリリースした「Rollin' Rollin'」が音楽通の間で大きな話題になり、2010年に初のラップアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」をリリースする。