音楽ナタリー Power Push - 山下達郎
全国66公演ロングツアー終了 次の一歩につながる現在地
ディナーショーは絶対にやらない
──自分に妥協を許さず続けることが、達郎さんの活動を支えているんですね。
そう、それができないんだったらやる意味はないです。だったらディナーショーでもやってたほうがよっぽど儲かるし、気楽だし。
──そうですね。
でも僕はディナーショーだけは絶対にやらないって決めてるんです。それこそなんのために音楽やってるのかわかんなくなっちゃうから。1982年に「FOR YOU」がヒットしたとき、僕のビジネスパートナーから「ディナーショーをやろう」って言われて「絶対にイヤだ」って答えたんです。金儲けしたいんならともかく、僕が音楽をやる理由はそこにはないから。
──収支だけを考えるなら汗水垂らしてツアーを回るより、ディナーショー1回やったほうが楽ですもんね。
すごい楽だよ。今だって夫婦でクリスマスディナーショーはどうか?って誘いがあるもの(笑)。
──それはちょっと観てみたい気もしますけど(笑)。
でもそんなことやるために音楽始めたわけじゃないからね。あくまで音楽的には愚直に見えるくらいでちょうどいいんだよ。それだって外野から見れば立派な“ゲーノージン”なんだから(笑)。
──達郎さんがディナーショーをやらないとかCMに出ないとか、そうやって踏みとどまってることがたぶんいろんな人のお手本になってるんだと思います。
ものを作るっていうのはすごく苦しいことですからね。そこで楽なやり方を選んで金を得ると絶対に自分のパッションに影響が出る。それで曲が書けなくなって精神的に潰れていった人を何人も見てるからね。
──だからこそ、還暦を過ぎてなお60本を超える全国ツアーを続けているんですね。
実を言えば、本当はこんなはずじゃなかったんですけどね。もっとヘラヘラやるつもりでツアーを再開したはずだったのに。だからこうやってしゃべってても、おかしいな、いったい俺はなにやってんだろうなって思うんですよ(笑)。なんだかんだ言って、よくも悪くも真面目なんだと思うんだけど。やっぱり融通が効かないんでしょうね(笑)。
40年前に褒められたかった
──ところで達郎さんはシュガー・ベイブ時代にライブで野次られたとか、評論家にボロクソ言われたとか、そういうルサンチマンをよく口にしますよね。でもそれをバネにしてがんばったおかげで今があると考えれば、結果オーライなのかなと思ったりするんですが。
いやあ、褒めてくれるなら40年前に言ってほしかった(笑)。でも確かにその通りだね。人生に無駄なことはなかった。「若いうちの苦労は買ってでもしろ」っていう先人の言葉は正しいと思う。だけど当時は若くてナイーブだったからさ、そのときは本当に傷付きましたよ。そのおかげで固いかさぶたができて今は平気になったけど。
──今の自分の姿は、当時思い描いていた理想の形になっていますか?
うん、全部後付けの結果論だけど。当時は失敗だと思われてたことがあとから評価されたりしてね。自分の人生はそういうことの繰り返しですね。
──1つひとつの仕事を一生懸命やってきたことが、あとから実を結んだんですね。
いつも思うけど、スタッフや同僚のミュージシャンも含めて、人間関係に恵まれたことが大きいですね。誰かに一方的に利用されたりとか、そういうことがあんまりなかった。僕は高校入るくらいまではホントに人のことを疑わない素直な子供だったんです。うちのお袋には「お前は人に騙されやすいから気を付けろ!」っていつも言われてたし。でもそのおかげで何かあったら「ちょっと待て! 俺は騙されやすいんだ!」って考えるようになってね(笑)。
──じゃあ音楽業界に入ったばかりの頃は騙されたりもしましたか?
そりゃあもう! 給料もらえないとか普通にあったし。僕のビジネスパートナーからも「あんたを騙そうと思ったら簡単だよ」ってよく言われる。自分でもそうなんだろうなって思いますけどね(笑)。
自分に求められてるならそれに応える義務がある
──ライブを中心に据えた今の達郎さんの活動スタンスは、年齢を重ねたミュージシャンにとって1つのお手本のようにも感じます。
そもそも63歳にもなって、インタビューでライブの話をしてるとは思ってなかったんだけどね(笑)。もうすぐ年金もらえる歳なのに。
──いやいや、まだまだ現役でがんばっていただかないと。
まあ身体はまだ大丈夫なんだけど、最近はやっぱり周りの人たちが亡くなってるからさ。なんか妙に真面目になっちゃうところはありますよね。毎日酒浸りで路上に転がってるような生活に憧れてたはずなのに。
──それもどうかと思いますけど(笑)。
ライブに来るお客さんから手紙をもらうんだけど、それが「乳がんで病院にいるときに達郎さんの『OPUS』を聴いてもう1回生きる力が湧きました」とか、そういう内容が最近は目に見えて多くなってきてね。そういう役割を要求されるっていうのは、僕の音楽がミドルオブザロードミュージックだからなんだよね。ミドルオブザロードにはヒーリングミュージックとしての要素もあるから。
──そんなファンの声をどう受け止めていますか?
たぶん昔だったら自分のことに精一杯で、複雑な気持ちになったと思うけど、こっちも歳取ってきたからね、そういうことが自分に求められてるんだったらそれに応える義務があるだろうって。それが大衆音楽の責務だって感じがしてきてるんです。
──長いツアーを終えて、今後は音源制作に入るんでしょうか?
うん、ライブ後半の曲を少しだけ新しくしたくて。そういう曲を作ろうかなって思ってます。
──いわゆるお祭り的な、ライブで盛り上がる曲が期待できるということですね。MCではミニアルバムになりそうだと話していましたが。
まあ曲数がそろえばフルアルバムにしたいなって思ってるけど。でも15曲入りとかになっちゃうと疲れるからさ。昔のアルバムは8曲とかせいぜい10曲入りだったから年に1枚出せたんだよね。R&Bのアルバムなんかだと6曲入りなんてのも普通にあったし。だから6曲入りを毎年出すのもいいのかなって思ったりしてますけどね(笑)。まあ楽しみにしていてください。
山下達郎「PERFORMANCE 2015-2016」
- 2015年
- 10月9日(金)千葉県 市川市文化会館
- 10月13日(火)栃木県 宇都宮市文化会館
- 10月16日(金)群馬県 ベイシア文化ホール
- 10月19日(月)福島県 會津風雅堂
- 10月21日(水)山形県 南陽市文化会館
- 10月26日(月)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 10月30日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 10月31日(土)大阪府 フェスティバルホール
- 11月4日(水)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月5日(木)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月9日(月)岡山県 倉敷市民会館
- 11月11日(水)島根県 島根県民会館
- 11月15日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月16日(月)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月22日(日)東京都 中野サンプラザホール
- 11月23日(月・祝)東京都 中野サンプラザホール
- 11月27日(金)北海道 帯広市民文化ホール
- 11月29日(日)北海道 北見市民会館
- 12月2日(水)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月3日(木)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月6日(日)北海道 釧路市民文化会館
- 12月10日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 12月11日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 12月16日(水)広島県 広島上野学園ホール
- 12月17日(木)広島県 広島上野学園ホール
- 12月21日(月)東京都 中野サンプラザホール
- 12月22日(火)東京都 中野サンプラザホール
- 12月25日(金)岩手県 岩手県民会館 大ホール
- 12月26日(土)青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
- 2016年
- 1月6日(水)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ
- 1月8日(金)山口県 周南市文化会館
- 1月11日(月・祝)岐阜県 長良川国際会議場
- 1月15日(金)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月16日(土)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月19日(火)香川県 香川県民ホール アルファあなぶきホール
- 1月22日(金)兵庫県 神戸国際会館
- 1月23日(土)兵庫県 神戸国際会館
- 1月27日(水)大阪府 フェスティバルホール
- 1月28日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 2月1日(月)青森県 八戸市公会堂
- 2月5日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月6日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月11日(木・祝)長野県 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
- 2月16日(火)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月17日(水)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月21日(日)静岡県 静岡市民文化会館
- 2月22日(月)静岡県 アクトシティ浜松
- 2月26日(金)東京都 中野サンプラザホール
- 2月27日(土)東京都 中野サンプラザホール
- 3月2日(水)京都府 ロームシアター京都
- 3月4日(金)石川県 金沢歌劇座
- 3月8日(火)新潟県 新潟県民会館
- 3月9日(水)新潟県 新潟県民会館
- 3月14日(月)佐賀県 佐賀市文化会館
- 3月16日(水)大分県 iichikoグランシアタ
- 3月18日(金)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 3月23日(水)東京都 NHKホール
- 3月24日(木)東京都 NHKホール
- 3月27日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 3月29日(火)愛媛県 松山市民会館
- 4月2日(土)宮崎県 宮崎市民文化ホール
- 4月3日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 4月9日(土)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月10日(日)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月17日(日)神奈川県 関内ホール
- 4月20日(水)岩手県 岩手県民会館 大ホール
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
1953年東京出身の男性シンガーソングライター。シュガー・ベイブの中心人物として、1975年にシングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」、嵐「復活LOVE」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がける。また代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から30年連続オリコンランキング100位以内を記録し、ギネスブックにも登録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市66公演の全国ホールツアーを実施した。