音楽ナタリー Power Push - 山下達郎
全国66公演ロングツアー終了 次の一歩につながる現在地
ジェームス・ブラウンにはなれない
──音楽的にはミドルオブザロードを貫きながらも、達郎さんの精神性はものすごくロックですよね。そのあたりの自覚はありますか?
うん、要するに屈折してるんですよ。高校でドロップアウトした時代からの屈折がずっと続いてる。自分は変わり者だなってつくづく思います。日本の音楽シーンの中で自分の居場所が見つからない。ロックというには柔らかいし、歌謡曲みたいなところはビジネスライクでイヤだし。だからといってサブカルチャーにも行けないし、メジャーにも行けない。自分の理想とする音楽像を共有できる人がいないんです。だから1人でやるしかなかった。そういう状況が、この変人を生んだんです(笑)。
──でも達郎さん自身は屈折していたとしても、作る音楽にその屈折が直接表れることはあまりないですよね。
それは自分の声がこういう感じですからね。ジェームス・ブラウンとかアーニー・アイズリーみたいにはなれっこない。やっぱりジェームス・ブラウンが僕にとっての基準値なんです。あれができないならファンクをやったってしょうがない。
──だったら自分にできることをやろうという発想なんですね。
そういうことです。自分の感性と歌唱力でやれることをやる。作曲家ならば自分が歌えない曲も書かなきゃいけないんだけど、でもシンガーソングライターなら自分の得意なところでしか作らなくていい。自分が歌える範疇の曲だけ書くっていう安全策を取れるから(笑)。
全員でキーボードを弾けば「ヘロン」ができるかも
──ツアー再開後はどんどん調子が上がっているように見えますが、今後の展望はどうですか?
まあいずれ声が出なくなったらやめますけどね。でも三波春夫さんが72歳のときのライブを観てるんだけど実に朗々とした歌声で。淡谷のり子さんだって70代でもバリバリだったし。二葉百合子なんてすごいのもいる。洋楽だってポール・マッカートニーも70代だし、エリック・クラプトンもボブ・ディランも調子いいでしょ。MetallicaやKissだってけっこういい歳になってきてるけどバリバリだしね。
──じゃあ年齢を言い訳にはできないですね。
しょうがないから今は発声練習を毎日15分やるようにしてます。声は歳を取ったら、ある程度コンスタントに出さないとダメだって医者に言われたので。
──そうやって継続することで以前はやれなかった曲もできるようになり、だんだんレパートリーが増えていくわけですね。
うん、そういえば今のメンバーほぼ全員キーボードが弾けるんだよね。サックスの宮里(陽太)くんはピアノもめちゃくちゃうまくて、コーラスのENAちゃんも音大附属高校のピアノ科なの。だから全員で寄ってたかってやれば「ヘロン」ができるかもしれない、人力で。
──わ、それはぜひ聴いてみたいです。
3時間のツアーの中に組み込むのは難しいけど、夏フェスだったらできるかな。「ヘロン」はレコーディングだとピアノ2台、ハープシコード、マリンバとグロッケン、ギターを2本、パーカッションもたくさん重ねてて。ほかにもテープを併用しないとできない曲が何曲かあるけど、そういうものをライブで人力で再現できたらいいなって。
──そういえば達郎さんは同期を使うことに抵抗はないんですか?
まあどうしても使わなきゃならない曲はありますからね。「クリスマス・イブ」とか「アトムの子」とか。でも基本的にはなるべく人力でやりたいとは思ってます。
──生演奏ならではのグルーヴがありますもんね。
テンポの伸び縮みはグルーヴや快感原則の原点だからね。なのに最近のライブを観てると8割ぐらいは同期だもの。ライブでドラマーをクリックに縛りつけてわざわざストリングスの音を鳴らしたってしょうがないと思うんだけどね。Queenとか見習ったほうがいいですよ。Queenはフレディ・マーキュリーがときどきピアノ弾くぐらいで、あとは3ピースの生演奏でしょ。「Bohemian Rhapsody」も途中はテープだけど前後は普通に演奏してる。
──なるほど。
あとプロンプター(演者だけに見えるように歌詞などを表示する隠しモニタ)もね、使ってる人を見るとやっぱり寂しいなって思うもんね。
──そういうものですか。
だって昔はみんなそんなの使わずにやってたわけだし、あれは1回やっちゃったら二度と戻れなくなるから。ボブ・ディランなんてあの難解な歌詞でもまったく使ってないでしょ。
──でも達郎さんがプロンプターを使っても誰も文句は言わないんじゃないでしょうか。
いや、そうじゃない。それは甘いよ。ああいうのは結局妥協の産物だから。その姿勢はお客さんにも伝わるし、やっぱり沸点は低くなる。妥協を許すっていうのは、例えば自分が歌えなくなったから誰かに歌わせてギターだけ弾くとか、そういうことと同じだからね。口パクだって同じでしょう。だからここまでは許せるけどこれは許せないっていう妥協点をなるべく高く持たなきゃいけない。それができなくなったら僕はやめます。
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山下達郎「PERFORMANCE 2015-2016」
- 2015年
- 10月9日(金)千葉県 市川市文化会館
- 10月13日(火)栃木県 宇都宮市文化会館
- 10月16日(金)群馬県 ベイシア文化ホール
- 10月19日(月)福島県 會津風雅堂
- 10月21日(水)山形県 南陽市文化会館
- 10月26日(月)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 10月30日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 10月31日(土)大阪府 フェスティバルホール
- 11月4日(水)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月5日(木)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月9日(月)岡山県 倉敷市民会館
- 11月11日(水)島根県 島根県民会館
- 11月15日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月16日(月)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月22日(日)東京都 中野サンプラザホール
- 11月23日(月・祝)東京都 中野サンプラザホール
- 11月27日(金)北海道 帯広市民文化ホール
- 11月29日(日)北海道 北見市民会館
- 12月2日(水)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月3日(木)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月6日(日)北海道 釧路市民文化会館
- 12月10日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 12月11日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 12月16日(水)広島県 広島上野学園ホール
- 12月17日(木)広島県 広島上野学園ホール
- 12月21日(月)東京都 中野サンプラザホール
- 12月22日(火)東京都 中野サンプラザホール
- 12月25日(金)岩手県 岩手県民会館 大ホール
- 12月26日(土)青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
- 2016年
- 1月6日(水)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ
- 1月8日(金)山口県 周南市文化会館
- 1月11日(月・祝)岐阜県 長良川国際会議場
- 1月15日(金)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月16日(土)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月19日(火)香川県 香川県民ホール アルファあなぶきホール
- 1月22日(金)兵庫県 神戸国際会館
- 1月23日(土)兵庫県 神戸国際会館
- 1月27日(水)大阪府 フェスティバルホール
- 1月28日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 2月1日(月)青森県 八戸市公会堂
- 2月5日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月6日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月11日(木・祝)長野県 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
- 2月16日(火)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月17日(水)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月21日(日)静岡県 静岡市民文化会館
- 2月22日(月)静岡県 アクトシティ浜松
- 2月26日(金)東京都 中野サンプラザホール
- 2月27日(土)東京都 中野サンプラザホール
- 3月2日(水)京都府 ロームシアター京都
- 3月4日(金)石川県 金沢歌劇座
- 3月8日(火)新潟県 新潟県民会館
- 3月9日(水)新潟県 新潟県民会館
- 3月14日(月)佐賀県 佐賀市文化会館
- 3月16日(水)大分県 iichikoグランシアタ
- 3月18日(金)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 3月23日(水)東京都 NHKホール
- 3月24日(木)東京都 NHKホール
- 3月27日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 3月29日(火)愛媛県 松山市民会館
- 4月2日(土)宮崎県 宮崎市民文化ホール
- 4月3日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 4月9日(土)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月10日(日)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月17日(日)神奈川県 関内ホール
- 4月20日(水)岩手県 岩手県民会館 大ホール
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
1953年東京出身の男性シンガーソングライター。シュガー・ベイブの中心人物として、1975年にシングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」、嵐「復活LOVE」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がける。また代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から30年連続オリコンランキング100位以内を記録し、ギネスブックにも登録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市66公演の全国ホールツアーを実施した。