音楽ナタリー Power Push - 山下達郎
全国66公演ロングツアー終了 次の一歩につながる現在地
R&Bを観るならソロよりもバンドがいい
──達郎さんのライブを観ると、いつもその演奏のクオリティに圧倒されます。現在のバンドメンバーについて聞かせてもらえますか?
ライブを再開する準備は2006年頃から始めて、まずはドラムを探し始めたんです。1年以上かけて、会った人、ライブを観ただけの人も含めて17人いて、その17人目が小笠原(拓海)くんだった。
──ドラムの小笠原さんは当時24歳の若さでの大抜擢でしたね。
その時点で確定してたメンバーが伊藤広規(B)、難波弘之(Key)、佐橋佳幸(G)、それと僕。そこに小笠原拓海と2ndキーボードの柴田俊文が加わって、それが2008年の頭ぐらいです。
──達郎さんから見て小笠原さんのドラムの魅力はどんなところですか?
まずは人間的な相性です。長い年月やっていくためには反りが合わないとダメだから、それはすごく重要で。あとは当然のことながらテクニックとスタイルだよね。
──スタイルというのは?
型。彼のほかにもうまい人はたくさんいた。でも自分の音楽に合わない。僕の場合は8ビートもあるし16ビートもあるし、いろんな表現が要求されるのでわりとアカデミックな素養が必要になってくる。僕もドラマーだったから、ドラマーに対する好みが激しい。そういう総合点で彼が一番よかった。
──テクニックだけではダメなんですね。
スタジオミュージシャンを当たればうまい人はいくらでもいるけど、そういうのはイヤなんですよ。スタジオミュージシャンの仕事って仕出し屋の弁当と同じで、当日スタジオに行くまで誰と一緒かもわからない。それにどんなにその人が優秀でもその人を独占することはできない。僕はバンド上がりだから、そういうスタジオミュージックのメカニズムは好きじゃないんです。例えばジェームス・ブラウンって基本的にバンドミュージックなんですよ。彼が選んだメンツを徹底的に叩き上げて音を作っていく。でも当時のほかのリズム&ブルースの場合、レコーディングは一流のスタジオミュージシャンが演奏して、ステージはワンランク格が落ちるツアー用の人たちを使うんです。そうすると音が変わってしまう。だからR&Bのステージにはほとんど面白いものがないんです。R&Bを観るなら絶対にソロよりもバンドですよ。The CommodoresとかEarth, Wind & Fireとか。彼らはレコードと同じ音をステージでも鳴らしてるわけ。それが非常に重要なんです。
──なるほど。今のバンドは達郎さんにとってのThe J.B.'sであると。
うん、だから例えば「SPARKLE」っていう曲は、ライブでもレコードでも今も基本的にほぼ同じ音なんです。イントロは僕がレコーディングで使った同じギターで弾いてるからまったく同じだし、伊藤広規もレコーディングのときと同じベースで弾いてるから同じ音がする。キーボードも難波くんが弾いてるから同じ。
──そこで例えばドラマーや2ndキーボードが別の人になったときに、バンドの音をレコードに近付けていく作業が必要なわけですね。
そういうこと。小笠原くんはスネアのインパクトが強い、いわゆる典型的なリムショットプレイヤーで、彼のアイドルはジェフ・ポーカロなので、僕が80年代にやってきたものに近いスタイルのプレイヤーなんです。そういうやりやすさがありますね。
僕の音楽は東京ドームには合わない
──2008年から参加したメンバーの皆さんは最初は緊張したでしょうね。
まあ、なんといっても小笠原くんでしょう。緊張なんてもんじゃなかったと思う。それまで彼は2000人規模のホールで演奏した経験がなかったからね。それにホールのコンサートはガチンコでごまかしが効かないから。スタジアムとかアリーナのように大きくなればなるほど、お客の存在感っていうのは希薄になるんです。でもライブハウスやホールはそうじゃない。シビアな視線にさらされる。
──達郎さんもやっぱり観客に左右される部分はあるんですか。
もちろんありますよ。特に少ない人数が相手だったら、お客の質で演奏は全然変わるから。
──100人相手のほうが難しい?
もちろん。いつも言ってますが100人を説得できれば1万人が相手でもやれる。でも1万人の前でできても100人は説得できなかったりする。ライブってそういうものなんです。ストーンズはツアーをやるとき必ず小さい会場から始めるでしょ。それは彼らがそのことをよくわかってるからなんです。
──達郎さんは東京ドームでやれないのではなく、あえてやらないんだということですよね。
やったことないので大きなことは言えませんがね(笑)。東京ドームは動員力の頂点かも知れないけど、それが音楽的に常に美しいことだとは僕には思えない。傲慢に聞こえるかもしれないけど、僕の音楽は武道館とかドームには合わないと思ってるんです。音の繊細さが伝わらないから。イケイケの3ピースバンドだったらドームだってなんだってOKだろうけど。あと僕のライブは長いので、武道館の2階、3階のプラスチックの椅子だとつらいっていうのもあるし。あの椅子に3時間ずっと座ってるのはキツいでしょ(笑)。
聴かせたいことを全部並べると3時間以上になる
──素朴な疑問なんですが、達郎さんのライブはいつもトータル3時間以上ありますよね。なぜ毎回あんなに長くやるんでしょうか?
いい質問ですね(笑)。それについては若い頃の話になるんだけど、80年代に「RIDE ON TIME」がヒットして、やっと全国ツアーができるようになって、2000人ぐらいの規模のホールを回るんだけど、当時そこにお客さんが800から1200といったところでね。
──ガラガラじゃないけど、くらいの感じですね。
東京とか大阪とか名古屋だと満員になるんだけど、地方はだいたいどこに行ってもそんな感じでしたね。僕がやってる音楽スタイルはあの当時は全然一般的じゃなかった。田舎に行くと、例えば裏声で歌う男性歌手なんて誰も見たことがなかった時代だったんで、とても奇異な目で見られた。そんな感じでずっとツアーをやってると、ときどきここにはもう二度と来られないかもしれないなって思うんだよね。
──次はないかもしれないと。
例えば県庁所在地からもう1つ奥に入ったところ、久留米とか豊橋とか弘前とかに行って、お客の入りがそれぐらいだと、もう来年は来れないかもしれないって気持ちになる。だったら今日やれることを全部やって帰ろうって思うんです。そうするとだんだんライブの時間が延びてくる。
──なるほど。
それともう1つ、これもとても大きな理由なんだけど、自分が表現したいことを全部詰めこむとどうしても3時間超えになっちゃうんだよね。8ビートがあって16ビートがあって、途中でアカペラがあって、最後に盛り上げてっていうふうに、自分が聴かせたいことをずらっと並べると結果的に3時間以上になる。ショーとしての起承転結とか完成度を考えてやってるうちにこうなったんです。
──確かに2時間のライブであの内容は表現できないですもんね。
結局日本の音楽文化から見れば、僕なんかまるっきり反主流、傍流もいいとこだからね。一生どころかあと何年やれるかもわからない。それだったら全部見せていこうって。その積み重ねが僕の40年のミュージシャン人生なんです。過酷な条件でドサ回りを続けていると、自分がそこで何をすべきかってことを自問自答せざるを得ないんですよ。
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山下達郎「PERFORMANCE 2015-2016」
- 2015年
- 10月9日(金)千葉県 市川市文化会館
- 10月13日(火)栃木県 宇都宮市文化会館
- 10月16日(金)群馬県 ベイシア文化ホール
- 10月19日(月)福島県 會津風雅堂
- 10月21日(水)山形県 南陽市文化会館
- 10月26日(月)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 10月30日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 10月31日(土)大阪府 フェスティバルホール
- 11月4日(水)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月5日(木)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月9日(月)岡山県 倉敷市民会館
- 11月11日(水)島根県 島根県民会館
- 11月15日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月16日(月)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月22日(日)東京都 中野サンプラザホール
- 11月23日(月・祝)東京都 中野サンプラザホール
- 11月27日(金)北海道 帯広市民文化ホール
- 11月29日(日)北海道 北見市民会館
- 12月2日(水)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月3日(木)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月6日(日)北海道 釧路市民文化会館
- 12月10日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 12月11日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 12月16日(水)広島県 広島上野学園ホール
- 12月17日(木)広島県 広島上野学園ホール
- 12月21日(月)東京都 中野サンプラザホール
- 12月22日(火)東京都 中野サンプラザホール
- 12月25日(金)岩手県 岩手県民会館 大ホール
- 12月26日(土)青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
- 2016年
- 1月6日(水)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ
- 1月8日(金)山口県 周南市文化会館
- 1月11日(月・祝)岐阜県 長良川国際会議場
- 1月15日(金)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月16日(土)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月19日(火)香川県 香川県民ホール アルファあなぶきホール
- 1月22日(金)兵庫県 神戸国際会館
- 1月23日(土)兵庫県 神戸国際会館
- 1月27日(水)大阪府 フェスティバルホール
- 1月28日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 2月1日(月)青森県 八戸市公会堂
- 2月5日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月6日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月11日(木・祝)長野県 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
- 2月16日(火)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月17日(水)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月21日(日)静岡県 静岡市民文化会館
- 2月22日(月)静岡県 アクトシティ浜松
- 2月26日(金)東京都 中野サンプラザホール
- 2月27日(土)東京都 中野サンプラザホール
- 3月2日(水)京都府 ロームシアター京都
- 3月4日(金)石川県 金沢歌劇座
- 3月8日(火)新潟県 新潟県民会館
- 3月9日(水)新潟県 新潟県民会館
- 3月14日(月)佐賀県 佐賀市文化会館
- 3月16日(水)大分県 iichikoグランシアタ
- 3月18日(金)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 3月23日(水)東京都 NHKホール
- 3月24日(木)東京都 NHKホール
- 3月27日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 3月29日(火)愛媛県 松山市民会館
- 4月2日(土)宮崎県 宮崎市民文化ホール
- 4月3日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 4月9日(土)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月10日(日)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月17日(日)神奈川県 関内ホール
- 4月20日(水)岩手県 岩手県民会館 大ホール
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
1953年東京出身の男性シンガーソングライター。シュガー・ベイブの中心人物として、1975年にシングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」、嵐「復活LOVE」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がける。また代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から30年連続オリコンランキング100位以内を記録し、ギネスブックにも登録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市66公演の全国ホールツアーを実施した。