ナタリー PowerPush - タニザワトモフミ
今までのイメージをブッ壊す J-POP愛にあふれた新作完成
自らのイメージを払拭すべく、すべてを脱ぎ去り素っ裸になった男が手に入れたのは圧倒的な自由だった──。
孤高のPOPストレンジャー、タニザワトモフミが完成させた2ndフルアルバム「日本に落ちてきた男」。堕落したシーンに音と言葉で宣戦布告するその内容は、J-POPの新たなスタンダードになるはず。いやなるべき! めくるめくニュー“タニザワールド”の全貌を、自身の言葉でひも解いていこう。
取材・文/もりひでゆき
今まで作ってきた自分のイメージを全部ブッ壊す
──ニューアルバム、かなりの手応えがあるのでは?
そうですね。いいのできたなぁと思ってます。
──なんていうかもう、めちゃくちゃ自由ですよね。
はい(笑)。
──1stアルバム「まぼろし時計」とは確実に感触が異なる作品ですが、新作はどういう理由でこうなったんでしょうか?
この作品を作る前に漠然と、第2期のタニザワトモフミをここから始めたいみたいな気持ちがずっとあったんです。それほどキャリアが長いわけじゃないですけど、だんだんこういうふうに曲は作るとか、こういうふうに言葉を選ぶとか、メロディもそうですけど、そういう自分の中のルールができてきてる気がしちゃったんですよね。もともとそういうのが大嫌いな人間なのに(笑)。なので、今まで作ってきた自分のイメージみたいなものを全部ブッ壊して、何より自由な作品にしようって思ってたんです。
──キャリアを積むことで手に入れる自分なりのルールは財産にもなり得ると思うんですけど、それをブッ壊すことへの不安はまったくなかったですか?
むしろ現状を続ける不安のほうが強くて。僕は変わりたいんだっていう感情が何よりも勝ってたと思います。
──そういった感情をすんなりと音に落とし込めました?
そうですね。曲作りっていう部分では今回、言葉を特に意識したと思うんですよ。今まではなるべくキレイに整えようとか、なるべくすんなり心に入るワードにしようとか、聴き手のみなさんに対して親切であろうみたいな気持ちが内在的にあったと思うんです。でも、それっていうのは結局、自分の表現への言い訳でしかないような気がして。過去の自分の作品を否定するみたいに聞こえちゃうかもしれないですけど。
タニザワトモフミ=ジャイアン?
──タニザワさんはこれまでも言葉にこだわってた印象があるんですけど、その方向がまた変化してきたということなんでしょうね。
そうですね。1曲の中に詰めるものがどんどん増えていっちゃうんですよ、欲深くなっちゃって(笑)。でも、そんなにたくさんのことを詰め込んだところで、パッと1回聴いただけでは何も伝わらなかったりする。だからなるべくシンプルに、何が自分の歌いたいテーマなのかっていうことを曲ごとにずっと考えてました。「そうなのか?」「違う!」「そうなのか?」「違う!」っていうことをさんざん繰り返した上で自分の歌いたいことが見つかったら、あとはそれをシンプルに強い言葉で、なおかつ多彩に感じてもらえるように表現していくことを目指しましたね。
──それってけっこう大変な作業ですよね。
むちゃくちゃ苦労しました。でも、それはすごく刺激的な作業でもあって。もうすぐ30歳になるんですけど、それぐらいの年齢ってなんとなくちょっとわかったような気になってくる頃だと思うんですよ。でも全然、自分のことがわかってなかったなってことが、今回の自問自答でわかりました(笑)。
──そこでわかったタニザワトモフミとはどんな人でした?
よりジャイアン的というか(笑)。とにかく壊したがり屋。破滅に向かうタイプだよね、みたいなことを昔から友人にも言われてましたから。
──全然そんなふうには見えないですけどね。
そう思われがちなんですけど、何か物事を変えるときには現状を壊さないと変われないタイプ。すべてが大げさで、そこまでやらなくていいだろうみたいな。そのへんの自覚はあったんですけど、ここまでとは思わなかったというか。そういうことに気付きましたね。
──よりジャイアン的っていうのは?(笑)
例えば今までの作品だったら……ドラえもんで言えばですけど(笑)、僕の中ののび太とか出来杉くんだとかしずかちゃんだとかスネ夫くんだとかのび太のママだとか、いろんな人格を表現してたと思うんですけど、ジャイアン的な自分ってなるべく隠す方向にいた気がするんです。でも、それを僕はもう隠さないぞと。この作品でそこをもっと出したかったから。で、それはきっと次の作品へと続くきっかけになるぞっていう気持ちで作ってましたね。
──「ブッ飛ばすぜ」や「くたばれJ-POP」ではタニザワジャイアンが見えてますね。
はい(笑)。「結婚です」って曲でも、結婚式では絶対歌われない結婚ソングを作ってやろうっていう僕の天の邪鬼さが表に出たりしてますね。今回のアルバムを作ってみて、僕が本当にやりたいのはここなんだってことがやっとわかったんですよ。もともと自分の中にはあったのかもしれないけど見つけられなかったものが、メジャーデビューして1~2年のこの紆余曲折の中でやっと具現化できるところまできたというか。遅いんですけどね、テンポが。でも今はすごく楽しいです。
タニザワトモフミ
1981年生まれ、岐阜県飛騨市出身のシンガーソングライター。15歳でギターを手にし、オリジナル曲を作り始めバンド活動を開始。2000年に上京し、都内各所でライブ活動を始める。インディーズレーベルから3枚のミニアルバムをリリースしたのち、2009年2月にシングル「東京ハロー」でメジャーデビュー。同年11月発売の2ndシングル「きみにとどけ」は日本テレビ系アニメ「君に届け」のオープニングテーマに抜擢。翌2010年3月には1stフルアルバム「まぼろし時計」をリリース。2011年1月からスタートした日本テレビ系アニメ「君に届け 2ND SEASON」に、新曲「爽風」を提供し脚光を浴びている。独創的な歌詞の世界観と圧巻のライブパフォーマンスで、現在着実に人気を高めているアーティストのひとり。4月16日には渋谷CLUB QUATTROにてワンマンライブ「日本に落ちてきた男の祭典」を予定している。