田村ゆかりのニューアルバム「Candy tuft」が6月24日にリリースされた。
2017年に自身のレーベル・Cana ariaを立ち上げた田村は、ミニアルバム2枚とシングル2枚、さらには主催イベント「ゆかりっく Fes '18 in Japan」に合わせた楽曲や別名義での楽曲と、精力的に作品をリリースしている。フルアルバムとしては2013年11月発売の「螺旋の果実」以来となる新作「Candy tuft」には、いつになくポジティブなムードに満ちた10曲が収録されている。
このアルバムは本来、6月6日に始まるはずだった全国ツアー「田村ゆかりLOVE ♡ LIVE 2020(仮)」に合わせて制作されていた。しかし制作の途中で世の中は一変し、ツアーは延期に。誕生日の2月27日に行われる予定だったバースデーイベントも急遽中止となってしまった。コロナ禍で変化を余儀なくされたさまざまな出来事は、アルバム制作中の田村の心にも変化をもたらし、作品の中にも影響を与えていた。
取材・文 / 臼杵成晃
人に会いたいって思うなんて意外
──2月中旬あたりからいろんなライブが中止になる中で、2月27日に開催されるはずだった田村さんのバースデーイベントも中止になりました。あの時期はまだ本当に止めるべきなのかどうなのか、判断が難しかったですよね。
ギリギリまでやろうと準備はしていたんです。主催側としては当然やろうという気持ちがあるわけですよ。ただ……言葉には出さなかったけど、私もマネージャーも準備を進めつつ「これはやっちゃだめだろうな」と思っていて。万が一にも自分のライブで誰かが病気になるのは嫌だったし、ギリギリの判断になってしまいましたけど、中止にしました。
──声優業のほうでも、アニメの放送が延期になったりと影響はありますよね。どんな感じなんですか?
おそらくアニメは納期があるから音響側で判断して止められるものではないからだと思うんですけど、しばらくはアフレコ現場も動いてたんですよ。でも緊急事態宣言が出てからはパタッと止まりましたね。
──田村さんにとっては、ここまで長く休みが続くのはデビュー以降初めてなのでは?
そうですね。夏休みが来たみたいな感じで(笑)。ただ、外には出られないので……私は外に出ないことがあまり苦ではないから、家で静かに過ごしてましたね。気負って「この期間に何かをやろう」ということもなく。
──よくある「この自粛期間に趣味が増えました」みたいなこともなく?
全然ないですね。すっごいひさしぶりにプレステ4のゲームをやったりとか(笑)、ひさしぶりの休みを楽しんでました。
──今、一番楽しいことはなんですか?
なんだろう……私、そんなに人のことが好きじゃないんですけど(笑)、たまに人に会うと変に楽しいですね。アフレコが再開されて、今までほとんどしゃべったことがない人でも、なんか話しかけちゃったりとか。ちょっとテンションが高くなっちゃうみたいで、「人に会いたいって思うなんて意外だな」って(笑)。
自由に作れる自主レーベル、モチベーションは?
──新作「Candy tuft」はひさびさのフルアルバムという触れ込みで10曲が収録されていますけど、Cana ariaレーベル(参照:田村ゆかり新レーベル発足で2年2カ月ぶり新曲発表、新ラジオ番組スタート)設立後に発表された2枚のミニアルバムはどちらも8曲入りで、シングルだって4曲入ってるし……境目がわかんないですよね。
そうなんですよ! この前そう言われて(参照:田村ゆかり「永遠のひとつ」インタビュー)「確かに」って思ったんです。今まで8曲で「ミニアルバムです」って言ってたので、欲を言えばフルアルバムなら12曲くらいは入れたかったんですけど、なかなか難しくて。
──Cana ariaは自主レーベルだし、もう少しゆっくりと自由に活動していくのかなと思ってたんですけど、けっこうコンスタントに新作を出してますよね。モチベーションが高いんですか?
どうなんですかね? 確かに出したいのは出したいんです。一般流通に乗ろうが配信だろうがなんでもよくて、何か作って出したいという気持ちはありますね。メーカーに属さず、マネージャーと2人でやっている会社だから気負わずにできるんです。タイアップがないとシングルが切れないということもないし。以前はコンセプチュアルなアルバムを作りたいと思っても、メーカーさんの事情もあるからそう簡単にはできなかった。でも今は自由にやれるよね、って言ったらマネージャーから「売れなかったら私が怒るよ!」って言われましたけど(笑)。
──でもそうやって自由にできる環境になったとき、田村さんは「もっとペースを落として活動したい」ではなく「どんどん出したい」という気持ちなんですね。
いや、でも実際は締め切りがないとなかなか動き出せないし、難しいところではありますね。今もライブに合わせて作っているところが大きくて、今回も6月からのツアーに合わせてアルバム制作を進めていたんですけど、ツアーは来年の春以降に延期になってしまって……実はツアー期間中に新しく1曲作って、最後の公演で歌おうと思っていたんです。でも、ライブないから聴いてもらえるタイミングもないしなあ、みたいになっちゃって(笑)。難しいですね。
「今は会えないけど、いつか会えるよ」
──ツアーを前提にアルバムを作っていたということは、ツアーの世界観も踏まえた内容で組み立てていたんですか?
最初の2曲くらいを発注したときは意識して考えていたんですけど、途中からツアーのコンセプト自体がふわっとしちゃったんで、そこはあまり考えていないです。ライブで盛り上がること……単に「ゴーゴー!」みたいな盛り上がりじゃなく、みんなの思い出に残るような曲を用意したいとは考えてましたけど、それはいつも通りですね。
──アルバム全体の印象として、すごくポジティブな感じがしたんですよ。明るい曲もあれば暗い曲もあるというのはいつも通りですけど、近年の田村さんの作品は「ポジティブな要素もあるけど漏れ出るネガティブが強くある」というか。今回もどこかに悲鳴が隠れてないかと探したんですけど、あまりない気がする。
あははは(笑)。どうですかねー。ただ、緊急事態宣言に入るギリギリのところで制作していたので、なんとなく「これまで通りにはいかないな」というムードがあって、ツアーに向けて作り始めたものの「ツアーは無理だろうな」と思っていたんです。だから途中から歌詞を発注するときのニュアンスが少し変わって……「今は会えないけど、いつか会えるよ」というニュアンスに変わった部分は確かにありますね。みんなが暗くなっているときに、底抜けに明るいわけじゃないけど、そこはかとなく前向きというか。私は「がんばれがんばれ!」みたいなのは苦手なので、そういう感じにはならないですけど。
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