ナタリー PowerPush - たむらぱん
ミュージシャンとして開眼!? 3rdアルバム「ナクナイ」リリース
シングル「バンブー / マウンテン」「SOS」「ラフ」を含む3rdアルバム「ナクナイ」が到着。ギターロック、フォークロア、音響系、歌謡曲といった要素をパッチワークのように取り入れたサウンドメイク、そして日常生活の中にある“気づき”をイマジネーション豊かに描いた歌がひとつになった本作には、ポップアーティストとしてのたむらぱんの個性と才能が端的に示されている。「この世界にムダなことはひとつもない。すべてに意味があるんだ」──このアルバムを聴き終わった後に残るのはきっと、そんな思いではないだろうか。
取材・文/森朋之
自分なりのエンタテインメントが見えた1枚
──“たむらぱん”の魅力がわかりやすく、ストレートに表現されたアルバムだと思いました。
そうですね。いつも考えてる「純粋に音として楽しめる」ってところもちゃんと表現できたと思いますし、今回はさらにプラスアルファというか、今まで追求してきた自分なりのエンタテインメントっていうのが見えた1枚じゃないかなって。そういう思いはありますね、個人的にも。
──自分の音楽の良さを客観的に捉えることができた、と。
ようやくズレがなくなって。前は「これでいいのかな?」っていう気持ちがどこかにあったんです。今は「これでいい」と思えるようになったというか──それは正解が見つかったということではなくて、「これも答えのひとつだな」ってことなんですけどね。タイトルじゃないですけど「なくはない」っていう(笑)。自分が思い描いている表現のやり方があって、「これも人を楽しませる方法としてナシじゃないな」って。そういう意味ではなんとなく重みがあるんですよね、自分の中で。
──なるほど。
今回のアルバムを作る上で「3枚目」の意味をちゃんと持たせたい、持ちたいっていうのがあったんです。「そもそも自分の音楽ってなんだ? 聴いてくれる人は、どこを基準にして楽しんでくれてるんだろ?」っていうベーシックな部分をちゃんと考えたかった。で、アルバムに入れる曲が集まってきたときに、自然とそこがイメージできたというか。
言い切っちゃうのはウソっぽい感じがする
──そのことを象徴するのが「ナクナイ」っていうタイトルなのかも。たむらぱんさんらしいですよね、この言葉。
そうですね(笑)。
──すごく前向きなフレーズだと思います。今、ポジティブな意思を示すためには「ナイ」を否定するしかないなって。
うんうん、そうですね。なんかね、言い切っちゃうほうがウソっぽい感じがするんですよ。その感覚はすごくある。あと、自分自身の表現の代表的な言葉かなって思ったんですよね、「ナクナイ」って。このタイトルによって「この人が描いてるものって、こういうことだったんだ」って伝わるかもしれないって。完全に決められない部分、決め付けちゃいけないところがあるっていう……。
──ポップミュージックの場合、きっぱりわかりやすく整理しちゃったほうが伝わる、っていう考え方もあると思うんですよ。わかりやすいほうがプロモーションしやすい、とか。たむらぱんさんは違いますよね、きっと。「こういうのもアリかもよ」っていうプレゼンテーションの方法って、周りに理解されるまでちょっと時間がかかるかもしれないけど。
ハハハハハ。いや、でもそうなんですよね。そこに関してはいろんな出会いとか経験、あとは時の流れの中で少しずつ解決してきたというか。「時間って物事の解決にホントに役立つ」っていう一例かもしれないです(笑)。自分の音楽のテンションとかって、いつもどこか不安定なんですよね。作ってるものに対しては絶対的な思いがあるんですよ。でも、そこでできたものを「どこに置いてあげればいいんだろう?」っていう気持ちは自分の中にずっとあって、でも、どこにも置けなかったんですよね。
──はい。
どこかに収まって、わかりやすく「ここですよ」って言える場所があるっていうのは、ひとつの安心材料だと思うんです。そうなれたらいいのになっていう憧れもありましたからね、実際。自分の音楽に対して「余分なもの」とか「なくてもいいんじゃないか」って思うこともあって。でも、ここまでやってこれたんだから、まさに自分自身も「ナシじゃないんだな」って感じることができたので。
──自分の居場所を見つけられた、と。
自分の音楽を聴いてくれる人がいるっていう事実もそうだし。「なんでもできる」っていう可能性を楽しんでくれてるんじゃないかなって思うんですよ。表現として統一感がないってことよりも、「なんでもできる」っていうふうに捉えてくれてるというか──そうだといいなって思ってます(笑)。
人が変わるのは自然なことだとわかってラクになった
──歌詞についてはどうですか。「叱られた時は素直にそっとごめんなさいと言おう」「愛は表現だよ」(「ごめん」)とか、「愛想でも良いからほら 笑っていたい」(「あいそう」)もそうですけど、「こんなふうに考えればもっと楽しくなるんじゃない?」っていう提案っぽいフレーズが増えてるように思うんですが。
そこも変わってきたところかもしれないですね。自分が提示するものに対して責任を持たなくちゃいけないっていう気持ちは前からあったんです。もし途中で考えが変わったとしたら、その理由もちゃんと説明できなきゃいけない。表現や言葉には意味、重み、責任がある、とか。で、一方でそれに対して拒否反応も感じてたんですよね。提案とか提示とかって、みんなの先頭を切って歩いていくようなイメージというか、モーゼとかノアの方舟みたいな……。
──話がいきなりデカくなってますが(笑)。
(笑)。「それくらいのことができる人じゃないと言っちゃいけない」みたいに思ってたことがあるんですよ、ホントに。何かを言うことに対して怖がってたというか、ビビッてたというか。でも、自分の表現のひとつには「日常の中の良いきっかけを見つける」っていうのもあるし、それって別に「これが答えです」って言ってるわけじゃないんですよね。だから、まさに提案ですよ。その感覚が持てるようになってから、ちょっとはラクに表現できるようになったかもしれないですね。
──まあ、考えも変わっていきますからね。
そうなんですよね。考えが変わったときに「前と違うじゃん!」って言われるかもしれない、っていう怖さもあったし。しかも作品とか文章って残るじゃないですか。でも、人が変わるのって自然なことだし、それを「感情の幅が2倍、3倍に増えた」って思えば、むしろラッキーじゃないかな、と。そう思えるようになってからは、「ひとつの作品でしっかり確立させなくちゃいけない」ってところからも解放されたような気がしてて。開き直りですよね、いい意味で。
──しかも、言葉の深みも増していて。例えば「きづく」にある「仕事 友情 愛情 地球上の総てと繋がっていたい」なんて、ホントに深いフレーズだなって。
「きづく」は……なんていうか、自分の思いやりと相手との距離とかって、どうなってるのかよくわからないと思うんですよね。わからない部分があるからこそ、「信じる」ってことだけはやっておいたほうがいいな、って。そう、そもそも私自身が何かを信用したいんだなって気づいたんですよ、今回のアルバムを通して。自分に返ってきたものもすごく大きい1枚なんですよね。
──何を信じるのかは、まだ見つかってない?
そうなんです。だからこそ「何か」が欲しいんですけど。いまは「いつか、信じられるものが見つかると思っておこう」っていう感じですね。
──それが見つかったら、どうなると思います?
いろんなことをやめちゃえるかも。「その人だけ」とか「それだけ」で、ほかは全部いらなくなるとか。それくらいの人になってみたいけど──それって人としての最終地点というか、究極じゃないですか──でも、絶対にムリだと思うんですよね(笑)。だから、せめて"そうなりたい"って思っていようかなって。
CD収録曲
- バンブー
- スポンジ
- フレフレ
- ラフ
- きづく
- ごめん
- ズンダ
- マウンテン
- SOS
- あいそう
- ストーリーテラー
- とんだって
初回盤DVD収録内容
たむらぱんワンマンライブ “SOSOSOS” @Shibuya O-EAST 2010.09.07
- バンブー
- ちょうどいいとこにいたい
- ハリウッド
- テレパシー
- マイホームタウン
- ハレーション
- アミリオン
- グランパ
- ストーリーテラー
- ちゃりんこ
- SOS
- 十人十色
- ラフ
- ゼロ
- 責めないデイ
- へぶん
- ぶっ飛ばすぞ
- ズンダ
- ジェットコースター
全国ワンマンライブツアー
「パンダフルツアー」
- 2011年2月12日(土)
東京都 代官山UNIT
OPEN17:30/START18:30
- 2011年2月17日(木)
福岡県 DRUM Be-1
OPEN18:30/START19:00 - 2011年2月19日(土)
大阪府 UMEDA AKASO
OPEN17:30/START18:30 - 2011年2月20日(日)
愛知県 名古屋ell.FITS ALL
OPEN17:30/START18:30 - 2011年2月25日(金)
宮城県 仙台CLUB JUNK BOX
OPEN18:30/START19:00 - 2011年2月26日(土)
新潟県 新潟LOTS
OPEN17:30/START18:30 - 2011年3月6日(日)
東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN17:30/START18:30
たむらぱん
作詞・作曲・アレンジはもちろん、ジャケットやWEBサイトのアートワークまで手掛けるマルチアーティスト・田村歩美のソロプロジェクト。2007年からMySpaceにおいて自ら楽曲プロモーションを開始。4カ月で1万人のファンを獲得し、18万PV、24万回のストリーミング再生を達成したことが大きなきっかけとなり、日本初の「MySpace発メジャーデビューアーティスト」として、2008年4月にデビューアルバム「ブタベスト」をリリースする。 その後3枚のシングルを経て、2009年6月に多くのCMやTV番組のタイアップ曲を含む2ndアルバム「ノウニウノウン」をリリース。その後、自身初となる全国ワンマンツアー「世界パンタム級ツアー」を敢行。東京は追加公演も含めてチケット完売という大盛況ぶりで幕を下ろした。さらに「ゼロ」のビデオクリップではイラストレーター田村歩美としてSTUDIO4℃とコラボレーションを行い映像制作にもたずさわるほか、shing02の楽曲にボーカルとして参加、ロッテ「Fit's」CM曲の歌唱など、多岐にわたる活動でその才能を発揮している。