音楽ナタリー PowerPush - たま&やっぴ~×須藤晃(尾崎豊プロデューサー)
尾崎豊のプロデューサーがニコ生の弾き語り主をプロデュースした理由
ニコニコ動画に投稿した弾き語り映像で人気に火がついたピアノ&アコースティックギターデュオ・たま&やっぴ~が、8月13日に初のアルバム「笑顔のレシピ」をリリースすることになった。本作には、彼らが初めて顔出しでニコ動に投稿した「I LOVE YOU」(尾崎豊)をはじめ、J-POPの名曲カバーを10曲収録。それに加え、たまとやっぴ~それぞれが書き下ろしたオリジナル楽曲「ヤスコ」と「魔法のレシピ」も収められている。オリジナル2曲に関しては、尾崎豊などの楽曲に携わってきた須藤晃をプロデューサーに、「I LOVE YOU」などのアレンジを手がけた西本明をアレンジャーに迎えるという豪華なコラボが実現しているのも大きな話題だ。
たま&やっぴ~の魅力が十二分に詰め込まれた本作のリリースを記念し、ナタリーではメンバー2人と須藤晃による鼎談を実施。たまとやっぴ~が持つ異なる個性を浮き彫りにしていく中で、須藤のプロデューサー論も垣間見える貴重な話をたっぷりと聞くことができた。
取材・文 / もりひでゆき
この2人の「I LOVE YOU」には作為がまったくなかった
──たま&やっぴ~として初めて動画投稿したのは2012年10月27日、尾崎豊さんの「I LOVE YOU」のカバーでした。
たま はい。2人とも大好きな曲で、以前からよく路上ライブで歌ってたんですよ。2人で一番合わせてた曲だよね。
やっぴ~ うん。ピアノとギターで一緒によく合わせていました。
たま で、この曲だったら動画投稿できるかも、みたいな話になって、ちょっとやってみた感じなんです。顔もカラダも全部映して、一発録りのものを上げました。
──反響はどうでしたか?
たま “歌ってみた”の動画では顔出ししてる人があんまりいないので、「こいつら面白いなあ」みたいな反応が多かったです。あとは、俺の顔が「うるさい」とか、「後ろのやつと仲悪いんじゃねえか?」みたいなことを言われたり(笑)。
やっぴ~ 僕がたまちゃんと逆のほうを向いて歌ってたので(笑)。
──結果、その動画は現在までに50万回以上再生されているわけですが、その視聴者の中に須藤さんもいらっしゃったということなんですよね。
須藤晃 そうですね。昔、一緒に仕事をしていた仲間から、「四国に住んでる面白い新人がいるんだけど」って言われて動画を観たんです。そのとき、「ああ、いいな」って思ったんですよ。「うまいな」とは思わなかったけど、何かが伝わってくるというか、声の情報量を持った人たちだなと。尾崎さんにしても最初に会ったときには「うまいな」とは思わなかったですからね、僕は。
──尾崎豊さんのカバーをする人は世の中にたくさんいますが、たま&やっぴ~にはほかにない魅力が感じられたところもありましたか?
須藤 尾崎さんの曲、特に「I LOVE YOU」なんかは本当にたくさんの人がカバーしているので、かなりハードルが高いと思うんですよ。だからオリジナルに手を加えて雰囲気を変えたりしている方々もいる。でも、この2人の「I LOVE YOU」には、「こんなことしたら目立っていいんじゃないか」みたいな作為がまったくなかったんですよ。オリジナルに忠実に歌っていたから。そこには、ホントにこの曲が好きなんだろうなって思える清潔さがあったんですよね。
──そういった印象から2人に会ってみたいと思ったんですか?
須藤 そう。一回、僕の事務所に来てもらって。2人とも緊張しまくってましたけどね。
やっぴ~ それはもう緊張しましたね。僕、手土産を持っていってたんですけど、お会いしてから1時間半くらい渡せなかったですから。要冷蔵のじゃこ天をずっと膝の上で温めてる状態(笑)。で、須藤さんから「それ手土産か?」って言われて、はじめて渡せたっていう。
たま 僕にいたっては半泣きでしたからね。僕らが歌った「I LOVE YOU」を須藤さんが気に入ってくださって、実際につながることができたなんて、もううれしすぎることなので。
須藤 会っただけで満足なんで帰ります、みたいな雰囲気だったもんな。
たま あははは(笑)。ホントにそんな感じでしたね。
2人は音楽で救われるために歌い始めたのがはっきりわかった
──初めて会ったときにはどんな話をしたんですか?
須藤 全然覚えてないだろ?
やっぴ~ いやいや(笑)、覚えてますよ。むしろ鮮明に。な?
たま うん。あの日のことは鮮明に覚えてますね。僕はおばあちゃんの話をしたりとか。
やっぴ~ 僕は自分が歌い始めたきっかけとか。いろいろお話させていただきました。
須藤 僕のクセなんですけど、相手のことをできる限り知りたいから、今までどういう環境で育ってきて、どんな人生を送ってきたのかっていうのをとにかく根掘り葉掘り聞くんですよ。中にはそれを嫌がる人もいるんだけど、彼らは全部話してくれたんですよね。「おいおい、それは人に話しちゃダメだろ」ってことまで。
やっぴ~ 普段はそこまで話すことはないんですけどね(笑)。
須藤 まあ、そこは俺の聞き方がうまいからなんだけど、でもすべてを話してしまう素直さに僕は逆にびっくりしたところもあって。そういう部分にもすごく惹かれたんです。
たま すべてを話し終わってホテルに戻ったときは、2人ともボーッとした状態でしたよ。
やっぴ~ 放心状態(笑)。テレビもつけず、ベッドの上に2人で座ってね。で、須藤さんとお話したことをおさらいしたりとか。
たま 「こんな話したよな」「そしたらこんなことを言ってくれたよな」とか。
やっぴ~ とにかくそれくらい心にズシッと来る時間でしたね。
──たまさんとやっぴ~さんをより深く知ったことで、須藤さんは改めてどんなことを思いましたか?
須藤 たくさんの話を通して、2人は音楽で救われるために歌い始めたんだっていうことがはっきりわかったんですよ。世の中には、例えば女の子にモテるからとかほかにやりたいことがないからとかっていう理由で音楽を始める人が多いけど、彼らはまったく違った。そこで僕は、彼らは本物のアーティストに必要なものを持っているなって思いましたね。そういうことを感じたのは本当にひさびさのことでしたよ。
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- 収録曲
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- I LOVE YOU(オリジナル:尾崎豊)
- RPG(オリジナル:SEKAI NO OWARI)
- 小さな恋のうた(オリジナル:MONGOL800)
- 桜(オリジナル:河口恭吾)
- 奏(かなで)(オリジナル:スキマスイッチ)
- 歩いて帰ろう(オリジナル:斉藤和義)
- 夏の終りのハーモニー(オリジナル:井上陽水・安全地帯)
- 木蘭の涙(オリジナル:スターダスト☆レビュー)
- 今夜はブギーバック(オリジナル:小沢健二 featuring スチャダラパー)
- それが大事(オリジナル:大事MANブラザーズバンド)
- 魔法のレシピ(オリジナル)
- ヤスコ(オリジナル)
たま&やっぴ~(タマアンドヤッピー)
ピアノ弾き語りのたま、アコースティックギター弾き語りのやっぴ~からなる愛媛出身の男性デュオ。2012年にニコ生を録画してニコニコ動画に投稿した尾崎豊「I LOVE YOU」のカバー映像が、歌ってみた総合ランキングでデイリー2位を獲得し、歌ってみたシーンの新星として話題になった。彼らはニコニコ動画の歌ってみた投稿者としては珍しく顔出しで映像を公開しており、心を込めて一生懸命に歌うたまの表情から「顔がうるさい」とも言われている。2014年8月にはカバー曲とオリジナル曲で構成された初のアルバム「笑顔のレシピ」をリリース。このアルバムは、尾崎豊などの楽曲に携わってきた須藤晃がプロデュース、「I LOVE YOU」などのアレンジを手がけた西本明がアレンジを担当したことでも話題になった。
須藤晃(スドウアキラ)
1952年に富山県で生まれる。1977年にCBSソニー(現・ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社し、音楽プロデューサーとして尾崎豊、浜田省吾、村下孝蔵、玉置浩二、トータス松本、馬場俊英らを担当し、数々の名曲を制作。歌詞にこだわったプロデュース手法でメッセージ性の強い作品を生み出し続けている。