誰にでもある、フラットな「3時12分」
星街 今回の「3時12分」は真夜中の3時12分に作ったからこういうタイトルになったんですか?
TAKU そういうわけではなくて、なんとなく「3時12分」という言葉が最後に出てきたんですよね。この曲にカチッとハマる言葉が「3時12分」だった。このタイトルの意味する時間は世界中の誰にでも例外なくあるものだし、変な感情が入らない言葉だなと思って。すごくフラットなタイトルで気に入っています。
──歌詞の舞台はクラブですよね?
TAKU はい。歌詞の内容はすいせいさんとは関係なく、クラブの歌にしたかったんです。“クラブ賛歌”というか。このご時世ですから、全然クラブに遊びに行けてなくて、自分の出演も減っている中で、「あー、クラブに遊びに行きてえ」という気持ちを素直に音楽に乗せてみました。クラブで遊んでいる人にはめちゃくちゃ刺さる歌詞になっていると思います。
星街 私はクラブに遊びに行ったことがないんですけど、それでもこの歌詞の意味するところはスッと自分の中に入ってきました。コロナ禍で行きたくても行けない場所はたくさんあるし、私の場合はライブをやりたくても会場にお客さんを入れられない状態が続いていて。だから「3時12分」の歌詞に書かれている「ワンツーで世界を変えたくて」という歌詞がすごく刺さりました。ワンツーで変えてしまいたいなと思って。
TAKU クラブで酔っ払うと気が大きくなるんですよ(笑)。だから「世界を変えたい」とか思っちゃう。クラブで遊んだことのない人にも共感してもらえるように多少は言葉に気を使っていたから、すいせいさんのようにそれぞれで解釈してもらえるのはうれしいですね。
──曲調に関しても今の世相が影響しているところはありますか? 現場がないから、ライブ映えするアッパーな曲ではなくミドルテンポの曲になったのかなとも思ったんですが。
TAKU 曲調に関してはそこまで意識してなくて、単に普段あまり書けないタイプの曲が書きたかっただけなんです。クライアントワークをしていると、自分の場合、基本的にはアップテンポで派手な、盛り上がれる曲を求められることが多くて。ミドルテンポの曲の発注って、あまりないんですよ。なので、クライアントワークを続けていると“ミドルテンポ欲”が沸々と湧き上がってくるんです。せっかくのソロワークなんだからここでミドルテンポを作らなくてどうする、という自分の気持ちが昂った時期とすいせいさんのオファーが重なったので、すごくタイミングがよかったですね。
作家的な目線で見る“歌枠”
──これは変な意味で言うわけではないんですが、TAKUさんが自身のプロジェクトを立ち上げる1発目のボーカリストがVTuberの方というのは、少し驚いたんですよ。
星街 それは私も思いました。
──例えばもっとクラブライクな曲に振り切る選択肢もあったと思います。
TAKU なるほど。今回で言うと、すいせいさんがたまたまVTuberだっただけなんですよ。ボーカリストがリアルの方かバーチャルの方かは関係なくて、純粋に声がいい人を選んだらこうなっただけで。カテゴリーに関しては全然重視してなかったんです。
──声がいい人を探すという意味では、Vtuberによる配信の文化ってすごく便利なのかもしれないですね。
TAKU 作家的な目線で言うと、動画配信者の歌枠(視聴者とコミュニケーションを取りながら主にカバー曲を何曲も披露する生配信)ってめちゃくちゃ参考になるんですよ。いろんな曲を歌ってくれるから適正のキーを探ることもできるし、どういう曲が好きか、声質にどんな曲が合うかを一気に知ることができて。何十曲も歌ってくれているから、提供曲がものすごく作りやすいんです。
星街 普段の生配信をプロの方々に見てもらっていると思うと、なんだか恥ずかしくなってきますね……(笑)。
TAKU 僕に限らず、作家はけっこう見てるんじゃないかな。
星街 それと、以前イノタクさんが「NEXT COLOR PLANET」を「いい曲だ」とツイートしてくださったことがあったじゃないですか。あれ、すごくビックリしたんですよ。
TAKU あれは本当にいい曲だから。去年もDJでかけたりしたし。
星街 そのときは、まさかイノタクさんが聴いてくださってるとは思っていなかったんですよ。
TAKU 僕、雑談配信が好きなんですよ。ラジオ感覚で流すことが多くて。だからすいせいさん以外にもいろんなVTuberとか配信者さんの雑談を聞いています。いつもは画面の向こう側で話しているのを一方的に聞いているから、今日は対談という形で話させてもらって変な感じですね(笑)。
コラボ2曲目は最高にアガる曲
──すいせいさんのアルバムに収録予定の新曲はどのような曲になるんでしょうか?
TAKU 実はまだ形にはなってなくて、今は頭の中でぼやっと「こういう曲にしよう」とイメージしているところなんです。あとはそれをすくい上げればいいところまできているんですが……。
星街 イメージが浮かんでから完成までは速いタイプなんですか?
TAKU いや、けっこう時間がかかっちゃうタイプなんです(笑)。ただ今回はちゃんと恩返ししないといけませんからね。ちゃんと締め切りを守って最高の曲を提供します。ここで決められないヤツは何をやらせてもダメですから。
星街 すごく楽しみにしています!
TAKU アルバムの表題曲なので、次の曲は最高にアガる曲が僕の頭の中にはすでにありますので。あとはそれをちゃんと形にしてお送りするまでがんばります。
──今後の“TAKU INOUEプロジェクト”はどうなるんでしょうか?
TAKU 実を言うと以降の予定はまだ立っていなくて(笑)。もちろん、一緒に組みたいボーカリストの構想はありますけど、まずは「3時12分」の反応を見て次の動きを決めようかなと思っています。今回の曲作りも本当に面白かったし、今後もクライアントワークだとできないようなことをやっていきたいですね。