カバーするなら私しかいない

──昨年11月にリリースされた1stアルバム「at film.」を引っさげて、現在アルバムのリリースツアー真っ只中ですね（取材は1月に実施）。ツアーはいかがですか？

アルバムを出すまでけっこう時間がかかったので、ファンの方たちに対して「待たせちゃったな」という思いがあったんです。なのでいざツアーを回ってみると、皆さんが本当に楽しみにしてくれていたことが改めて肌で伝わりますね。すでに新曲の合いの手とか完璧だったり、聴き込んでくれてるんだなって。

──「at film.」リリース時のインタビューで、瀧川さんは「ちゃんと幸せになること、聴いてくれる人を幸せにする覚悟を決めた」とおっしゃっていて（参照：瀧川ありさ「at film.」インタビュー）。そんな決意を胸にリリースされるのがこの両A面シングルということに、必然性を感じました。カバー曲の「ノーサイド」も書き下ろし曲の「ONE FOR YOU」も、どちらも夢を追う人の背中を強く押すことができる楽曲だと思います。

うん、そうなったと思います。

──まずはアニメ「ALL OUT!!」のエンディングテーマである「ノーサイド」のお話から伺いたいんですが、なぜ松任谷由実さんの楽曲をカバーすることになったんですか？

オファーを受けたときに「ALL OUT!!」制作スタッフの方から「ユーミンさんの『ノーサイド』をカバーしてほしい」と言っていただいて。最初からカバーありきだったんです。びっくりしたんですけど、「それはもうぜひ！」ということで。

──瀧川さんは、ご自身の音楽の原体験は松任谷さんの「春よ、来い」だったと常々おっしゃっていますけど。

そうなんですよ。

──「スポーツの作品に携わることも夢だった」ともコメントされていましたよね。夢が一気に2つ叶う形になったと思うのですが、プレッシャーみたいなものはなかったんですか？

もちろんあったんですけど、それより今回は……柄にもなく、「運命だ」と思ったんですよ（笑）。ユーミンさんの音楽に影響を受けてミュージシャンになった自分が、1stアルバムをリリースしたこのタイミングでカバーをやらせていただけることに対して。だから「他の人にはやらせない、カバーするなら自分しかいない」くらいの気持ちでしたね。「『ノーサイド』を一番聴いてきたのは私だ」って。あの、高校時代の友人がこの曲をすごく好きだったんです。

──そうなんですね。

その子にはラグビー部の彼氏がいて、「この曲は私の曲なの」って言いながら「ノーサイド」を聴いていて。私はいつも2人の話を聞いていたから、私にとって「ノーサイド」は彼女の曲でもあるんです。1つのイヤフォンで片耳ずつ聴いたような青春の1曲なんですよね。そういう背景があるから余計に思い入れが強くて、歌入れのときは高校時代の彼女になりきって歌ったところもあります。

「大人になってるんだな、自分」

──原曲を聴き込んでいる瀧川さんだからこそ、アレンジはシンプルイズベストというか。

原曲の音作りや微妙なニュアンスを、変にブラッシュアップしたくないなとは最初から思っていました。ユーミンさんの歌う「ノーサイド」をタイムマシンに乗せて、そのまま2017年に持ってきたような感じにしたいなと。

──カバーすることで新たな発見はありましたか。

もう発見だらけで、本当に勉強になりました。同じキーで歌っても、やっぱり私の声だと聴いたときの印象が全く違うので。ユーミンさんの声って抜けがよくてスコーンとしていて、いい意味ですごく平坦な歌い方なんですよね。でも私が同じようにフラットな歌い方をすると、ただ何の起伏もない曲になってしまう。その感情の乗せ方がすごく難しかったです。挫折じゃないですけど、「ああいう歌い方はユーミンさんの声だから通用するんだ」って。そこで改めて自分の声や表現と向き合うことができたんです。

──確かに、感情の乗せ方にはその人の声の個性が否が応でも出ますよね。

それに気付いて歌い直したあとは、やっと自分の曲になったと思います。おこがましいんですけど、風景が見えるような歌詞とかも同じ感覚で。もちろん自分が影響を受けてるからなんですけど、ちゃんと私の言葉として歌えたんじゃないかなって。

──ちなみに「ALL OUT!!」は前シーズンからご覧になっていたんですか？

振り返って観ました。学園ものとかスポーツがテーマの作品って好きなので。キャラクターもみんな個性が強くて好きなんです。特にキャプテンの赤山くんの“クセが強い”感じがたまらないですね（笑）。あの仲間感っていうか、チーム全体が好きですね。

──ミュージックビデオの撮影では、楽曲のモデルになった大分県立大分舞鶴高等学校のラグビー部を訪問されたんですよね。

撮影をしながら練習を見学させていただくことになっていたんですけど、あいにくの土砂降りで。「この天気で彼らはどうするのだろう」と思ってたんですけど、いざ着いてみたらみんなガンガン練習してるんです。監督さんに聞いたんですけど、彼らはそういう状況をむしろプラスに変えているらしくて。ぬかるんだ地面でこそ鍛えられる、みたいな。「逆境をチャンスに変える」って言葉では聞きますけど、本当に実行してる人たちを目の当たりにして圧倒されましたね。

──確かにすごい迫力でしょうね。

それで戦っているときは近寄れないような勇ましいオーラなのに、話してみると普通の男子高校生なんですよ（笑）。もう眩しすぎて、そのギャップにもやられましたね。私、これまで「心は高校生のまま止まってるな」って思うことがあったんですけど、彼らと話して「あ、一応大人になってるんだな、自分」って。でも10代の子たちに響くような音楽を作りたいと常日頃思っているので、直接交流できたことはすごく刺激になりました。

──瀧川さん自身、スポーツは得意なほうなんですか？

私は運動音痴です。スポーツができないから音楽をやろうと思ったので（笑）。だからこそないものねだりというか、自分ができないことをしている人たちへの憧れが強いのかもしれないですね。

──できるものならやりたかったですか？

やりたかった！ スポーツをされてる方の輝きが本当に好きなんです。できたらがんばっていただろうなあ。部活動とか全力でやりたかったですね。