音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ
みんなを幸せにしたい 覚悟を決めた1stアルバム
昨年3月にアニメ「七つの大罪」のエンディンテーマ「Season」でメジャーデビューしたシンガーソングライターの瀧川ありさが、「at film.」と題した1stアルバムをリリースした。
このアルバムの中には、“きみ”や“あなた”とつながりたいのにつながれないというもどかしさを抱えた“僕”や“私”が登場し、さまざまな季節や景色の中でそれぞれの物語を繰り広げる。メジャーデビューから1年8カ月。彼女は日々、何を思い、どんな景色を見てきたのだろうか。じっくり話を聞いた。
取材・文 / 永堀アツオ
このアルバムが誰かの人生の支えになれば
──「at film.(エーティー・フィルム)」というタイトルの意味からお伺いしたいのですが、“at”は“Alisa Takigawa”の頭文字ですか?
そうですね。最初で最後の1stアルバムなので、自分のアイデンティティを凝縮した作品にしたいなと思って。あと「私のフィルム」っていう意味と、“at”という“その場所で”っていう意味を込めました。いろんな景色を描いたアルバムが、聴いてくれる人の居場所になってほしい、誰かの人生の支えになればという思いを込めたダブルミーニングになってますね。
──なるほど。季節や風景を描いた歌詞や音が瀧川さんのアイデンティティなのかなと思うのですが、全13曲中で直接的に景色が描かれていないのは「BOY’S CHRONICLE」と「Again」くらいでしょうか?
そうですね。景色よりメッセージを中心に描いているのはその2曲くらいですね。
──ちなみに「BOY'S CHRONICLE」はアイデンティティの核から外れる曲ですか?
むしろど真ん中なくらいです。20歳過ぎに書いて、ずっと温めていた曲で、自分の基盤になってる音楽性が表れています。シングルの表題曲だけを聴いてくださってる方や、最近私のことを知ってくださった方は意外かなと思うかもしれないですけど。
──とても意外でした。ちょっとトロピカルハウス調の曲になってますよね。瀧川さんはバンドサウンドを基調にしたギターロックの人だと思ってたので。
デビューからの1年はある程度固まったイメージを提示しないと、聴いてくれる人が迷っちゃうかなと思ってたんですよ。だからバンドサウンドの曲をメインにしていたんですけど、シングルのカップリングでは自由度の高いものをやっていたし、アルバムではさらに遊び心も入れたいなと思っていて。20歳の頃はこの曲をシンプルなバンドサウンドで歌ってたんですけど、ライブで盛り上がる曲にしたいなっていう思いもあって、今回はシンセも入れてアンセムのような感じにしました。あと、この曲はタイトルもこだわっていて。
──どうしてガールズじゃなく、ボーイズにしたんですか?
いろんな人に私の声は「あんまり女っぽくない」とか「中性的だよね」って言われるんです。歌詞にしても、確かに“僕”って書くことが多いから、ガールズじゃなく、ボーイズのほうがしっくりきて。私が“僕”って書くのは理屈じゃなくて感覚的なものなんですけど、たぶん、自分の知らない世界のほうがフィクションとして描きやすいからだと思うんですよね。女の子たちのことは知ってるけど、男の子たちのことはわからない。このタイトルにしたのも自分の中でのフィクション性、作家気質なところが由縁なのかなと思います。
──男の子の一生を描いてますが、歌詞に登場する“僕”は瀧川さん自身でもあるんじゃないかと思いました。
そうですね。この曲で歌ってる、自分はずっと誰かの運命の軌道上にいるというのは、私が10代の後半に感じていた人生観なんです。あと歌詞では私の音楽を聴いてくださる1人ひとりの方とのつながりも描いていますね。
太陽みたいな人になりたい
──この曲をはじめ「Again」や「Sugar」の歌詞には「太陽」という言葉が出てきます。瀧川さんにとっての太陽は何を象徴するものなんでしょうか。
「太陽」はいつも無意識に作詞しているときに出てくるんですけど、「なんでかな?」と考えると、自分とは真逆のものに常に憧れがあるからなんですよね。太陽みたいな人になりたい。でも、決して自分には届かない輝いているものの象徴っていうか。私は太陽のようなものを避けて生きてきてしまった数年間があって。どうして避けてたんだろうかと考えると、やっぱり圧倒的な憧れがあって、明るい前向きなものに触れると自分のダメさ加減が際立ってしまうっていう怖れがあったんだと思うんですよね。なんというか……あまりにも正論な感じがして。正論をかざされてつらかった時期もあった。太陽は自分の中の正しさの象徴なのかなって、最近、気付きましたね。
──「BOY'S CHRONICLE」では“君”と“太陽”がつながる瞬間が歌詞にありますね。
ちっぽけな自分が太陽のように、聴いてる人を音楽で照らす存在になりたいっていう希望と、手の届かない圧倒的な憧れであるという両方を示してるのかなと思います。
──でも、瀧川さんは今やワンマンライブのチケットが即完する存在になってますが。
私はもともと表現としての創作意欲はあるんですけど、自己顕示欲はないに等しくて。
──ややこしい性格ですね(笑)。
矛盾してますよね(笑)。でも、自己矛盾があるからこそ曲ができるのかなとも思います。基本的には、ちまちま音楽を作って、誰かにただ聴いてもらえたらいいっていうスタンスだったんですけど、そんな私にも「元気が出ました」とか「救われました」って言ってくれる方がいて。そこで変わってきましたね。メジャーデビューして、このアルバムを作る間に、そういう存在になる覚悟ができて、意識も変化したし、昔からあった曲も意味合いが変わったと思います。
──その覚悟についてはおいおいお伺いしたいんですが、歌詞に太陽が登場する「Sugar」と「Again」について聞いていいですか?
はい。まず「Sugar」は、初めて男の子目線で書いた「夏の花」に出てくる“君”が大人になった話なんです。「夏の花」で“僕”と“君”が行った海に、「Sugar」では大人になった女の子が1人で行くという。私、マスタリングが終わって、アルバムを通して聴いたときに、「夏の花」を聴いて泣いてしまって。
──学生時代の甘酸っぱい青春ラブソングですよね。どうして泣いちゃったんですか?
青さと儚さが心に刺さったのかな。改めて聴いて、10代の頃の夏休みのあとの寂しさを強烈に感じたんです。夏休みって、約束しないと友達と会えないじゃないですか。でも、それって、大人への伏線だったなって思って。大人になると約束しないと誰とも会えない。でも、あの頃は学校に行けば、何も約束しないで会えた日があって、夏休みが終わると、みんな少し大人になってる。夏休み明けに会うと、顔が変わってる友達とかいたんですよね。そういう当時の切ない感じを思い出して。あと、昨年の夏に全国を回って歌ったことを思い出したり。いつの間にか、思い入れの深い曲になってました。
──ちなみに今年の夏の思い出は?
引きこもってアルバムを作ってました。そう! 外に出ない間に夏が終わって、また1つ大人になってしまったなって思ったら、余計に感慨深くなってしまって。
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- 1stアルバム「at film.」 / 2016年11月2日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3600円 / SECL-2064~5
- 通常盤 [CD] 3200円 / SECL-2066
CD収録曲
- Season
- BOY'S CHRONICLE
- さよならのゆくえ
- 色褪せない瞳
- 日々モノクローム
- プラネタリウム
- Again
- Sugar
- 夏の花
- 17番地
- Journey
- アイセイハローのすべて
- 花束
<初回限定盤ボーナストラック>
- The Seven Deadly Sins Medley
初回限定盤DVD収録内容
- Season Music Video
- 夏の花 Music Video
- さよならのゆくえ Music Video
- Again Music Video
- 色褪せない瞳 Music Video
- アイセイハローのすべて from Girl meets wonder TOUR
- The Seven Deadly Sins Medley Music Video
瀧川ありさ「1stアルバム『at film.』リリース記念イベント」
- 2016年11月2日(水)
神奈川県 ラゾーナ川崎プラザ 2F ルーファ広場 グランドステージ - 2016年11月3日(木・祝)
大阪府 あべのキューズモール 3F スカイコート - 2016年11月4日(金)
愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店 西館 1F イベントスペース - 2016年11月6日(日)
東京都 タワーレコード新宿店 7F イベントスペース - 2016年11月12日(土)
広島県 広島駅南口地下広場 - 2016年11月13日(日)
福岡県 イオンモール福岡 - 2016年11月19日(土)
宮城県 タワーレコード仙台パルコ店 - 2016年11月20日(日)
北海道 HMV札幌ステラプレイス
瀧川ありさ ワンマンライブツアー2017 “at film.”
- 2017年1月18日(水)
福岡県 INSA - 2017年1月20日(金)
愛知県 SPADE BOX - 2017年1月21日(土)
大阪府 ESAKA MUSE - 2017年2月4日(土)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
瀧川ありさ(タキガワアリサ)
1991年生まれ、東京出身のシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときにバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開する。2015年3月にアニメ「七つの大罪」のエンディングテーマ「Season」を収録したシングルでメジャーデビュー。7月に2ndシングル「夏の花」、11月にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表する。2016年に入ってからもコンスタントにリリースを重ね、11月にメジャー1stアルバム「at film.」をリリースした。