音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ

今、バラードを歌う理由

「Again」は自分で自分の首を絞めにいった曲

──「Again」の伴奏は、ピアノとストリングス中心で、ギターがかなり控えめ、しかもアコースティックギターですね。これは意図的に?

意図的にやりました。私はシンガーソングライターとしてデビューしましたけど、中学時代からバンドをやっていたということもあり、これまでの3枚のシングルではバンドサウンドに重きを置いてきたんです。でも、じゃあ次はデビュー2年目だってなったとき、この1年メジャーで歌ってきてやっぱり歌が大事だなっていうのを反省も含めて非常に強く感じたんですね。だから、一度歌に集中しないといけないと思って。

──そのために、極めてシンプルなオケに。

私はバンドサウンドが好きでこだわりもあるんですけど、一方で歌うにあたってそれに助けられていた部分もあったんですよ。であれば逆に、バンドサウンドを封印すれば、甘えが効かなくなるじゃないですか。

──加えて「Again」は、曲自体もわりとシンプルですよね。

だから余計に歌で勝負しなくちゃいけなくて。自分で自分の首を絞めにいったというか、そうすることでもっと歌が伝わってほしいし、伝えなきゃいけない。

──実際、「Again」における瀧川さんの歌声は優しく、かつ抑え気味でありながらも、今までにない迫力が感じられました。

うれしいです。

「編曲:瀧川ありさ」でやりたかったこと

──カップリングの1曲目「I know」は、「Again」と打って変わってアップテンポなギターロックですね。

瀧川ありさ

「I know」は、「Again」があったからこそ裏に置けた曲というか。従来のような表題曲だったら、これが2曲目にくると暑苦しくなってしまったと思うんです。この「I know」は編曲も私なんですけど、自分が一番こだわってきたサウンド面をオールプロデュースしたというか、表題曲ではできないことをやりたいなと思って。

──具体的には?

実はこの曲は5年くらい前に書いた曲で、私が歌うんぬんで悩む前の、まっさらな状態の曲なんです。それをライブのサポートをしてくださっているメンバーの皆さんと、一発録りみたいな感じで録音したんです。バンドで鳴らしたままの音が録れたので、臨場感や迫力が詰め込めたと思います。レコーディングもすごく楽しかったです。

──「Again」も「I know」も、未来向きというか、これからの歌という感じがしました。

それが「I know」は、昔の人を想像して書いた曲なんですよ。

──昔の人?

原始人とか古代人。

──えっ!?

この「旅立つ夜明け前 わざわざ服を縫って」っていう歌い出し、引っかかってしまうと思うんですけども。

──ああ、確かにそこは引っかかりました。ということは、例えば狩猟採集民族が狩場を移す前夜に「なんか服破れてるし、朝までに縫っとく?」って繕ってる感じ?

そんな感じで(笑)。

──じゃあ、「服を縫って」に続く「夢や希望も何も 今日を生き抜くそれだけ」という歌詞も、文字通り今日獲物を狩ってこなきゃ飢えて死ぬっていう意味だと。

はい。私は手塚治虫さんの「火の鳥」で描かれているような世界が大好きで、ふとそういう曲を書きたくなって。

──にしてもさかのぼりすぎなのでは?

「I know」の最初の歌詞はもっと冒険を描いてて、わかりにくかったんですよ。だから今回レコーディングするにあたって現代風に書き換えてはいるんですけど、なんかこう昔の人の行動って、全部私たちからすると“わざわざ”じゃないですか。わざわざ火を起こさなきゃいけないとか。

──わざわざ川まで水を汲みに行ったり。

そういうわざわざが積み重なったエネルギーって、実はすごいんじゃないかって感じていて、そんな大きなエネルギーを伴った昔の人たちの生活や冒険に、今生きてる自分の出会いや別れというものをダブらせてみたというか、「もし大昔に自分が生きてたら……」みたいな感じで詞を書きました。

何もないより悩みがあるほうがマシ

──すごい発想ですね(笑)。で、先ほど言いかけたんですけど、「Again」と「I know」はどちらも未来志向ではあるものの、「I know」はだいぶ後ろを気にしながら「それでも前を向かなきゃ」という感じですよね?

そうですね。だから「I know」は地でネガティブな自分が出てるのかな。と言っても、私としては別にネガティブなつもりはないんですよ、普通にそういう思考なだけで。

──周りの人から見れば瀧川さんはマイナス思考に見えるかもしれないれど、ご自身としてはこれでプラマイゼロの状態なんだと。

そう。以前、栗原類さんが「僕は別にネガティブじゃない」とおっしゃっていて、すごく共感したんですよ。彼も、誰がどう見たってネガティブなんですけど、本人にそういうつもりはない。それが地なんですよね。私も、自分は悲しがりだと自覚しているんですけど、それは別に嫌なことではないんです。

──どのくらい、悲しがりなんですか?

雨が降っただけでも悲しいし、私は泣き虫なので、けっこう家ではしょんぼり泣いていることも多いですね。でも、それも結局は「幸せな悩みだな」っていうところに落ち着くんですけど。

──泣けるということが?

デビュー前は涙も出ない、空っぽで絶望的な時期もあったので、それに比べれば何かしら悩みがある状態のほうがよっぽどマシじゃないか、くらいに思ってます(笑)。

──マイナス方向であれ、一応、感情に動きがある(笑)。

そうそう。じゃないと曲は書けないですし。実際、空っぽだった当時は曲を書けなかったし、何もなくなっちゃって。というより、むしろ私はつらかったり悲しかったりするほうが曲が書けるタイプなんです。

ニューシングル「Again」2016年4月6日発売 / SME Records
初回限定盤[CD+DVD] 1500円 / SECL-1870~1
通常盤[CD] 1300円 / SECL-1872
CD収録曲
  1. Again
  2. I know
  3. ハナウタ
  4. Again-Instrumental-
初回限定盤DVD収録内容
  • Again(Music Video)
ツアー情報
瀧川ありさ 東名阪ワンマンライブツアー
  • 2016年6月3日(金)大阪府 心斎橋VARON
  • 2016年6月4日(土)愛知県 CLUB 3Star IMAIKE
  • 2016年6月16日(木)東京都 LIQUIDROOM
瀧川ありさ(タキガワアリサ)

1991年5月生まれ、東京出身のシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときからバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開する。2015年3月にアニメ「七つの大罪」のエンディングテーマ「Season」を収録したシングルでメジャーデビュー。7月に2ndシングル「夏の花」、11月にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表する。2016年4月に4枚目のシングル「Again」をリリース。6月には初の東名阪ワンマンライブツアーを控えている。