頭に浮かぶ情景が歌うたびに変化
──「アイノウタ」はきれいなバラードですね。こちらはいかがでしょう?
普段、バラード曲をよく聴いているからかもしれませんが、最初に録ったにもかかわらずテイク数は一番少ない曲でした。たくさん歌い込むことで作り上げたというよりは、ありのままの自分がストレートに出ているんじゃないかと思います。
──イメージ的にもビシッとハマった?
そうですね。わりと等身大に歌ったものが形になっているなって。この曲は歌っていくにつれ、歌詞の解釈が自分の中でどんどん変わっていって、最初のイメージは「ピュアな恋愛」。それこそ「初恋の人と結婚する」みたいなピュアな気持ちで歌っていたんです。でもミックスが終わり、さらに聴き込んでいるうちに浮かんできたのは「ベンチで手をつなぐおじいちゃんとおばあちゃん。周りの光景が変わっても、2人の絆は変わらない」という光景で。もしMVを作るなら、そういう感じになるんじゃないかな。聴く人によって解釈が変わるだろうし、これから私もいろんな経験をすることで今とは違う「アイノウタ」が歌えるんじゃないかと思います。そういう意味でも歌い続けていきたい曲ですね。
──次は「Brand New Shoes」です。
難しい曲でした。この曲を歌うには、まだまだ自分の表現力が足りないと気付かされたところもあります。プリプロを通して感じたのは、「もっと新しい表現がないと、聴き流されてしまいそうだな」ということ。だから、いろいろな歌い方を模索しました。そこでたどり着いたのが、「歌詞を自分に置き換えて歌おう」ということ。自分のフィルターを通した「Brand New Shoes」にしなきゃいけないと感じました。歌詞もすごく熱いメッセージで貫かれていて、聴く人の背中を押してくれるんじゃないかと思います。
自作曲に原田知世「時をかける少女」カバーも
──「LOOKING FOR YOU」では作詞作曲もこなしていますね。
この曲は今年に入ってから作りました。最初はコードをもらってメロディだけを私が考えるという話でしたが、お風呂に入りながら考えて思い付いたメロディをそのままデモ音源として持っていくのが寂しかったので、1番だけ仮の歌詞も付けました。猫と犬の物語です。思い付いた歌詞で歌を入れて、次の日その音源を持っていってみたらまさかのそのまま採用してもらい、私の書いた1番の詞に合う2番を姉に書いてもらいました。
──ラストの「時をかける少女」は原田知世さんのカバーですね。
はい。今回のレコーディングで気付いたのは、これから歌入れする曲を聴いてすぐに録ったボーカルテイクってニュアンスの出し方が新鮮なんですよ。特に「時をかける少女」に関してはカバーながらその傾向が強くて、何回も歌い込んだときよりも仮歌のテイクのほうが「うわ! すごい!」という印象がありました。
──普通に考えたら、歌えば歌うほど上手になりそうですが。
もちろん歌い込んだよさというのもあるんですけど、曲を聴いてパッと歌ったもののよさもあるんだなと思いました。ちょっと裏話をすると、私は曲によってリズムの取り方が独特らしく、曲のテンポにちゃんとしたリズムの歌を合わせると、曲が速く聞こえたり遅く聞こえたりするらしくて。ですが、最終的にはいい感じにミックスができました。(シライシ)紗トリさんにギターを弾いてもらったんですが、すごく難しかったと言っていました。私の歌のリズムが独特だからかな(笑)。
──でも、その微妙なズレが味になっているんでしょうね。
そうですね。ちゃんとそこを曲に生かしてくれたのがうれしかったです。
アーティスト・竹内夢は演じていない自分
──カバー曲も入っているものの、作品全体を通じて統一感があります。やはりこれはシライシ紗トリさんの存在が大きいのかなと思いました。竹内さんにとって、シライシ紗トリさんはどんな存在ですか?
私のことを高校生のときから知ってくださっているので安心感があります。私が新しい自分になるために、前の自分を知ってくださる方がそばにいることがすごく心強かった。シライシさんって「プロデューサーだぜ」って偉そうにしているような感じが全然なくて、ちゃんと対等に仲間として接してくれるんですよ。それがとてもありがたかったです。
──今回、レコーディングにあたって表現の部分で変えた部分はありますか? ミュージカルや番組での歌唱とは勝手が違ったと思うのですが。
けっこういろいろあります。一番大きいのは、この音楽活動というのは曲を作ったり、MVを作ったりと「ゼロからイチ」を作る作業だと思いました。今までやってきた舞台や番組というのは、演出家さんが考えていることを自分なりに解釈して表現するものだと思うんですけど、今回の音楽活動の場合、演出家さんではなく自分から生まれるものをコンテンツに落とし込んでいく。感じ方が全然違うんです。もっと自分自身のクリエイティブな部分が必要になるというか。
──例えば「セーラームーン」でセーラーマーキュリーを演じる際は、誰もが知っているあのイメージから逸脱するわけにはいかないですよね。
そう。だから「ゼロから作る竹内夢の世界」をどれだけ面白く作品として仕上げられるか……そこを極めていきたいんです。私が感じたことを表現するのが、竹内夢のアーティスト活動だと思っていて。このソロプロジェクトを始めるにあたって、「こんな感じで行こう」というイメージが何も決まっていなかったんですけど、“アーティスト・竹内夢”はレコーディングを重ねていくうちに自然にできあがっていったというか。だから終わってみたら、等身大の飾らない、演じていない竹内夢を表現できたなという充実感があります。
──では「rêve」のコンセプトを聞かれたら?
「等身大の自分」です。新しい竹内夢として表現することができたので、そこは自分でもすごく変わった部分かなと。
──ゴスペルやミュージカルなどを経験してきた竹内さんにとって、ボーカリストとしての新しい発見は?
作業工程に関して、いろんなことを知りました。例えばミックスやマスタリングの細かい作業や、仮歌を録って、プリプロして、レコーディングして……といった作業の流れも細かくは知らなかったので、自分にとっては勉強になることばかりでした。これまではレコーディングを何時間もぶっ通しでやったこともなかったので、集中力が切れたり、声が出なくなったりと、苦労することもありました(笑)。
──今回ソロデビューするにあたって、どんな人に聴いてもらいたいですか?
今まで私のことを応援してくださっている方々はもちろん、今回のリリースがきっかけで知ってくださった方々からも、楽曲がどんどん広まっていってくれたらうれしいです。アルバムの中の歌詞にはいろんな登場人物が出てきて、共通して大切な人がいる人の心に響く歌詞だと思うので、大切な人がいる方は聴いて共感してくれたら、と思います。「歌を続けていく」というビジョンを持っている私にとって今回のソロデビューはものすごく大きな意味を持っていて、これから音楽を続けていく中で、記念すべき第一歩になります。その喜びを、皆さんとも共有できたら素敵だなと思っています。
※記事初出時、プロフィールの一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
2021年5月5日更新